赤岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆8月2日
小淵沢(6:09) +++ 松原湖(7:16/8:09) === 稲子湯(8:35/8:40) --- ミドリ池(10:20/10:35) --- 黒百合ヒュッテ(11:50/12:40) --- 天狗岳(13:55/15:10) --- オーレン小屋(テント泊)(16:10)
◆8月3日
オーレン小屋(3:45) --- 硫黄岳(4:55/5:05) --- 横岳(6:00/6:10) --- 赤岳(7:55/8:20) --- ツルネ(10:00/10:25) --- 権現岳(11:10/11:25) --- 青年小屋(12:10/12:30) --- 編笠山(13:00/13:15) --- 観音平(15:10/15:40) *** 小淵沢(16:05/16:16) +++ 八王子(18:15)

山日記

今年の夏の登山予定は次々につぶれていってしまった。まず甲斐駒ケ岳は林道の崩落事故でバスが不通になり断念。早池峰山は未だに梅雨が明けずに予定が立たない。で結局、予定を繰り上げて南八ヶ岳に行くことにした。
去年の秋に北八ヶ岳を縦走し残り半分を今年中に縦走しようと思っていた。南八ヶ岳は秋よりも夏の方が似合っている。ギラギラと輝く太陽の光に負けじと天を突くような赤岳に会いに行くのだ。


ミドリ池と稲子岳 しらびそ小屋にやって来る小動物が多い。一度は泊まってみたい小屋
始まりは秋と同じ稲子湯である。稲子湯からミドリ池までは緩やかな登りとなっているのでゴールデンウイーク以来3ヶ月ぶりにでかザックを背負う体にはとても優しいのである。
それにこのコースは樹林がスッゴク綺麗なので心までゆったり気分で歩けるのがなんとも嬉しい。
まず最初はカラ松の明るい林の中を歩く。林道を幾度も突っ切り、沢を渡って道が登山道らしくなると地面一面に生い茂ったシダと真っ直ぐ伸びるカラ松が何とも対照的な森に変わる。トロッコ跡をしばらく歩くとシダに変わって青い苔が地面を覆い隠すようになり木もカラ松から原生林の森へと変化する。ミドリ池を過ぎると茶色のダケカンバの幹が目に付くようになり中山峠が近くなるとシラビソやヒノキ。。。と色んな森の景色に出会えるのだ。
話は戻って、この日、松原湖駅から稲子湯行きのバスに乗ったのは僕と50歳位の男性の二人だけだった。この男性は駅から登山口まで自転車で行ってそこから山頂までピストンすると言う山行形態で山登りを楽しんでいる人だった。
この日も東京から小淵沢まで電車で来て(自転車は折りたたんで持ち込み)そこからサイクリングで稲子湯に向かって走っていたらバスを待っている僕の姿が目に止まって、急にバスで行こうと予定変更したらしい。
僕がバスを待っているとこの男性が自転車で走って来て止まったと思ったらいきなり自転車を折りたたみ始めたので「なんだ、なんだ!このオッサン何やってんだ?このチャリンコもなんでこんなに小さくなってんだ?」とあっけにとられてしまった。
登山口まで車で行く人は多いが自転車でっていう人を見たのは始めてである。
このオッサン。。。環境に優しいエコオッサンなのであった。

トウヤクリンドウ この花は天狗ノ奥庭には沢山咲いているのに天狗岳を越えると何故か見当たらない
ミドリ池は秋と同じく静寂で緑色の水をたたえていた。
ここで休んでいるとリスがチョロチョロとやって来た。前回は写真撮影に失敗しているので今度はファインダーに収めてやろうとしたがやっぱりチョロチョロと動きが速く駄目だった。たのむから少しは夏バテしろっつーの!

硫黄岳山頂での御来光? 雲が切れるとその瞬間だけ朝日が山頂を赤く照らす。
ミドリ池から中山峠までの登山道は最初はなだらかで樹林を眺めながら歩くのには最高ではあるが峠の手前から急登になり汗がどっと、どぼどぼ、わんさか、じとじと、としつこく表現したいほど吹き出て来るので「やっぱ、夏は暑ぢいー!」と思い知らされるのだ。

黒百合ヒュッテで菓子パンをかじっていると隣の女性四人組がコンロでお湯を沸かしカップラーメンを食べ始めた。とそれを見た反対側隣の親子四人の内の男の子がオニギリを食べる手を休めて「ラーメン。。。美味しそう!」とつぶやいた。

僕は菓子パン食べるのを止めて急きょラーメンを作ることにした。コンロをザックから取り出してラーメンを作り、その男の子に聞こえるようにわざとズルズルと音を立てて食べた。自分でも「ほんと、意地の悪りぃーオッサンやな!」と思う。
そうしたらその男の子が「お母さん、何か食べたい!」と言い出した。「何か食べたいって?オニギリ食べてるでしょう」と言うお母さんの声も耳には入らず視線は小屋売店の「たこ焼き。たこ2個入っています。500円也」に注がれていた。
11時頃から段々ガスって来て周りは白一色になってしまったが昼食を食べ終えてもそれは変わらなかった。展望は望めそうに無いが天狗岳に向かうことにした。
時々ガスが切れるとパァーッとその瞬間だけは壮大な景色が目の前に広がるのだけれど直ぐに白い幕が閉じてしまって何ともつまらない山登りだ。東天狗の山頂からも何も見えなかった。
休んでいると西天狗の方から今では死語になりつつある「ヤッホー!」をやたらとデカイ声で一生懸命に叫んでいる声が聞こえた。「これは西天狗に何か有るに違いない!これは行って確かめるしかない!」と空身で西天狗に向け駆け降りた。

横岳から見た赤岳(左)と阿弥陀岳(右) 雲が急に取れ出す
途中のコルで「ヤッホー!」をやたらと連呼していた人達と会ったので「すいません、今”ヤッホー!”って言ってました?」と尋ねると、連呼していたのを僕に非難されたと勘違いしたらしく「うるさくしてすいません!」と誤ってきた。「あー違います、叫び方が何だか一生懸命だったので何か理由があるのかな?と思ったものですから」と言うと「そうですか。実は西天狗で叫ぶと東天狗に声が反響してコダマして聞こえるんです」と言うことだった。
僕は熊か何かを追っ払うために大声を出しているのかと期待していたので少しガッカリした。西天狗山頂に着いてもやっぱり何も見えない。さっき教えてもらったコダマ現象をやってみたいとウズウズしたのだが流石に恥ずかしかったので叫ぶのを我慢した。

地蔵尾根への分岐点から見た赤岳 地蔵尾根から人が次々と登って来るのでカメラを構えたままかなり待った。
東天狗に戻ってガスが晴れるのを待ったが3時になっても晴れないので降りることにした。
根石岳を越えると砂地となりコマクサの群生地である。開花時期には遅かったらしく少し萎れかかっていた。もう1,2週間早ければ元気な山花の女王に会えたのに残念だ。ただ元気だと言ってもこの花はいつもうつむいている。女王と言われている割には実にしおらしく小さな女王なのだ。
それからこの根石山荘は相変わらずボロッチイ小屋だった。八ヶ岳の山小屋にしては珍しくボロッチく、またそれが好きで何度も泊った小屋なのだ。
今日はテントなのでボロッチイ小屋の雰囲気を味わうことが出来ないのは本当に残念である。
分岐点からオーレン小屋へ向かう道は地図で見ると等高線の間隔が広く本数も少なくなだらかな感じだが実際に降っていると予想以上にどんどん下まで降りて行くので「せっかく登ったのにこんなに降りるのかよー」「明朝、降りた分、登るのかよぉー!」と先に進み度に気が重くなって行くのだった。
シラビソの森がパッと開けてオーレン小屋の前に飛び出した。思ったよりもでっかくて新しい小屋だ。トイレは水洗だし、おまけに風呂まである。
しかしこの”オーレン”とはどういう意味だろう?とまた好奇心でウズウズしてきた。ヤーレンだとソーランだし、ローレンだとローハイドだし?これは小屋のオヤジに訊くしかない!というわけで受付けの時にこの疑問をぶつけようと思っていたがテント場代が1000円とは「高い!」と思った途端に聞くのを忘れてしまった。
翌朝、硫黄岳山頂で御来光を見るためにオーレン小屋を4時前に出発する。真っ暗な道をヘッドライトの光を頼りに歩くのは本当に心細い。昨日と同じく風が強く、周りの木々が不気味な音を立てる。聞こえるのは風が木々を激しく揺らす音と自分の足音だけだ。
お化けが出てこないようにポケットラジオをつけた。絶対に出ないようにボリュームは最大だ。
4時になると木々の間から見える東の空の下の方が薄明るくなってきた。それを待っていたかのように小鳥達が一斉にさえずりを始めたので「やっと朝だー!お化けもモーッ出ないだろう!」とラジオを消した。

赤岳山頂 二つに分かれているピークもそれぞれ元気な人で一杯だ
赤岩ノ頭に登ると突然視界が開けて阿弥陀岳、赤岳、横岳の姿がドォーンと目に飛び込んできた。この迫力に思わず「カァーッ!」と歓声をあげた。既に日の出の時間では有るが東の空の下の方には雲が広がっているので日の光は遮断されまだ薄暗く、山々の景色もまだその色を隠している。

赤岳山頂から横岳、硫黄岳を撮影したがカメラの周りには人が多く、セルフタイマーで撮るのがかなり恥ずかしい。
赤岳の山頂から少し下に見える明かりは赤岳展望荘だろうか?。時々ピカッと閃光がする。誰かが写真を撮っているみたいだが山頂ではもう御来光が見えているのだろうか。慌てて硫黄岳山頂を目指した。
山頂は強風でしかもガスの中だった。雲の流れが途切れると真っ赤な太陽がゴツゴツした山頂一面を赤く照らした。でもそれはほんの一瞬のことで次の瞬間には薄暗いモノクロームの世界に戻ってしまうのだ。
風が強く寒いのでフリースジャケットを羽織ったがそれでも寒い。歯をガチガチ言わせながら早々に降りることにした。
硫黄石室小屋付近は風の通り道になっているのか?風が強い。数ヶ月前、NHKの”小さな旅”でこの小屋が紹介されているのを見た時から小屋の周辺を散策したいと思っていたのだがこの強風ではちょっと気分がのらない。まぁー次回の楽しみに取って置く事にしよう。
この辺りはイワギキョウやコマクサが多い。僕は今まで花に関してあまり興味が無くこうやってマジマジと花を眺めることは少なかった。てっぺんに登ってオニギリを食ってりゃ満足する男だった。
今日こうしてコマクサを見て驚いたのはこの花は他の植物なんて全然生えていない、なーんにも無い荒れた砂地に咲いているということだ。火山特有の赤茶けた砂礫に薄緑の葉とピンクの花が実に印象的だった。
更に驚いたのは横岳へ登る途中の火山礫斜面にコマクサが群生して一面をピンク色に染めているのを見た時だ。ここでも「カァーッ!」と歓声を上げた。
「コリャ、写真だ写真だ!撮りまくるぞ!」と狂喜乱舞したけれどファインダー越しに覗くとガスの白さばかりが目立ってしまって「コリャ、撮っても後でプリントを見てガッカリするだけだろうな!」と諦めた。晴れていたらどんなに素晴らしいことだろうか。

赤岳の下りから見た阿弥陀岳 紫の花はイワギキョウ
横岳山頂に着いて景色を眺めると今まで周りの山々を覆っていたガスが急に撤退し始めた。
地蔵尾根の分岐点に着いた頃には雲はうんーっと少なくなっていた。それで気を良くしたので赤岳へはなんて事はなく楽に着いた。

八ヶ岳でイワヒバリに出会ったぁーっ!
下条アトムっぽく小さく感動!それにしても人なつっこいので直ぐそばで出会ったぁーっ!
山頂は人、人、人でごった返していた。中でも学生らしい姿が目立つ。皆、元気一杯、嬉しそうな表情をしている。
八ヶ岳の中でもこの赤岳は一番高いし、それに何よりも天に向かって突き上げるような山容なので登頂した時の達成感はすんごいのだ。やっぱり赤岳は八ヶ岳の主峰だ。
学生や登山が趣味ではない人、つまりあまり山登りをしない人にとっての山登りは夏の一大イベント、自分探しの旅なのだ。
その一度の登山で登った山頂が今日のような青空の下だったら感動はどんな言葉も超えてしまい笑顔一杯になるしかないんだね。
山頂から見下ろすと横岳やその奥の硫黄岳も良いのだけれどやっぱりイッチバンは隣にそびえる阿弥陀岳だろう。
阿弥陀岳は赤岳に負けるとも劣らない山で山容も良く似ている。山の形も似ているし赤茶けた地肌の色も似ている。そして二つの山の距離が近く、鞍部まで高度差があるのでお互いを一層鋭鋒な山に見せている。赤岳が一番かっこ良く見えるのが阿弥陀岳からだし阿弥陀岳が一番かっこ良く見えるのが赤岳からだと思う。
普通だったら話をここまで持ち上げたのでこの後は阿弥陀岳に行くと言う話になるのだが。。。実はならない。今回は時間が足りないのだ。編笠山まで今日中に縦走するには阿弥陀岳をピストンする時間は無かった。スマンスマンと泣く泣く諦めるしかなかった。
赤岳から縦走路を降り出すと先ず目に止まるのは権現岳のデカさである。地図から想像するよりも高くてデカイ。八ヶ岳の山の中ではあまり目立たない存在だと思っていたが。。。なんだかかなり目立っているのである。
赤岳の降りはザレ場の急斜面なのでかなり疲れる。足がガクガクになる。今回は降りだが逆コースで登りだったらと思うとゾッとするほどかなりの急登である。
キレット小屋付近まで降って振り返ると「良くあんな道を降って来たなー」と自分でも感心してしまった。
キレット小屋付近からは気持ちの良い稜線歩きになった。

赤岳を降りた場所から見る権現岳はデカイ
権現岳も近づいて見ると予想していたほど大変ではなくゆったり気分になって歩いていた。するといきなり山頂直下に30段(もっと多かったかも)の梯子が待っていた。これを恐々と登ると権現小屋を見下ろす分岐点に着いた。
山頂はここから1,2分歩いた所になる。それにしても権現岳は赤岳から見るとデカい山に見えたが山頂に登って見るとなんだか高度感が無く拍子抜けしてしまった。でも展望はスッバラシイのであった。

キレット小屋付近から赤岳を振り返るとスゴイ迫力です
ここから見る赤岳や阿弥陀岳の姿も良いのだがイッチバンの展望は編笠山ですねー。ここから見ると緩やかな山頂は樹林に覆われていて登山道が真っ直ぐ山頂に向って延びている。その下の方は大きな岩が累積していて山の上部は緑、下部は茶色の2色に分かれている。
麓に小屋が有るのが見える。展望を楽しんだ後はユッタリマッタリの促音多用状態になって降って行った。
小屋の名前は青年小屋である。なんで”青年”なのか?またしても好奇心がメラメラと心に湧き上がる。「コリャ、質問するしかないでしょう!」と小屋の人に声をかけた。
ところがである。あまりにも小屋のスタッフ、小屋のオヤジらしい人も含め皆さんの対応が和やかで暖かいものだったので、ここで僕みたいなオッサンが「この小屋、何で青年小屋っていうのですか?」なんて夏休み子供相談室みたいなことはとても恥ずかしくて聞けなくなってしまった。
小屋のスタッフも気持ちの良い人達だが小屋自体もボロッチくて良い感じなのだった。テント山行も捨てがたいが今度来た時には根石山荘、権現小屋それに青年小屋のボロッチイー小屋にぜひ泊まってみたい。
小屋の前にある岩に腰掛けて菓子パンをかじりながら悩んだ。予定ではここから西岳までピストンする予定だった。ところが晴れていた空が権現岳から降りる頃から段々と雲が湧き上がり、今はもう雲で見え隠れする状態になっている。
西岳を見るとこちらも次々と流れてくる雲にひっきりなしに覆われている。西岳に登るために阿弥陀岳へのピストンは時間が足りずに諦めたこともありここはぜひ行ってみたいのだが。。。

ツルネからの阿弥陀岳、赤岳。
しかし僕は初めて登る山、つまり初対面の時は雨でも曇りでもなく出来れば青空の下で会いたいのだ。このまま西岳に登ってもそこにはガスで真っ白な空間があるだけだろう。とグダグダ考えて西岳は次に訪れた時まで大切に取って置く事にした。

寝そべっているバカは無視して後ろが編笠山
なんともなだらかな山容
小屋を後にして編笠山の登りにかかる。登山道は樹林の中の道で蒸し暑く、汗だくだくになって山頂に着いた。編笠山山頂は雲の中、見渡してもそこはガスって何も見えなかった。
「縦走もこの山で終わり、後は小淵沢に向って降りるだけだ」と考えるとどこか寂しくもある。ゴツゴツした岩の上にザックを降ろすと汗ばんだ体に風が心地良い。
この二日間、多少ガスってはいたけど大満足の山歩きだった。緑溢れる森に触れ、青空を突き抜けるようなてっぺんに会い、それから草花が咲き匂うたおやかな山々を歩いた。
何だか分かんないけどこの山は隙間が多いんだよね。心の隙間って奴だろうか?こっちの気持ちが素直に山に染み込んで行ってしまう様な感じだ。こんな感じって八ヶ岳で特に感じるんだよなー!
白いガスの向こう側に向って「やっぱ、この山は気持ちが染み込む染み込むなー!」って思ってしまう、そんな夏の日だった。
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