天狗岳、赤岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆5月3日
立川 (0:34) +++ 茅野 (3:49/6:40) === 麦草峠 (7:50/8:00) --- 白駒池 (8:25/8:35) --- 高見石 (9:15/9:35) --- 中山 (10:20/10:45) --- 天狗岳(西天狗ピストン)(12:50/13:50) --- 夏沢峠 (14:55/15:00) --- 硫黄岳 (15:45/16:10) --- 硫黄岳山荘(16:30)(小屋泊)
◆5月4日
硫黄岳山荘 (6:10) --- 横岳 (6:55/7:00) --- 赤岳展望荘 (8:25/8:35) --- 赤岳(8:55/9:15) --- 阿弥陀岳(10:55/11:30) --- 行者小屋 (12:15/12:25) --- 美濃戸口 (14:30/14:48) === 茅野 (15:40/15:50) +++ 立川 (17:40)
山日記 (のんびり天狗岳 編)

目が覚めると車窓の外に蓼科山が見えていた。
ちょっとだけ雪を残している山頂が青空の中できっぱりと輝き、そんなどこまでも鮮やかで、どこまでも清爽な山の姿にまだぼんやりとした頭で「やっぱ来て良かった!」と自分自身に確かめるように思った。
2日の夜、ムーンライト信州で行くか?翌朝一番の鈍行で行くか?迷ったけれど天気予報の見事なまでの晴れマークのパレードに嬉しくなってしまい、ほとんどその勢いで信州号に乗ってしまった。

立川から「100万回のコンチクショー」を読んではチビチビとお酒をやりながら茅野へ到着。
茅野駅の待合室では予想通り眠れず、始発バスが出るまでの3時間を本を読んだり散歩したりして時間をつぶした。
そして6時40分、麦草峠行のバスに乗った途端にスーッと眠りに落ちてしまった。

バスは芽吹いたばかりの白樺林の中を登ってゆく。
睡眠時間はこのバス中でのわずか40分だけなのでやっぱり眠い。終点の麦草峠に到着するまであと30分くらいは眠れそうなのだけれど・・・起きよう!ここは目を覚ませ!と視点を懸命に合わせようとする自分がいる。
バスが大きくカーブを曲がると蒼い南アルプスの姿が車窓を流れてゆく。
始まりなのだ!ゴールデンウイークの山登りがこれから始まるのだ! とジンワリ思う。

麦草峠までの車道に雪はまったくなかったのに麦草山荘の周りはまだたっぷりとした白い雪に覆われていた。
決断?と言うのにはまったく大げさすぎるけれどこうしてダウンジャケットを脱ぎ、スパッツを着けるとさすがに身が引き締まる感じだ。だけど気分に窮屈さは無く、どこか開放された感じがしてやっぱり山はこうしてやって来ただけで大きく深呼吸してしまうほどの大きさがあるんだな!
白駒池へ向う登山道の雪は固くしまっていてビブラムソールで蹴られるとガリガリと乾いた音を立てた。

白駒池はまだ氷で被われていた。しかし僕が真ん中に写っているこの構図、最悪ではないかい?

歩き出しは雪原で展望が良く、左側に縞枯山が見えたりして「やるねぇー!」を連呼していたけど林の中の道になると急に無口になってしまう。ここでは雪面にしっかりと刻まれたトレースを忠実にただ追っかけて歩いてゆくだけになった。

木々の間に青苔荘が見えた。煙突から白い煙がゆったりと立ち昇っている。山荘の前を折れ白駒池へ降って行くと湖はまだまだ真っ白に凍っていた。

湖面にはびっしりと厚い氷が張っていて乗っても大丈夫そうなのだけれど、万が一、氷が割れて湖に落っこちるようなバカを演じてしまうとこれはとても笑えないの状況になってしまうので止めておいた。
ここでは樹林帯からわずかに開放された青空を眺めるだけして、この先もっと遥か遠くまで広がってゆくだろう青空の行方を想像するだけにした。

八ヶ岳の良いところの1つにアクセスの良さがある。数ある登山口へ向かうバスも多く、またそのバスが頑張って上の方まで乗客を運んでくれる。麦草峠はすでに標高2000メートルの高さにあり白駒池から高見石までもわずか250メートル登るだけで良いのだ。
こりゃ楽だね!色んな小鳥たちのさえずりに耳を傾けながら一気に高見石へ登ってゆく。


ヤマガラとシジュウカラが木々に間をせわしなく飛び回っていた。

高見石からの白駒池。ほんとにまーるい湖です。


高見石からの縞枯山。空の筋雲がとにかく綺麗でそっちに視線は釘付け!

高見石からの白駒池はどこか満月を思わせるような森の中の白くまーるい湖だった。白駒池の名前の由来は知らないけれどどこかに白い馬が見えるのだろうか?湖のあまりに丸すぎる形にふとたわいもない疑問が頭をよぎってしまった。

ここで今日初めての展望が広がった。
縞枯山や蓼科山、遥か遠くには北アルプスそして煙を吐き続ける浅間山・・・音の無い景色のなんと優美なことか!・・・最初の一撃は音も無く冷ややかな一撃だった。


中山は展望が良い山。天狗岳もこの通り!五月晴れが嬉しい山頂なのでありました。


中山からの蓼科山。とにかくここはオニギリがおいしいてっぺんなのだった。

高見石からはシラビソとオオシラビソの森に変わった。展望の無い道をひたすら中山を目指して登ってゆく。
中山の山頂はなだらかで・・・主張のない控えめな山頂なのだけれど展望は良い山なのだ。ゴロゴロとした巨石に埋め尽くされた山頂からは蓼科山、その奥には春にしては珍しいくらいにくっきりと北アルプスが見えていた。

いっぱしの登山者たるもの山の形とその位置から山名をズバリと言い当てるのだろうけれど悲しいかな僕にはそれが分からない。ただそんな僕でももうこれは間違いないだろういう山なのが槍ヶ岳だ。槍の左に南岳、さらに大キレットと続き穂高・・・とここまでは分かるのだけれど残りは北アの地図が無いとどうにも思考がストップしてしまう。
南アルプス、これは見えているのは北側の山だけで、その形と位置から正解を出せるので自分でも大いに満足する。
そして一番の展望はこれから向かおうとしている何といっても天狗岳の姿なのだ。その天狗岳に対峙するように岩の上にドカッと座って腹ごしらえだ。

昼食のサラダ巻きと稲荷寿司を広げる。風も無くて暖かいこんな日はどこか時間の流れが緩やかだ。サラダ巻きに付いているしょう油はきゅうり中心にかけたらうまいな!とか、まんべんなく全体にかけたらうまいな!とか、稲荷寿司を一個食べるごとにガリを食べよう!とか色んな事細かな作戦を立てながら昼食は進んでいくのだった。(あー、くだらねぇー!)


中山からの降りは八つ特有の縞枯れた森

中山から縞枯れになったシラビソ林の中を通りぬけると中山峠だ。
ここから直に天狗岳を目指しても良いのだけれど僕が「何と言っても天狗の眺望はここが一番!」と思っている、その名も天狗ノ奥庭から天狗岳へ登ることにした。


天狗岳を眺めるに一番のお気に入りの天狗ノ奥庭。
スリバチ池はまだ凍っていた。

天狗ノ奥庭からは双耳峰の天狗岳をほぼ正面から、しかもスリバチ池越しに見ることが出来るので・・・もー、この山を楽しむ時は決まってこのルートなのだ。
地図では天狗岳まで中山峠からも天狗ノ奥庭からもコースタイムは同じで1時間なのだけれど、実際両方から登り比べてみると天狗ノ奥庭からの方が時間がかかるようなんだけれど・・・まー、こっちからの方がヨカヨカ度は高いのでこの選択は仕方ない。
ゴツゴツした岩を上り下り・・繰り返す毎に目の前の天狗岳は段々と目前に迫ってくる。

岩の間を忙しなく飛びまわっているのはホシガラスだ。この鳥、鳴き声はガーガーとかなりのダミ声だけど他の小鳥と比べて体が一回り大きく、そのためか岩場やハイ松帯でみる姿はどこか堂々としていて流線型をした体が風の中を滑るように横切るとついつい足を止めて見とれてしまう。夏に見ると白い水玉模様の丸っこい胸を持ったホシガラスも今は心なしか少し痩せているように見える。

中山峠からの道と合流する地点から積もった雪の量が段々と増えていく。天狗だったらアイゼンは要らないだろ!と付けていなかったが2,3箇所、ほんの短い距離だけれど雪の斜面をトラバースする箇所があってヒヤヒヤしながら通過する。天狗をちょっと甘く見ていたかな?と反省。


西天狗岳からの硫黄岳、赤岳そして阿弥陀岳。
展望のオドロキ度は東より西の方が良いと思った。

東天狗岳山頂は穏やかな陽射しの下だった。
硫黄岳、赤岳、阿弥陀岳の展望が抜群な山頂は登山者の華やいだ歓声で満ち溢れていた。
今日一番の賑わいだけれど、その登山者全員が黒いサングラスをかけている姿もまた春山の風物詩だろう!と妙に感心してしまった。

「降る時もさっきの場所、通んなきゃいけないのかぁー!」と男性の声にやっぱり皆さんビビル箇所は同じだな!と少し嬉しくなってしまった。

さてと西天狗岳へ行きますかぁー!
天狗岳は東よりも西の方が展望が良い(と思う)のでその展望を想像するとワクワクする。
だけど・・・地図では往復30分の距離だけれど西天狗岳に行くにはけっこう下まで降りなくてはいけないという事実がすぐ目の前に見えている。東天狗岳に登って疲れている登山者にこの光景はかなり痛い!
登山者の中には西へは行かずに東へ登っただけでそのまま下山している人もいるようだけど・・・ここから見る西天狗はまだ雪で真っ白だし、もうそれだけで楽しそうだし、展望も良いとなれば行かないわけにはいかない。
ザックを置いてカメラだけを持ち、ドカドカと西天狗へ向うのだった。


西天狗より東天狗を眺める。
こっちは一面の雪なのに東に雪は無し

西天狗からの蓼科山。撮影の後、お腹が冷たかったのだ(涙)


天狗ノ奥庭にはホシガラスが多い。
もしかしてダイエット中?

西天狗岳山頂はまだまだ真っ白い雪に覆われていた。
雪はただあるだけで楽しいものだ。特に僕みたいに冬山をやらない登山者にとっては気楽に雪山を体験出来ることが嬉しい。
こんな暑くもなく寒くもなく、ただ無色透明な太陽の光が燦々と降り注ぎ、白い雪原が眩しく輝けばそれだけで心はザワザワとしてくる。
展望はと言えば、東天狗では硫黄岳の陰に隠れぎみだった赤岳がオズオズと姿を見せてくれるし、北には蓼科山、北横岳、そして眼下には箕冠山、青い屋根の根石山荘も近くに見ることが出来る。
そして何と言っても、山頂が広いのでありったけの開放感でそれらの眺望を一網打尽に出来るってことが一番嬉しいのだ。

東天狗岳と根石岳の鞍部は八ヶ岳の中でも風が強い場所の一つだ。2004年の3月にここを通った時にはあまりの強風に吹き飛ばされそうになったのを思い出した。でも今日は風も穏やかで・・・と言いたいがそれなりに強く、でもその風は冷たくなくてこうして風に吹かれながら砂地を歩くってこと、それは山をさすらい歩く漂泊者みたいで気分もまんざら悪くないぞ!と思えた。

根石山荘に寄った。
この山小屋は好きな小屋なので今回も・・・と思って予約を入れておいたのだけれど、と言うより宿泊者が少なくて営業していないのでは?と心配になったので電話で確認したのだけれど、ここまで歩いても疲労は少なく、まだ陽も高いので、この先の硫黄岳山荘まで行く事を告げに寄ったのだ。
根石山荘と硫黄岳山荘は経営者が同じなので嫌な顔はされないのだけれど、小屋を出る時はやっぱり心惜しくなってしまって次は泊まるから・・・と心の中でつぶやいた。
今回は泊まれないけれど根石山荘は相変らず適当に雑然としていて、その雑然さが僕を心地よくさせるのだ。これくらいが良いよ山小屋は・・・これで良いよ!


天狗岳からの硫黄岳、赤岳。
やっぱり写真ではこの壮大さは伝わりにくいので雰囲気だけ!


根石山荘付近は夏になれば駒草の群生地。ただ今は風の通り道で歩いて気持ちが良い道。

この写真、でっかいと迫力があるのだけど・・・これもとりあえず雰囲気だけ。
シラビソの間の硫黄は綺麗だな!

箕冠山からはシラビソの樹林帯の中を歩く。
でぇこれがまた好きなシーンだったりする。シラビソの木の間から荒涼とした硫黄岳の火口壁が覗く。八ヶ岳には色んな特徴の山があるわけだけど硫黄岳はその中でも一番個性的だ。山はけっして高くは無いけれどとにかくデカイし、爆裂火口がまたデカイのだ。
木々の間から覗く火口壁はデカくて圧迫感がスゴイ。ただそれだけでは大味でただの木偶の坊みたいだけなんだけど、それだけで終らないのは火口壁が黒と茶、今だったら更に雪も加わっての三色マーブル模様がシラビソの新緑の間から圧倒的な存在感で迫って来るのだ。
デカクて繊細で綺麗、憧れ北米のロッキーやヨセミテを彷彿させるような・・・まったく良いなー!と思う光景がここにある。

硫黄岳山頂はまだまだ青空の下だった。
時間はもうすぐ4時。だからだろうか?山頂には僕一人だけだった。
石畳のようなただただ広い山頂はしっかりと青空を受け止めていた。ちょっと登るが遅すぎたかな?陽が翳って山も色褪せてしまっているかな?と心配していたけれど、逆に西に傾きかけた太陽は上手い具合に眺望を中空に浮かび上がらせていた。
何度見ても素晴らしい眺望だ。ただただため息しか出てこない!
八ヶ岳は山々の間が割合近く、春霞と言われるように空が薄っすらと翡翠色になり遠望が利かないボンヤリとした空の中でも隣の山がハッキリと見える。
特に今日は空気が澄んでいて、今まで数回来た中でももうこれは一番の出来栄えだった。

広い山頂を端から端までズンズンと歩き回って少しでも多く、あれもこれもと欲張って目の前に広がる光景を収集しようとするのだけれど、残念時間切れだ!
4時半までには小屋に到着したいので泣く泣く山頂を後にした。

電話で予約した時には営業してます!と言う話だったけれど硫黄岳山荘に来て見ると雪の中からほんのわずかだけ屋根が出ているだけで本当にこれでやっているのか?と心配になってしまった。
この辺りは雪の吹き溜まりになっているらしくまだたっぷりと雪が残っていた。稜線上の登山道から玄関まで雪の階段が出来ていて、これじゃー入り口を掘り出すのもかなり大変だったろうな!と可笑しくなってしまった。
そして玄関の引き戸をガラガラと開けると・・・なんとそこには雨が降って・・・いやいや一面のスゴイ雨漏りだった。いやーっ、何だかスゴイ小屋だな!とまたまた嬉しくなってしまった。
後で聞いた話では、屋根裏のスキマに吹き込んだわずかな雪が融けるとその水が毛管現象となって屋根上で融けた雪を小屋の中に引き込んでしまうらしく屋根の上の雪が完全に無くなるまでこの雨漏りは続くと言うことだった。


何度も来たけれど・・・ありふれているから?気が利かないくらい変わらぬ色と形、この日一番の展望が僕を待っていた。

この小屋は初めてだった。
多分NHKだと思うのだけれど以前この小屋のオヤジが出ていた番組があって、初夏になると小屋付近の庭園に色んな花が咲き匂う・・・と紹介されていたので夏に一度は泊まりたい小屋だと狙いを付けていた。
それとこの小屋を選んだ理由は展望が良い場所が近くにあるってことだ。根石山荘が好きな理由の一つも展望の良い根石岳にすぐに登れるということなのだがこの小屋もすぐに硫黄岳に登れるという利点がある。だったら赤岳頂上小屋が一番では?と考えるのだけれどあそこは確かに展望は良いけれど自分がいる山(赤岳)は見ることが出来ないのが欠点だ。

玄関の雨漏りは笑ってしまうほど凄かったが部屋の中には灯りが煌々と灯ってストーブでしっかり暖房された温かい小屋だった。
宿泊者は14人で男女、女女のペア一組づつで、何と残りは全部ソロだった。
夕食は5時半と言う事なのでそれまで部屋の本棚にあったヤマケイや岳人のバックナンバーを読んで待つ事にした。他の登山者は2階で眠っている人がほとんどで小屋はシーンと静まり返っている。山に来るとやたらテンションが上がってしまって夕食前に眠ることがない僕にはちょっと不思議な感じがした。

「今日はどちらから?」夕食の時に周りの人から話かけられたけど会話が弾まない。
夕食を食べたらすぐに夕焼けを見に行こうと思っていたので悪いと思いながら返事がおざなりになってしまった。
せわしなく夕食をササーっと食べ終わるとダウンジャケットを着込み、カメラを片手に硫黄岳へ向った。

硫黄岳山頂で赤岳が赤くなるのをじっと待った。
だけど残念!この日はそれ程赤くはならない夕暮れだった。こうなると冷気がジーンと身にしみる。
太陽が北アルプスに吸い込まれるように沈んでしまうとこの時を待っていたかの夕闇が一気に迫って来た。
追い立てられる様に小屋への帰路を急いだ。つい1時間前に通った時にはグチャグチャ泥んこ状態だった道が早くも凍っていた。

小屋に戻って温かい部屋でのよく冷えたビール・・・・まったく五臓六腑に染み渡るってこのことだな!
ツマミを頼んだら「これサービスで・・・」って本当にタダで良いのかな?
テレビを見ながらビールを飲んでいたら「これ良かったらどうぞ」と今度は日本酒のサービスだ。
このことオヤジさんにはナイショにして下さいね!小屋番さんの笑顔に図々しく2杯目のおかわりをしてしまった僕。
いい小屋だなぁー!こんな小屋いいよ!いい小屋じゃないか!

どとうの赤岳 編へ 続く
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