雨飾山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆10月14日
立川(0:19) +++ 信濃大町(5:08/5:32) +++ 南小谷(6:25/6:35) ===小谷温泉(7:11/7:20) --- 登山口(8:10/8:20) --- 荒菅沢(9:20/9:30) --- 笹平(10:15/10:20) --- 雨飾山(11:00/11:10) ---笹平(11:25/11:35) --- 荒菅沢(12:25/12:35) --- 登山口(13:35/13:45) --- 小谷温泉(14:35/15:14) === 南小谷(15:55/16:05) +++ 信濃大町(17:05/17:10) +++ 松本(18:09/18:31) +++ 八王子(20:30)

山日記

南小谷駅を降りた登山者は僕を含めて6人だった。
待合室に掲示してあった小学生の元気印「小谷村の未来アンケート」のポスターを眺めていたら「タクシーの相乗りで登山口まで行きませんか?」と女性に声をかけられた。
確かにタクシーを使えば小谷温泉から一時間の林道歩きをしなくても済む。しかし山頂までのコースタイムは2時間と短いので1時間増えたところでたいしたことはない。それに今日は天気が良さそうだ。タクシー相乗りの誘いは断わって歩く事にした。

小谷温泉から林道を歩き始める。この紅葉のすばらしさはどうだ。秋の青空の下、道の両側は黄金色に輝く紅葉の山並みが続いている。これだけ一面に紅葉しているのは珍しい。全体が黄色でその中に赤や緑が点在している。
山麓でこの輝きだ。山頂からの眺めはどんなにすばらしいことだろう。一歩一歩足を踏み出す毎にその景色が段々近づいているのかと思うとイメージがどんどん膨らんでいく。
右側に見える変わった頭の形の渚山もてっぺんまで紅葉している。


林道から見た雨飾山 周りも黄一色に埋め尽くされていた
歩いていると左にでかい山が現れた。最初はこれが雨飾山だと思ったが地図で確認してみると金山とある。今回のコースを考えた時、地図を見ると金山は雨飾山からの縦走路が点線表示の難路となっているので登山を断念したのだった。しかしこうして目の前に堂々と構えられると次回の登頂を約束してしまう。
そこから少し歩くと紅葉に色づく木々の間から一段と高くそびえる山が見えた。山頂の岩が青く澄んだ空に白く輝いている。この山頂の白い輝きが個性的で周りの山より自己主張している。地図で確認してみるとやはりこの山が雨飾山だ。
登山口に着いた。駐車している車の多さに唖然とする。駐車場に入りきれない車が路肩に延々と続いている。マイクロバス、大型バスも数台ある。地図を見るとここ登山口から頂上までは約2時間の行程である。2時間歩くだけで人気の日本百名山の一つに登頂できる気軽さがこの混雑の原因だろう。
地図には出ていないが登山口には休憩所やキャンプ場などがあり管理所でテントのレンタルも行っている。また案内版を見ると大渚山へのハイキングコースもあるようだ。ここにテントを設営して大渚山、雨飾山にピストンするのも面白そうだ。
登山口から小川が流れる湿地帯をしばらく歩くと急に登りとなる。朝の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込みいよいよ登りにかかる。
展望は無い道だが見事に紅葉した木々の間を歩くのは気分が良い。おまけに久々にテントは家で留守番しているので背中のザックがやけに軽い。
登っていると上から人の声が聞こえてきた。見ると20人程のパーティーが先行している。大人数パーティーの場合、足が遅い人が先頭を歩くようなので鈍足の僕でも追いついてしまう。僕が近づくとしんがりの人が「1人来ました。道を開けてください!」と前方に声をかけ、全員が道の端に寄ってくれた。僕としてもせっかくの親切なので急いで追い越すことにした。しかし20人を一気に追い越すのはつらい。

荒菅沢の直前からの雨飾山山頂
荒菅沢の直前に展望が開けている場所があった。ここに立つと雨飾山の白い山頂が「どぉーん」と目の前に迫ってくる。周りの人もこの景観に歓声をあげている。だがその歓声もやがてため息に変わった。山頂から少し右に視線を移してみると笹平への登山道が見える。良く目を凝らしてみると人、人、人の大行列状態なのだ。まるで地獄から這い上がるため、一本の細いクモの糸に群がる大罪人なのだ。

荒菅沢で休憩して再び登り始めるとまたしても大集団パーティーの10人抜き、20人抜きを余儀なくされる。幾度と繰り返す追い越しにオーバーペースとなりヘトヘトに疲れてしまった。
僕は登るのは遅いのでファイト一発元気印の人が後ろから登ってくると道を開け通り過ぎるのを待つ。結果的に普通の人には追い越され、パーティーは追い越すということになり早く歩いたり立ち止まったりとペースは乱れに乱れる。


登りの渋滞中ふと見上げるとちぎれ雲が流れていた
樹林帯を抜け出すと荒菅沢の直前で見えたガレ場が目の前に現れた。足場が悪い個所が数箇所あり、そこで降りてくる人と登る人が鉢合わせの大渋滞となっている。
この時点ではこの先に驚愕の山頂が待っていることなんか知る由もなく、停滞中は余裕しゃくしゃくで金山の紅葉を眺めていた。
こんなことを繰り返すうちに笹平に出た。
名前の通りに熊笹の草原である。左方向の先にポコンと高くなっている小山がある。「もう少しだ」あそこが目指す頂上だろう。
しかし目の前の笹原で沢山の人が弁当を広げている。何か嫌な予感がした。
誰だってそうだろうが弁当は見晴らしの良い頂上で食べたい。登頂の達成感と心地良い疲労感の中、最高の景色を見ながらの昼食は満足度100%なのだ。それがこんな所で食べているということは。。。
再び頂上を見る。目を凝らしてみてみる。角砂糖に群がる蟻、薔薇の花を徘徊する油虫状態の日本百名山の姿がそこにあった。
山頂への道が笹原の中を一本の筋となって続いている。そこにも10人、20人の一列縦隊となった人の群れが行軍の真っ最中。人の多さに全く閉口してしまった。何でこんなに人が多いんだと腹が立つ。でも僕自身も渋滞の一原因、蟻群の中の一匹なのだ。迷惑なのはお互い様なのだ。
気を取り直して笹原の中を進む。登る人と降る人がすれ違えるほど道幅は広くない。途中、山を降りる人達が登る人達のために道を開けて待機していた。ところが登る人が多く一向に列が途切れることが無い。降りる人たちの先頭に居た人がしびれを切らし登って来る人たちに向って「きりが良いところで道をあけて下さい。こちら側も通して下さい」と怒鳴った。

山頂からの笹平 撮影している僕の周りは人、人、人
山頂への最後の登りになった。降りてくる人に道を開けたり、逆に待ってもらって登ったりと中々先に進まない。思うように歩けないことに段々と苛立ちを覚えた。途中、ちょっとしたガレ場があった。たいしたことは無いのだが人のすれ違いは出来ない。ここで降りる人約20人、登る人約30人が鉢合わせして完全に動けなくなってしまった。戦々恐々とお互いに相手の出方を見ている。

笹平から山頂を振り返る

こんな時リーダーシップをとって烏合の衆をまとめてくれる人がいるとありがたい。登る側の男性が「とにかく降りる人が降りてしまわないと登る人は登れない。先に降りてもらいましょう」と周りの声をかけたので、僕らは道の端に避けて待つことにした。普段なら僕はけっこう落ち着いているほうである。景色を眺めたり、誰か面白い顔の奴がいないか検索したりする。ところが今日は違う。帰りのバスの時間が気になって落ち着かない。明日は仕事なので今日中に帰らなければならない。そのためには小谷温泉を16:38発のバスに乗らないと終電に間に合わない。
降りる人を待つこの時間はつらい。ただでさえイライラしているのに降りてくる人の中には今の僕の心境を逆なでする人がいる。手に持ったストックがかえって邪魔になりうまく降りられない人。手足の運びが下手な人。見ていると「右手はそこの岩をつかんで。次は右足を岩の出っ張りまで下ろして。」と助言したくなる。
本当は山登りをしているお年寄りが居たりすると頑張れエールを「どぉーん」と送りたいのだが、バスの時間が無いのが気になって小さい人間になってしまった。
頂上は人に被い尽くされていた。
ザックを降ろすのもはばかるしまつ。落ち着いて展望を楽しむことが出来ない。しかし景色は最高だ。眼下に広がる緑の笹原、その先には紅葉した金山。緑と赤のコントラストが素晴らしい。金山の後ろには荒涼とした焼山の頂が顔を覗かせている。西を見れば北アルプス、北側の鋸山や烏帽子岳は山容が変わっていて無名だがきっちり仕事をしているといった印象だ。そしてその先には蒼く日本海が広がっているのだ。
頂から海が見えると何となくほっとするのはなぜだろう?頬に当たる風があの海を渡ってきた風だと思うと嬉しくなるのはなぜだろう?

笹平を降りながら見る金山も紅葉一色
下りもまたあの渋滞に巻き込まれるかと思うと気がめいる。落ち着かない気分のまま、早々に下山する事にした。
進んだり止まったりを繰り返して降っていると周りの人がため息まじりの声を上げた。その人の指差す方を見てみると笹平を30人位のパーティーがこっちを目指して進軍中だ。あんなのにぶつかったらまたしても停滞してしまう。あわてて笹原まで降りる。30人隊とギリギリで接触するのを回避することができた。振り返ると山頂への登り途中で先ほどの30人隊が上から降りてきた20人位とガップリ四つ状態だった。どうするのだろう?どうなるのだろ?と怖いもの見たさの気もするが時間が気になって仕方なく下山する。

木漏れ日の登山道
金山への分岐点付近の笹原では多くの人が休んでいた。よく見ると「自然保護のため中にいらないで下さい」と立札がある。熊笹や他の植物もおじさん、おばさん達のお尻の下で悲鳴をあげていた。旅情の最後に出会った光景がこれではたまらない。いたたまれない心情に自然と下山の足は速くなった。
荒菅沢で休憩していると10人パーティー、20人パーティーが相次いで下山して行った。下山道で最後の登りにさしかかると案の定、先ほどの20人パーティーに追いついてしまい、またしても一気に追い越しを迫られる。立ち止まってくれた人の横をあえぎあえぎ登っていると張り出した木の幹に思いきり頭をぶつけてしまった。すごくカッコ悪い。しかし僕が全て悪いのか?
登山口に着いてみると遅れるどころか予定より早くなっていた。
登山口から小谷温泉まで紅葉を見ながら歩く。秋の午後の日ざしは少し涼しくて光が黄色を帯びている感じだ。朝とは同じ道だけどまた違った景色に映る。
のんびり歩いていると車が傍らをどんどん通り過ぎていく。排気ガスの匂いに最後まで落ち着かない山登りだった。

参考

テントを張れるのは登山口ぐらいだ。頂上は石がごろごろしているが我慢すれば張れない事は無い。
水は登山口または荒菅沢で取れる。(水量多い)
雨飾荘の近くに露天風呂有り、入浴料はカンパ。

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