浅間隠山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆11月19日
上野 (6:04) +++ 高崎 (7:47/7:52) +++ 横川 (8:25/8:40) === 軽井沢 (9:25/9:30) --- 矢ヶ崎公園 (9:40/10:00) --- 旧碓氷峠 (11:40/12:10) --- 留夫山 (13:35/13:45) --- 鼻曲山(14:50) (テント泊)
◆11月20日
鼻曲山 (7:50) --- 氷妻山 (8:25/8:35) --- 二度上峠 (9:10) --- 登山口(9:20/9:25) --- 浅間隠山 (10:15/10:45) --- 登山口 (12:00/12:15) --- 清水 (13:30/15:00) === 権田 (15:40/15:55) === 高崎 (17:12/17:27) +++ 上野 (19:16)
山日記 (ゆけゆけ鼻曲山!編)

浅間隠山・・・吾妻側から見ると浅間山を隠してしまうことからこの名前が付いたらしいけれど。何だ、そのまんまやないの!と突っ込みを入れたくなる名前を持つ山ではあるけれどしっかりと二百名山の一つなのだ。
二百名山だし、自宅から割と近いし、一度はぜひ登っておきたい山なのだけれど・・・
浅間隠山は登山口(二度上峠)からわずか90分で登れる山なのでこんな前置きをダラダラ書いている間にでもササッと登れてしまいそうだけれど、ところがその登山口までのアプローチが悪い。タクシーか自家用車を使って登山口まで行けば何てことは無いけど、公共の電車/バスのみを利用するとなるとその登山口までが遠いんだなー。

最初は軽井沢から北軽井沢までバスで行って、そこから歩こう!と思った。だけど北軽井沢から登山口まで地図のコースタイムでは3時間だ。90分で登れる山の登山口まで3時間も歩き?、往復だと山を歩くのが3時間で、道路を歩くのが6時間になってしまう。何か素直に納得できないんだよね!
おまけにこの計画ではとても日帰りは無理なのでどこか山中でテント一泊しなくてはならない。90分で登れる山をテント泊?・・・ダメだダメだ!何だか無駄な努力に思える!

では北側の清水(浅間隠温泉郷)からはどうだろう?調べてみると電車/バスのアクセスが悪く、これもダメ!
だけど地図をよーく見ると清水は吾妻線の長野原草津口駅から直線で8キロの距離だ。道は曲がりくねっているし峠も越えなくてはいけないので歩くと3時間はかかりそうだ。
清水から登山口までが2時間だから計5時間かぁ・・・日帰りでは当然無理なのでテントを持って行くにしても駅から登山口まで5時間も歩くんじゃ大変だ!山に登る前に既に勝負あった!という感じだ。
こんなの歩けるのは田中さん(サイト:山追い人)じゃなきゃ無理だな!という考えがフッと浮かんで消えた。

なんと言う偶然!その数週間後、何とその田中さんが僕が挫折した長野原草津口→清水→浅間隠山→軽井沢のコースを歩いている山行記を見た。それも何と日帰りだ!・・・やりやがった!(口が悪くてごめん)まったくスゴ過ぎるぜぇー!
どうするにせよ僕の場合はどこかでテント一泊はしないと浅間隠山の山頂には立てそうに無い。
おうおう!それだったら軽井沢から清水まで縦走してやろうやないの!幸いにもバスのアクセスを調べてみると清水から高崎へはスムーズに行けそうだし、軽井沢から浅間隠山を目指すことにした。
それにしても幕営予定地の鼻曲山・・・これも何だかシマラナイ名前だよなぁー。

横川駅で軽井沢行きのバスに乗り換える。
バスは裏妙義山の横を通り過ぎると道を緩やかに登りだした。山の上の方ではもう紅葉は終わってしまっているけどこの辺りは今がまさに真っ最中、赤や黄色の木々が山を染めている。前回の榛名山では最終バスまでに幾つの山に登れるか?まさに時間との勝負だった。今回は時間に余裕があるのでゆったりした気分で景色を眺められそうだ。
計画を立てた時、これで今年最後のテント山行にしよう!と思った。それだったらのんびり歩けて、それに面白そうな山は無いかな?と色々と物色していたら一年前に計画を立てたこの山に白羽の矢が立った。
こうやって車窓の外に広がる抜けるような青い空と紅葉に彩られた山々を見ていると楽しい二日間になりそうな予感がする。おーし、出来るだけ色んな物を見てやろう!という感情がむくむくと湧いてくる。

入山峠付近ではもう9時を過ぎているのに霧氷がまだ残っていて青空をバックに透き通った光を反射させていた。久しぶりに雪や氷を見ると山に一つの色が増えたことが新鮮に思える。ゆっくりだけれど確実に季節の歯車は回っているのだ。

うひゃーっ!峠を超えると目の前にずわーんとその姿を表したのは浅間山だ。さすがに周りの山と比べて高くて大きい、山頂付近に薄っすらと雪が積もっていて、もーっ、これはすごく綺麗だ。思わずバスを飛び降りて写真を撮ろうかと思ったほどだ。
待ってろよ!明日浅間隠山から見てやるかんなー!

もしかしたら駅構内にあるのかもしれないけれど駅前には立ち食いそばが無く、中華そば屋も営業時間前で閉まっていたのでコンビニで赤いきつねにお湯を入れてもらい、肉まんを買って駅近くの矢ヶ崎公園へ行ってベンチで食べた。
体が一気にポカポカに暖まって、いっちょ行きますか!体の底から元気が満ち溢れてくる感じがする。

池の真中にある橋を渡っていると離山の右に浅間山が見えて来た。山頂付近に雲がかかっているのは残念だけれど時間に余裕があるのでじっくりと眺める。これから向う旧碓氷峠に視線を移すと空はまじりっけ無しの快晴だ!公園の水道でポリタンを水で満たすと二手橋を目指して歩き出した。


横川駅からバスに乗り換えます


矢ヶ崎公園 真ん中に池があります


鴨がやたらと寄ってくる。なあんでや?

旧軽井沢は林の中の清楚な感じの別荘地だ。人が居るのは夏の間だけかと思ったら通年で住んでいる人も多いみたいで閑散とした感じは無く、街全体が季節の中にしっくりと溶け込んでいる。
でかい掃除機みたいなホースの付いた機械で屋根の枯葉を吹き飛ばしている光景が印象的だった。

ささやきの小道と呼ばれる川沿いの道を歩いて行く。正直、そんなにロマンチックな道ではなく、軽井沢のネームバリュウにどこかチヤホヤしていた気持ちはついて来れなくなってしまった。
二手橋までの途中には芭蕉の句をよんだ文学碑や歴史的な名所などがあるのだけれど歴史や文学にうとい僕はどれもあまり興味が持てず、そうか、そうなんだ!多くの人がそうしている様に、ただうなずきながら通り過ぎるだけだった。
そんな僕が見たかった場所が万平ホテルだった。そう、ジョンが滞在していた時に泊まったホテルだ。行ってみると想像していた通り、周りの森と上手く調和した白くてこじんまりとしたホテルだった。でかいザックを背負った男がウロウロしているとヤバイ奴に思われそうだったのでササッと入ってササッと逃げるように出て来たけどかえって不審に見えたかも・・・

二手橋から先は遊歩道を歩いていく。入り口に熊に注意!の札があったので熊よけの鈴を付ける。最初ザックに付けてみたらあまり鳴らないのでこれじゃ効果薄いな!と足に付け直した。歩くたびに三つの鈴がシャンシャンと元気な音を立てる。何だか熊除けというよりクリスマス気分になってしまうのはどうして?


遊歩道にはまだまだ紅葉したカエデが残っていた

道の周りの木々はすっかり葉を落としてしまっているがポツリポツリと紅葉したカエデが残っていてハッとするほど鮮やか色で遊歩道を飾っている。
陸橋を渡るとそれまで雑木林だったのが急にブナ林に変わり、一変してただの森から山へと様相を変えた。
パラボラアンテナが見えて来た。きっとあそこが旧碓氷峠だ!
旧碓氷峠には茶店があって、トイレがあって、そして水があって・・・正直に言えば矢ヶ崎公園でポリタンに入れた4リットルの水が予想以上に重く、ここまで歩いただけでかなりへばってしまっていた。わざわざ下から運んで来た4リットルの水が恨めしい。

見晴台へ行ってみる。
群馬県/長野県の文字の真ん中に太い線が書かれた標示板が広場の真中に立っていた。広場からは妙義山の眺望が良かった。広場の端っこに行ってみると浅間山が見えた。
昔、旧碓氷峠は中山道最大の難所だったそうだ。旅人はここでほっと一息をつき、上州に別れを惜しみ、そして信州へ向って行った。旅人の目にも今と同じ様に上州側には急峻な妙義山、信州側には雄大な浅間山が見えていたことだろう。そう考えると薄っぺらい歴史観しかない僕でも遥か遠い昔の後姿に触れた気がしてしんみりしてしまうのだ。

左上:広い見晴台の広場 今も昔もここが上州と信州の境目なのだ。

右上:見晴台からの妙義山 ここから見ても個性的?ギザギザの山なのだ。
写真を撮っていると僕のでかザックが珍しいらしくやたらとおとうさん、おかあさんから話し掛けられる。

左下:見晴台からの離山 軽井沢の真ん中に突如現われたって感じの山 これも火山だったのだろう。

右下:見晴台からの浅間山 浅間山の南側には雪が少なく、北側は真っ白な状態なのだった。

熊野神社で拝礼してから一ノ字山への登山道を登って行く。
さあ、ここからがいよいよ登山道だぞ!と気合が入るものの既にザックの重さに疲れてしまったのか?汗ばっかり出て足が前に出ない。
こんな時には休む回数や時間を多く取らずに、心拍数が低くなるまでとにかく歩くペースを落とすことだ。そうやってのそりのそり歩いて行く。
登山道は緩やかな傾斜で周りにはブナやミズナラが多く、新緑の頃に歩いたら気持ちが良いだろうな!と思う。
一ノ字山山頂は本当にどこか分からなかった。随分通り過ぎた後になって多分あそこのピークだったんだろうと思う程度だ。地図では草原になっていると書いてあるが草原は無く似たような森が延々と続いた。


留夫山山頂 展望無し、かなり疲れていたのだ。

留夫山から鼻曲山までは赤い実を付けた木が多く生息してる


カエデは赤と緑の落ち葉がある。
それだけの写真、つっこまないで!

人というのは覚悟していたらそれなりに絶えられるものなんだけれど予想していないことには例えそれが小さなことでもかなり堪えることが身に染みて分かった。
一ノ字山を過ぎるといったん降って留夫山へ登って行く、木々に囲まれて展望も無い留夫山からまたまた降ってそして鼻曲山へ登って行く。地図を見ると登山道を横切る等高線の数は少ないのであまりアップダウンは無いだろうとたかをくくっていたら、これが予想以上に苦しかった。
あらかじめ知っていたら何てことは無いと思う程度の登り降りなんだけれどあれっ、こんなに降るのかよ!とジトーッと思っていると、そしてその後には降った分だけ登らなきゃいけないという事実がしっかり待ち受けているのだ。

疲れてくるとテントが恋しくなる。
「あーっ、早くテント張って、温かなシュラフに寝転がりたい!」鼻曲山へ着くまでそんなことばっかり考えてしまう。
鼻曲山の名前の由来になったと思われるボッコリと張り出した岩壁が真近に迫って来た。さあ、ここを登れば今日の歩きは終わりだなぁ!


鼻曲山(大天狗)からの角落山
とんがっている所が山頂

大天狗山頂 けっこう広いのでここにテントを張ろうかとしたけれど・・・


小天狗からの浅間隠山
明日登ったるで!と吼える

フーッ、やっと鼻曲山に着いた!
山頂に着いたらまず景色を堪能・・・それが普通なのだけれどまずはテントを張れる場所があるかどうかが気になる。山頂の真中は広く平らだったのでまたまたお得意の”山頂のド真中にテントを張るけんね”という悪行を重ねることにした。
鼻曲山は遠くから見るとボッカリと岩が出っ張っているので展望が良いと期待していたけれどそれ程じゃなかった。東の角落山はきっぱりと見えるのだけれど北側の浅間隠山はどうにか木々の間に見える程度、浅間山に至っては全く見えない。


小天狗からの浅間山 雲がかかっていて残念!

「小天狗へ 展望良し」木の枝に付けられた小さな札を発見!期待に胸を膨らませドカドカと小天狗へ行ってみる。

やったぜぇ、浅間山だよこりゃ!・・・近いぜ!でっかいぜぇ!目の前がずわーんと開けて雄大な浅間山が姿を見せていた。
ただ残念なのは西の空には雲がかかっていてその雲が浅間山の丁度山頂まで達している。でもとにかく見えただけでも山の神様に感謝しなくてはいけない。何故か今年は二日間山に登ると一日は晴れるけれど一日は曇って何も見えないということが多かったから。

山頂にテントを張る場合、他の登山者の迷惑にならないように日没時間の30分前までは設営するのを待つようにしているのだけれど、今日はまだ日没の1時間半も前なのにもかかわらずテントを設営することにした。何故って?旧碓氷峠からこの山頂まで誰とも会っていないのだ!今さら誰かが登って来ることはないだろう。それに展望が良いってことは風も情け容赦なくビシバシと当ってしまう、風が冷たくてジッとしていると寒くてたまらない。
山頂の地面はぬかるみ、グチャグチャ状態でこれではテントが泥んこになってしまうけれど地面が凍っているとペグが刺さらないからこれくらいは我慢しなければいけない。

風が強かったので設営に時間がかかってしまったけど何とかテントを設営することが出来た。早速、ホットウイスキー用のお湯を沸かす。でぇ、お湯が沸くまで何をしているかって言うと今回は今年最後のテント山行と言うこともあってザックが重くなることは覚悟でワインも持って来ているのでそれを飲むっていう段取りだ。
まー、つまり秋の夜は長いのでずっとお酒を飲んでいようという単純明快な作戦なのだ。
まだ陽が差しているのでテント内が温室効果で暖かくなり、お湯を沸かしたので更に暖かくなった。テントの中ってこんなに心地良かったっけ?と思わずニンマリしてしまう。


浅間山にかかっていた雲を夕日が赤く染めた

4時になり、景色を眺めようとテントの外に出た。まだ陽射しはあるのにさっきまでグチャグチャだった地面が既にガチガチに凍り始めていた。ウイスキーとワインで体は暖まっているし、ダウンジャケットとで完全武装しているので寒さは感じない。


小天狗からの高崎市の夜景 手前が青いのはLEDライトで照らしている為。

この日が沈むまでの30分間は昼間の元気だった心がぼやけていく時間だ。どこか哀愁を帯びた、ゆったりと時間が流れて行く。もーっ、よけいなこといっさいせんからな!ただただ黙って段々と陽が沈んで行くのを見つめるだけだ。
西の空が紅く染まり、山は陰を深めていく。
山々がすっかりモノトーンに包まれてしまうと本当に山々とはお別れだ。
山が闇に包まれると秋の蛍を思わせるような灯りがポツリポツリと眼下の市街地で点っていった。東に高崎市街の夜景がキラキラと輝き出した。この山の夜は小憎たらしくそんな仕掛けになっていた。

テントにもぐりこんで夕食。
寒くなると温かい汁物が恋しくなるので今日のメニューは・・・汁物と言ってもラーメンだけれど。
ラーメンに魚肉ソーセージ、玉ねぎ、ワカメ、それに玉子を入れただけの簡単なものだ。
コッヘルのお湯が沸いたのでまず玉ねぎとぶち込もうかと思ったら・・・何やってんだ僕は・・・ナイフを忘れて来てしまった!!!
ナイフと言ってもアウトドア用の五徳ナイフというやつでナイフ、スプーン、フォーク、缶切り、栓抜きが一緒になっているものだ。
だから当然ナイフだけでなくフォークもスプーンも無い!
マイッタなー!出発前に装備リストと2回もチェックしているのに何やってんだ!
仕方なくテントの外に出てごめんなー!と謝りながら近くの木の枝をポキポキと2本折ってしまった。
これでとりあえず箸は出来た。ナイフが無いのでソーセージは歯で噛んでコッヘルの中に吐き出した。ちょっと汚ならしいけどしょーがあんめい!どーせ自分で食べるだから別に良いんだ、良いんだ!
玉ねぎは噛んでみると意外と甘味があったけど、それでもやっぱり辛い。
ギザギザ歯型の付いたソーセージ、ふぞろいの玉ねぎ!テントでの夕食はこれで何回目だか分からないけれど、味はともかく見た目は一番悪い夕食が出来上がっていた。

ゆけゆけ浅間隠山!編
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