大菩薩嶺

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆6月10日
立川 (5:55) +++ 塩山 (7:24/7:28) === 大菩薩登山口(裂石) (7:55/8:00) --- 上日川峠 (9:30) --- 雷岩 (10:50/11:10) --- 大菩薩峠 (11:50/12:00) --- 石丸峠 (12:20/12:25) ---1957mピーク (12:30/12:40) --- 上日川峠 (13:40) --- 大菩薩登山口 (14:35/14:52) === 塩山 (15:20/15:33) +++ 大月 (16:09)
山日記

大菩薩嶺の特徴は緑の笹原だったり、富士山の眺望だったり、甲府市街の一望だったり・・・と数々の”だったり”が2000メートル上空に羅列しているのだけれど、そんな色んなゴキゲンな景色との御対面の前には乗り越えなくてはいけない試練が待ち構えているのだ。
大菩薩登山口(裂石)から上日川峠までの2時間の登り・・・距離が長いわけでもなく、危険な岩場がある訳でもなく、急登であるわけでもなくなのに歩いていて辛いのは・・・横を林道が走っていて、お金持ちハイカーは上日川峠までタクシーでスイスイと行ってしまう。車が走っているその横をトボトボ歩くのはけっこう辛いもんだ。


イヌブナの新緑。フライドポテトみたいな側脈がうれしいかったりする。

僕も80歳になったらタクシーで行ってやるからな!そうなったら富士山なんかもズワーンとブルドーザーで一気に登ってやるからな!
ガンバレ貧乏人!エイエイ貧乏ハイカー!

一気に第一展望台まで登って行った。
あーっ、思わずため息が出てしまう。裂石から南西の方角を見るとそこには今の季節にしては珍しく雪が残っている南アルプスの山々が見えていたので、これは展望台まで登ればスゴイ眺望が期待出来るのでは!と期待して急いで登って来たのだけれど、そこにはどうにか甲府市街が見える程度の白くぼんやりとした空間があるだけだった。
裂石から見ると大菩薩嶺だけが雲の中だった。予想はしていたけれど早くも雲の中に入ってしまったらしい。
先週、関東地方も梅雨入りし、貴重は晴間を狙ってこうしてやって来たのだけれどはたして予報通りに天気は晴れるのかな?といぶかしんでしまう。

空を見上げると雲は多いけれど所々に青空も覗いている。雲のスキマからたまに日が差し込んでくると自分を取り囲む新緑の木々達がいっせいに輝きだす。葉を通った光が緑色に変わって視線を刺激する。昨日の雨がまだ葉に水滴を残していて光を集めてはキラキラとダイヤモンドみたいに葉の表面で躍っている。
この辺りは山梨ブナの森百選にも選ばれてほどブナの木が多く、こうしてノンビリ歩くには最高の・・・?さっきまでガンバレ貧乏人!とヒガンでいたのは誰だっけ?
とにかく貧乏なハイカーに対しても心優しい山なのだった。


上日川峠まではブナなどの広葉樹の森が続く


上日川峠までは朱色の山ツツジ
上日川峠から上は紫色の山ツツジでキチンと住み分けしているのだ。

上日川峠には沢山の車が駐車していた。マイクロバスなんかも止まっていて今日もこの山は大賑わいだ。
その車のそばで準備体操なんかしているパーティーの姿を見ると「良いな、お金持ちは!」やっぱり思ってしまう。タクシーはともかく自家用車のハイカーはお金持ちではないのかもしれないけれどここまで楽して登って来たということについては同罪だから全部ひっくるめて僕にとってはチクショーの対象なのだ。
でもここに登って来るまでにブナの巨木は見れたし、新緑は千の輝き、山ツツジはまだ残っていたし、それはそれで良かった!と言う気持ちもある・・・なにもかも求め過ぎてはいけないな!とイビツな心の中で残っていた爽やかな気持ちがカリッと音をたてた。

上日川峠からは山容が一変し、ブナの木はめっきり減ってしまい笹が地表を覆い隠すようになった。
笹原を緩やかに登り、福ちゃん荘へ到着。(車はここまで入る事が出来る)
今回、楽しみにしているシーンは2つある。そのうちの一つが唐松の新緑だ。針葉樹の新緑は広葉樹に比べて繊細で、その森は空気の流れを十分感じさせてくれる。
そんなわけで福ちゃん荘からは当然、唐松尾根を登って行く。

ここの唐松は木の上部にしか葉が無いので上ばかり見ていたら首が痛くなってしまった。
唐松の他にも色んな木があって、どの木も新緑の真っ最中だ。これで晴れていたら何も言う事がないんだけれど・・・
上日川峠より下では朱色の山ツツジだったけれどこの辺りは別の種類らしく紫色をしている。ちゃんと花も住み分けをしているんだな!と思う。


上日川峠からは広葉樹と唐松が美しい道


雷岩付近からの富士山
今日は薄っすらとしか見えなかった

雷岩から見た唐松尾根
まさしく唐松ばっかり

雷岩に立ってまず最初にやることは富士山を眺める事だ。
ただ今日は生憎の曇り空、視線の先の富士山は薄っすらとかすんで見えて少しガッカリした。

話はガラリと変わるけれど、僕の友人に金山という男がいる。この男は山から帰って来て数日後に何故か耳の中が痛くなってしまった。
耳鼻科に行って診てもらうと、なんと耳の中から腐乱したブヨが出てきた。
その話を聞いた時はバカな奴だと当然大笑いしてしまったけれど、それ以来、山でブヨを追っ払う時にバチンと勢いよく耳辺りを叩かないようにしている。
今日も相変らずアブやブヨ(この違いは良く分からない)にもこの山は人気のようだ。

雷岩は虫がいっぱい!!!
人によって虫が多くたかり易い人と少ない人がいる。アブやブヨは黒い物が好きで、それに体温が高く、二酸化炭素を多く吐き出している人が好きなのだが、これはずばりアルコールを飲んでいる人だ。
僕も前夜お酒を飲んでいるので、それがどれ位影響するのか分からないけれど、どうも他の人よりも虫に好かれるようだ。
昨年の5月にこの山に登って虫が多いことが分かっていたので今日はしっかりとディフェンス役として防虫スプレーを持って来ていた。
スプレーをブシューッと顔や首に噴射するとかなり虫が寄り付かなくなった。僕をマークする予定だった虫は他の人に向って行った。これで安心してオニギリを食べる事が出来た。
ただ失敗したな!と思うのは日焼け止めと防虫剤がネチョネチョと混ざり合って顔はかなり気持ち悪い状態になっている。曇り空になるんだったら日焼け止めを塗るんじゃなかった。


休憩所付近は幕営に絶好の場所なんだけれど・・・幕営禁止の立て札がうらめしい。


妙見ノ頭をゆくハイカー
雪が無くなるとこの山はただただノンビリが似合う。

介山荘と熊沢山。ここから見ると熊沢山は高いが登ってみると楽に越えることが出来た。

今日は大菩薩嶺の山頂へ行くのはパスすることにした。
山頂は展望は無いし、それに何てったって木々に囲まれた山頂はもっと虫が多いのだ。ただでさえ虫の多さにはゲンナリしているのにもう良いだろう?。
雷岩から大菩薩峠へ向う。歩き出すと空気が動いて虫が全く寄り付かなくなり快適だった。

今日この山で見たかったシーンがもう一つ。新緑の笹原が見たかった。
ヤマケイで見た一枚の写真、青い空の下に広がる広大な緑の笹原・・・その風景が忘れられなくて以前から初夏に来訪するチャンスをずっとうかがっていた。
それが今日なのだけれど、どうしたわけか笹が緑では無いのだ!葉は確かに緑なのだけれど縁が枯れた状態で茶色になっていて全体で見ると薄茶色にしか見えない。
笹の新緑は一年周期ではなくて数年周期なのかもしれないな!だとしたらその景色に会える確率は相当低くなってしまうかもしれない・・・まぁー、また来たら良いさ、また来たら!とウロウロする視線で空を仰ぎ見るしかない。


大菩薩峠の石仏は頭が無いのでどうにかしてあげたいと・・・展望よりもそれが気になってしまう


大菩薩峠にある方位標示盤。峠はあまり展望が良くないのでせっかくあるのに・・・

介山荘の山伏像。稜線では幕営禁止なので再訪の際はこの山小屋に泊まろうと計画中。

石丸峠と狼平・・・昨年の山行でお気に入りになった場所だ。
だけどこの天気だ、行くか止めるか大菩薩峠で迷ったけれど、このまま帰ってしまうのも惜しい。結局行ってみることにした。
ジメッとした熊沢山を登って行くと目の前がパッと開けて目の前に笹原が広がった。
笹原の中を縫うように一本の道があって開放的な場所、太陽の光が緑の陰影を作る場所、本当なら胸をくすぐるような展望が待っていたはずなのに・・・思わず見なかったことにしたくなる。

石丸峠を過ぎて狼平へ向う途中のピークから見ると・・・もういかん!黒い雲が東からひっきりなしに流れて来て小金沢山の山肌を這うように流れて行く。天気は回復するどころか益々悪くなっているようだ。
狼平もいけすかない雲の下でくすぶっている。
小金沢連嶺は天気の分水嶺になっていて甲府と太平洋側とで気温や気圧が違っていると雲がかかりやすく意外と晴が少ない。
遠く甲府市街や奥多摩、大月を見ると晴れているのに大菩薩嶺上空だけがスッポリと雲に覆われていた。

もう帰ろう!
本当はこの辺りの笹原でノンビリしていこうともくろんでいたのにそんな僕の都合は無視してドンドンと雲が増えていく。
今から戻れば予定より一つ早いバスに乗れそうだし今日は山行はこれで終ろう。


石丸峠の笹原。写真好きの人達の中では一番の撮影ポイントにあげる人もいる


段々と黒い雲に覆われ始めたのですぐ先の狼平は行かなかった

モミジの新緑も鮮やかな緑色。なのに芽吹いたばかりの葉は何故か赤い???

もう何度も大菩薩に来ているのに石丸峠から降るのは初めてだった。
期待も何も無く、ただただ上日川峠までの下山道というふうに思っていたけどそこには今日一番の唐松林が待っていた。
道の両側には空に向って真っ直ぐな唐松が連立している。福ちゃん荘付近の唐松は木の上部にしか葉は無かったがここの唐松は下の方までしっかりと緑の葉を茂らせている。
これだよ、僕が待ち望んでいたのは・・・ブフフと自然に笑みがこぼれる。何度も立ち止まっては山側や谷側をグルリと見回していたのでまた首が痛くなってしまった。

山頂から見た上日川ダム湖に段々と近づいて行く。湖畔の休憩所で休んでいる家族がいたりして山も良いけれど湖もまたゆったりとした時間の中でしっとりと自然に溶け込んでいる感じがする。今度来た時には湖にも寄り道してみようと心の予定帖にしっかり書き込んでおく。

ちょっと待てよ!山頂から見た牛ノ寝通りは緑の密度が他と違っていて新緑や紅葉の時期に歩く良さそうだ(山岳地図にもそう書いてある)。ダム湖にも寄って見たいし、丸山峠まで足を伸ばしてみるのも面白そうだ。早くも次の計画を頭の片隅で組み立てながら唐松林の中をズンズンと降って行く。


キッチリ5方向に咲いている花。
春から夏にかけて山には何かしら花が咲いている


直径1センチほどの小さな花。稜線には花が少ない

これも小さな花。左の白い花とこの花が上日川峠付近に群生していた。

上日川峠では山行を終えた人達がザックを下ろし靴を履き替えたりしていた。
やっぱり車で来ている人は楽だな!とため息が出る。貧乏なハイカーにはここからバス停まであと1時間半の歩きが待っている。

曇ったせいで朝よりも暗くなった道を降って行く。
前方から学生らしいパーティーが登って来た。幕営するらしく全員がでかいザックを背負っている。そう言えば今年になってまだ一度もテント山行してないな!彼らのザックに付けられた銀マットが妙に懐かしい。
それにしてもでかいザックを背負って裂石から登って来たんだ!んーん、やるねぇー!
などとカッチリ感心していると下から続々とでかザックを背負ったパーティーが登って来る。そしてそのザックにはきっぱりと銀マットが付けられている。
大菩薩嶺では上日川峠と富士見山荘の2箇所しか幕営出来ないのだけれど、大菩薩ってこんなにテントファンに人気の山だったのか?

いくつかのでかザックパーティーとすれ違っていると何だか心がそわそわした。
振り返ると大菩薩嶺の山頂は雲の中だった。その雲の中にワサワサとしたざわめきが隠れている気がした。さっきのパーティーは今夜どんな夜を過ごすのだろうか?星は見えるのかな?風の音は聞こえるのかな?そしてどんな朝を迎えるのだろうか?
時間はまだあるのにバス停へ向う足が早くなった。
家へ着いたらさっそくテント山行の計画を立てようと思った。

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