大菩薩嶺

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆11月4日
立川 (6:04) +++ 奥多摩 (7:17/7:25) === 小菅(川久保) (8:15/8:30) ---高指山(モロクボ平) (9:30/9:05) --- 大ダワ (10:30/10:40) --- 榧ノ尾山 (11:40/11:50) --- 石丸峠 (13:05/13:20) --- 大菩薩峠 (13:35/13:40) ---雷岩 (14:15/14:20) ---上日川峠 (15:10) --- 裂石 (大菩薩登山口) (16:20/16:48) === 塩山 (17:10/17:41) +++ 立川 (18:39)

山日記

これは行くしかあるめぇ!
昨年の6月、大菩薩嶺から見た牛ノ寝通りの新緑が目に眩しかった。
ガイドブックを見ると牛ノ寝通りは新緑、紅葉が綺麗だと書かれている、それに大菩薩峠から小菅へ降りるハイカーは少ないみたいだし、もしかしたらこのコースは穴場なのかもしれない!とそれから気になっていた。
本当は先週の台風一過の日曜日に来たかったのだけれど情けないことに二日酔いで朝起きれず、今週ではもう紅葉は遅いのかもしれないと思ったけれど、まーっ、山の上の方は駄目でも麓にはまだ紅葉が残っているだろうとやって来た。

川久保でバスを降りる。バスには8人の登山者が乗っていたけれど、ここで降りたのは僕一人だけだった。他の人も大菩薩峠へ向かうのだろうと思っていたのに皆さん終点の小菅まで行ってしまった。もしかしたら他に登山ルートがあるのだろうか?

一人だけ降りたのは良いけれど登山口が見つからないのには参った。地図を見ながら付近をウロウロしたけれどどこにも登山口の標示が無い。
庭先で手作業をしていたお爺さんに道を尋ねると僕の地図は字が小さくて見えないと言うし、お爺さんに呼ばれて家から出てきたお婆さんもやっぱり字が小さくて見えないと言うし困ってしまった。そのうち業を煮やしたお爺さんが「高指山はあれだから(と山を指差し)山に向かって歩いて行ったら着くよ」アバウト過ぎる答えにも困ってしまった。

お婆さんに教えてもらったとおり派出所のドアを開けるとチャイムがなって部屋の奥から警官が出てきた。誰もいないと思った派出所、田舎では派出所と住居が一緒になっているのだ。

登山口からヒノキ林の登山道をジグザグと登って行く。
小一時間ほど登って行くと植林帯を抜けた。そこは白樺林になっていて上を見上げると青い空に白樺の白い幹がくっきりと太陽を受け止めている。
さらに登って行くとモロクボ平と呼ばれる場所で一面のブナ、クヌギなど広葉樹が一面に生い茂っている。この辺りはまだ紅葉していなかったけれど白っぽい幹の連立する森はそれだけでたまらなく嬉しい景観だ。

高指山(モロクボ平)付近はこんな感じの森が広がっていた。良いよなー!のっけから嬉しくなる。

木々の向こうには紅葉した山の稜線、そのさらに向こうには飛竜山。んっ気になる・・・山だ!

登山道は緩やかに高度を上げていく。そしていよいよ憧れの紅葉地帯へと突入して行った。
真っ赤に色づいた葉は少ないけれど山全体が黄色や淡い赤色で満ち溢れていた。こうした温暖系の紅葉もまた良いのだ。広葉樹が多いせいもあって森全体がどこか柔らかさに満ちている感じがする。
登山道は尾根の北側になったり南側になったりを繰り返し、その度に木々の様子も微妙に変化している。
北側斜面は日が射さないので暗いけれどなぜかブナやカエデなどの巨木が多い。そしてそういった巨木の根元から見上げると赤色や黄色の幾重もの色の存在には圧倒されるばかりだ。
南側は太陽の光が燦々と降り注いで明るい。小ぶりな木が多く植生し、紅葉した葉を通した光が柔らかく安らぎを覚えるような温もりのある風景が広がった。

牛ノ寝通りは勾配がなだらかでほとんど登っている気がしない。以前、大菩薩峠から見た時も尾根というよりもなだらかな山の連続といった印象だった。山登りと言うよりも散策路と言った感じだ。
最初このコースを計画した時は上日川峠から大菩薩嶺へ、そして牛ノ寝通りを小菅へ降りようと思った。これだと朝の富士山は見れるし、ゆっくりと降りながら牛ノ寝通りの紅葉を楽しむことが出来るから。
ただ僕の悪い癖は、ピークを踏んで下山になった途端、家に帰ることばかり考えてしまって周りの景色が急に目に入らなくなることだ。
それで今回はとにかく紅葉重視!朝の富士山は諦めて牛ノ寝通りを登ることにした。
でもこうやって歩いているとこれってやっぱり正解(僕にとっては)だったな!と思う。


紅葉した登山道を撮るのは難しいな!と今回は痛切。
実際はこれの1000倍の色鮮やかさ。

大ダワからは雲取山、飛竜山の展望が良い。
切り株の根っこにビッシリとキノコが群生していた。

紅葉の中をズンズンと進んで行くとポッカリと視界が広がった。大ダワと呼ばれる場所だ。切り株がいくつか残っているので以前はここも木が生い茂っていたのかもしれない。今は木々の間から雲取山、飛竜山など奥秩父の山々の展望が良い。
切り株に腰掛けて一度目の?昼食にしていると前方から3人のハイカーが歩いて来てやっぱり切り株に座るとザックを広げた。おいしそうな物が色々と出てくる。僕の昼食はオニギリだけだけどこんな暖かい秋の日にはもう少し贅沢してオイモノ(美味しい物)を持って来るんだったと悔しくなってしまう。

大ダワから先はまた林層が変わり色んな紅葉が目の前に現われる。
その中でも特に真っ赤に色付いたカエデの葉はひときわ鮮やかでついつい目を引いてしまう。
この辺りからすれ違うハイカーの数が急に多くなった。結局、この日は石丸峠へ着くまでに30人以上のハイカーとすれ違った。牛ノ寝通りは僕だけの秘密にしようと思っていたのでけれど、皆さんにはすでに既知の事実だったのだ!(って当たり前だろっ)


カエデの紅葉はひときわ鮮やかだ。秋の山を飾るそれはまさしくコラージュ。


ゆるゆると道は登って行く。榧ノ尾山まではこんなゆるやかな道が続いて散策にはピッタリでした。

「今日はどこまで行かれるんですかー?」
前から歩いて来た女性二人に声をかけられた。「大菩薩峠から上日川峠へ降ります!」って答えたら「今からですか?今からだと上日川峠へ着くのはずいぶん遅くなりますねー、ライトあります?」上日川峠への到着時間は15時半の予定だったので一瞬、コースタイムを読み違えたのか?と心配になった。
その後もカッパあるか?とかコンパスあるか?とか色々と質問してくるので、これはもしかして僕のことを初心者もしくはひ弱なハイカーに見ているんだな!と思うと情けなくなってしまった。
まーっ、そんなことより別れ際の「富士山も甲斐駒も、もうバッチリ見えましたよ!」という言葉は少し疲れた体を元気回復させるのには十分だった。


榧ノ尾山山頂もハイカーでいっぱい。なにせ牛ノ寝通りは展望が良い場所が少ないからね。

牛ノ寝通りは木々がきれいなコースなのだけれど反面展望が良い場所が少ない。
榧ノ尾山は今日2箇所目の開けた場所だった。
ここで展望を楽しみながら2回目の昼食・・・ところが急に雲が広がり出した。目の前の雁ガ腹摺山を始めとして視線の先の小金沢連嶺山頂はどわーっとかなりの勢いで灰色の雲で覆われ始めた。
こりゃ、富士山も甲斐駒もダメだなぁー!

紅葉の賞味期限は短い!
榧ノ尾山を過ぎて石丸峠への登りになると急に紅葉が少なくなった。それに比例するかのように道に重なり合う枯葉の量がいっそう多くなり足を進める度にサクサクと乾いた音を立てた。
降りてくる人から「この先、石丸峠まではずっと登りですよ、がんばって!」と声をかけられる。
だからオレってよほど弱々しく見えるのだろうか?登る速度があまりに遅いからなのか?全身ユニクロファッションだからか? どっちにしろ・・・へこむ。

石丸峠は風がそよぎ流れる白い雲が青空を断続的に隠していた。
雲の一つが通り過ぎるとその向こうに青空見え、その途端に笹原の緑が輝き出す。
のびやかな草原の石丸峠は大菩薩嶺の中で好きな場所の一つだ。この峠、すぐ横の天狗棚山はノンビリと休憩するには絶好の場所、陽だまりの白さとお弁当が似合う場所だ。


静かさの中の石丸峠は好きな場所、雲の流れに洗われたような笹原の緑が鮮やかだ。

江戸時代、江戸から奥多摩を経て甲州へ向かう道は二つあった。一つは丹波から大菩薩上峠を超える丹波大菩薩路、もう一つが小菅から大菩薩下峠を越える牛ノ寝通りだ。
それが近年、上峠を大菩薩峠、下峠を石丸峠と呼ぶようになった。名峠・大菩薩峠の名前は上峠に取られてしまったわけだけど、ただそのお蔭というわけではないけれど石丸峠は今も静寂の中にあり、こうして誰もいない草原で風に吹かれているとそれは好ましいことではないかと思えてしまう。

石丸峠で時間が押しているようだったらここから直接上日川峠へ下りようと思っていたけど(石丸峠から上日川峠までの唐松林も一見の価値ありなのだ)予定通り大菩薩峠へ向かうことにした。
熊沢山へ登る途中、石丸峠を見下ろしと、もうひっきりなしに雲が流れ、かろうじて笹原の中にぼんやりと登山道を見出すことが出来た。
せかされるような感じで大菩薩峠へ向かった。

大菩薩峠(介山荘)へ到着。
んーん、人が、多い。午後1時半を過ぎてこの人の多さは?百名山、そして上日川峠からアプローチのし易さなのだろう。
この峠はなぜだか分らないけれどけど安堵感、達成感がほどよく交差し、元気が出てくる場所なのだ。どこかに旅の風情を感じさせるからなのだろか?

午後一時を過ぎても大菩薩峠はお弁当を広げたハイカーでいっぱいだ。恥ずかしくて三脚立てられない。

上日川ダム湖が残照に白く光っていた。小さなため息、富士山は見えなかった。

ええなー!多少曇っているけれど
変わらない物、良い物はいつ来ても良いのだ!

峠から賽ノ河原へ向かって登って行く。
大菩薩嶺へ来るのは何度目だろう?以前来た時に見た富士山の姿を何度も頭の中で思い描く。そしてその姿が今日も目の前に広がるのでは?富士山の方向にう視線を向ける・・・やっぱり今日は無理だよなー!
朝方にはくっきりと見えていたらしい富士山も甲斐駒ケ岳もそこには、んーん、どうにか南アルプスは薄ボンヤリだけどどうにか見えていた。
今日歩いた牛ノ寝通りを振り返ると牛の背中みたいに広くて大きい尾根の上を雲が低く流れ、その下にあるいくつかの色も白く覆い隠されていた。


残照にまだまだ輝きを残していた。秋を愛でる山旅の最後には・・・唐松尾根の唐松は本日最後のご褒美!

しかしこの尾根はいつ来ても気持ちが良い。思わず笑みがこぼれるほど気持ち良い。
春でも夏でも雪があっても、そしてこうして秋でも。

雷岩の岩の上に立って見ると唐松尾根の唐松はまだ萌黄色に紅葉していた。
もう遅いと思っていただけに何とも嬉しいご褒美だ。

だけど秋の日は短い。
早くも黄昏始めた西日の中に唐松の黄色が茫洋と溶け込んでしまって輪郭がはっきりしない。

山を降りよう!そのきっかけはこんな景色の中ではついつい遅くなってしまう。
近くで記念写真を撮っていたパーティーがフッと静かになるのを機に重い腰を上げた。
まだまだっ!行く先の唐松は残照にまだまだ輝きを残している。残り少ない時間の中で紅葉を楽しみながらのんびり降りることにしよう! また来たい山が増えたな!ふとそんな気がした。

何かを見つけた!そんな一日だった。
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