蝶ヶ岳、常念岳、大天井岳、燕岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2017年9月3日
松本 (10:10) +++ 新島々 (10:40/10:55) === 上高地 (11:50/12:00) --- 明神 (12:45) --- 徳沢 (13:30) --- 長堀山 (16:10/16:15) --- 蝶ヶ岳 (17:00)

山日記 (蝶ヶ岳へ 編)

南武線で立川へ向かう。
久しぶりの山登りだ。車窓の外に広がる朝の青空さえも新鮮だった。

隣に座った男は朝からスマホのゲームに夢中だ。
男の二の腕が僕の二の腕にねっとりと密着して何とも気色悪い。
こいつ、気にならないのか?と思う。
僕はただただ気色悪くて読み始めた文庫本「訪問者/恩田陸」の内容が一向に頭に入って来ない。

「スーパーあずさ1号は混んでいます。指定席側のデッキも御利用ください!」
昨日、あずさ号の指定席を予約しようとしたら既に満席だったので嫌な予感はしていた。
乗り込んだあずさ号の自由席はどこも満席だった。
仕方なく車両間のデッキに移動してみるとそこにも客が立っているのでデカザックを背負って通るだけでも迷惑をかけてしまうようで気が引けた。

指定席車両のデッキに行ってみるとそこには誰も居なかったのでデカザックを下ろし、丁度シュラフが入っている辺りにドカッと腰かけて文庫本の続きを読むことが出来た。

韮崎駅で降車した客が多く席に空きが出たのでどうにか座ることが出来た。

あずさ号が松本駅に滑り込んで行く。
車窓から眺める北アルプスの山々の山頂付近は厚い雲に覆われていた。
天気予報では台風一過の晴天だと言っていたのに・・・上高地は晴れているのだろうか?と不安になる。せめて雨が降らなきゃ良いなと思う。

新島々駅で上高地行きのバスに乗り換える。
新島々駅ではバスのチケットを買う乗客で混雑するのが分かっているので松本駅で「松本→上高地」の通しチケットを買っておいた。

松本バスターミナル始発のバスが入って来た。
バスはほぼ満席で補助席残り10席の状態だった。
バス停の6番目に並ぶことが出来た僕は無事にバスに乗り込む事が出来た。

増発便も出たけれど数分遅れて発車するらしいので少しでも早く上高地に着きたい僕にとってギリギリセーフといった感じだ。
それに乗ったバスは大正池まで途中のバス停には停車しないということなので予定より10分早く上高地に着くことが出来た。

バスのトランクからザックを取り出して背負うと北アルプスにやって来た実感で気持ちが満たされていくのが分かった。
ただ河童橋から臨む穂高岳の山頂付近が厚い雲に隠れているのを見た時にはある程度予想はしていたものの正直ガッカリした。

ここで作戦だぁ!
今日の日の入り時刻は18時17分。蝶ヶ岳到着予定が18時30分。
せめて日没前の18時には蝶ヶ岳テント場に着きたい。
そこで徳沢までは急いで歩いてコースタイム2時間を何とか1時間半に縮めようと思った。

本当はのんびりと歩きたい。自然美溢れる写真も撮りたい。
でも徳沢までに30分時短するのだ!
両手のストックを機関車みたいに繰り出して歩いた。
下山して行く登山者を尻目に急ぐ姿は「どっこい大作」みたいだなと思った。

おーっ、やった30分時短出来たーっ!
徳沢までは平坦だった道もここからからはいよいよ登り道になる。
30分の貯金も出来たしここからはゆっくりで良いんだ!
オーバーペースにならない様に自分に言い聞かせる。

30分ほど登っていると降りて来た男女二人から「この先、猿が多いので注意した方が良いですよ!」とアドバイスを受ける。
ただ「猿に注意する」と言われても具体的にどうしたら良いのか?ふと考えてしまう。

しばらく登っていると地面には食べ残しと思われる芯だけになった松ぼっくりが無数散乱していた。
周りの木々がザワザワと音を立てて「ウォーッ!」っという鳴き声が聞こえる。
猿の泣き声って「キッキーッ!」だろっ?もしかして威嚇されている?
猿に襲われた話は聞かないけれど内心ちょっと怖くなってしまった。


長堀山頂。地図では展望が良いとなっているけれど結構木々に囲まれている。雲が無かったら穂高が見えたのか?

一時間ほど登っていると急だった傾斜が緩やかになった。
小さな泥沼や水溜まりが森の静けさを蓄えているようにひっそりと点在している。
もう長堀山へは近いのでは?そんな予感だする。

シラビソの林が灌木に変わると視界を占める空の割合が段々と大きくなった。
レモンのようなフィトンチッドの香りがしてここが針葉樹の森だと再認識させられる。

長堀山頂は雲の中で地図には「展望良し」となっているけれど何も見えなかった。
木々の間から上を見上げると置き去りにされたように白い雲が空に張り付いているのが見えた。
今回、ザックを改良してみた。
長すぎるベルトや使わないベルトは邪魔なだけなので切ってしまう事にした。
ウエストベルトを短くし、ザック底のマットなどを外付けするベルトは切り取ってしまった。

ベルトを短くしたのでザックは100gくらいは軽くなったはずだけれどもこうして歩いてみてもその軽さを実感することはももちろん出来なかった。

元々僕はザックのパッキングが苦手だ。
アチコチのベルトを外したらザックの形がデコボコと安定しなくなった感じがする。
それでも自分用にカスタマイズされたザックにより愛着がわいてしまう。


グレゴリーザックのベルトを短く切ってしまった。雨蓋のリング、ザック底のベルト、ピッケルホルダなども削除。

灌木が開けた先には緑の草原が広がっていて、その草原の中にひっそりと妖精池があった。
小さな池だけれど周りの木々の緑が湖面に映って綺麗だった
ただ池の中をよーく見ると蛙かイモリの黒い幼体が湖底に無数張り付いていて気持ち悪いのだ。
妖精池・・・幼生池じゃないのか?水は澄んでいるけれど煮沸しても飲めそうにない。


妖精池は澄んだ水面に木々の緑が映り込んで綺麗だった・・・けど池の中には無数の・・・

妖精池のすぐ先も窪地になっていて、ここは水が干上がった池なのかもしれない。

もう目の前にあるのは白い岩稜とハイ松だけだ。
緩やかな斜面を登って行くと赤い屋根の蝶ヶ岳ヒュッテが見えた。
やっと着いた!と思った途端に足の関節がガクガクと力が抜けた感じがした。


蝶ヶ岳ヒュッテの赤い屋根が見えてほっと一息。小屋の周りにあるはずのカモシカ池、蝶池は干上がってしまった?

想像はしていたけれど山頂からの眺望が全く無しなのにはガッカリした。
周りに山々は白い雲にすっぽりと隠れてしまっている。
まったくーっ空振りだよ!

時々山頂を薄いガスが音もなく横切って行く。
小屋の外に人影は見当たらずに発電機の低いブーンという音だけが響いていた。
達成感の無い登頂。記録じゃない記憶の登山にはやっぱり目の前に広がる景色は重要なのだ。

小屋でテントの受付を済ませるとテント場へ向かった。(テント代/700円、水1L/200円)
テント場を見ると日曜日なのに意外とテントの数は多くて20張りほどだ。
明日は月曜日。皆さん仕事はちゃんとやっているのだろうか?


蝶ヶ岳ヒュッテのテント場。日曜日午後5時なのにこのテント数は意外と多かった。

テントを設置し終えると待ちに待ったビールの時間だ。
登山靴を脱いでテントに転がり込み、少し暖かい服に着替える。
缶のプルリンクが「ブシュ」と音と立てると至福の時だ。

たまに雲の間からほんの少しだけ槍の山頂が見えることがあったけれど蝶ヶ岳山頂はぐるりと雲に覆われていた。
一日が終わる。雲の向こうに沈んでいく太陽が雲の先端を白く輝かせている。
今日は良い景色に出会えなかったけれど久しぶりの山の空気に触れたことが心地良かった。
でもやっぱりハシャギ足りない一日だった!

ラジオでニュースでも聞こうとしたけれどノイズばかりで良く聞こえない。
こんなことならウォークマンを持って来るんだった。
すごくのんびりした時間の流れだ。持って来たウイスキーを飲みながら文庫本を読んだ。
自分だけの時間が広がる。これだからテント山行は止められないのだと思う。

6時過ぎに夕食にする。
即席味噌ラーメンにニラとウインナーソーセージを入れた簡単な食事。
僕はグルメではないのでこれで十分満足、お酒があれば何だって構わないのだ。


夕日に照らされて槍ヶ岳のシルエット。


蝶ヶ岳山頂でのブロッケン。

重要なミッションを遂行させなくてはならない。
それは・・・生まれて初めての山での歯磨きなのだ。
これまで色んな山を登って来たけれど山小屋でもテントでも一度も歯磨きをしたことが無かった。
これまで朝起きた時の口の不快感を何度我慢してきたことだろう。

北アルプスの山小屋だったら設備も整っているし歯磨きするくらいは許してくれるだろうと思って今回は歯ブラシを持って来た。

ヒュッテの受付に「歯磨きはトイレの洗面所で」と書かれてあったので遠慮することなく歯磨きすることが出来た。ところがトイレに行ってみると洗面所が無いのだ。
仕方ないので口の中の物は便器に吐いて、トイレ前に置かれたドラム缶の雨水で口をゆすいだ。
もしかしたらトイレは外トイレと内トイレがあって内トイレには洗面所があったのかもしれない。

こうして山歯磨きデビューを果たすことが出来た。

明日はキラメク日になるのか?
歯がスースースー!スッキリした気分でシュラフに潜り込んだ。

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