富士山五合目 (宝永山敗退)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆2月5日
登戸 (6:50) +++ 新松田 (7:48/8:00) === イエティ・スキー場 (9:30/9:40) --- 水ヶ塚公園(須山口登山口) (9:55/10:15) --- 宝永第二火口 (13:10/13:40) --- 水ヶ塚公園 (15:05/15:45) --- イエティ・スキー場 (16:00/16:33) === 御殿場 (17:29/17:35) +++ 国府津 (18:24/18:31) +++ 川崎(19:31)
山日記

山に行くつもりだったのに急に予定が入ってしまったり、行くつもりだったのに寝坊してしまったり・・・以前だったらジダンダ踏んで悔しがっていたのに最近それは神様が行くな!行ったらいかん!と何らかの警告、はたまた人生のお導きを示唆しているのではなかろうか?と信仰心厚く、神さまからのお告げだと思って心を慰めるようにしている。

しかしだ、それにしても神様の出番が多すぎる。
今年初めは肋骨を痛めて山へは行けず、その痛みが引いてきたからいよいよ赤岳(南八ヶ岳)だな!と意気込んでいると残業に疲れて土曜日の朝起きられない。そして今週こそ!と気合を入れると・・・めったに風邪をひかない僕がなんてことだ!咽喉が痛くて咳が止まらない。
咽喉は痛いけれど体の体調は良いのでこれだったら山に登れそうな感じなんだけれど山小屋でゴホンゴホンやっていると他の登山者からヒンシュクをかいそうなので止めてしまった。
金曜日の夜は唾も飲み込めないほど咽喉が痛かったのに土曜日の夜にはウソみたいに痛みも治まり収まり、咳も出なくなった。
それじゃー、日曜日は日帰りでどこかの山へ行くしかねーべ!これも何か神様の思し召しだ!
NHKの氷壁を見たせいか?とにかく高い山が見たくなってしまった。
日帰りでいける高い山はと・・・男体山?谷川岳?赤岳?んーん、そうだ富士山を見に行こう!
(・・・と今回もまたまた前置きが長いのであった!)

新松田駅前を発車したバスが御殿場市へ入って行くとひやーっ!車窓から眺める富士山はさすがにでっかい。ところがそんな興奮も一瞬で冷めてしまうかのように、あれっ?思ったよりも雪が少ないのでは!という事実が・・・
せっかく雪山靴にスノーシューまで持って来たのに雪がないとそれらが裏目になってしまう。
普通、山の積雪量は南側斜面より太陽の光が当たらない北側斜面の方が雪が深い。ところが富士山は南側斜面の方が裾野のずっと下まで雪が広がっているのに対し北側斜面は少ない。これは関東地方に雨や雪が降る場合、低気圧が本州の南の海上を進む事が多く、富士山には南から雪が吹き付けるからだそうだ。
その雪が一番裾野の下まで広がった場所を目指してどうやらバスは進んでいく。
御殿場からイエティ・スキー場へ緩やかにバスは登っていく。しばらくは沿道に雪は無かったが30分ほど進むと白いものがチラホラと見え始め、料金所まで来ると運転手がバスを降りてタイヤにチェーンを巻かなければいけないほど一面真っ白になるほどの雪になった。

イエティ・スキー場は5センチほどの降雪量だった。これくらいの雪ではとてもスキーは無理なのでゲレンデには降雪機で雪を降らせているのだろう。
それにしても案の定ここで登山の格好をしているのは悲しいほど僕一人だけだった。宝永山へ登ろうと計画を立てると、運行しているバスの中でこのスキー場へのバスが一番宝永山に近かったからこうしてやって来たわけだけれど周りをグルッと見回してもザックを背負った姿は僕一人だけ、すごく違和感があるのでトットと水ヶ塚公園へ向う事にした。

スキー場から歩いて10分、須山口登山道入口の水ヶ塚公園に到着(スキー場から公園まで800メートル)。
ここに来て初めて今から登ろうとしている宝永山の姿を臨むことになった。ただ富士山山頂は雲の覆われていて姿は見えなかった。宝永山も雪の間を行き来している冴えない状態だったが天気予報は晴れ、そのうち雲が取れることを期待して登山の準備を始めた。

この公園には食堂兼売店もあり、公園内の広場で雪遊びをしている子供の姿も多い。ここで登山の装備にビシッと決め(と言ってもダウンジャケットを脱いでスパッツを付けてだけだけど)、おにぎり2個をたいらげ、気合十分だ。
三脚で富士山の写真を撮っている数人のカメラマンを尻目に「けっ、こんなところで写真撮ってどーする!」といささか冷ややか視線を送りつつ出発した。


登山口の車止めを通り抜け登り始める。雪は5センチくらい。先行者がいるらしく雪の上の足跡は正直言って心強い。
登り始めは緩やかだった道も登るにつれて段々と急になって行く。
なんてことだ!30分ほど歩いていると晴れるどころか、空の青い部分はミルミル少なくなってドンヨリとした灰色に置き換わってしまった。おまけにチラホラと小雪が舞いだした。
たいした降雪ではなかったのでそのまま歩いていると途中のベンチで一人の男性がレインウエアに着替えていた。どうやらこの男性も先行者の一人らしい。
ふと気が付くと僕の髪の上にもかなりの雪が積もっていて、フリースジャケットにもみぞれ状態に融けた雪がいっぱい付着している。
なんだか晴れるどころか降る雪の量が段々と増えている。おーい、何でだよ!と気落ちしながらここでフリースを脱いでレインウエアの上だけ着替えることにした。ちなみにこの時の服装は上が防寒Tシャツにレインウエア、下が防寒タイツにナイロンズボンとかなりの軽装。今日はこの冬一番の寒さになるでしょう!とテレビで叫んでいたがそんなに寒さは感じなかった。

着替えていると上から一人の男性が降りて来た。男性の服装はレインウエアを上下着込み、靴は登山靴ではなく防寒ブーツを履いていた。ザックも無く肩にカメラと三脚を担いでいるので登山者ではなく、写真を撮りに登って来た人のようだ。

御殿庭下まで登って来たらそこでバッタリとトレースが無くなってしまった。先ほどの男性はここまで登って来たけれど天気が悪いのでここから引き返したのだろう。
ここから先、20センチほど積もった雪にほんのわずかだけれどかすかにトレースの跡が残っているのでそれを頼りに進んで行く。雪面に真新しいトレースを付けるという爽快感はあるけれど、正直に言ったら内心、急に心細くなってしまった。
この辺りから雪も深くなり、急斜面になったのでこうなるといよいよスノーシューの出番だ!
まーっ、スノーシューが無くても登れる雪の量ではあるけれどせっかく持ってきたのだし、わずか20センチの雪でもラッセルは疲れるし、それになんと言ってもスノーシューのヒールリフターを使えば足首が楽に登れるし・・・
スノーシューの足跡はデカイ!これみんなオレが付けたんか!雪面に残る足跡を振り返って見ると何だかすごいラッセルをした気分に鼻の穴がおっぴろげ!状態になって登って行くのだった。

御殿庭上で更に雪は深くなり、それまで雪面にかすかに残っていた足跡が完全に無くなってしまった。2回ほど道が分からなくてそこらじゅうやたら歩き回ることになってしまう。まったく体力と時間の無駄だな!
冷静になって地図を見れば道は尾根づたいだし、おまけに木の枝には一定間隔で赤ヒモが下がっていたので迷うような場所では無いのだけれど、木々の間に宝永山の姿が見えるとついついそっちの方へ足が向いてしまうのが原因だ。登山道は宝永山を正面に見て、左へ左へと登って行く。


樹林帯を抜けると宝永山が近い
樹林帯を歩いている時もチラホラ見えていた。
おかげでそのミスディレクションに道を迷う。

樹林帯を抜けるとフカフカだった雪がギュッしまっていた。スノーシューからアイゼンに履きかえる
さぁー、もう直ぐ五合目だぁ!

やがて樹林帯からポッカリと抜け出すと目の前に富士山がドッドドーン!と姿を見せた。驚くほど白い雪に覆われた山頂の上をユラユラと雲が揺らいでいる。
さっきまで降っていた雪もいつの間にか止んでいて雲が多いながらも青空も顔を出していた。
もう少し、もう少しで・・・やたら気持ちは先へ先へと行きたがるのだけど樹林帯を抜けるとそれまでフカフカだった雪が硬く締まった状態に変わったのでスノーシューからアイゼンへ履き替えた。

稜線上の雪は風に飛ばされていて黒い石が露出している。アイゼンを踏み込むとギリギリと耳障りな音を立てた。
一歩一歩がどれほどじれったいか?やがて目の前に現われる光景がどれほど待ち遠しいか?そんなジリジリとした焦燥な気持ちも直ぐに氷解した。

まさしく圧巻!!!
ぬおっ!思わず息をのんでしまう光景が目の前いっぱいに広がり、圧倒的な存在感で迫って来た!
富士山五合目?正直あまり期待はしてなかったけど・・・山登りは山頂に立って始めて達成感は得られるものである。しかし僕の実力では冬に富士山の山頂に立つのは到底無理な話だ。だけど冬の富士山も見たい!少しでも触れたい!・・・だったらせめて宝永山に登ろう!とやって来たわけなんだけれど、そんな小ざかしい理屈はみんな吹っ飛んでしまった。
富士山五合目!なんちゅー景色だ!なんちゅー!ここからでも十分やんか!
富士山の山頂は広いのでどうにも遠近感がつかめず、ここから山頂は直ぐそこにあるように見える。このまま勢いで山頂まで登れそうに見える。

おーし、おーし!いっちょ宝永山まで行ってみっか!
視線の先に宝永山の姿を捕らえる。地図とにらめっこしながら登山ルートを確認すると雪は吹き飛ばされ薄っすらと積もっている程度なので夏道もしっかり確認出来る。ピッケルは持って来ていないけれど岩場も無く、急な斜面も見当たらない。


宝永第二火口に着いた。宝永山(写真右のピーク)は残念!時間が足りないので泣く泣く諦める。
それにしてもなんちゅうー景色だ!と一人ご満悦の僕!風も無く陽射しが暖かい。
次は、こん次は、待ってろよ!宝永山・・ギリギリと歯軋りしながら心に誓うのだった。
(しかし写真が横にビローンと広がってしまっているような・・・僕もビローンしているような・・・)

おーし、行くぜぇ!とその前にと・・・時間の確認だ。バスに乗り遅れたら大変だからな!
あれーっ?どこかで計算違いをしていることに気がついた。今13時半だから宝永山につくのが15時だろ、そこから登って来た道を引き返すとして18時のスキー場発の最終バスに間に合うだろうか?はたして宝永山から3時間でスキー場まで降りることが出来るだろうか?どーもギリギリな感じだ!
せめてもう30分早くここまで登ってこれていたら・・・こうなると水ヶ塚公園でオニギリをのんびりと食べたことさえ悔やまれる。オニギリはバスの中で食べれば良かったんだよ、スパッツはバスに乗る前に着けておくんだった!
今日は気温は低いけれど風は無くこんな日は珍しいのでは?こんな恵まれた日に行かなくてどーする?・・・でもよく言うな、山は逃げないって!また来れば良いじゃん!・・・だけど日没は17時だし暗くなって歩くのはどーも嫌だな!・・・
行くか?退くか?あれやこれや考えていた。でも最終的には山への闘争心より僕の気弱な性格が勝ってしまって残念だけれどここから引き返すことにした。

ここで失敗したのは、ここから引き返すのであれば時間は十分にあるのでこの辺りをウロウロ、せめて富士宮新五合目の宝永山荘辺りまで散策すれば良かったのだけれど、時間のことを考えていたら急いで降りなくてはいけない!という気持ちだけが心の隅っこに残ってしまったらしく、数枚の写真を撮っただけで直ぐに下山へと足が向いてしまった。・・・せっかくカメラの予備電池まで持っていったのに失敗したな。

山を一気に駆け下りる。
登る時スノーシューで少し固めた雪を蹴散らしながら降って行く。
バーロー、バーロー!宝永山敗退の自分の不甲斐なさを晴らすみたいに雪に八つ当たり状態だ。
アイゼンは付けたまま、登る時に分かった事なんだけれど御殿庭から下の登山道は昨日降った雪が2センチほど積もっているけれど靴を踏み込むとブドウの皮を剥がすみたいにその下にはツルリとカチカチに凍った地面が顔を出していた。
登りはまだしも降りは気をつけないとこりゃコケルな!と思ったのだ。


水ヶ塚公園から富士山と宝永山を振り返る。 赤い矢印の所までしか登っていなかったことにがっかり!!!

水ヶ塚公園に到着。
公園を見ると三脚で富士山の写真を撮っている人の姿があった。
けっ、オレは今、富士山から降りて来たんだぜぇ!と自信たっぷりにこれみよがしにアイゼンを外した。
そして富士山を振り返る。今日自分が歩いたルートを目で追った。
あれっ、あれっ、あれーっ?裾野に広がる樹林帯、そのほんのちょっと上辺りの小高い丘、まさか今登ったのはアソコまで?!!
僕ってけっこうトホホ、けっこうウツケ者!・・・だけどだっ!あの景色は最高だったのはまぎれもない事実だ!
よっしゃーっ、この次は宝永山まで行ってやっかんな!と大きく息を吐いた。

1年12ヶ月、そこには12ダースの景色があるはずだ。
2月最初の日曜日、ようやくその二つ目の箱を開けた。箱を飛び出した風景、これって、以外に、もしかして良いんじゃない?けっこう充実してたかもな?
今日はダーッと登ってダーッと降りて来た。もう余計なことは一切無し、それはシンプルそのものだった!
天気は完璧とはいかないまでも青空が最後は頑張ってくれた。
やるねぇー富士山!けっこうかましてくれるぜぇー!
なんちゅーたってやっぱ富士山はエライ!スパッツを外して振り返ってみる富士山は・・・
やっぱりとてつもなくドデカイのだった!

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