富士山 |
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他) ◆8月29/30日 |
山日記 川崎(自宅) PM 18:00 33℃ 押入れから取り出したザックは少しホコリっぽくて乾いた汗の匂いがした。 ヘッ電の電池残量を確認したり、デジカメの時計を合わせたり、黙々と準備を進めていく。 久しぶりの山登りだ。忘れていたこんな気分の高揚が心地よかった。 それにしても暑い、一通りの装備を床の上に並べるだけで額から汗が滴り落ちた。 河口湖駅 PM 21:15 26℃ なぜか電車が河口湖駅に着くのが4分も遅れてしまったので、ホームを走り、トイレへ走り、バスに飛び乗ったのはバスの発車1分前だった。何だかすげえ慌しい出発だ。 今回の登山を思い立ったのは夏の間だけ季節運行するこのバスの存在を知ったからだ。夜の10時から登り始めて翌朝に下山するなんて全くデタラメだと思う。他の山ではこんな登山なんて考えられないけれど、ただこの計画だとご来光はしっかり見れるし、山小屋には泊まらないので日帰り登山みたいな気楽さがあった。 夜の10時から登り始めるなんてはたしてどんな感覚なんだろう?不安と期待とそんな思いを抱いてバスは深夜の河口湖駅を出発して行くのだった。 5合目 PM 22:05 16℃ 4合目辺りから路肩に車がビッシリと駐車するようになる。登山者が多い土日は避けたはずなのにこの車の多さはなんだぁー。 やがてバスは5合目へ到着。 暗闇の中に一軒だけポツンと灯りを灯しているお土産屋があり、その周りは真っ暗な闇に覆われていてどこに何があるのかさえさっぱり分からない。 その一軒のお土産屋には30人ほどの老若男女様々な登山者の姿。 「それって登山靴じゃないよ、ただのブーツだよ!」アメ横で売っているようなナンチャッて登山靴を履いている若いカップルの姿。「おめぇー今読むか、今ここでそれを読むか!」へっ電をパッケージから出して説明書を読んでいる奴。「ショルダーベルトをもっと引け!」ザックをズルリと腰まで下げた馬鹿とか、それはもうつっこみたくなるような光景のオンパレードだ。 ただこれから富士山の頂を目指す登山者の表情は誰も明るく楽しそうで、それがこんな真っ暗な山中で展開されているのが不思議な感じがした。 お土産屋の休憩所でオニギリ、バナナ、ゆで玉子を食べる。実を言うと出発前に自宅で大量のお酒を飲んで、その酔いの勢いでここまでの電車バスの中では眠ろうと考えていたけれど、結局一睡もすることが出来ず、逆に二日酔い状態のムカムカとした気持ち悪さだけが残ってしまっていた。 だからこうしていよいよ山に取り付く時になって無性にお腹がすくのが自分でも意外だった。 10時15分になると閉店時間を告げる声がスピーカから流れてきた。 その声に追い立てられるように皆さん店から出て、真っ暗な闇の中を一斉に歩き出した。 |
6合目からすでに夜景がきれいだ。久しぶりの登山なのでカメラの使い方をすっかり忘れてしまっていた。 |
5合目からしばらくは平坦な道が続いた。10メートルほどの間隔でへっ電の光が縦一列に繋がっている。 |
6合目 PM 22:50 13℃ ここには富士山安全指導センターがあって、こんな夜中だと言うのにラウドスピーカーから日本語、英語、韓国語、中国語と、注意指導案内がやたらと大音量で繰り返し流されていた。視界の先はこうして全てが闇に包まれているのにこのアナウンスは一体誰に向かって発信されているのか?この一方的なにぎやかさは何だろう。 ここには20人ほどの登山者が休んでいて、夜中から登り始める人が予想していたよりずっと多いことに安心もしたけど逆にうんざりもした。 ここで改めて周りの登山者の装備をチェックしてみると、ほとんどの人がちゃんとへっ電を着けていること、スニーカーじゃなくて登山靴を履いていること、それにストック(それも両手)を持っている人も少なくないことが意外だった。もっともこんな夜中に登ろうとする人はそれなりに登山の経験がある人なのだろうけれど。 さてここからがいよいよ本格的な登りになる。 山頂を見上げるとそこには点々と光の列が・・・山頂まで続く山小屋の灯りだ。 三ッ峠ライブカメラの朝4時の映像を見ると富士山中腹の光の点が映っていたけれど、その光の正体はこれだったのだ。しかし富士山の山小屋はこんな夜中まで営業しているのか?それほど夜中に登る登山者が多いと言うことなのか? 暗闇に光を集めて鈍く浮かび上がる河口湖を見ていたら突然、東の空に流れ星が・・・ 流れ星は一瞬で消えてしまって願い事をすることは出来なかったけれど良い登山になりそうなそんな予感がした。 7合目 PM 23:45 11℃ 九十九折の登山道をひたすら登って行く。さすがに夜なので暑さは全く感じない。振り返るとそこには河口湖畔の夜景と満天の星空、昼間とはまた違った景色が広がっていた。 頭上には半月があってへっ電を消してみると登山道に歩く影を映していた。剣岳は雪を背にして登れと言うが富士山は月を背にして登れかぁー?夜行進軍も思ったほど悪くは無いもんだ。 ただこんな気持ち良さは天気が良いからだと言う事を忘れちゃいけない。風が強かったり雨が降ったりしたらこんな夜間登山は危険な行為なのだ。 「心臓がバクバクするーっ、養命酒を持って来るんだったぁー!」 「それを言うなら養命酒じゃなくて救心だろっ」もう我慢出来ん、そばを歩いていた学生らしい男に突こんでつっこんでしまった。暗くて顔が見えないから?この夜はやたらつっこみたがるオレがいる。 7合目の山小屋に到着。 あまりに多い登山者に驚いた。小屋前のテラスには50人ほどの登山者が座り込んでいたのだ。 登山前にネットで富士山吉田口の日別登山者数を調べてみると土日の約6000人に対して平日は2000〜3000人と半減していた。 それで今回は土日を避けて平日の登山計画にしてみたのだけれどこの人の多さは何だ!それもこんな夜中にどういうことだよ! 「シューッ、シューッ」闇の中で酸素ボンベを吸っている音がやたら響いている。「これじゃダースベイダーの集団だよ!」つっこむしかねぇーと思ったけど悔しいかなその相手が多すぎる。 こんな真夜中なのに運動しているせいなのか?やたらとお腹がすいてしまう。小屋の前に座ってオニギリを食べていたらすぐ前で横になって休んでいたおかあさんが突然グェーグェーとゲロし始めた。もしかして高山病なのかなと心配には思うものの、目の前でゲロするのだけは勘弁してほしかった。 10分ほど休憩し、再び頂上を目指して歩き出そうとしたけれど小屋の横にはすでに30人ほど行列が出来ていて動く気配が全くなかった。ここから先は岩場が続いているのでそれが渋滞の原因なのだろう。 仕方なく再び休憩することにした。ここまで予定よりも早い時間で登って来ていたのでイライラすることも無く心に余裕を持って待つことが出来た。 |
どの山小屋もこんな夜中なのにしっかり営業している。店頭のお菓子やジュースは夏祭りの夜店を彷彿させる。 |
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8合目 AM 1:00 9℃ 富士山での素朴な疑問・・・8合目っていったいどこだ? 最初に現れる8合目って書かれた山小屋を通過してから最後に8合目って書かれた山小屋を通過するまで何と1時間もかかってしまうのだ。さらにその上には本8合目ってのもあって、だったら今通過して来た8合目って言うのは仮8合目とか準8合目とか、つまりナンチャッて8合目なのかよ?とまたしてもつっこみたくなったけれど悔しいかなその相手が見つからない(だからこのレポの8、9合目のコースタイムはいいかげんです)。 本8合目 AM 2:00 8℃ この辺りから本8合目と9合目の境が良く分からない。 それにとにかく登山者が多く、2歩歩いては立ち止まり、3歩進んでは立ち止まりの状態になっていっこうに前に進まない。 「ツアーは左側をゆっくり進んでいます。他の方はどうぞ右側を通過して下さい!」ツアーガイドががなりたてる。ガイドの持つ誘導灯が暗闇に赤く点滅を繰り返すがツアーの団体さんを追い越すのは容易じゃないんだな、これが。 中々前に進めない状態なのだけれど焦る気持ちは起こらなかった。こんなにダラダラと登っているのに地図のコースタイムよりかなり短い時間で登って来ていたからね。 ただ途中にある山小屋の中を覗くとどの小屋の中にも毛布に包まっている宿泊者の姿が多く、午前3時頃になるとこの人達が一斉に小屋の中から出て来て山頂を目指すのかと思うと更なる渋滞を想像して恐ろしくなってしまう。 9合目 ? 相変わらずの渋滞だ。すぐそこに山頂の小屋の灯りが見えているのに、その灯りは中々近づいてこない。 ここまで登って来ると夜明け前に山頂に立てるだろうと言う確信があるので全く焦りは無かった。 渋滞で立ち止まる度に振り返ってはそこにある夜景や満天の星空を眺めて人の列が再び動き出すのを待った。 |
山頂から見ると登山者のへっ電の灯りが山頂へと向かい長い筋となっている続いていた。 ある意味で異常な光景かもしれない。 |
頂上到着 AM 3:40 4℃ 押し出されるように石の階段を登って行くとそこが山頂だった。 ん、何だろうこの妙な静けさは? もうそこはハチ公前スクランブル交差点のような人ごみなのだけれどツアーガイド以外の人達は妙に寡黙なのだ。普通だったら登頂の万歳とか絶叫とか雄叫びとかそんなフォルテシモ的な声に満ち溢れているはずなのに・・・ご来光を迎えるポジションを探して無言で人がうごめいているだけなのだ。 僕はそんな小屋前を離れ、小高いスロープの一角に陣取った。 ご来光まで後一時間、温度計は4℃を示していた。とりあえず防寒対策を万全にしなくてはとザックから服を取り出した。 上半身はTシャツ+フリースジャケット2枚+レインウェア。 下半身は防寒タイツ+レインウェア。 これで全く寒さは感じなかった(注:寒い日は気温が0℃近くに下がることもあるので特に寒がりの人はダウンウェアなどの用意が必要ですよ)。 |
音の無い山頂から見た河口湖の夜景。 |
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目の前の夜景や星空の輝きも1時間後には全て消え失せてしまうのだろう。だけどその時こそが待ちに待った瞬間の訪れなのだ。 今ここにはそわそわしている自分がいる。それは久しぶりに迎えるご来光だからってことでは無くて、やっぱ霊峰富士山に今自分がいるってことが心を静かに揺らしているのだ。 山頂で迎えるご来光にはどこか再生や浄化を感じさせる趣があるけれど、ここ富士山頂ではいっそうその感が強いのだ。 ところがこの朝、東の空には雲があって日の出予定時刻の6:05を過ぎてもいっこうに太陽はその姿を現してはくれない。 僕の隣に陣取っている学生らしい3人組の男たちが大声でカウントダウンを始めるが何度やっても空振り状態なのだ。 |
太陽かな?周りがザワザワし始める |
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ハッキリしなかったけれどご来光はやっぱ良いもんだ! |
そうこうしているうちに空の一角に紅い線が現れた。隣の学生があれは太陽だ、いやそうじゃないないと口々に言い始めたけれど、もうオレみたいに経験豊富なご来光ファンにはそれが太陽だってことがちゃんとお見通しなのね。 間髪入れずにすばやく2拝2拍1拝を行い、せっかくだからこの際願い事を・・・と思ったけれど願い事は急に思い浮かばないのだ、アーっとかエーっとか感嘆符をゴニョゴニョと口にしている間に太陽が雲の上に昇ってしまって・・・マーッこうしてご来光を望むことが出来たことに大満足なのであった。 日の出予定時刻より約6分送れてようやく太陽が雲の上へ姿を見せた。 「温かいなぁー」顔を照らすその輝きはまだ幼かったけれどその輝きは力強さをしっかりと内包していた。 |
ご来光を待つ人々を柔らかな光が包み込んだ。 それは神々しさに満ちていた。 |
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さあ、これからお鉢を周って御殿場口登山道へと向かう。 山小屋の前へと戻ってみるとそこはご来光を向かえた登山者の興奮でごった返していた。そして下からはまだまだ多くの登山者が登って来ていて、それはもう押すな押すなの大変な賑わいだった。 |
んーん、やっぱ山頂からの景色は最高やね。 |
ようやく喧騒を抜けて久須志岳へ登ると(富士山頂には数座の頂が点在している)やっと落ち着いて周りの景色を眺めることが出来た。 東から北へかけては雲海にびっしりと覆われていて雲取山、大菩薩嶺、金峰山などはその下に完全に隠れていてその姿は見えない。 西の方に視線を向けると南西側の山々は割合とハッキリと見えていて甲斐駒ヶ岳から光岳まで南アルプスの山々を一望にすることだ出来た。こうやって富士山頂から見ると南アルプスの山々はしっかりと下にあるのだ、北岳もきっちりと見下ろしているのだ。やっぱり富士山は高いなぁー、と言うより偉い山だなぁーと何だかそこまで感じてしまうのだ。 |
久須志岳に登るとそこには西側の眺望が待っていた。なんと北岳を見下ろしてしまうだ。 |
地図には白山岳への登山道がしっかり表記されているのに、その分岐までやって来るとどうやら通行止めになったらしくロープで道がふさがれていた。んーんこれじゃ登れんです、誠に残念です。 小内院まで少し下がり再び稜線まで登って行く。 そこからは西側の眺望が素晴らしく緑の樹海の先に雨ヶ岳、毛無山、その向こうには七面山のナナイタガレの白さが印象的だった。 |
影富士、天子山地、身延山地と南アルプス。この写真より実際はもっとクリアに見えていた。 |
周りに山が無く下界が全て見渡せると言うのは悔しいほど贅沢なものだな!などと感心しつつ、剣ヶ峯へ登って行くとそこには長い行列が出来ていた。 行列の先には富士山頂の最高地点を表す石碑があって、でぇこの石碑前で記念撮影が行われているらしのだがこの行列が中々短くならないのだ。 元来並ぶのが大嫌いな僕はこの列に並ぶか止めるかを呆れ顔でアレアレ考えていたけど、そうしている間にも次々とツアーの登山者が登って来ては行列に加わるのでその長さは更に増していくのだ。 せっかくここまで登ったのだし、記念に一枚、とは思うけどせっかちな僕は先へと向かっていた。 |
あまりにも人が並んでいたので剣ヶ峯は諦めた。こうなるとトボトボと馬ノ背を歩くしかない。 |
下山開始 AM 6:30 8℃ 吉田口登山道は登り降りが楽なんだけれど面白みが無い道、富士宮口登山道は川崎までのアクセスが遠い、それで今回は須走口へ降るか御殿場口へ降るか悩んだけれど前回、御殿場口への下山した時の素晴らしい景色が忘れられず今回もやっぱり御殿場口へ降ることにした。 浅間大社奥宮でたっぷりとお賽銭以上の願掛けをした後、下山開始。 ジグザグとしたザレ場を降って行く。 2009年の統計によると河口湖口(吉田口)からの夏山登山者数16万人で、それに対して御殿場口からは1万人となんと1/16の少なさなのだ。 御殿場口登山道はなだらかな稜線の富士山を堪能することが出来るし、宝永山などの一風変わった景観とも遭遇、それに砂走りとかも楽しめるし・・・なのにナゼか人気が無い。 こうやって登山道を降っていると登山者の姿はまばらで昨夜の悪魔的な登山道の混雑がどこか夢のようだ。下から登って来る人も「こんにちは」ってちゃんと挨拶してくれるし、やっぱこの登山道は好きだなぁー。 |
御殿場口登山道を降って行く。振り返ると空の青さがお似合いだった。 |
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7合目 AM 7:50 13℃ 地図には登山道の途中に幾つもの山小屋が表記してあったけれど、どこも改装中や休業中だった。 セコイ話なのだけれど・・・富士山の山小屋のトイレはどこも有料200円なのだ。それでいつの間にかトイレに行くのを我慢するようになっていて・・・砂走館で本日2回目のトイレを借りたらここまで必死に我慢していた自分がアホに思えた。 |
御殿場口登山道の好きな風景の一つ。こんな乾燥した地に生きるオンタデの生命力はすごかとです。 |
宝永山 AM 8:25 15℃ この景観、一面の茶褐色の山肌に宝永山や二ッ塚のなだらかな隆起、けっこう好きです。 ザクザクっと火山岩特有の茶褐色の小石を蹴散らせながら宝永山へ向かって歩いて行くとそれはそれは雄大な気分に浸れるのだ。 ここで何やら足裏に妙な感触・・・何かが足裏にくっ付いたような感じ・・・その何かがビロンビロンと足裏で跳ねている? 嘘っ、冗談だろっ・・・ソールが剥がれているじゃないの!?! 一気にハイキング気分が消し飛んだ。大げさだけど歩けなくなって遭難!とまで考えた。 とにかく応急処置をしなくては・・・「すいません、何かヒモをお持ちじゃないですか?」僕の前後を歩いていた人に声をかけてみたけどさすがにこんな日帰り登山では予備の靴紐や細引を持っている人は誰も居なかった。 仕方無くズボンの腰紐をズルズルと引っこ抜き(ズボンは腰紐とゴム紐の二重になっているので腰紐が無くてもズボンはズリ落ちない)はがれたソールと靴を縛ってはみたけれど、歩く度にはがれたソールがパカパカと踊ってしまう。それで今度はゴミ袋に使っていたレジ袋で靴を包み、その上から紐でグルグル巻きにしてみるとやっと固定することが出来た。 ここからだと富士宮口新五合目まで40分の距離で、こっちの方が御殿場口より近いけれど富士宮口へ降りてしまうと新富士駅から川崎までが遠くなってしまう。 靴もとりあえず大丈夫そうだし予定通り御殿場口新五合目へ向かって降りることにした。 |
宝永山へ向かって歩いて行きます。ここからも楽しさの本領発揮になるはずだったのですが・・・ |
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大砂走りをザザーッと滑るように降って行く。以前は一歩で3メートルほど降っていた記憶だったけど何だか今日は1メートル位しか進まない。 以前歩いた時は風が強くて歩く度に舞い上がった砂埃がすぐに風にさらわれて行く感じだったけれど、今日は無風状態なので巻き上がった砂埃がそのまま顔まで這い上がってしまい呼吸するのも大変だった。 ふと足元を見ると靴を包んでいたレジ袋が取れそうになっていて、剥がれかけていたソールは完全に無くなっていた。 ソールが無い靴って本当に頼りない。この足裏の数ミリ下に地面を感じるなんて、もう感覚的には裸足で歩いている感じだ。 今朝、富士山頂から見た時には雲海になっていた雲がこの時間になると山肌を這うように昇り始めた。次々と分厚い雲が白い壁となって目の前に迫ってくる。振り返るとそこには富士山の姿は無くて褐色の登山道の先は白い雲の中へと消えてしまっていた。 |
宝永山からの富士山頂です。 宝永火口はボッカリと大きくて、なだらかな山容の富士山にこんな所があるなんて意外な感じだ。 |
大石茶屋 AM 9:40 21℃ 一歩一歩、足をかばうように歩いてどうにか大石茶屋へ到着した。 ズボンやザックを見ると笑ってしまうくらいに砂埃まみれになっていたので小屋でハタキを借りてパタパタと埃を落とした。だけれどよーく全身を見てみるとズボンだけではなく、頭や背中それに鼻の穴までも真っ黒になっているのだ。ティッシュで鼻をかんでみると鼻汁は墨みたいだし、髪を掻きむしると中からパラパラと砂が舞落ちるし・・・砂走り・・・んーん恐るべし! 予定ではここから二ッ塚→幕岩と散策するつもりだったけれど、こんなソールの剥がれた靴で心元ないし、もう富士山も完全に雲の中だし、ここは諦めてすんなり下山することにした。 しかし平日登山の落とし穴、10:00、10:50のバスは運休なので次の11:50のバスまで2時間以上も待たなければいけない。 茶屋のテーブルに陣取って文庫本を読んだ。夏の暑さはここには無くて風も心地よかった。 御殿場駅へ向かうバスは混雑していたけれどどうにか座ることが出来た。 久しぶりの山登り、それがたまたま富士山になった。この山に山の匂いを感じることはあまり出来なかったけれど、この山は登山者の達成感や歓びで満ち溢れていた。そしてストレート過ぎる夏の日差しの中で見る富士山はそんな登山者の気持ちをしっかりと受け止めているやっぱりデカイ存在だった。 富士山登山に関して人は「一度も登らぬ馬鹿、二度登る馬鹿」と言うけど何度登ってもそこにほんの少しの出会いや感動があればそれで正解だと思う。今日という日を感じることが出来たらそれは良い登山なのだ。 この山行中、眠気や疲れを感じることはなかったけれど、バスのシートに身を沈めた途端に眠くなってしまった。 ヒザの上に抱えた埃くさいザックに額を任せてしまう。瞼の裏側に薄っすらとフラッシュのような光の明暗を感じながら「やっぱり来て良かった」と安心感にも似た気持ちに段々と押しつぶされていった。 |
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