箱根山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆1月8日
川崎 (5:19) +++ 小田原 (6:21/6:35) === 早雲山駅前(登山口) (7:14/7:35) --- 早雲山 (8:50/9:00) --- 駒ヶ岳 (10:20/11:20) --- 神山 (12:10/12:15) --- 冠ヶ岳(12:30/12:35) ---早雲山駅前(13:45/13:49) === 小田原(14:45/15:00) +++ 横浜 (15:45)
山日記

横断歩道の青信号が点滅し始めた。
ヤベーッ!慌てて駆け出したら足に力が入らず横断歩道のド真中で見事にダイブ。酔っ払いはこれだから困る!
顔、手のひら、ヒザを擦りむいてしまった。なんちゅークリスマスだ!トホホな気持ちでマキロンを塗った。
翌朝、パジャマを脱いで見ると左のオッパイが巨乳になっていた。正直に言って巨乳はけっして嫌いではないが・・・自分がなってどーする?触ってみると何でだ?メチャ痛っ!!!

「肋骨にヒビが入ってますね!」
レントゲンフィルムを見ながら医者がどこか嬉しそうに言った。
この瞬間、気持ちがスーッと引いていった。年末年始の登山予定はきれいに白紙になってしまった。

本当だったら正月は今年こそ福岡ホークスの優勝を祈願して御坂山魂の王岳に行くつもりだった。
ホークス狂の兄が「バカヤロー、一か八か行って来んかぁ!」電話の向こうで吠えた。
何で正月早々一か八かの勝負をせないかん?でかザックを担いだらぜってぇー肋骨が折れるな!そんな予感がするので正月三箇日はおとなしく?ギブスをして飲み歩いていた。
しかしだ、今年最初の三連休もどこにも行かないというのもさすがに体に悪い!ようやく胸の痛みもだいぶ軽くなったし、ここはいっちょ、体の様子を見るために低い山に行ってみっか!

やっぱ富士山だな!
年初めの第一弾山歩きはやっぱり富士山が見たい!富士山周辺の山岳地図を広げてどこに行こうか?あれやこれやと考えるだけでワクワクした。

箱根駅伝の中継を見ると沿道に雪は無かったのに、あれから一週間の間に雪が降ったみたいで強羅を過ぎると車窓から眺める木々が白くなり始めた。
今年初めての山登り、しかも雪が積もっている、それでもって富士山が見えるだろ!そう考えるとまだ歩き出してもいないのに心はざわざわした。


今年初めての山は冬の装いだった。
それは何だか今年最初の山登りとしては良い感じに思える!

早雲山駅入口でバスを降りる。登山口はバス停から少し戻った早雲山駅の真正面にあった。
靴紐を締め直し、ダウンジャケットを脱ぐ。少しヒンヤリした空気が心地よい。

いっちょ行ってみますか!
キュウキュウッと雪を踏みしめる音さえもじんわりと響いてくる。久しぶりの山登り、気持ちは前へ前へと体を押し進めて行こうとする。いかん、ゆっくり、ゆっくりだ、登り3時間の山だ、ゆっくり行ったら良いんだ!と心の中で言葉を反すうする。
肋骨を痛めてから深呼吸が出来なくなってしまった。深く息を吸ったり吐いたりすると途端にズキンと痛みがはしるので息があがらないようにゆっくりと登って行く。

ザックを背負った途端に肋骨がベキッベキッと折れてしまうかも知れないと心配したけれど、どうやらそんな痛みは感じない。
そうだよー、年越しそばを食べるのにも一苦労したんだった。麺をズルズルッとススルと肋骨が痛いのでカミカミして食べていたら「何だかマズそーな食べ方だね!」と言われるしまつ。あーぁ、なんちゅー年越しだ!。


赤い実にも雪が積もっていた。最近降ったのかな?

歩き出しはまだ薄暗かったけど、しばらくするとやっと白銀山の上まで太陽が昇り、一面をオレンジ色の光が照らした。
同時にそれまでぼんやりとくすんでいた景色が次々と輝き出した。振り返ると木々の間から金時山、明神ヶ岳が見え、特に明神ヶ岳は僕のお気に入りの山なので、ついついその姿に「帰ってきたよ!」と思わずにはいられない。
見上げると空はトコトン青い!その空に一歩一歩近づいていく事、病み上がりだからだろうか?久しぶりの山登りはそんな些細な事さえも何か素晴らしい事に思える。

ジグザグの登山道を登って行くと、山頂を示す標柱はどこにも無いけれどどうやら早雲山山頂らしい。展望は無いのでそのまま尾根道を先へと進むと木々の間にほんのチラリと真っ白に雪を覆った山が見えた。
何だかカーテンの隙間から覗き見しているようなきわどさではあるが、これがとにかく新年最初の富士山とのご対面だった。
そんな記念すべき瞬間なのになんと5合目から上はしっかりと雲の中に隠れている。雲の下に広がる雪の白さがかえって想像をかき立たせ、そんな煮え切らない景観にせっかちな僕はイライラする。


駒ヶ岳と神山の鞍部 ぽっかりと展望が開けた。
青空と雪の白さが眩しい!

まー、そのうちに雲が取れるかもしれない!と思いつつ、分岐点からお中道を辿る。

(注:大湧谷からの登山道は有害ガスが発生しているため現在通行止めです。登山道には蜘蛛の巣みたいにロープが張られていた)

お中道は最初は山を巻くような道で展望も良かったけど直ぐに檜林の中を歩くようになってガッカリ。
だけどそんな中にもキラメキはあった!時々枝に積もった雪がザザッと降り落ち、木々の間をすり抜けた光がスポットライトのようにそれらを照らし出すと幾億もの細かな光が影の中で舞い上がっていた。


おーっ、海が見える!
相模湾がオレンジ色に光っていたことにやたら感激してたオレ!

道は平坦で歩き易くなったけれど、何故だかその途端に鼻水が出てしょうがない。いつものようにアゴを上げ空に向って鼻から息をフンと噴出した。
鼻水は上唇からアゴにかけて小さな孤を描いただけで着地するしまつ。肋骨が痛くて思いっきり噴射出来ない。
汚ねぇー!思わずフリースの袖でゴシゴシと拭き取った。
今日は噴射力が情けねぇほど弱い、おーし今度こそ!何度も何度も鼻水噴射に失敗してその度に袖は鼻水でガビガビになっていった。

檜の林を抜けるとちょうど駒ヶ岳と神山の谷間で展望が開けた。神山の上を音も無く白い雲が流れて行く、駒ヶ岳の左側に相模湾が見えた。そーか、海も近いんだ!遠くに見えるオレンジ色の海はこことは別の空間に見えて思わず足を止め見入ってしまう。


山頂は直ぐそこだ!一気に登ってゆく。
後で後悔する事になるんだよ!

神山への分岐から勾配が急になった。駒ヶ岳山頂へいよいよ近くなった。ここは一気に勝負を付けたい所だけれど呼吸が荒くならないようにゆっくりと登っていく。やがて目の前にロープウェイの山頂駅が見えた。
山頂は直ぐそこだ!こうなると元来せっかちな性格は歯止めが効かない。一気に雪に埋もれた笹原を登って行く。

ゼェーゼェー!やっぱ息があがると胸が痛い!
だけどそんな悶え苦しんでいる僕の目の前に白い空間が広がっていた。自然が両手を広げて待っていたかのような広大な展望が待っていたのだ。

こりゃスゴすぎるぜぇー!木々の全く無いてっぺんは文字通り360度の展望だった。
明神ヶ岳の向こうには丹沢の山々が横一列、・・・あーっ、その右には相模湾が広がっていて三浦半島まで見える。初島も見えるし、ただもうちょっと空気が澄んでいたら伊豆大島まで見えたのに、くそっ!。芦ノ湖も見える、あれはパイレーツ船だな!。愛鷹山も近いぜぇ!
富士山は?・・・何でだバーロー!富士山だけは物思いにふけっているようなどんよりとした雲に覆われてる。


おーっ、山頂は広いなぁー!って眺めている図


本堂の中は参拝者でいっぱい!僕のお願いは届いただろうか?それが心配!

明星ヶ岳の大文字も雪で真っ白。
登り初めから見えていたので非常に気になってしまった!

何でだ、富士山だけが見えない!せっかく痛みに耐えてここまで登って来たのに・・・少しぐらい姿を見せてん、よかろうもん!・・・まぁー、良か、こげんこともあるたい!
それにしても何でも揃っているてっぺんだ!グルリの山々はもちろんだけど、神社、海、湖、ロープウェイ、ケーブルカー・・・望みに答えがある過ぎるのも困る!おまけにそのシーン一つ一つがしっかり微笑みを内包しているときてる。


山頂の端っこにポツンとあるケーブルカー駅
建物の中はガランとしていて・・・今夏で終わってしまったのか・・・

えらいこっちゃ!、とにかくだ、この景色をガツンと堪能しろ!
まず山頂の一番高い所に陣取っている箱根元宮に参拝する事にした。引き戸を開けて中に入ると参拝者でいっぱいだった。お賽銭箱に近づけないのですこし離れた場所から今年も良い山登りが出来ますように!と参拝を済ませ外へ出た。
神社の横からは明神ヶ岳、丹沢、そして相模湾の展望が素晴らしい。浜辺で寝そべる自分を想像しているのか?波にプカプカと浮かんでいる自分を想像しているのか?山頂はせわしなく時が流れていても海が見えた途端に時間がゆるやかになってしまう。

次に雪原を歩いてケーブルカー駅に向った。ケーブルカーの運行は今年の8月に終了したと聞いていたけど、その駅は想像以上に朽ちかけていてガランとした構内に冷やりとした寂しさを漂わせていた。


ロープウェイ駅近くだと芦ノ湖はもっとデカく見える

山頂は白一面の雪原。ウサギの足跡を見つけた子供達の歓声が聞こえて・・・んーいいなー!

ロープウェイの駅へ向って歩いて行くと眼下に芦ノ湖が青黒い湖面を湛えているのが見える。
無数の観光船が行き来していて、もしかしてどれかの船のデッキから誰かがこっちを見ているのかも?ホーッと息を吐くと白い息が風に紛れて消えていった。

ロープウェイ駅は沢山の観光客を吐き出していて時間が経つにつれて山頂は段々と賑やかになっていった。登山の姿も多いけれど大半はダウンジャケットに寒そうに身を包んだマフラーぐるぐるの観光客だ。その中でも一際元気なのはやっぱり子供達だ。子供達が雪の中で大はしゃぎしているのを見ているだけで華やいだ雰囲気にさせてくれる。

芦ノ湖、三国山、その向こうには愛鷹山・・・あーっ、これで富士山が見えたら何も言う事は無いんだけれどなぁ・・・・
(注:ここで悔しいのは山頂から色んな展望を撮影したのだけれどイマイチ写真写りが悪かったので写真はそのほんの一部だけ。まーっ、後は秘密ってことで・・・)

山頂ををグルリと一周すると駒ヶ岳ともいよいよさよならだ。
神山へ向って降りて行く。神?神かぁーっ、何だか正月早々縁起が良さそうーっ!


神山山頂は展望は無いけれど、直ぐそばの展望台からは富士山や金時山の展望が良い

冠ヶ岳の山頂は展望無し。途中に社がある。
口がタコになってしまって・・・失敗だよ!

神山への道はブナやアセビが多く、その木々の向こうに切り抜いたような雲が次々流れて行く。こんなの良いなーっ!と空を見上げながら山頂へ登って行く。

神山山頂は狭く、木々に覆われて展望は無かった。ただ展望台みたいな箇所が2箇所あって一つは富士山方面、もう一つは駒ヶ岳方面の展望が良かった。山頂には数人のハイカーが休憩していて休む場所が無かったので、写真を撮ると直ぐ先の冠ヶ岳へ向った。


下山途中で今年初めて富士山とご対面!
出るのが、お、お、遅すぎるぜぇー!

冠ヶ岳山頂はまったく展望無し。今日最後のピークだけに不完全燃焼みたいな感じは否めない。だけど体のことを心配した今年最初に山登りもいよいよ終わりなんだ!
何も起こらなくて良かった!という柔かな気持ちがジンワリと心に染みた。

早雲山へ向って歩いていると富士山を囲んでいた空はいつの間にか透明度を増していた。
やったでぇー!完全とはいかないけれど半分だけ富士山が顔を出していた。もう今日はダメだって諦めていたけれど・・・
待ちに待った富士山の姿だ。
あーっ、秀麗!やっぱ富士山にはこの言葉が似合うぜぇ!

今日の天気は晴れ時々曇り、今年最初の山としてはけっして悪くないぞぉー!
だってこんなに近い・・・
深呼吸すると胸がズキッと痛くて顔をしかめてしまう。フリースの袖は鼻水でビガビガに光っていてあまりに情けなくなる。
だけどやっぱりニンマリしてしまう。頭上には青空がトコトン広がっていて、そこに近いってことはそれだけで良いと思えるのだった。

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