八甲田山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:飛行機)

◆7月2,3日
東京(21:30) === 青森(6:40/8:20) === 酸ヶ湯温泉(9:33/9:40) --- ヒュッテ跡(10:35/10:50) --- 大岳(12:20/13:00) --- 小岳(13:45/13:55) --- 高田大岳(15:10/15:35) --- 谷地温泉(テント泊)(17:05)
◆7月4日
谷地温泉(4:10) --- 猿倉温泉(4:40/4:45) --- 矢櫃湿原(5:55/6:05) --- 乗鞍岳入口(一ノ沢)(6:55/7:25) --- 乗鞍岳(7:55/8:40) --- 赤倉岳(9:40/9:45) --- 1001mピーク(10:55/11:05) --- 蔦の七沼(12:20) ---散策--- 蔦温泉(13:25/14:08) === 青森(15:45/16:00) === 青森空港(16:35/17:15) *** 羽田(18:30)

山日記(北八甲田山編)

「遥か向こうに太平洋が見えます」
いつの間にか眠ってしまったらしく眼が覚めるとバスはヴィラシティ・ホテルまで登って来ていた。観光用テープのアナウンスを聞いた乗客が一斉に車窓の外に視線を移し歓声をあげた。眼下に青森湾が見える、津軽半島が見える。「青森だ!本州の最北端、とうとう青森までやって来たんだ!」寝ぼけた脳細胞にじんわりと感動が染みて行く。
日本百名山を追っかけて北上する山巡りの旅、一昨年、鳥海山に登ったので次は早池峰山の予定だったけど一気に飛び越して八甲田山に来てしまった。距離は八甲田山の方が遠いんだけどアプローチに飛行機が利用出来るのでこっちの方が時間的に楽なのだ。
そう!とにかく今回はゆったり、まったり、テント山行も久々だし、みちのく温泉巡りのお気楽山登りなのだ。
途中の岩木山展望台(岩木山を見るための展望台)からみる岩木山は薄ボンヤリにしか見えなかった。今回、あの岩木山に登るかちょっとだけ迷った。土曜日に八甲田山の大岳をピストンして、日曜日に岩木山をピストンするのもそう大変なことではない。せっかく青森まで来たんだしここで百名山を一気に二つGETするのも悪くないな!とも思った。
だけど「やーめた!アホくさ!」僕にとって山登りはこなすことでなくて知ることなのだ。一つ一つのの山をじっくり登り、色んな物を見て、聞いて、感じて脳みそのどこか端っこにしっかりと仕舞い込む事なのだ。ピークだけチョコチョコと登って「百名山登りました!」って言えるかバーロー!(ここで少し弱気になって「それはそれで・・・そんな山登りも良いと思える人には・・・山登りは人それぞれだし・・・色んな山登りがあっても良いんだよな!」)
とにかく僕は、僕だけは百名山一つ一つにじっくりと登ってやるのだ、しつこい性格なのだ!こんなことしていたら百名山を全部登りきれないかも知れないがそれはそれでまー良いでないの!


萱野高原からの北八甲田山
そんな青臭い事をグダグダ考えているとバスは萱野高原に到着。
緑色の広い草原にポツポツとデッカイ木があって深緑の影を作っている。そしてその向こうには青空をググッと押しのけるように八甲田の山々が裾野を広げていた。ここは本当にきれいな?んー、気持ちの良い場所だ。
二つ前に座っているおがさんが「雅子さんもここで静養したら良いんだよー」とカラカラと笑った。「曽我さんもここで家族と会ったら良いのに・・・あっ、ここ日本だぁ!」とガハガハと笑った。
んだんだぁ!まったくその通りだー。雄大な自然の中では人間の悩みや乾いた理屈なんて小さい小さい「この青空と緑の草原の石ウスでゴリゴリと細かくすりつぶしてしまえ!バーロー」と思ってしまう、そんな場所なのだ。
おがさん達の会話に「んだんだぁ!」と相槌を打ってると登山口の酸ヶ湯(すかゆ)温泉に到着。
ここでポリタンに水を満たしてザックを背負う。「ほんじゃー、行きまっせ!」半年振りのでかザックの出番だ!でも気合いが入るというより「まー、のんびりと行きまひょー!久しぶりだし楽しんで行こか!」という感じで歩き出すのだった。
僕が使っている昭文社の山岳地図では下毛無岱への登山道は国道を少し戻った所に取り付きがあるようになっているけど場所がよく分からなかった。そばで登山準備をしているおがさんに尋ねようと思ったが「下毛無岱」の読み方が分からない。仕方ないので「あのー、しもげ何とかって所に行きたいんですが・・・」ここまで言ってヤバイと思った。「し・も・げ」ってかなり卑猥な言葉だ!あー、おがさんが笑っている。青森県の人と初めて話すのに!何言ってんだ僕は!ちゃんと勉強しとけよー!。半年振りのでかザック山行はこんな風に始まったのだ。トホホ、トホホトホホ

下毛無岱(しもけなしたい)へは登山口から10分くらいは勾配が急だが後は平坦になって歩きやすかった。そして樹林帯を抜けるとパッと目の前に草原が広がった。


下毛無岱からの大岳。この後、段々と雲が多くなっていく

わたすがワタスゲです。毛無岱はワタスゲとチングルマがいっぱい広がる湿原です
高山植物でマバユイ緑の湿地帯、そしてこれらを取り囲むようにその向こうには雄大な大岳の姿。広大な湿地の中に一本の銀色の木道、群生しているチングルマやワタスゲが風に揺れている。
ここはただ歩いているだけでお腹の辺りから笑いがこみ上げて来る、そんな場所だった。

山上の湿原、月山や鳥海山にも見られるこんな景観を見せられると「やっぱりここも東北の山なんだなー!一年に一度はこんな場所をノンビリと歩かなければ!」と思う。するとゴツゴツと乱雑にならんでいる他の山の記憶のスキマがヒタヒタに埋まってしまいそうに思えるのだ。

空を見上げると雲がずいぶん多くなって来た。せっかくの山上楽園も太陽の光が当たらないと急に元気が無くなってしまう。もう少し待ってくれ!と空に向って哀願してしまう。
前方に木の階段が現れた。
素晴らしい風景の下毛無岱もこれで終わりだと思うと残念だ。
階段を登りながら下毛無岱を見下ろすと緑の絨毯の中に木道が銀色の線となって延びていた。この風景は撮影ポイントになっているらしくガイドブックでは必ずと言っていいほどここからの写真が出てくるので僕も取り合えず撮影する。

二百段くらいあったかもしれない。意外と長い階段を登り上毛無岱(かみけなしたい)へ。
ここも花の楽園状態でたくさんのハイカーが散策していた。地塘が多くここも高山植物の宝庫だ。


下毛無岱から上毛無岱への階段途中から撮影。
これ、ガイドブックでよくある構図なんだけどやっぱり撮ってしまいました。

大岳鞍部避難小屋から大岳を見ると雲に隠れてしまっていた
樹林帯を抜けて大岳鞍部避難小屋に到着してみると空は一面雲に覆われていてガッカリした。もちろんこれから登ろうとしている大岳も雲で見えない。
小屋はログハウス風な作りでまだ新しく泊まりやすそうだ。小屋の中を覗くと救急箱まで用意してある。
周辺にはヨシバシオガマが群生している。晴れていたら良い雰囲気の場所なんだろー。
小屋前のベンチでたくさんの人が食事をしている。視線は雲に隠れた大岳の姿を探そうとしているがやっぱりため息混じりの弁当になってしまっている。
ここから山頂まで一気に登る。登山道の周りは植物が少なく薄茶けた山肌が荒涼としている。
「あーあ!」もうこれしか言葉は出なかった。
どうしたんだいつもの晴れ男は?
山頂は一面ガスに覆われて何も見えない。山頂はグルリとロープが張られていているので何だか檻の中に居るみたいだ。そのロープに沿って山頂を一周してみてもかすかに東側に噴火口跡らしきものが見えただけで後は真っ白け状態。山頂には木々が全く無く、展望を遮る物は何も無いので天気が良かったらスゴイ眺望がここに待っていたに違いないのだ。地図の「360度の大展望」の文字がうらめしく目に映る。
まったくでっかいホウキでもってこのウザッタイ雲を一気にササーッと掃いてしまいたい。

大岳鞍部避難小屋周辺はヨシバシオガマが群生している

大岳に登る途中から見た井戸岳。ガスの切れ間に撮影。
八甲田山は僕の住んでいる川崎からズイブン遠く今日は天気が悪いからまた来週来よう!というわけにもいかない。だけれど「こんな天気じゃ百名山とは言えない!納得できない!必ずもう一度来よう!」と誓って山頂をあとにした。

大岳を降っていると足がヘロヘロになっているのに気が着いた。大腿四頭筋に力が入らず膝が笑ってしまっている。テント山行を行うようになってからは特にユックリと歩くようにしているので足が疲れたなと感じることはあってもこんなに力が入らなくなるようなことは無かった。
今日は大した登りは無かったし、いつものようにユックリと登ったしいったいどうしたんだろう?やっぱり久しぶりのでかザックの重さが堪えたんだろうか?展望は無いし足はヘロヘロになってるし「くそったれ!」とつぶやくしかなかった。

5分ほど降りると小さな池(鏡池)があった。池に映った空も当然雲ばかりで・・・
すると下からおどさんと子供二人の家族が登って来た。鏡池を見つけると「わー、こんな山の上に池がある!カエルが鳴いているよ!」と大ハシャギだ。
「イカンイカン!子供に負けてしまっている」僕としてはここで一発カッコイー言葉を頭に浮かべたいのだけれどその言葉が前頭葉の奥3センチで止まってしまって、その3センチの壁がナカナカ破れない。
何かモー、やっぱ青空指向派の僕としてはこんな天気では一向に盛り上がらないのです。

大岳山頂 これ登頂証拠写真というやつ
仙人岱は雪融け水がチョロチョロと流れている湿原だった。ヒナザクラやチングルマの花が多い。
こうゆう場所で花が好きな人を見ると本当に羨ましくなる。色々な花を見つけるたびに花の名前教え合ったりして楽しそうだ。

小岳山頂も晴れていたら展望が良いらしいが360度ガスって何も見えない。何も見えないのでただ山登りを機械的に消化しているだけ、ただのピークハントになってしまっている。


高田大岳山頂 この山頂だけは雲が無かったが大岳を見るとやっぱり雲の中だった。
小岳を降りると鞍部は小さな湿原になっていた。
そこから高田大岳への登山道はしっかりと踏まれてはいるが熊笹が覆い被さって藪がウルサイ。登るだけでも大変なのに藪を掻き分け、トンネルを潜り、ザックを引きずる様に無理やり突破したりと体力を一気に消耗してしまう。
「すっぽん!」まさしくそんな風に急に藪が終わり、ハイ松帯に変わった。見上げると高田大岳の山頂に青空が見える。久しぶりに青空を見たような気がする。やっぱりこうでなくちゃいけない。青空の下のテッペンはただそれだけで嬉しくなる。
山頂には小さな祠があった。大岳、小岳はガスの中でやっぱり見えない。下を見下ろすと雲の切れ間に緑の絨毯が広がっている。草原があったり、湿地があったり、森があったり、ジオラマを見ているような感じだ。
大岳、小岳、硫黄岳、そして南八甲田の山々の麓までビッシリと一面の緑に覆われている。
八甲田山の特徴は何だろうか?毛無岱や田代湿原などの湿地帯を抱いていることもそうだろうけど、こんなにも遥か遠くまで広がっている森を見たことが無い。他では見られない優越した景色だと思う。

高田大岳山頂からの降り道は狭かった。這松やその他の潅木がその狭い道を覆っていてでかザックがやたら邪魔になって降りづらい。
張り出した枝に体やザックをズリズリとこすりつけながら降りて行くと今度はV字攻撃が待っていた。
登山道が雨水でV字形に浸食され歩きづらい。これが急勾配な上に粘土質でズルズルと実に良くすべる。これがヘロヘロに疲れた足を実に効果的に締め上げ、大腿四頭筋が悲鳴をあげている。きっと明日は筋肉痛になること間違いない。ズルッとすべる度に「くそったれ!」を連発するのだった。
道が段々なだらかになって来た。「V字攻撃もやっとこれで終わりだ!後は谷地温泉までユッタリと歩いて行くだけだ。と安心していたら今度はヌカルミが待っていた。場所によっては道なんだか沼なんだか分からない程だ。さっきのV字攻撃でズボンのお尻が泥だらけ、ここで靴はもちろんズボンの下の方まで泥だらけになってしまった。「くそったれ!」に泣きが入る。

車の音がする、もう近いな!と思ったらベンチのある広い場所に飛び出した。すぐ下に旅館が見える。ヤレヤレやっと谷地温泉に着いた。
「あのー、ここでテント張らしてほしいんですが・・・」土産売り場のおがさんにオズオズと尋ねる。それにしても山小屋ならともかく旅館に来て「テントを張って良いか?」と言うのもずいぶんトボケた質問だと自分でも思う。ただここで幕営すれば水を確保出来るし、もしかしたら温泉にも入らせてもらえるかもしれない思ったのだ。そうしたら「テント場はその駐車場の上です」とずいぶん慣れたような返事が返ってきた。さっき通ってきたベンチのある広い場所がテン場?他にもここで幕営する人が多いのかな?と急に気が抜けたように安心した。
「テント場代として入浴料込みで600円いただきます!」「えっ!ホントに温泉入っても良いの?」ズボンも靴も泥だらけなのでこれじゃ印象悪いかな!と悲観していたのだ。それに600円はめちゃ安いでないの!。登山者が入浴することに良い顔をしない宿がたまにあるらしいが・・・
それにこのおがさんはとても親切だった。「風呂は何回入っても良いですよ、水道はここ、トイレは・・・」と丁寧に教えてくれる。青森の人は優しいなー!と思っていたら「靴、真っ黒じゃない!」と言ってブラシまで貸してくれた。横の水が出しっぱになっている場所で靴の泥を洗い落とした。そばの樽の中にはきれいにスジが取られたフキがいっぱい入っている。今夜の夕食なんだろうか?そう考えると急にお腹がすいてきた。

テントを設営して浴場に行ってみる。
オレンジ色のライトが一つ、二つ、ぼんやりと湯気を照らしている。風呂は床も壁も湯船も全て木作りで温泉成分のせいでエボニー色に変色している。見上げると壁の上の方や天井はビッシリと白く粉をふいていてそれがまた風情を作っている。
体を洗って乳白色のお湯に身を沈めると今日一日の疲れがジンワリとお湯に融けてゆくように心地よい。
良い温泉の条件の一つとしてお湯を循環していないということがあげられる。それを見分ける方法が湯船に流れ込んでいる湯が飲用できるかということだがもちろんここも飲用可だった。
そう温泉はお湯が出しっぱが一番なのだ!

谷地温泉のテント場?一人たそがれています。

風呂から出て廊下を進んでいるとビールの自販機がジーっと唸っていた。山登りの疲れを温泉でじわーっと癒した後にこのビール自販機の前を素通り出来る奴なんていやしない。それにビールがまた安い!500mlで350円(350mlは250円)だった。
夕食にアツアツのカルボナーラを食べながらギンギンに冷えたビールはあーたまんねーな!、飲んだビールが胃に届く前に喉や食道に吸収され消えてしまっているみたいだ。
次に持ってきたウイスキーを飲んで頭の中をトロトロにシェイクしてから最後にちべたいビールで締めようとまた買いに行った。
「どこから来たんだぁ」よほどテントが珍しいのか縁台で涼んでいる人に次々に話し掛けられる。
「ここは湯治場だから宿泊料金が安いんだぁ」と言うので料金表を見ると素泊まり2000円、夕食2000円、朝食700円、つまり5000円あればゆったりまったり泊まれるそうだ。(ガイドブックでは一泊8000円〜となっているけど???)
夕暮れの中にポツンと一つたっている自分のテントを見る。テントも良いけど次に来る時は宿に泊まってみようかな。
テントに戻ってビールを飲み終えると「あかん、もうあかんがな!」さすがに眠くてたまらない。シュラフにもぐり込むとすぐに撃沈。すごく心地よい眠りだった。

南八甲田山編へ続く (のだけれど天気が悪く、長くつまらない山行記になってしまった。クリックしない方が良いです)

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