白山 |
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行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩) ◆8月17日 ◆8月18日 |
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山日記 満員の登山者を乗せ金沢を出発したバスは市ノ瀬に到着した。市ノ瀬でバスを降りたのは僕とビジターセンターの関係者の三人だった。ほとんどの登山者はそのまま別当出合まで行った。「行った」と言うよりむしろ「行ってしまった。。。」と言うほうが今の僕の心境にぴったりだ。「別当出合からの登山はつまらない」と聞いていたので別当出合から登る人は少なく、市ノ瀬から登る人が大半だと思っていた。多分、別当出合から日帰り登山の人が多いのだろう。 |
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天池付近から見た白山 |
木々の間から覗く空もガスで白一色であることにも元気が出ない。 小さな沢がいくつも道を横切っているので歩いていて涼しい。水場と標識がある沢で水を補給し延々と登る。どれくらい歩いただろうか?展望が良い場所が有ったらそこで昼食にしようと思いながら登るがいくら登っても展望が良い場所が無い。仕方なく道の真ん中で落ち着かない昼食となってしまった。 それでもおにぎりが腹の隙間を満たすと気分に余裕が出てきた。陰気な登山道も良く見ればぶなの木やとちの木が僕を囲んでいる事に気がついた。木々の葉を透かして柔らかくなった光に映し出される緑の森も中々良くちょっと嬉しくなる。 |
登り始めて3時間程で樹林帯を抜け、お花畑となった。しかしやはりガスっているので展望は無く、草花を照らす光も弱い。下方から谷を流れる沢の水音だけが聞こえてくる。 花畑の中を歩いて行くと小さな池がありチブリ尾根避難小屋に着いた。小屋は新しくはないが良く整備されている。しかし水場は。。。地図では池の水は煮沸飲用可とあるが池の水は黒く濁り、おたまじゃくしでいっぱいだ。この水を飲むにはかなりの勇気がいる。 |
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南竜ヶ馬場 草原の風が心地良い |
小屋を出てシラビソの林を歩いているとやがて御舎利山に着いた。やはりガスって展望は無い。 少し休んで別山に向う。別山頂上で三ノ峰方向を見たくてガスの取れるのを待つが一向にその気配は無く諦めて降りることにした。 岩小屋まで来て別山を振り返るとわずかな雲の切れ間に別山山頂が覗いた。嬉しくなって御舎利山で再び、雲が取れるのを待つことにした。 待つこと30分程で別山を被っていた雲は西の空に吸い込まれていった。北の空を絶えず流れていた雲が一瞬切れて今まで全く見えなかった白山が顔を出した。 |
御前峰山頂から見た室堂 |
白山が信仰の山として登られている理由が分かる様な気がする。御前峰の下に広がっている弥陀ヶ原は天空の園という感じで神々しい感じがする。今日は一日、ガスっていて何も見えなかったがこの一瞬の光景を見られただけで満足しよう。 何時までも見ていたいのだが午後3時を過ぎたので今日の宿泊予定の南竜ヶ馬場へ向わなければならない。 歩いていると段々と雲が取れ、油坂の頭まで来ると白山を隠すものは何も無くなっていた。さっき「今日はこれで満足しよう」と思った気持ちは今は完全に消し飛んで残念がった。 |
南竜ヶ馬場キャンプ場はトイレや炊事場まで有り快適なテント場だ。これで幕営料が300円は安くて悪い気がする。 ここは沢から水を引いているので水量が多く炊事場で汗にまみれた顔や頭をバシャバシャと洗うことが出来た。体もシャツを脱いで水拭きすることが出来た。パンツだけはテントの中で脱いだ。狭いテント内では立つことも出来ず、寝転んでお尻を拭いた。テントの中でお尻を拭いている自分の格好は情けないが不思議な気持ち良さについつい笑ってしまうのだった。 さっぱりとした気持ちになりテント脇の石に腰掛けてみる。傾きかけた太陽の光は昼間のギラギラとした勢いは無く、今は暖色のベールとなり周りの景色を優しく包んでいる。頭上のなだらかな頂を越えて傍らをすり抜けて行く風は谷間の冷気や樹木の精気をしっとりと含んでいて涼しい。ウイスキーを口に含むと今日一日の疲れが吐息と共にその風に紛れて行くようだ。 |
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大汝峰から見た御前峰 一瞬のガスの切れ間に撮影 |
翌朝、2時に起きる。今日は行程が長いので早く出発することにしたのだ。テントの外は無風で静まり返っている。 と思ったら隣のテントからいびきが聞こえてくる。そういえばこのテントは男性二人組で午後7時ごろ到着した。車に何かを忘れたらしくテントを設営しながら口喧嘩をしていた。おまけにこのいびきである。同伴の人は良く眠れるもんだと感心する。 「僕のテントもそろそろ寿命かもしれないな」テントを撤収しながらそう思った。フライシートやテント底が水を撥水しなくなり、結露や朝露が布地にしみ込んでずっしりと重い。 |
四塚山付近 気持ち良い尾根歩き |
朝4時に出発する。分岐点は昨日のうちに確認しておいた。夜はまだ眠りを続けていて暗いのでヘッドライトの明かりで歩く。光の輪の中に褐色の登山道が浮かび上がり道はハッキリしているので迷うことは無い。ただ、沢が道を横断している箇所や水溜りでは水が有るのが分かりづらく思いっきり足を突っ込んでしまい濡れてしまった。 アルプス展望台に来ると東方向の展望が開ける。空と地の境界が赤く染まっている。ここから北アルプスが見えるはずであるが残念なことに山の影と雲海の区別がつかない。 登りの傾斜が緩やかになり御前峰が直ぐ目の前に迫った。空は大分明るくなっていた。頭上から突然、万歳三唱の声が鳴り響いた。山頂で御来光を見た人の歓声だ。今日の太陽が上ったのだ。 |
室堂から御前峰への登山道は石畳状に整備されて歩き易い。50人程が降りてきた。中には白装束や紫袴の人がいて信仰の山の印象を際立たせる。 御前峰山頂はほとんどの人が降りた後らしく数人がいるだけだった。北側、東側は早くも雲が湧き上がり、白一色で何も見えない。室堂はオレンジ色の朝の光に緑の草原が輝いている。 お池めぐりコースを歩き大汝峰へ向う。大汝峰山頂は目の前をひっきりなしに雲が通過して行き一瞬だけしか御前峰は見えなかった。ほとんどの登山者は室堂から御前峰を往復しているようだ。人の数が急に少なくなる。 |
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長坂 この写真を撮った後に一回転してこける |
大汝峰から降って振り返ると山頂は雲に覆われていたが行く方向の七倉山は晴れていた。七倉山は北アルプスを連想させる山容でどこか爽快感を感じさせる山容だ。 七倉の辻に来て見ると今度は四塚山が見える。若草色の山肌に登山道が一本の筋となって延びている。あの道を歩いたらどんなに気持ちが良い事だろう。いや絶対に気持ちが良いに違いない。 四塚山のお花畑を歩いて行くと今度目の前に広がったのは清浄ヶ原の広い高原である。 山々の囲まれた高原は熊笹の鶯色に低木の深緑がまだら状の模様になって広がっていた。本当に素晴らしい景観だ。それなのに人がいない。なんだかもったいない感じがする。 |
美女平からの清浄ヶ原 ピンクの花はチングルマ |
長坂を降る。踏み跡はしっかり付いているが熊笹が道を覆い隠しているので足元が良く見えない。降る時に張り出した木の根や岩でスネや膝を何度も打ってしまって痛い。おまけに両足が木の根につまずいてしまい前に一回転して転んでしまった。 油坂でチキンラーメンを食べて元気回復。 美女坂の頭まではなだらかな道でお花畑や池塘を楽しみながら歩く。しかし登山道には太陽の熱光線を遮る木々が無く、直接頭や背中に日光が降り注ぐのはやっぱり暑い。美女坂を下っていると猛烈な暑さに体中の汗が吹き出てきた。標高も下がって一歩下る度に周りの温度が上昇しているように感じる。 |
とにかく日陰が欲しい。汗だくになって奥長倉避難小屋に飛び込んだ。窓と扉を全開にすると流れ込んでくる風にかび臭い空気が一掃された。 板の間に大の字になって寝転んでいると何とも爽快な気分だ。ここまで来ると一里野温泉はもう直ぐだ。このまま帰るのがもったいない気がする。 小屋にあった落書きノートのページをめくる。書き込まれた言葉一つ一つはみんな優しかった。山の美しい景色は人を優しくしてしまうのだろう。 参考チブリ尾根の水場は市ノ瀬から1時間ほどで沢がある。いくつか有るが最後の沢に水場の案内標識有り。 |
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