白馬岳、雪倉岳、朝日岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆8月6日
立川(0:28) +++ 白馬 (5:36/6:10) === 栂池高原 (6:38/7:00) *** 栂池自然園(8:00/8:10) --- 天狗原(9:00/9:10) --- 乗鞍岳 (10:10) --- 白馬大池山荘 (10:50/11:10) --- 小蓮華岳 (13:00) --- 三国境 (13:30/13:40) --- 白馬岳 (14:40/14:50) --- 頂上宿舎キャンプ場(15:10)(テント泊)
◆8月7日
頂上宿舎キャンプ場 (4:10) --- 白馬岳 (4:50/5:10) --- 三国境 (5:40/5:50) --- 雪倉岳避難小屋 (7:15/7:20) --- 雪倉岳(8:10/8:20) --- ツバメ平 (10:20/10:35) --- 朝日岳 (12:05/12:50) --- 朝日平キャンプ場(13:30)(テント泊)
◆8月8日
朝日平キャンプ場 (3:50) --- 朝日岳 (4:50/5:10) --- 八平衛平(6:10/6:15) --- 花園三角点 (7:35/7:40) --- 白高地沢 (8:30) --- 兵馬平(10:15/10:20) --- 蓮華温泉 (10:52/10:55) === 平岩(11:55/12:52) +++ 南小谷(13:17/13:20) +++ 立川(17:10)
山日記 (栂池自然園〜白馬岳 編)

朝6時半、栂池高原駅に到着してみるとすでに30人程の登山者の列が出来ていた。
7時になるとようやくゴンドラが動きだし、6人乗りのゴンドラが待ちわびた登山者を次々と上空へ運び去って行く。

ゴンドラが上がるにつれて白馬三山がズワーンとその雄大な姿を見せて来た。
白馬岳ももちろん良い、だけど杓子岳と鑓ヶ岳のあの花崗岩の白い山肌はずいぶん綺麗だ。特にこっち側、大糸線側からのながめは特に青い空の中ではその輝きを増しキッパリと他の山を圧倒している。

8月2日から8日までの一週間の夏休み、予定では剣岳から笠ヶ岳まで縦走するつもりだった。ところが台風5号が来て出発は延期、台風が過ぎても天候は回復せずにとうとう休暇も残り3日となってしまった。
しかし3日間では予定していたコースを歩くのはとても無理。それじゃー予定を変更してどこへ行こうか?と考えた。もうこんな時はあれやこれやと考えずにズバッと好きな山に行くに限るのである。こうして目の前に白馬三山を見ていると剣岳は残念だったけれどやっぱりここに来て良かったと思う、ここから僕の夏休みが始まるのだ!という実感にくすぐったいような幸福感!

おーし、この景色は写真に撮るしかねぇーな!カメラは手に抱えたザックの中だし3秒で取り出せる!立ち上がれば開いている窓の上から撮影出来る!
・・・だけどだ、狭くて立ち上がれねぇー!
3人用の長椅子に2人で座っているのになぜ狭い?隣に座っているタジマ(小柄な田嶋陽子という感じの女性)が椅子のまん中に座っていてヒザをグリグリと押し付けてくる。僕はタジマと壁の間にギュウギュウと挟まれた状態でまったく立ち上がりにくいのだ。
まーっ良いか、ここでの撮影は諦めて自然園へ着いてから撮れば良いか!

栂ノ森でゴンドラを降りてロープウェイへ乗り換える。70人乗りのロープウェイも登山者で満員状態だ。窓から外を眺めると、まだこんな朝早い時間なのに少しガスが出始めていたので嫌な感じがした。

自然園駅の待ち合い室で歩く準備をする。以前の僕は人間の中で光合成をするのは自分だけではないだろうか!というくらいにたっぷりと日光を浴びていたのだけれど、最近は美白ブーム?ではないけれど日焼けするのは痛いし、後も大変なのでしっかりと日焼け止めを塗るようになった。そしてカロリーメイトを食べ、ストックを伸ばし、靴紐を結ぶと出発準備完了。
歩いて数分後、栂池山荘まで来るとやっと展望が開けた。
あちゃーっ、なんでだよーっ!視線の先にあるはずの白馬三山はもう完全に真っ白なガスの中だったのだ。

写真は良いなと思ったらすぐに撮るべし!いつも繰り返えされる後悔、んなろーっ、タジマがグリグリしてこなきゃーな!などとウジウジと思いつつ登山道を登り出す。
ガスっているのでギラギラな太陽の暑さは無く、その点では助かった。

ジグザグな道を登って行くとブファーとかビヒャーとかスワヒリ語でしか表わせないようなウメキ声を発しながら前を登っている人がいる。もしや?と嫌な予感がする。追い越すとしっかりタジマだ。
何ちゅー声を出してんだ!北斗の拳かよ!このおばさん、もう死んじゃうんじゃなかろーか?
「また会いましたね、暑いわね!」とかいろいろ話しかけられたけれどタジマの真っ赤な口紅に視点が集中。僕はこれまで山ではどれくらい化粧をしているものなのか?という観点で女性を見た事がないので分からないけれど、その口紅はどう見ても塗りすぎだろっ!赤すぎるだろっ!そっちの方に気をとられてしまってどこか生返事になってしまった。
そんなにバテているんだったらもうしゃべらなくて良いから・・・ガンバって歩いてくれよ!と会話もそこそこに先に行かせてもらった。
口だけは元気なタジマもこんな様子じゃとても今日中に白馬岳山頂までは歩けないよなー!


広い湿原が広がる天狗原。風吹大池への道は通行止めになっていた。

樹林帯を抜けると天狗原だ。
湿原の向こう側に乗鞍岳の姿があって一気に空の広さを感じさせる場所だ。ここから白馬岳まですばらしい景観の連続、あーっこの先にはどんな景色が待っているのだろか?とワクワクする。
白馬岳に登るのは今回で4回目、初めて登った時は千国駅から山ノ神尾根を歩いて登った。その時に出会った天狗原の素晴らしさが今でも忘れられず、今回は時間に余裕があるし乗鞍岳へ登る前に天狗原を散策しようと思った。
風吹大池への分岐を右に折れて木道を歩いていく。ほんの50メートルほど進むと何とそこでいきなりの通行止め。記憶の中の天狗原との再会ならず、残念!がっかりして来た道を引き返した。
千国揚尾根も山ノ神尾根も歩いてみたい。こうやって”行きたい山”のコレクションがまた増えてしまうのだ。

天狗原からゴツゴツした岩を乗り越え、急勾配を登っていく。天狗原からはハート型に見えた雪渓を横切りさらに登って行くと・・・そこにタジマが待っていた。
ほらそこに雷鳥がいるよ!タジマの視線の先、登山道ド真ん中の岩の上に一羽の雷鳥がいた。
2メートルくらいまで近づいても全く逃げようとする気配も無い。二人でしばらく見ていたら雷鳥が砂浴びを始めた。僕も砂浴びする雷鳥の姿を見るのはこれが初めてだったので、今日は天気はイマイチだけれど貴重なシーンを見られて良かったな!などとニンマリしていた。
そうしたらいきなりタジマが「ねえ、これって卵を産もうとしているんじゃない?」と興奮して言った。
(んなわけねーだろ!砂浴びだろっ!いかに雷鳥だからって岩の上で産卵するかぁ!)などと内心思ったがそしらぬ顔で「もうすぐ産まれそうだね!」とうそぶいた。

作戦成功!タジマは人は良さそうなんだけれどなにせ話が長い!悪いけれどこの辺りでぶっちぎらせてもらう。
振り向くとタジマはまだ雷鳥を凝視していた。でもちょっと悪かったかな?そんな気がした。


登山道のド真ん中で雷鳥が砂浴び中なのでした。

でかいケルンが立つ乗鞍岳山頂の周りもガスって白馬岳は見えなかった。たまに風がよぎると白いガスがフッと切れてその向こうに少しだけ小蓮華岳が姿を見せた。
だけど白馬大池はしっかりと見えていた。今回の山行で会いたかった景色の一つなのだ。
青い空をいっぱいに湖面に映した大池、池の向こう側には真っ赤な屋根の大池山荘、カラフルなテントの色が色んな夏の色と交錯して、にぎやかでそれでいてどこか涼しげ。ひとことで言えば気持ち良い場所なのだ。雲が多いけれど気分は爽快!ゴツゴツした岩の道を降りて行く。

こんな山の上に雫を一つ一つ集めたこんな大きな湖があることが不思議な気がする。
白馬大池をグルリと半周して白馬大池山荘に到着。
ここのテント場は広く、デコボコもない地面、大池のすぐ隣の解放的なテント場だ。
まだ朝の11時なのにすでに3つのテントが設営中だ。あまりに気持ちの良いテント場なので今日はここで幕営しようかな?と一瞬思ったけれど、前回の白毛門登山から3ヶ月ぶりの登山だし、またも体を甘やかしすぎると今後も癖になりそうなのでやっぱりもう少しガンバって白馬岳まで行くことにした。


赤い屋根っていうか全体真っ赤な白馬大池山荘

しかしここの水場を見るたびにキャンパーのマナーの悪さにはがっかりする。
水場の流し台にご飯粒とか野菜の切れ端とかがパラパラと散乱していて汚いだよなー!
僕は今まで食事を残したことはないし、(まず残すようでは山屋失格だ!)食事の後のコッヘルは洗わずに汚れは紙でふき取るようにしている。
この流し台を汚した犯人もキャンプでご飯を炊いているくらいだからそれなりに山登りの経験はある人なのだろうけれど水場にゴミを残しちゃいかんことぐらい分からないのかな?と不思議に思う。

大池小屋でカロリーメイトを2袋食べると、と言うか本当は1袋だけ食べようと思ったのだけれど、小屋でラーメンとか食べている人を見ているとこっちまでお腹が空いてしまって…行動食は持たずに(非常食はもちろん持って)小屋で昼食を取るのも、ザックも軽くなるし、一つの手かもしれんな!

大池小屋から歩き出しても相変わらず白馬岳はガスの中。
この尾根も僕の好きな道の一つである。花崗岩の白い登山道はなだらかで歩きやすく、のんびりと歩くのには最高だ。
先日放送された北アルプス山岳救助隊・紫門一鬼(しかしなんちゅー名前だ!)のロケもここ白馬大池周辺でされていて、歩いているこの道や周りの雄大な景色が何度も画面に映し出されていた・・・しかし今は腹が立つほど何も見えない。

ブファー、ブファー、あの声は・・・タジマだっ!
振り返ると50メートルほど下からタジマが迫って来ているのが見えた。
ちょっと大池山荘で休みすぎたのかもしれない、それにしても今にも死にそうな声を出しているのによくここまで登ってきたな!とちょっとタジマの根性を見直してしまった。


小蓮華岳へ登って行く。なだらかで歩きやすい道

小蓮華岳山頂は崩壊していて危険なのでロープが張られ立入禁止になっていた。
見ると大小さまざまな岩がバラバラと乱積している。小蓮華岳は新潟県で一番高い山、それが先日の新潟中越沖地震の際に山頂が崩れ標高が2769メートルから2766メートルに一気に3メートルも低くなってしまったということだ。
地震の被害については色々と知っていたけれどその影響がまさかこんな山の上まで及ぶとは改めて地震の恐ろしさを感じてしまう。

「あなた、モクモクと登ってますね」三国境でザックを降ろした途端に休んでいた男性に声をかけられた。
「モクモク登る」という言い方はちょっと小馬鹿にしたニュアンスも含んでいるのかもしれないけれど今の僕には誉め言葉だ。今回の登山は5月に白毛門に登って以来ほぼ3ヶ月ぶりの登山になる。もともと体力とか筋力とかは無いに等しいので登山の間隔が開こうと気にしないのだけど、体が歩き方を忘れてしまっているのでは?とそれだけは心配だった。特に夏は暑いのでドカドカと歩いているとそれだけで体力の消耗が大きくバテやすくなる。
だからモクモク歩いているって言われた時は良い感じで歩けているのかもしれない!と嬉しくなってしまった。

三国境付近はコマクサの群生地、砂礫の斜面一面にコマクサの薄いピンク色が華やかだった。
コマクサってなぜか無性に応援したくなる花だ。咲いている場所が決まって荒涼とした砂礫だから?それとも少しの風に頭を揺らす姿?花の女王と呼ばれるその可憐な姿、こんなガスの中でその小さくて細い葉っぱいっぱいに霧を集めているんだなと思うとやっぱりがんばれよ!と思ってしまう。
だけどこんなオレって乙女チック?いけねぇー、こんなこと思っているって誰にも言えねぇー!

いよいよ白馬岳への最後の登り。
登っても登ってもピークにたどり着くとまだ先があるって感じでガスで山頂が見えないことって何とももどかしい。そしていくつかなだらかなピークを過ぎるとようやくあのツンと尖った山頂がガスの中に現われた。


夕方、雨が上がってガスも切れた。
丸山から見た杓子岳と鑓ヶ岳

白馬岳山頂に立つ。頭上には白い雲がギッシリで眺望は無い。たまにガスが取れるとお情け程度に隣の旭岳が見えた。
ここからキャンプ場までは30分降るだけなので展望は無いけれどここでゆっくり休んで行こうと思った。だけど山頂にはでかいザックを持った学生が20人くらい居て、こいつらより先にテント場に行かなきゃ場所が無くなってしまうな!と思うとあまり長居も出来ない。

ブファー、ブファー、あの声は・・・タジマがやって来た!
ついにタジマも登って来たんだ!ほとんど半死状態だったのにとうとう山頂までタジマは登って来たよー、すげぇーぜ、タジマ!!!
しかし死にそうになりながら歩いていたタジマとほとんど到着時間が変わらないオレっていったい・・・
タジマのことは別に嫌いではないのだけれどその姿が降りるきっかけになった。
降りる前にせめて山頂の記念写真でも!と学生たちの引率の先生らしき人にシャッターをお願いした。(一時間後、テント内でカメラのモニター画面を見ていたら、この山頂でのたった一枚の写真が撮れていなかったのにはがっかりした)
こうしてわずか10分間山頂に居ただけで頂上宿舎のテント場へ向かった。

テント設営で困ったのは地面にペグが刺さらなかったことだ。張り綱は石を結んで固定したけれど僕のテントには張り綱が2本しかないのでテント底のペグを打てないと風に対して極端に軟弱になってしまう。
テント場は稜線横の窪地にあって風を避けられそうな感じなのでなんとか大丈夫では?とかなり歓楽的に作業終了。

テントを設営した後はパンパカパーン!(って古すぎ!)ビールの時間。
山小屋に到着した後、もしくはテントを設営した後のビールの美味さを一度知ってしまうとやみつきになってしまうんだよね。
テント受付小屋で好きな“キリン一番絞り”を350ml/550円で買って夕食までののんびりとした時間、仄かな安堵感と達成感の隙間をアルコールで埋めていく、冷たいビールがジンワリと体に染み渡って至極幸せなひと時。

5時になったので夕食にする。テント受付小屋は閉まっていたので山小屋へビールを買いに行くとそこにはビールの自販機がでーんとあるではないか!
キンキンに冷えた今度は500ml/700円のビールが手の中で冷たい汗をかいている。

テントに戻ると小雨が降り出した、と同時に突風が吹いてテントを大きく揺らした。
やべぇーっ、倒れそうだ!周りからも叫び声が聞こえる。
テントの張り綱の緩みを確認し終えるとテント内での夕食、焼きそばにビールが美味い。

夕方7時少し前、急にテントの外がザワザワしだした。
テントから顔を出してみると、いつの間にか雨が止み、ガスも取れて周りの山々が見えるようになっていた。空もうっすらと紅く染まっていて稜線上を人が歩く姿が見えた。
カメラを持って稜線に登る。大きな雲の塊が動いてその向こうにポッカリと今日初めて杓子岳、鑓ヶ岳の姿が目に飛び込んできた。
丸山まで行って暮れゆく景色をただただぼんやりと眺めた。
ただそんな時間も長くは続かなかった。20分ほど眺めているとまたもやガスって周りの山々を全て真っ白に消し去ってしまった。


丸山からの白馬岳山頂と頂上宿舎テント場。
写真は明るいけれど日が沈んだ後で本当は暗い。テントを数えると46つ、あと50は張れそうな広い(長い)テント場
白馬岳〜朝日岳 編 へ続く
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