浜石岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 12月27日
川崎駅 (5:39) +++ 由比駅 (8:06/8:15) --- 休憩所 (8:45/8:50) --- 浜石野外センター (9:10/9:20) --- 浜石岳 (10:10/11:00) --- 立花分岐 (12:00/12:15) --- さった峠 (13:00/13:05) --- 興津駅 (13:45/14:10) +++ 川崎駅 (16:49)

山日記

「さんたさん、ぼくはここにいます ・ あゆた」

歩太が窓ガラスに一生懸命に紙を貼り付けている。

クリスマスの日、オレも自分にプレゼントをあげたいな!と思った。



浜石岳を知ったのはヤマケイの「正月に登りたい山」に選ばれていたから。
だけど707mしかない山に登るのにわざわざ静岡まで行く気はしなかった。
この山のことはすっかり忘れてしまっていた。

自分への今年最後のプレゼント、富士山と海の両方が見える山に登りたかった。
年末にのんびりと山に登りたかった。

富士山、海、のんびり ・・・ふと忘れていた浜石岳の名前が脳裏に浮かんだ。

浜石岳は昭文社の「山と高原地図」には載っていないのでネットでYahoo、Google、国土地理院の地図を調べたけれど分かりやすい地図は無かった。
静岡観光センターのガイドマップをダウンロードして持って行く。



由比駅前は商店街なのかなと思っていたらスーパーやコンビニは無くて住宅街だった。
なのに「桜エビ、しらす」の販売店はすごく多い。

ダウンロードしたガイドマップは簡略図なので方向や距離は当てにならない。
道が入り組んだ住宅街で迷わずに浜石岳まで行けるのか?と心配していたけど道の要所にはキッチリと標示板があるので迷うことなく進むことが出来た。

「おはようございます!」
道ですれ違う人からキッチリと挨拶される。
もちろん僕もキッチリ挨拶しようと思うけれど ・・・
寒さで頬がかじかんでしまいろれつが回らない。何だか口が「へ」の字になったような感覚。
「ここは海抜6m」の文字があった。
海が近いためなのか、風が強く、そして冷たい。


空に浮かんでいた。 何か知らんけど元気が出てしまう! 待ってろ、浜石岳を追いかけるかんな!

車道の両脇にはみかん畑が広がっている。先に進むにつれ傾斜が増していった。
帽子が暑い、だけど取ると耳が冷たい。かぶったり脱いだりを繰り返しながら登って行く。

駅から歩き出して1時間の場所にテーブルがあった。ここで今日初めて富士山が姿を現した。
富士山が見えて嬉しいけれど ・・・だけど車道歩きは山登りしている感じがしないのだ。

急な坂道を登って行くと「三本松を経て浜石岳」の分岐があった。
車道歩きにうんざりしていたので迷わず階段を登って行く。

道は明確だけどあまり踏まれていない感じだ。倒木が多くて歩きにくい。
失敗したと思った。車道を歩いた方が良かった。

周りを見ながら歩いたけれどどれが三本松か分からないまま野外センターへ到着した。
ここにはテント場や炊事場、アスレチック場があった ・・・だれもいなかった。
誰もいないためなのか、風の冷たさがやたらと身に沁みる。

隣接している展望台にはヤグラがあったので上って見る。
「おーっ、良いなぁーっ!」 
今までいろんな山から富士山を見たけれど、静岡側それも海側から富士山を見たのは初めてだと思う。富士の稜線上にポコンと出た宝永山は新鮮だった。


「故障 ・・・だけど見えます」 もう、これは演歌なのだ!


風が冷たくてシカメ面で見る富士山はどこか遠い。

もう子供のような無邪気な気持って無いんだな!

「故障 ・ だけど見えます」と書かれた望遠鏡があったので覗いて見る。
富士山の山肌がすぐ目の前に見える。高速道路を疾走する車が見える。
駿河湾に浮かぶ漁船が見える。工場らしい建物から白い煙が上っているのが見える。

・・・だけどさすがに興奮するほどでは無かった。この歳になってガチでハシャグのも変だろう。

テント場を突っ切って浜石岳へと登って行く。
道は小さく上り下りを繰り返すと山を巻くように平坦な道になった。

登山道周りの檜の木がギギギィーッと不気味な音を立てる。
見上げると木の先端が青空の中で大きく揺れ動いているのが見えた。

電波塔の横を通り過ぎ、さらに100mほど登って行く


やられた、やりやがった!!!
草原の向こう側に白い富士山の頂が頭を出している。

太陽の下でまた何かが始まる。

心の中でジンワリと歓声が上がった。
つい20分前に富士山を見たばかりなのだ。だけど山頂から見る富士山は大きさが違っていた。


強風に雲が流れて行く。 浜石岳の山頂は草原になっていた。 山頂に近づくにつれ富士山は大きくなってゆく。

来て良かった!と思った。
正直、浜石岳はその標高の低さにあまり期待していなかった。
今回は静岡旅行なのだとお茶を濁そうと思っていた。

それがだぁ ・・・少し遅いクリスマス・プレゼントだよ!

富士山って海が近い山なんだな!と改めて思った。
こんな海に近くに3000m以上の山があることにちょっと不思議な感じがした。
だけどその違和感は否定ではなくて ・・・むしろ相乗効果だよ、ちくしょう!

はっきり言います。

「この景色、見なきゃ損です!」 

富士山の右に愛鷹山、箱根山、伊豆半島には達磨山、万二郎、万三郎。
視線を海沿いに移して駿河湾、伊豆半島を望み、清水港、三保の松原、日本平。
振り向けばそこには南アルプス前衛の十枚山、山伏、青薙山、笊ヶ岳。
南アルプスは白峰三山は見えるけど他の山は頭だけ。標高が低いからそこはしょーがない!

山頂に方位盤がある。

男性がその盤の上に白紙を当て鉛筆でこすり、表面の山を示した凹凸を写し取っていた。
何のため、そんなことをするのか気になった。
ジーンズにビジネスシューズ、男性のセンスが気になった。


浜石岳山頂からの富士山。今まで何人の人がこの景色に出会えたのか?まだ出会えていない人はザンネン!


ぐわーんとパノラマが広がった。 この右にはでっかい富士山があって、伊豆半島があって、清水港があって・・・
風景を切り取ることの難しさ、コマ送りでしか伝えられないもどかしさを感じる。

「山頂のテーブル使用はどんなに長くても30分以内」
僕が気をつけている山でのマナーの一つだ。

浜石岳山頂にはテーブルが一つ。
登山者は僕を入れて4人。テーブルの争奪にはなりそうにない。
良いだろう一度ぐらいゆっくりしても。
これも小さなクリスマスプレゼントかもしれない。


あれっ、風の音が遠くなってゆく。あんなに強かった風がピタリと止んだ。何だか風景が違って見えた。


追いかけたつもりは無いんだ。 突然の北岳の雪の白さは眩しかった。 南アルプスにも意外と近い。

山頂に30分ほど居るとそれまで強かった風がページをめくるようにピタリと止んだ。
日差しがポカポカして心地よかった。

山頂に一時間居たけれどまだ見足りない気がした。

山頂を後にしてさった峠への分岐まで戻った。さった峠までは220分の標示だった。
由比駅から浜石岳まで2時間で登ったので降りだったら1時間半くらいで着くのではと予想していたけど、これじゃ急がないと暗くなる前に興津駅に到着できないかもしれない。

由比駅から浜石岳山頂下までは車道だったけれど浜石岳からさった峠まではやっと登山道に変わった。
小さな上り下りをくり返しながら進む歩き易い道だった。


浜石岳からさった峠までの登山道は木々に遮られて眺望には乏しい。一箇所だけ富士山が見える場所があった。

立花への分岐から折れて立花池を見に行った。
分岐から歩いて7分、作業小屋らしき物があってそこで森は終わっていた。
この先に立花池があるような感じがしない。それにガイドマップでは分岐の近くに立花池が描かれているし。
道を間違えたか、それとも立花池を見落としてしまったのかもしれない。
とりあえずここは引き返すしかない。

分岐まで引き換えしたけれどやっぱり立花池は分からなかった。
途中に直径1mほどの水溜りがあったけれど、まさかそれが立花池だとは思えないし。

早くさった峠へ着きたいのに立花池も見れずこれで15分のロスは痛い。

10分ほど歩いているとまたしても立花池への分岐が ・・・もう行く元気ありません!


突然、竹やぶに突入。和モダン的な感じ。


見上げればそこには緑の万華鏡。

浜石岳は標高が低いこともあってか山中に緑が多い。冬の山を歩いている感じがしない。
時々、木々の間から青白い海原が見える程度で眺望は無いけれど散歩しているみたいで心地良かった。

100mほどの竹林を抜けるとそこはみかん畑、そして風の向こうに青い海が広がっていた。

やっとつながった!

山の斜面に付けられた車道を歩いてさった峠へ向う。
車道の海側はみかん畑になっているけれどすごい傾斜地だ。
滑ったら一気に海に落っこちてしまいそうだ。


長い竹林を抜けるとそこはミカン畑だった ・・・ここからさった峠までは車道歩き。車道の横は急斜面。

休憩所から遊歩道を2分ほど歩くと展望台があり、更に8分歩くとさった峠だ。
展望台までは人が多かったけれどさった峠には誰も居なかった。

さった峠は東海道五十三次では由比宿と興津宿の間に位置している。
東海道の三大難所の一つで山が海へと突き出す地形となっているので波にさらわれぬよう海岸を駆け抜けていたらしい。
このため山側の迂回道として造られたのがさった峠だ。

今は高速道路が走って風情は無くなっているけれど、なぜかノスタルジックな気分になる風景だ。


さった峠からの富士山と駿河湾の景色は歌川広重「東海道五十三次・由比」にも描かれるほどの絶景。


さった峠の展望台からの写真。さった峠と展望台は少し離れている。広重の絵はどっちで描かれたのだろう?
今は海岸線に沿うように東海道本線、国道一号線、東名高速道路は走っているけれどなぜか風情があるのだ。

案内板ではさった峠から興津駅まで70分。
それは今年一年の終結に向う道でもある。

住宅地の中を歩いて行くけれど道標示がしっかりあるので迷うことは無かった。
道のアチコチに無人販売所があってみかんや野菜を100円で売っている。

「ここは海抜10m」
横を走る高速道路下の小さな浜には静かに波が打ち寄せている。

今年最後の山、プレゼントの箱を空けてみたら思いがけない贈り物。
浜石岳はそんな山だった。

「サンタさん、僕はここにいます」


太平洋に向って、来年に向ってジャンプ! ・・・してない。
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