榛名山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆11月13日
上野 (6:30) +++ 高崎 (8:13/8:30) === 榛名湖 (9:55/10:00) --- 榛名富士 (10:45/11:05) --- 烏帽子ヶ岳 (12:10/12:30) --- 鬢櫛山 (13:00/13:10) --- 覗岩 (13:55/14:10) --- 掃部ヶ岳 (14:35/15:00) --- 氷室山 (15:50/16:10) --- 榛名湖 (16:20/16:35) === 高崎 (18:05/18:16) +++ 新宿(20:03)
山日記

僕が魚座のためなのかな?
山の上で湖に出会うとただそれだけでやたら嬉しくなってしまう。
バスが峠を越えて目の前にはズワーンと榛名湖の姿が広がった時には、やっぱりもーそれだけでただただ嬉しくなってしまった。

バスを降りるとそこにはキラキラと輝く湖面が待っていて、しっとりと湿気を含んだ空気が頬を撫でて、やっぱり山上の湖はそれだけで心に潤いを与えるな!とうなずいてしまう。

9月に中央アルプスに登った後、次は紅葉の山だな!と密かに計画を立てていた。だけど秋になるとなぜか?週末になると天気がくずれてしまって、何でだ!と鼻の穴を膨らませているうちにとうとう山での紅葉シーズンは終わってしまった。
実を言うとこの土日は紅葉はもうすっかり諦めてしまって雪景色の南八ヶ岳に行くつもりだった。ところが土曜日の朝、パッキングに手間取ってしまって電車に乗り遅れるというポカをやってしまった。仕方なく日曜日に日帰りでどこか良い所はないかなと物色していたら、その夜にフジテレビで伊香保温泉から紅葉のライトアップ風景を中継しているのを見て突発的にここに来てしまったのだ。
だけどこうして目の前に榛名湖、そして湖を取り囲む山々の姿を目の前にするとその予想以上の先制攻撃に突発的ひらめきもまんざらでもないな!と早くもはしゃいでしまう。

榛名湖の周りには色んな山があるのだけれど、まず視線はどうしても榛名富士に向いてしまう。それは山の大きさもあるけど、何てったって、もーっ、正しい三角形の山なのだ。
空を見上げるとそこにはやっぱり秋の正しい青色の空が広がっていて、そんなひたすら正しい情景のド真中にきっぱりと三角形の姿を見せつけられると、おーし登ってみるか!と山屋心がズキッと刺激されてしまうのだ。


バスを降りるといきなりこの景色!左から鬢櫛山、烏帽子ヶ岳、榛名富士

まず最初に目指すのは榛名富士だ。紅葉時期はすでに過ぎてしまったいるけれど榛名湖の沿道にはまだ赤や黄色に色付いた木々がまだまだ残っていて、やった、どーにか間に合ったよ!今年はまだ紅葉を見ていないだけにそう思わずにはいられない。

それにしても人が多い。観光客の数もさることながら全身をレザースーツで決めたライダーの数も多い。その中をごめんよ、ごめんよ、じゃまするぜぇ!と言う感じで進んで行く。
ロープウェイ駅を右に見ながら少し進むと登山口が見つかった。


榛名富士へ向う ロープウェイが見える
登山道は急登なのかと想像していたけれどジグザグに登って行くのでたいしたことはなかった。およそ2ヶ月ぶりとなった山登りだけれどザックは軽いので足が良く出る。
昨日は関東でも風が強く木枯らし一号を観測したほどだったのに今日は風もなく、11月にしてはポカポカ陽気で、日一日と冬に向かって行く季節がポツンと置き忘れたようなそんな暖かな日になった。
登山道の周りには赤や黄色に紅葉した木々がポツリポツリと点在していてその色鮮やかさにふと立ち止まって見入ってしまう。”景色とは心の中に映るものである”と誰かが言っていたのを思い出した。街中で見かける紅葉も確かに綺麗なのだけれど、こうやって自分の足で歩いて流れる景色の中で見る紅葉はやっぱり心に染み入るものだ。

ジンワリと汗をかいたところで山頂に着いた。
人の多さには既に免疫が出来ていたので驚くほどではなかったが、ただこの雑踏の中で三脚を立て自分を写すのはやっぱり気恥ずかしい。

ロープウェイ山頂駅の横が展望台になっていた。疲れてベンチに座り込んでいる男性、望遠鏡を覗くのをおねだりしている子供、記念写真を撮って盛り上がっている学生、そしてゴーッと音と立ててゴンドラが登ってくる度に新たな歓声が響く。そんな色んな人達のざわめき中で展望に立った。
展望台からは南方面が一望出来るはずで、案内板にはここからは妙義山や浅間山、それに富士山も見えると書いてあるが逆光のため白く霞んで何とか薄っすらと山の輪郭が分かる程度だった。

左:榛名富士山頂からの南側の展望 ロープウェイの山頂駅が見える

右:榛名富士山頂からに東側の展望 二つ岳、相馬岳が近い

山頂はここからさらに上にあるらしく、見上げると赤い社が見えて、そこへ向けて長い人の列が続いていた。
そこまで歩いて3分もかからなかった。
赤く小さな神社があり、人が多くて参拝の順番待ち状態だった。いよいよ僕の順番になって綱を揺らして鈴が鳴った途端・・・あれっ何をお願いするんだっけ?・・・と慌てて考えてしまった。とりあえず山登りの安全を願ったけれどこんなんではご利益ないだろうな!と苦笑してしまった。

山頂から榛名湖温泉へ降る道は北側にあって霜柱がまだ多く残っていた。なぜかこちら側の斜面には紅葉した木々の姿はなく全体的に地味な感じ、それでいて先ほどの山頂での喧騒が嘘のように静かで寂しい感じさえする。急な斜面を深く積もった落ち葉を蹴散らしながら降って行く。


烏帽子ヶ岳登山口の鳥居を抜けるとお稲荷さんがズラリと並んでいた

さてお次は烏帽子ヶ岳だ!
榛名湖畔から見た時、三角形の榛名富士に負けじと個性を放っていたのが烏帽子ヶ岳だ。本当に烏帽子の格好をしている。あまりにもグンと競り上がっているため山頂はオーバーハングしているような錯覚を抱かせる。

道路を少し進むと榛名温泉があって、入り口に「天然100%かけ流しの湯、入浴料400円」の文字がデカイ。ここでちょっと温泉に・・・と言う考えも脳裏をかすめるが、いかんいかん今日はただでさえ時間が無いのだ、とにかく山頂へ進むのだ。

赤い鳥居を三つ抜けるとすぐに登山道の標示板が見つかった。しかし道には車が通った跡があり、それが左右に分かれているのでどっちに進んで良いか分からない。多分こっちだろう?木々の間から見える山と地図を頼りに進んで行くとやっと登山道らしき小さな道へ出た。

尾根(烏帽子ヶ岳と鬢櫛山の鞍部)まで登るとそこから一気に烏帽子ヶ岳山頂を目指し道は急登になった。ただ急は急なのだけれど距離が短いのですぐに山頂へ出てしまった。


烏帽子ヶ岳山頂からの展望 左から二つ岳、相馬岳、そして榛名富士。この右には榛名湖も見えている

山頂は一面背の低い熊笹に覆われていて周りを木々に囲まれているので展望は無かった。山頂を表す標柱も朽ちかけて熊笹の上でぐったりしている。二つ目のてっぺんでは展望無しか・・・とガッカリしていると熊笹の中を先に進む道を発見。

ずわーん!その先にはハッとするような展望が待ち構えていた。ちょうどそこは山頂の端っこなので下は切れ落ちていて、ちょっとビビリそうになるけど展望は最高!
真正面にはボカッと隆起した二ツ岳が見える。山頂にはアンテナだろうか?何か建造物が立っているのが見える。その横にはこれまたボカボカ隆起した相馬山があって二つの山の周りは平らな緑の草原になっている。

榛名富士はここから見ても端正な三角形は相変わらずでまったく”富士”の名前の通りだ。
榛名湖を挟んで対岸には氷室山と天目山も見えるがこちらはもろに逆光なのでシルエットにしか見えない。
ここから見ると山全体の紅葉進行状況が分布図を見ているように分かる。山頂から中腹にかけて既に紅葉は終わってしまい茶色になっているが榛名湖から下は今がまさに最盛期と言った感じだ。今年は紅葉するのが例年より随分遅いみたいだけれど榛名湖畔の紅葉は麓まで駆け下りようとしている紅葉前線のシンガリにかろうじて引っ掛かっている感じで本当にギリッギリッだったな!とあらためて思った。


烏帽子ヶ岳山頂から榛名湖を見下ろすとモーターボートの波紋が綺麗だった

登ってくる時はそんなに感じなかったのだけれど烏帽子ヶ岳山頂からの降りは急でしかも落ち葉がしっかり積もっているので滑り易くちょっと手ごわい存在だった。前後を歩いている女性は張られたロープにつかまりながら降っているのだけれど、僕としてはそこまでやることはねえべぇ!と余裕を見せるつもりで降りて行ったので短い距離にかかわらず足がガクガクになってしまったのだった。


鬢櫛山山頂 木々の間に烏帽子ヶ岳が見える程度の展望

鞍部まで降りて見ると木の幹に「鬢櫛山まで30分」の札があった。
地図を広げてみると鬢櫛山への登山道は表記されていない。不安になったが道はしっかり踏まれているようだ。おーし、だったら行ってやろうじゃないの!今日三つ目のてっぺんを目指すことにした。

この道はさっきの烏帽子ヶ岳への道に比べたら随分楽な勾配だった。後ろに烏帽子ヶ岳の姿を見ながらあっという間に鬢櫛山山頂へ着いた。気合を入れて登って来たのに山頂からの展望は悪く、木々の間からかすかに烏帽子ヶ岳が拝める程度だった。

少し休んで登って来た道を引き返そうとしたらまだ先にも道は続いている。地図を出して確認してみるとやっぱり道の表記は無い。
山頂で休んでいる男性に訊いて道を確認することにした。この男性、杉本さん(仮名)は僕と同じバスでやって来て、抜きつ抜かれるの榛名山壮絶バトルをこの山頂まで繰り広げて来た人なのだ。榛名富士の登山口から登り始めたのは僕の方が早かったのだけどあとわずか山頂まで10メートルという一番悔しい思いをするところで見事ぶっちぎられてしまったのだ。
んなろー、ぜってい追い抜いてやっかんなー!と思ったけど中々追いつくことが出来なかった。
しかし杉本さんは山頂や分岐点でコースタイムや登山道の状況や感想をきっちりメモする人であったのでメモしてる間に僕がシメシメとほくそ笑みながら追い越してしまった(かなり情けない追い越し方ではあるけれど)。逆に僕がバシャバシャとシャッターを押している間に追い越される・・・ということをここまで繰り返して来たのだった。そんなライバル(こっちが一方的に意識しているだけなんだけど)の地図を見て唖然とした・・・ちゃんと道があるではないの!!!
僕の98年版の昭文社の山岳地図に登山道は載っていないが最近の地図にはシッカリと表記されていた。
おーし、それだったら先に行ってやろうじゃないの!登って来た道を引き返すのを止めて先へ進むことにした。

鬢櫛山山頂からの道は展望は無いが熊笹に覆われていて木々の間から太陽の光が燦々と降り注ぎ明るくて気持ちが良い道だった。
もう少しで舗装道路まで降りるという地点で先を歩いていた杉本さんが引き返して来た。踏み跡がかぼそく、道が分からなくなってしまったらしい。おーし、それだったら僕が見つけてやろー!こんな時は山歩きの経験豊かな方が何かと勘が働くものなのだ!
熊笹をかき分けながら進んでいると突然コンクリートのブロックを積み上げられた高さ10メートル位の壁の上に出てしまって、ここは飛び降りられないなー!とガックリしていると「こっちですよぉー!」と向こうから声がかかった。何だかいつも出遅れている感じにさいなまれてしまう。


覗岩からの展望 期待に反して榛名湖が一望出来た よかった、よかった!

「どうにか辿り着きましたね!」舗装道路に出ると、それまで少しよそよそしかった二人の関係が良い感じになっていた。
どうやら杉本さんも僕と同じで最終バスの時間までに歩ける限り歩いてやろう!という上州イケイケドンドン作戦らしい。

太陽はまだ高い所に陣取っている。んじゃー、次は掃部ヶ岳ですねー!んじゃー、ご一緒に!という雰囲気だったのだけれど・・・
お先にぃー!杉本さんがメモし始めたのを見て、シメシメ今のうちにぶっちぎってやろー!とまたまた姑息な作戦に出てしまった。


登山道の途中にポツリポツリと点在している紅葉には思わず足が止まってしまう

今日、四つ目の山、掃部ヶ岳へは榛名吾妻荘の直ぐ脇から登って行く。それにしても杉本さんは歩くペースが全く落ちない。僕は歩くのは遅いけれど最後までペースがあまり変わらない。そのため登り出しは他の登山者にバンバン追い越されても山頂付近では追いついてしまうことが多い。
今回もまー、こうやってゆっくり歩いていたらそのうち杉本さんも歩くペースが落ちるだろうから、そうしたらぶっちぎってやろうとたくらんでいたんだけれど、それどころか覗岩への途中で逆に杉本さん追い越されるしまつだ。杉本さんと僕とは二十歳以上離れていると思うのだけれど・・・まったくなんちゅー人だぁー!

覗岩は山の中腹にあるのであまり期待はしていなかったけど予想以上の展望だった。榛名湖を挟んで榛名富士と対峙している。
山の下にある湖や池がその姿を水面に映している景観は素晴らしい。榛名富士は三角形の山だから水鏡に映った影もきっちりと逆三角形をしている。その影の上を白鳥の形をした遊覧船が音も無く滑るように走って行くと船先から波が広がってユラユラと影を揺らしている。こんなうららかな小春日和の日にぼんやりと眺めるその情景は少し出来すぎの映画のようだった。


掃部ヶ岳山頂 南から西側の展望は良い

覗岩から分岐点まで戻り、そうしてほんのスプーン一杯ほどの汗をかいたところで掃部ヶ岳へ到着。先に着いていた杉本さんは余裕の表情で景色を眺めながら熱心にメモを取っていた。

山頂からは榛名湖方面の展望は無かった。南から西にかけての展望は良かったのだけれど逆光で白っぽくなってしまっていた。ただそれでも妙義山や浅間山はそのシルエットを一目見ただけでそれだと分かる個性を放っていた。

「杏が岳まで行けるかな?」杉本さんが遠くに視線を移す。僕と同じく17時10分発の最終バスの時間までめいっぱい歩くらしい。負けては居られない!ここで杉本さんと別れて僕は5つ目の山、天目山を目指して降って行った。
今日登った山はどこも榛名湖からの標高差が小さく、登る距離も時間もそう大変ではないのだけれど、とにかく登山道は急勾配が多い。こうやって掃部ヶ岳から降っていても大腿四頭筋が悲鳴をあげている。もー、明日は絶対筋肉痛になるな!そんな予感がする。
それだったらゆっくりと歩けば良いのだけれど、今日は時間が無い!歩き出したのが午前10時と遅く、それなのに夕方までに一つでも多くの山に登りたい!と2ヶ月ぶりの登山は実に貪欲なのだ。


掃部ヶ岳から降ってゆく 

おーし、榛名湖一周して来たぜぇ!見覚えあるバス停が見えてきた。
さてこれから相馬山、天目山へ向かうのだけれど地図のコースタイムを見るとかなり厳しく、はたして最終バスまでに戻って来れるだろうか?一抹の不安が頭を過ぎる。
この二つの山は榛名富士に登る前に登った方が順番的にも良くて時間も短縮出来たかもしれない、が今さら悔やんでも遅いのだ。


氷室山からの展望 かなり暗くなっていた

相馬山への登山道は”関東ふれあいの道”となっていて木の階段が設置してあり整備されていた。山頂のすぐ手前の位置からは榛名湖が見えるのに山頂は木々に囲まれて展望は無かった。
時間はまだ16時なのに西に傾いた太陽には雲がかかり日没前なのにかなり薄暗い状態だった、がむしゃらに日が暮れようとしている。
ここでハッとしてしまった。最終バスの時間は確かに17時10分だけれど日没の時間は16時半だ。ってことは次の天目山山頂付近で丁度日が暮れてしまうことになる・・・これは非常にマズイ!もちろんヘッドランプは持って来ているけど落葉の積もった登山道はへッ電の光では判別しにくいのだ。

おーし、今回はここでお・し・ま・い・だ!
予定では最終の17時のバスで帰るつもりだったが一つ前の16時半のバスで帰ることにした。

バス停でバスを待っているとあれ?杉本さんがやって来た。話を訊くと杏が岳へ行くのは時間的に無理みたいだったから枝の神峠から引き返して来たらしい。
今朝、榛名富士で出会った杉本さんは寡黙な人だったのに、今ここには饒舌になった杉本さんが居る。今日のこと、榛名山のこと、紅葉のこと、今日登った山の数以上の思い出が出来たみたいだった。

動き出した車窓から眺める榛名山の山々は段々と黒味を帯びていく空の中に今にも吸い込まれてしまいそうで、そのまま冬に誘われてしまいそうに映る。
僕は思わずフリースのファスナーを首まで引き上げる。

秋の山には夏のようなにぎわいは無く、けっして多くを語りかけてはこないけれど心に染み入る透明さがあって、そんな移りゆく季節の山の1ページ触れた一日だった。

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