会津駒ケ岳、平ヶ岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆8月4日
上野(5:10) +++ 栗橋(6:03/6:05) +++下今市(7:23/7:26) +++ 会津高原(8:34/8:45) ===駒ケ岳登山口(10:10/10:15) --- 駒ノ小屋(13:50/14:00) --- 駒ケ岳(14:20/14:30) --- 中門岳(15:20/15:25) --- 駒ケ岳山頂(16:00)(テント泊)

◆8月5日
駒ケ岳山頂(5:30) --- 駒ケ岳登山口(7:30/8:53) === 尾瀬御池(9:25/9:25) ===平ヶ岳登山口(9:55/10:00) --- 池ノ岳(16:15) --- テント場(16:30)(テント泊)

◆8月6日
テント場(5:10) --- 玉子石(5:30/5:50) --- 平ヶ岳(6:20/6:40) --- 平ヶ岳登山口(10:00/10:18) === 尾瀬御池(10:50:/10:50)=== 会津高原(12:30/12:48 ) +++ 浅草(16:03)

山日記

駒ヶ岳登山口でバスを降りた。時間は午前10時、炎天下の中を歩きはじめた。
舗装された道を行くと木の階段があった。いよいよ登山道に入る。しかしここまで歩いただけで汗びっしょりである。階段の前には駐車している車が十数台あり、ここまで車で入った人がなんともうらやましい。
登山口からヘリポート跡までは結構急登であり「もうー、だめだ!」と早くも息があがってしまった。それにしてもあづいあづい暑い!頂上はまだまだ遠いのにすでにバテてしまって大丈夫なのだろうか?しかし休憩したら大分回復し呼吸も落ち着いてきた。ふと遠くに目を移してみるとここは晴れているのに燧ケ岳上空には黒い雨雲が広がり雷が鳴り響いている。
水場に着いて水を補給していたらポツポツと雨が落ちてきた。晴れて暑いのはI嫌だが雨はもっと嫌だ。


駒ケ岳山頂 木々に囲まれて展望はなく、天気が悪いので誰も居なかった
小雨の中を歩いていると突然視界が開けて緑の草原になった。草原の頂上には駒ノ小屋がありその向こうには駒ケ岳が見えた。晴れていればこの青々とした緑が夏の光にキラキラ輝いて素晴らしいに違いない。天気は悪いがガスってはいない、まあこれだけでもOKとしよう。
それにしてもアブかブヨか分からないけれど虫の大群が顔の周りのまとわりついてうるさい。それにチクチク刺してくるから始末に終えない。
小屋には数人の宿泊客がいたが、中門岳に向かう間は誰にも会わなかった。それもそのはずである!小雨に加えて頭上では雷が轟いている。直ぐ頭の上でゴロゴロ鳴っているので雷が今にも落ちて来るのではないかと心配だ。湿地の中を木道が長く続いている。あぁー!晴れていればどんなに素晴らしい景色だろう。

中門大池 小雨が降って雷が鳴って虫がブンブンと最悪となった
景色をもっとゆっくり見ていたいが雷ゴロゴロで虫がブンブンと落ち着かないので足早に駒ケ岳頂上まで引き返した。
頂上は木々に囲まれて展望は無い。テントを設営出来る箇所はここしかないようだ。雨に濡れるし,虫はブンブンうるさいし急いでテントの設営にかかった。
テントの中に転がり込むと心が落ち着いた。ウイスキーを飲みながら何気なくテントの天井を見上げておどろいた。虫がテントの外側(テントとフライシートの間)に無数にへばりついていた。テント内にも僕が入るときに一緒に入ったに違いない虫が数匹飛び回っている。テント内でドタドタを虫を追いまわし七転八倒の末どうにか排除出来た。テントの外にへばりついている虫は気色悪いが我慢するしかない。
それ以上に驚いたのは先ほどチクチク刺された耳に触ってみると耳たぶがパンパンに腫れ上がっているのだ。しかしたまらん!この虫は僕に恨みでもあるのか!山行はあと二日ある。悪化しなければ良いのだが。
そういえば駒ケ岳山頂と書かれた塔の裏に小さな慰霊碑があった。今夜、頂上には僕と遭難したアンタと二人きりらしい。せっかくの縁だ、鎮魂歌を歌ってあげよう。曲は僕の十八番で「逢いたくて逢いたくて(by園まり)」だけど別にアンタに逢いたいわけじゃないよ。雨も大降りになってオバケは出やすいと思うけどどうか出ないで下さいね。

駒ケ岳山頂から少し降った所 うっすらと燧ケ岳が見えた 晴れてくれたら良いのだけれど。。。
翌朝目がさめると曇り空だが雨は止んでいた。
朝食に牛丼を食べて元気を出そう、今日は一度下まで降りて平ヶ岳まで登り返さなければならないのだ。
テントを出て靴を履こうとしたら元気が「シュルシュル」と音を立てて萎んでしまった。前室に置いていた登山靴になみなみと雨水が溜まっている。吉野家の牛丼大盛りはうれしいがこれはうれしくも何とも無い。多分、前室のファスナーを伝って雨水が入ったのだろう。靴を逆さにするとドバドバと水が流れ落ちた。朝からこれではまったく泣きたくなった。グショグショになった靴に「えいっ」とばかりに足を滑り込ませて出発した。

駒大池から見た駒ケ岳 写真を撮っていても靴の中がグショグショなのと虫がブンブン飛び回っているのが気になって。。。
相変わらず虫がまとわりついてうるさいので足早に水場まで降った。ここまで来れば虫もいない。
安心してなにか甘いものでも食べようとメントス(キャンディー)を取り出した。見れば賞味期間は95年と既に5年過ぎていた。僕は甘いものが好きではなくこのメントスを何回も山行に持って行ってはそのまま持ち帰るのを何回も繰り返した。それで5年以上も経ってしまったのだ。恐る恐る包装紙を取ってみた。一つ一つに分かれていたはずのキャンディーが全部つながって一本になっていた。さすがにこれは口に入らない、ゴミ袋に直行した。
駒ケ岳登山口のバス停には予定より早く着いたので少し早いが昼食にした。急に天気が回復し夏のぎらぎら太陽がでしゃばり出ていた。ラーメンを食べている間、濡れた物をアスファルトに仲良く並べて乾かすことにした。驚いたことに雨水があれほど溜まって濡れていた靴もほとんど乾いていた。GORE-TEXインナーのおかげだろうか?
トイレの鏡で虫にさされた耳たぶを見て唖然とした。大きさは普段の倍のダンボ状態、おまけに紫色に腫れあがっていた。しかし痛みやかゆみは無く「これだったら心配ない!」と自分に言い聞かせた。こんな虫さされぐらいでへこんでいる訳にはいかない。山行はまだ先が長いのだ。
尾瀬御池までバスで行き、尾瀬口行きのバスに乗り換える。乗客は僕一人だけだった。

玉子石 緑の中に点在する池塘がきれいだ。まさしく別天地といった景色
平ヶ岳登山口に着いたのは午前10時。ここから6時間の登りが待っているのだ。10台位の車が駐車してある。「こんな時間に登り始めるのは僕だけだろうな」と思ったら、いたよ!いましたよ、夫婦二人組がいました。「♪ひとりじゃないってすてきなことねえー」真理ちゃんの歌が脳裏に浮かんだ。
20分ほど平坦な道を進んで行くといきなり急登の尾根道となる。10分も登ると汗が吹き出てきた。頭上から夏の太陽が容赦なくオレンジ色の熱線をこれでもか!と浴びせてくる。あづい、あづい、暑すぎる。灼熱地獄とはまさしくこの事だ。それでもときおり谷から吹いてくる風には沢の上を渡ってきた涼しさがあり熱にうだった体をほんの少し生き返らせてくれる。

平ヶ岳山頂 ただただ広い ニッコウキスゲも多い。時間があったらのんびり散策してみたいのに残念
ここからまだ6時間の登りである。やはり駒ケ岳を降って平ヶ岳に登る今回の計画には無理があったなと後悔し始めた。「ここで背中の重たいザックを谷に投げ捨て、降って温泉につかりながら冷えたビールでも飲んだらどんなに幸せだろう」と思う。
遠くで雷の音がする。音がする方を見ると燧ケ岳山頂は昨日と同じく黒い雷雲に覆われて雷が鳴り響いていた。なんとも不気味な感じがした。
一時間ほど暑さにあえぎながら登っているとさっきまでの晴れた空が嘘のように段々曇り始め雷鳴も近づいてきた。ポツリ、ポツリと雨が降ってきたかな?と思っているといきなり土砂降りとなった。あわてて合羽を着ると今度は蒸し蒸し地獄だ。我慢して登っていると雷が直ぐ頭上にやって来た、もう雷地獄だ。
それにしてもすごい音だ。大気を引き裂いた波動が衝撃となって僕の周りを疾走している。空気も分子レベルで振動しているかのようだ。周りには高い木も無く今にも雷が脳天目差して落ちてきそうだ。おまけに登山道も滝の様に濁流が流れ歩行もままならなくなってきた。「こりゃまずい!どこかに一時避難しよう」と思った。少し高くなった所でザックに座り、取り出したフライシートを頭から被った。
30分ほど中でお菓子をほおばっていると早くも頂上から引き返してきたらしい4,5人のパーティーが降りて来た。雷が頭上で鳴り響いているのに平然と歩いている。中の一人は合羽さえ着ておらずズブ濡れである。訊いてみると「下に駐車している車に着替えが置いてあり、どうせ着替えるので濡れても構わない」と言う。まったく大胆な奴だ。雨は降っているが雷は大分遠ざかったので出発した。

平ヶ岳山頂に広がる池塘
下台倉山からは平坦な道になった。この暑さで予想以上に持って来た水を飲んでしまった。途中降りてくる人に水場の事を尋ねると「白沢清水は水の量も少なく、煮沸しないと飲めそうに無い」「台倉清水はさっきの雨で濁流となっている」「地図には無いが頂上に池塘から流れ出した水場がある」とのこと。頂上には水があると聞いて安心した。また尋ねた男性が「頂上まで水が足りないようだったら今自分が持っている水をあげましょう」とまで言ってくれた。その言葉にうれしくなって元気が出た。水はもらわなかったがお礼を言って別れた。
更に安心したのは、台倉清水に来てみるとここで雷を避けた人達が5,6人居て一気に仲間が増えたことだ。先ほどの雷停滞で予定より大幅に時間が遅れている。正直いって人が増えて心強い。
平坦なだらだらした道を歩き、最後の登りを登りきると目の前に池塘が現われた。池ノ岳にとうとう到着したのだ。
天気が悪く、時間も遅くなったので頂上には行かずテント場に向かった。テント場は板が敷いてあり、その上にテントを張るらしい。テントを設置しようとしたら隣の二人組パーティーが僕に「僕たち二人なんですが六人用のテントを持ってきました。すいませんがかなり場所をとってしまいます」と言ってきた。そんなわけで既に設置してある4人用位のテントとこの6人用テントに挟まれてかなり窮屈だったがテントに入り濡れた合羽を脱ぐと気持ちが落ち着いた。夕飯にカレーライスを食べてウイスキーを飲んだら瞼が重くなってきた。かなり疲れていたらしく泥のように眠る。

池ノ岳から見た平ヶ岳 あっ、こらー、かんじんな時にカメラのレンズが曇ってしまって。。。残念!
翌朝は快晴だった。玉子石を見に行った。ほんとに玉子みたいに丸い。その向こうに朝露に輝く緑の草地の中、水面に空の青を映した池塘が広がっていた。朝日に照らされた剣ガ倉山にかかった薄い雲が山の表面を流れるように漂っている。この景色には何も言う事なし。ここまで来た甲斐があったというものだ。
平ヶ岳頂上は真平らな緑の草原である。その草原の緑に縁取りされて周りの燧ケ岳などの山々が浮かんでいる。安心したのは木道が設置されていたことだ。木道が無かったら登山者が自由に草原を歩き回りこの自然を後世に残すことは出来なかっただろう。
池ノ岳から見た平ヶ岳もきれいだった。池の奥になだらかな山頂を見せる平ヶ岳を見ていると何となく優しい気分になれる。
もっともっと見ていたいがバスの到着する10時までに登山口まで戻らなければならず、後ろ髪を引かれる思いで下山した。
今回は休みが短くて駆け足の山歩きとなった。次に来るのは秋が良いな。その時は池ノ岳の木道にあぐらをかき、ウイスキー片手にのんびりと平ヶ岳と対座して会話してみたい。

尾瀬御池で会津高原行きのバスに乗り換える。燧ケ岳からの下山者でバスは満員だった。バスに揺られて30分ほど経った時に尾瀬御池からのバス無線で「今、御池はどしゃ降り状態だ」と言う声がスピーカーから流れた。バスの乗客は口々に「ギリギリ間に合って良かったね!」と歓声をあげている。今、御池に居る人は大変だろう。しかし人の不幸は少し嬉しいと思ってしまういけない僕なのだ。

参考

駒ケ岳山頂付近でテントを張れるのは山頂しかない。
池ノ岳はテント場あり。水場もあり。
尾瀬御池のバスの乗り継ぎは時間が無い。乗車した際に車掌のそのことを伝えると無線で連絡してくれ、乗り継ぐバスは発車するのを待ってくれる。

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