宝永山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆2月12日
新松田 (8:00) === イエティスキー場 (9:10) --- 水ヶ塚公園 (9:20/9:40) --- 宝永第二火口 (12:30/12:40) --- 宝永山 (13:35/13:40) --- 宝永第二火口 (14:10/14:25) --- 水ヶ塚公園 (15:45/16:00)--- イエティスキー場 (16:10/16:33) --- 御殿場 (17:29/17:35) +++ 川崎(19:31)
山日記

11日、朝3時に起きてパッキングを始める。
いよいよ以前から計画していた冬の赤岳を目指すのだ。
今から繰り広げられるだろう山の景色を想像すると眠気も吹っ飛び胸が躍った。
装備リストを見ながらそろえた装備が床の上に並べてある。みんな、この2日間よろしくたのむでぇ!装備を次々とザックの中へ入れていると・・・何とサングラスのツル部分がボッキリと折れてしまった。
予備は無いし、まーっ、サングラスは無くても何とかなるだろう!とパッキングを続けていると何だか不吉な予感がする!これはきっと山の神様?それとも・・・ご先祖様?が行くんじゃない!と言っているのではなかろうか?
それに天気予報では西高東低の気圧配置で風が強そうだし、もし吹雪いてサングラスが無いとそれは厳しいな、それに雪目も怖いし・・・と段々と弱気になっていった。
止めた!パッキングを終えた時点でビビリ屋の意気地なし魂がとうとう爆発してしまった。
赤岳はまた今度にするべ!んーんそうしよう・・・などと弱気な結論に終止してしまうのだ。

三連休も残り一日。
明日は日帰りでどこか近くの低山へ!と行きたい山をあれやこれやと考えていたのだけれど、どうしても脳裏に浮かぶのは雪山の姿…でも川崎から日帰りで行ける高い雪山は?そうだ昨年途中敗退してしまった富士山五合目の宝永山へ行ってみるべ!
昨年の山行記録を見ると、自分でもすっかり忘れてしまっていたのだけれど、昨年の宝永山もやっぱり赤岳へ行く予定が風邪をひいてしまい行けなくなってしまっていたのだ。
どうやら僕ってつくづく赤岳に嫌われているらしい。

水ヶ塚公園から富士山を見上げる。
空には雲一つなく晴れ渡り、紺碧の空に浮かぶ富士の姿にゾクゾクする。
富士は三保の松原からの眺めが一番素晴らしい!日本画家の富岡鉄斎の言葉だけれど静岡側からだと宝永山が隠れてしまって稜線が綺麗な放物線を描くからなのだそうだ。
たしかに遠くから見たら宝永山は富士山の嶺に出っ張ったニキビのような物かもしれん。だけどここ水ヶ塚公園から見る宝永山は富士の前衛にどっしりと構えた山なのである。
富岡鉄斎もセンスねーな!完璧はつまらない、何事も少し躍っていたほうが味があるってもんだ!生真面目な富士山も宝永山の不完全さに内心安堵していることだろ?

昨年は時間切れで敗退しているので準備に手間取ってはいけない、富士山に視線を泳がせながらもジャケットを丸めてザックに突っ込んで、ストックを伸ばして、写真を撮って・・・

公園には雪は無かったけれど登山道に入ると昨年よりは少ないけれどしっかりと雪が積もっていた。
細竹の密集した中の道を30分ほど歩いていると段々と勾配が増して少し展望が開けてきた。
木々の間から見える富士山は確実に近くなっている。群青の空、白銀の雪、そして宝永山の赤茶色の色合いが本当に綺麗だ。

本当に来て良かった!と思う気持ちも長続きしないのだ。
それからほんの10分後には、東の空から野獣の咆吼を思わせるような白く筋状の雲が頭上の青空の中に音もなく吹き込んできた。
太陽の輪郭さえもぼんやりとにじんでしまうと、さっきまでの陽光の暖かさが懐かしい。太陽が有ると無いとではその温度差は大きく景色さえ止まって見える。


水ヶ塚公園にはこんなのが広がっていた!青空いっぱいの富士山。右の茶色の山がこれから向かう宝永山

御殿庭から森林限界を抜けると第二火山口分岐、そこには大展望が広がっているはずだった。
富士市街を見下ろすと重そうな灰色の雲の下にくすんだ町並みが広がっているだけ、そして富士山頂は雲の中にすっぽりと包まれていた。
登り始めが快晴だっただけにこのギャップに余計がっくりしてしまう。
今回こそは宝永山山頂まで登ってやろう!と意気込んでいたのだけれど鈍色の景色はそんな気持ちも萎えさせてしまう。
ガスって視界は50メートルくらい。直ぐそこにあるだろう宝永山も全く見えず、雲が横切るとそこにあるのは寒々とした砂礫の残像ばかりだ。

どうせ山頂まで登ってもそこには何も無いのかもしれない!でもここで引き返したら負けだ、また敗退になってしまう!とザックからアイゼンを取り出した。

薄っすらと夏道が露出している雪の斜面をトラバースしてゆく。
ストックの先はほんの数ミリしか刺さらないほど雪面は堅いけれどアイゼンの刃はガッチリと雪に食い込んで、そのアイゼンのやる気が心地よい。

登山道は火口底まで一度降りて再び登って行く。
宝永山まで地図のコースタイムでは60分だけれど見た感じでは30分ぐらいで登れそうだった。
だけど前半飛ばしすぎて乳酸が溜まってしまったのか?登っていると思うように足が前に出てくれない。砂礫の登山道は足をズルズルと後退させるばかりで苛立ってしまうので雪が有る箇所を選んで登って行く。


宝永火口の底、ベンチがあって夏は人で賑わんだろうな


分岐点まではどーしょーもないくらい疲れてしまったのだ。

稜線に出た途端、目の前にはしたたるような青空だ。
富士山の北側にはまだしっかりと空が残っていた。

稜線の北側には野放図なまでに雪原が広がり、太陽の光が雪の表面で躍っている。
たまに雲が湧き上がるけれど雲の切れ間に河口湖を見つけると思わず深呼吸したくなるほど視点は遠い。
だけど見上げると富士山頂はドンヨリとした雲の中にあってコンチキショーッ!と思わずにはいられないほど嫌な感じなのだ。

それにしても富士山はやっぱデカイな!
この雲の中に山頂がしっかりと陣取っている、まだまだ更に上があるのだ!
宝永山が富士山のニキビならそのニキビの上にしがみついている僕って小さい小さいミトコンドリアくらいかもしれんな!


稜線に出ると北側にはキラメク銀色の雪原が広がっていた。河口湖が遥か下に見える。富士山はデカイ!

宝永山へは不思議なほど水平に歩いて行く。
たまに突風が吹くと頬が冷たいけれどほとんど無風状態で寒さはそんなに感じない。
宝永山に来たのはこれで2回目だけれど、こんなんだっけ?ただ風が強かったとしか印象が残って無いのでその所在を今回は確かめたいのだけれど・・・なにせ雲が多い!

石の方位盤は割れてバラバラと地面に散らばっていた。
本当だったらここから富士山頂が見えるはずなのだけれど・・・うつむいてないで姿を現わせ!と叱咤したくなるほど何も見えないのだ。


宝永山へ向かって行く。ただただ水平、僕が好きな水平な道。下界の景色が遠い。

たまに雲がスッと切れるとずっと下に御殿場市の街並みや薄茶色の草原が姿を見せる。その高度感はスゴイ!標高2693メートルは伊達じゃない。八ヶ岳の天狗岳より高いのだ・・・とここで競ってもしょーがないや!

ガスって何も見えないので写真を撮るとすぐに登って来た道を引き返す。
北側の雪原をザクザクと駆け降りたらどんなに気持ち良いだろうか!と思うけれど須走口には交通機関がないのでそれも出来ない。


宝永火山の底。写真ではめちゃ寒そうだけれど風が無くてそうでもない。次はテントを張ってやろーじゃないか!と企む

まったくやってらんねーな!
第二火口分岐まで降って来た。登って来た時には辺り一面、ガスって何にも見えなかった。それが今はどうだ!フーッと風が吹くたびに雲を軽々と押し上げている。秒針のタクトに合わせて雲も行進を始め青空がキッパリと広がり出した。東の空からは鈍色の雲がまだ動かないけれど愛鷹山もすまなそうにその姿を現わしている。
あんまりだ!2年続けて宝永山に通ったのにこの仕打ち!おまけにここに留まって青空の行方を確かめる時間も無いときてる。


第二火口分岐点へ戻って来てみるとみるみる雲が去って行く。宝永山の残雪模様がカワユイ!

水ヶ塚公園に戻って来た。
アイゼンを手に持って歩いていると今回は富士山五合目までだったけれどいっぱしの達成感に満たされる。

山での気持ちは実にシンプルだ。
つまり良いか?良くないか?と言うことだ。こうやって半端な残像が脳みそに焼き付いてしまうとまたその先が見たくなる。
富士山を見上げる。雲はまだ多いけれど宝永山はドキッと透き通る空の下!
また来ようと思った。どんなにがんばっても無限の空を埋め尽くせやしないかもしれない。
だけど皆がこの良さに気が付く前に密かにトキメキを独り占めするのだ!


水ヶ塚公園まで戻って来ると・・・やっぱ段々と雲が無くなっているいるじゃんか!
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