鳳凰山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆4月29日
立川 (6:43) +++ 甲府 (8:45/9:00) === 夜叉神峠登山口 (10:14/10:20) --- 夜叉神峠小屋 (11:20/11:30) --- 杖立峠 (12:35/12:40) --- 山火事跡 (13:20/13:30) --- 苺平 (14:00/14:05) --- 南御室小屋 (14:35/14:45) --- 薬師岳 (16:30/16:40) --- 薬師岳小屋 (16:50/16:55) --- 薬師岳 (18:00) (ビバーク)
◆4月30日
薬師岳 (6:40) --- 観音岳 (7:05/7:20) --- アカヌケ沢ノ頭 (8:30/8:50) --- 地蔵岳 (9:10/9:30) --- 鳳凰小屋 (10:05/10:45) --- 燕頭山 (12:15/12:30) --- 御座石鉱泉 (14:30/15:15) === 韮崎 (15:55/16:08) +++ 高尾 (17:30)
山日記 (4月29日)

ゴールデンウイークには屋久島、鈴鹿、そして北アの蝶から燕・・・と行きたい所が沢山あって悩んでいた。
屋久島はそう何回も行ける所ではないのでもう少し目が肥えてから行こう!と候補から脱落。
鈴鹿は夜行バスの予約が取れず、これも候補から脱落。
残るは蝶から燕だな!おーし、行ってみっか!と計画を立てていると・・・・
甲府から夜叉神峠までゴールデンウイーク期間中だけバスが運行するとの情報をキャッチ!
車を持っていない僕にとってこれは押さえておかないといけない。
と言う事で急遽、鳳凰山へ行くことにした。

甲府から乗ったバスには登山者13人で車内はガラガラ状態だった。
鳳凰山って意外と人気無いんだな!と思いながら夜叉神峠に着くと・・・
わっ!駐車している車が多い、人が多い!やっぱりゴールデンウイークだ、いよいよ本格的な登山シーズンに突入だな!おーし、僕も行くぜぇ!。
登山口の水場でポリタンを一杯に満たし登山道へ突入。

夜叉神峠小屋前の展望も雲が多くイマイチでした
一歩足を踏み出す度にザックの重さがぐぐっと加わってたまんないっす!ってこれ嬉しい悲鳴だ。ザックの重さも気にならない。
ここ最近、というか半年もテント山行から遠ざかっていたので、あの大地に寝転がる安堵感、空の大きさを実感すること、風が吹いて木々がザワザワすること、そんな色々な自然に抱かれているような心地よさが、もーたまらなく懐かしくて、恋しくて・・・
心待ちしていた今年初めてのテント山行がいよいよ始まった。
夜叉神峠小屋への登山道には雪は無く、木々も芽吹いたばかりという感じで森全体がまだ地味な雰囲気。ただ気温は高く、Tシャツに薄手のズボンという軽装なのだけれど早くも汗がポタポタと額から流れ落ちる。冬の間は遠慮がちだった汗腺も今日は全開フル活動だ。
ただ一度汗を掻いて全身がしっとりしてしまうと、それから汗はあまり出なくなって、暑くも無く、寒くも無く、春らしい快適な歩きに変わった。

苺平からは一面の残雪

夜叉神峠小屋で一気に展望が開けて白峰三山との御対面!となるはずなのだけれど、この日は空が薄っすらと霞んでいて、それに雲もあって昨年の夏以来の南アルプスとの再会は感動もイマイチでぎこちないものになってしまった。

山火事跡も展望が良い場所、ここでも展望を期待したけれどやっぱり雲が多く、かすかに山の輪郭がどうにか分かる程度だった。

山火事跡からは樹林帯の中を歩くようになるのだけれど、ここまで無かった雪が段々と増えていき、苺平から先は一面の雪という状態になった。
マズイな!出発前にインターネットで夜叉神小屋のライブカメラ映像を見たんだけれど雪はすっかり融けてしまっていたのでピッケルはおろか、アイゼンさえも持って来ていなかった。この先、凍結している場所があったらはたして登れるのだろうか?と不安になってしまった。

南御室小屋のテント場は2/3が雪で埋もれ、どうにか1/3の地面が露出しているという状態だった。その狭い地面の上に既にテントが3つ張ってあった。
ここで幕営するか?先へ行くか?悩んだ。
この先のテント場は鳳凰小屋で、そこまで行く時間は無いので当然ここが今日の幕営地なのだけれど、何とかして今日中にひと目でも白峰三山を見たいと思った。薬師岳まで行ったら標高も高いし、もしかしたら見れるかもしれない。だけどテントはどこに張る?そうだ、テントは薬師小屋の横に張らしてもらおう!そこまで思ったらいても立っても居られなくなってしまって水を補給すると直ぐに出発した。悩んで間に更に2つテントが増えていた。(後で聞いた話ではこの日、10のテントが張られたらしい)

登山道には相変わらず雪、あまり深くはないけれど腐っていて、20歩に一度くらいはズボッと踏み抜いてしまう。ヘトヘトになりながらもどうにか薬師岳小屋に到着し、そのまま小屋の横を通り過ぎて薬師岳山頂まで登っていった。


砂払岳から目の前に薬師岳を臨む
がんばってここまでやって来たのに無残にも期待は達せられず、そこは白い一面の世界が広がっているだけだった。空は晴れてはいるが雲が多く、全体に薄っすらと霞んでいる。北岳の方を見ると霞んでいるのか?曇っているのか?とにかく何にも見えない!
あちゃーっ!昨年の夏と同じで何も見えないとは、2回続けてアウトとは、せっかく頑張って登って来たのに・・・誰も居ない山頂でただただため息しか出てこない。
とりあえず標柱の横で記念写真でも!と思うけど風が強く、それもままならない。

もーこうなったらトットとテントを張って酒でも飲むしかない!くたびれた足で薬師岳小屋へ降りて行った。

小屋は窪地に建っているのでまだまだ深い雪に埋もれていた。
丁度、小屋番さんが小型のユンボで除雪作業中だったので声をかけた。
「あの、小屋の横にでもテント張らして欲しいのですが・・・」
「ここはキャンプ禁止です。テントを張るなら鳳凰小屋まで行くか、南御室まで戻ってください!」

唖然、騒然、突然、呆然!ガーン、なんとテント禁止だ!
時計を見るともう直ぐ5時だ。鳳凰小屋まで行くのは時間的に無理だし、南御室まで戻っても小屋に着くのが6時を過ぎてしまうだろう。
テント禁止は分かる!それにしても小屋番さんも融通が利かないっていうか、無情というか、キビイシというか、もうこんな時間なんだから許してくれよ!と思った。
小屋の前は8畳ほどの広さに雪が踏み固めた状態になっていた。「すいません、ここにテント張ってはダメですか?」と哀願した。
「ダメ、ダメ、ダメ!この辺りは一切、テント禁止なんです!」とやはり冷たい仕打ちだ。

「ここからだったら南御室へ戻った方が近いですよ!」小屋番さんの声が背中で聞こえる。小屋の横にテントを張らしてもらえると思っていた自分の考えの甘さに腹がたった。
当然、ここは南御室へ戻るべきなのだろう。だけどとてもそんな気は起きなかった。観音岳へ向かって歩ける所まで歩いてそこでビバークしようと思った。


薬師岳へ登って行きます やっぱり綺麗な場所
一度立った風の中にもう一度立った。空には灰色の雲が重くたちこめてドンヨリとしている。
薬師岳山頂から観音岳を臨む。晴れていたらこの平坦な稜線は気持ちの良いプロムナードコースなのだけれど、こんなイケスカナイ空の下では途方に暮れさせる景色だ。
こんな強風を遮るような木も何もない稜線上ではたしてテントが設営出来るのか?と思うと足が重くなり中々歩き出せない。
でも行かなくてはいけない。ここで立ち止まっていたら周りの景色も気分も暗くなるばかりだ。

薬師岳と観音岳との中間辺りまで歩いて来た時、とうとう焦りが頂点に達してしまった。強風を避けてビバーク出来そうな場所がどこにも見当たらない。
どうしよう?と悩んだ末に思い出したのが薬師岳山頂の東側にある窪地だった。あそこだったら風を除けてテント1張りくらい張れる場所があったはずだ。


登山道脇の岩陰に風を避けてテントを張る
周りはかなり暗くなっていたので急いで薬師岳へ戻ってい行った。
しかし僕はこんな時間にウロウロと何をやってんだ!こうなるとザックが重い。待ちに待った今年最初のテント山行がこれか?!!

薬師岳山頂から青木鉱泉へ降る道の脇に3畳ほどの平坦な露地を見つけたので急いでテントを設営した。
テントにもぐり込みウイスキーを口にするとグッと気持ちが落ち着き、フーッとお腹の底から大きなため息が漏れる。

あの時、小屋番さんの言ったとおり引き返していたらきっと今頃は南御室へ着いていただろう。自分ではビバークのつもりだけど、はたしてこれはビバークと言えるのだろうか?
雪山ではテント場以外の幕営でも仕方ないとされている。思わぬ吹雪やラッセルのために予定通りに目的地に着かないことは多いし、それに雪の上にテントを張れば自然への影響も少ない。そう雪はビバークでの免罪符なのだ!

風が強くてフライシートがバタバタと激しく音を立てる。
こうやって花崗岩の砂地の上にテントを張っているってことに気が引ける夜だった。
そして体も心もひどくクタクタに疲れた夜だった。

二日目へ続く

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