三ツ石山、岩手山 (裏岩手縦走)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2019年9月25日
盛岡駅 (6:54) === 松川温泉 (8:50/9:10) --- 大深岳 (12:00) --- 小畚山 (12:55)
--- 三ツ石山 (14:00/14:40) --- 三ツ石山荘 (15:00)

山日記 (噂通りの山 編)

5年前の9月に八幡平から秋田駒ケ岳まで縦走した。
今回はその裏岩手縦走の残りのコースを歩くことにした。

本当は八幡平から岩手山まで2泊3日で歩きたかったけど休暇は二日間しかとれないので松川温泉から岩手山までの一泊縦走にした。
盛岡駅から松川温泉までのバスの時刻を調べると盛岡駅発AM6:54発のバスがあり、新幹線では間に合わないけれど夜行バスで行けば乗れそうなことも分かった。

とこれで一件落着しそうなところだが岩手山から下山地の御神坂駐車場から盛岡駅までのバスが今年の3月に廃線になったことを出発の3時間前に偶然知って正直これには焦った。
廃線になったことを知らずに御神坂駐車場に降りていたら小岩井農場まで10kmを歩かなければいけないところだった。
岩手山からは県民の森へ下山することにした。


久しぶりの夜行バスだ。今まで夜行バスで熟睡出来たことが無いのであまり利用したくないけれど盛岡駅を早朝に出るバスに乗るためには他に選択肢はない。
バスは座席4列タイプだったけれど足元が広いタイプだったので快適だった。

バス車内が消灯してウトウトし始めたころそれは始まった。
ギリギリギリッ!隣の席の50歳位の男性の歯ぎしりがとにかくデカい。うるさくて眠れない。
それにその男性が掴んでいるスマホがバスの揺れに合わせてコツコツ、コツコツと壁に当たるのも気になる。

僕だったら自分がイビキや歯ぎしりをすることを知っていたら絶対に夜行バスは利用しない。
うるさくて眠れないので予備席に変移ろうと思ったけど満席で空いている席は無かった。



予定より10分遅れのAM6:20にバスは盛岡駅に着いた。
盛岡の朝の気温は12℃で思ったより寒い。今回はザック軽量化のためフリースジャケットしか持って来ていないので山では寒いのでは?と少し心配になった。

AM6:30に駅内のNewdays(コンビニ)に開いたのでのり弁と缶コーヒーを買って改札前のベンチで急いで必死に食べた。

松川温泉行のバスは乗客が10人ほどだったので余裕で座ることが出来た。
車窓の外には盛岡を象徴するかのようにどっしりとした岩手山の姿があった。
山頂は笠雲に隠れていて天気が悪くなる前兆?なのではと気が重くなった。
ここまで何かと慌ただしかったので座席に身を沈めた途端に眠くなってしまった。

終点の松川温泉で降りて登山の準備を始める。
体を包み込むようなヒンヤリとした山の空気が心地良い。

今回はこの夏に買ったばかりのグレゴリーのパラゴン58のデビュー山行なのだ。
やっぱりグレゴリーのザックは背負い心地が良い。背面のクッションがお尻上部に乗っかるような形なのでザックがピッタリと体と固定されている感じだ。
それに今回はテントを持って来ていないのでザックが一層軽かった。

昨年まで使っていたモンベルのアルパインパック60も良いザックだったけれど気になった点
1.背中とザックの相性が悪いのか?歩く度に背中でザックがユラユラと揺れる感じ。
2.サイドポケットが小さくて500mlのペットボトルは押しつぶさないと入らない。
3.トップスタビライザーの調整金具が歩いていると段々とずれてくる。
4.ヒップハーネスにデジカメケースを付けにくい。

ただこのパラゴン58は軽いけれどザックのベルトが細く、サイドポケットの素材が薄くて伸びる素材なので耐久性に不安を感じる。

広葉樹の中の木道を緩やかに登って行く。
頭上は木々に覆われているので空が見えないけど葉の間をすり抜ける光は薄いのできっと曇っているのだろう。
今日は久しぶりの山登りなのでこうして森の中を歩くこと、自然の中に身を置くことが実に清々しい。
今年の夏はとうとう山に行けなかった。休日と晴れがうまく重ならなかったからだけど、ここ数年、以前より大気が不安定な日が多くなった気がする。

水場辺りから道は少し急になった。
日帰りらしい小さいザックに人、数人に追い越されたけれどそれにしても皆さん歩くのが速い。
紅葉のベストコースは松川温泉をベースに大深岳から三ツ石山を周回するコースらしいので(逆回りでもOK)歩き始めから気持は高揚したけれど久しぶりの山登りを楽しみたいと思う気持が強くて焦りは感じることは無かった。


松川温泉から登ると森の中に木道が続いた。これはこれで良い感じだと思いながら歩く。

源太ヶ岳の分岐から水場へ向かうと道は草原に変わり見晴らしが良くなった。
振り返ると岩手山が少し霞んで見えていた。遠くは晴れているのに山の上だけ雲に覆われているのが気になる。
見晴らしが良くなった分、風が強くなって寒かった。Tシャツ一枚では寒かったので長袖Tシャツを着たけどそれでも寒かったので足踏みしながらサンドイッチを食べた。

数日前のヤマレコ情報では三ツ石山荘の水場は枯れているとのことだったので大深山荘の水場に寄ろうと思った訳だけどこれは失敗だったなと思った。途中にあった水場で水を補給して直接大深岳へ登ったほうが楽だったと思った。

水場への分岐に「水場0.2km」と書いてあってそこまで行くのは面倒だなと思っていると分岐から10mほど降った場所にジャバジャバと水が流れている箇所があったのでそこで水3Lを補給した。


源太ヶ岳の分岐から水場へ向かうと道は草原に変わり見晴らしが良くなった。オレンジ色の草原が珍しい。

大深岳からこれから向かう小畚山を眺めると山肌が紅葉しているのが見えた。
空をゆっくりと流れる大きな雲が鮮やかな地表に黒い陰影を作っていた。

大深岳から三ツ石山の間が裏岩手縦走路の中で最も人気の紅葉スポットであることを最近まで知らなかった。もちろん5年前、八幡平から秋田駒ケ岳まで縦走した時も知らなかった。
今回、大深岳から岩手山までの登山道情報を得ようとネット検索した時に三ツ石山の紅葉情報を見つけたのだ。

これは行くしかない!紅葉を見るしかない!と紅葉の時期に合わせてこうしたやって来た。
こうして大深岳から眺めてみると確かに小畚山とその向こうの三ツ石山の山肌が赤くなっているのが分かる。
あとは頭上の雲が無くなってくれたら良いのだけれど何だか雲が白から灰色に変わってしまっているし・・・


大深岳付近から小畚山を眺める。晴れ間を狙って撮影したので部分的に明るい。

関東森分岐から一旦下って小畚山へ登って行く。
登山道の周りに高い木が無いので周りの眺望が良いけれど風が強いので落ち着かない。
笠雲は上空の風が強い時に出やすいので予想はしていたけれど。
振り返ると草原の上を雲の黒い影が紅葉の鮮やかな色を隠すようにゆっくりと動いているのが見える。
遠く盛岡市街地や八幡平の方を見ると全く雲が無い。何でここだけ雲があるのか恨めしく思う。
頭上の雲が切れて日差しが射しこみ周りが明るくなった時を狙ってシャッターを切った。


小畚山へ登って行く。そんな風には見えないけれど頭上には灰色の雲がゆっくりと流れている。

小畚山頂に立つとその向こう側の眺望が目の前に広がった。
赤や黄色それにオレンジ色に紅葉した緩やかな稜線が続いていた。
そのずっと先に見える黒い大きな岩が三ツ石山頂なのだろう。

小畚山から三ツ石山まで起伏のないほぼ平な草原のような地形で公園とか庭園を思わせた。
その広大な大地一面が赤、黄、オレンジ色に埋め尽くされ、ハイ松の緑色が紅葉の補色になってその彩を一層際立たせていた。

以前、紅葉の涸沢に行った時もその景色に感動したけれどここの紅葉もまた違った趣で素晴らしい。
これまでも山の紅葉を色々と見てはきたけれどここもまた他とは違う唯一無二の場所だと思う。
東北の紅葉の山と言えば栗駒山しかしらなかったけど(まだ登ったことはない)他にも紅葉の素晴らしい山はあるのだ。これだけネットが発達し周りには情報が溢れているのに知らない山の景色はまだ残っていたのだ。

色鮮やかな絨毯の上を歩いているような感じがするまさしく天空の散歩道。
周りを歩いている人達の楽しさがそのノンビリとした歩調に表れている感じがする。
この山には全く汗の匂いが感じられない。

すれ違う登山者はソロばっかりだった。やっぱり平日だとパーティ登山は難しいのだろう。
ツアーで山登りをする人には悪いけれど僕はパーティ登山者が苦手だ。
今日、ここに、こんな景色の中にゾロゾロ歩いている一団が居なくて本当に良かったと思った。
この景色を独り占め!とはいかないけれど誰にも邪魔されたくないそんな気分だ。


小畚山頂からの眺め。前方は1448mピークでその左に少しだけ三ツ石山が見える。


1448mピークへ向かう途中で振り向くとこんな庭園みたいな光景なのだ。

おーし。おーし!と歩いて行くとひょっこりと1448mピークに立った。
あちゃーっ!またやられたよ。目の前にあるのは紅葉→緑→紅葉の三段模様だ。
おーっ、小さな池もあるじゃないか!

こんな景色がわずか1400mの山上に展開されているのだ。
同じ標高の南関東の山、例えば丹沢や奥多摩の山容とは全く違っているのが不思議に思える。

歩くのが勿体ない。ゴールに近づくのが心惜しい。
お気に入りの景色が目の前に現れると自然と足を止めてしまうことも多かった。
雲の影が大地を這うように移動していくのは写真を撮るには邪魔だけど、山の広さとゆったりとした時間の流れを感じさせる演出みたいだ。


1448mピークに立つとその向こうにはこんな風景があった。赤→緑→赤は今日一番のお気に入り。

小さな池(三ッ沼)の木道を歩いて行くと景色は一変してそこは一面の緑の笹原だった。
どうしてこんなにキッパリと植生が分かれているのだろうと嬉しくなる。

この笹原も歩いていて気持ちが良い場所なのだけれど行く先には燃える様なオレンジ色の山頂が見えているのでどうしても気持ちがはやってしまうのは仕方がない。

このコースを物語の「起承転結」に例えるならばこの笹原はまさしく「転」になる場所、最後の「結」に向かって景色が故意に展開した場所ではないかとさえ思える。


1448mピークから降って池を過ぎると風景が一変して笹原に変わる。先に見える三ツ石山を目指す。

三ツ石山へ緩い道を登って行くと西側の斜面一面が赤や黄色に埋め尽くされている。
こんな景色が許されて良いのだろうか?とため息が出る。
前を見ても後ろを見ても視野のすべてが原色で一杯。

さあ、「結」に向かって最後の登りだ!


さあ、いよいよ三ツ石山への最後の登りだ。だけどそこには気合とか無くてノンビリ継続中。


三ツ石山頂の西側は紅葉に覆い埋め尽くされている。それでこの左が下の画像へ続いている。


三ツ石山頂はもう目の前。何で山頂だけ巨岩なのかなどという突っ込みはしない。

そして山頂にたった。目の前には岩手山、そしてその前には一面の紅葉が広がっていた。
盛岡駅のポスターで三ツ石山の紅葉写真を見た時には「この景色はプロのカメラマンが良い時期のほんの一瞬を狙った写真で実際に行って見るとがっかりするに違いないのでは」と思ったけれど、目の前の風景はポスター以上だった。いやポスターより実際に見る方が何倍も素晴らしかった。

何が良いかって?
何より三ツ石山の紅葉は岩手山としっかり対峙しているところが素晴らしい。
北アの涸沢や那須岳の姥ヶ平もそうだけど紅葉と山がガチンコで向き合ってお互いに一層引き立て合っているのだ。


三ツ石山頂には素晴らしい景色がまっていた。盛岡駅のポスターにもあった三ツ石山の紅葉を象徴する景色。


三ツ石山頂から1448mピークを振り返る。ただこの写真は夕方に再訪した時なので多少赤っぽい。


三ツ石山頂近くの岩場から振り返り見た山頂。風が強くて三脚を立てられない。

いつまでも山頂でこの景色を眺めていたいけれど今夜宿泊する山小屋が満員になると困るので早めに小屋に向かうことにした。

小屋の中に入ってみると宿泊者は3人だけだったので出入口のすぐ横にシートを広げて場所を確保した。
そしてマットの上にゴロンと横になると「山女日記/湊かなえ」を読んでノンビリと体を休め心も落ち着かせてリフレッシュした。

山女日記を読み進めていると「利尻山」の章で歯ぎしりの大きな女の話が出て来て、昨夜の夜行バスで眠れなかったことを思い出して思わず笑ってしまった。


三ツ石山から降って行くと山荘も紅葉の向こう側。この写真も夕方に再訪した時なので多少赤っぽい。。


湿原の中に建つ三ツ石山荘。デッキはハイカーの休憩場所になっていた。

4時になった。夕焼けを見ようと跳ね起きて再び三ツ石山へ登って行った。
誰も居なくなった山頂から眺めると岩手山前の紅葉に三ツ石山が三角の影を映していた。

日没の5時半まで周囲の山々が静かに残照に沈んで行くのを眺めるつもりだったけれどとにかく風が強くて寒い。
それに西の空には雲がいくつも浮かんでおり夕焼けも期待できそうにないので早々に小屋に戻ることにした。

三ツ石山荘は三ツ石山から松川温泉に下山する人の休憩所になっているらしく小屋のデッキにはいつも数人のハイカーの姿があったので今夜は何人の人が泊るのだろうと?とやきもきしたけれど結局、この夜小屋に泊まったのはソロ7人だけだった。
一階に4人、二階に3人と広くこの小屋を使うことが出来て快適だった。

今朝、松川温泉を出た時、同じバスで来たデカザックの男女ソロ3人が僕の前後を歩いていた。
だけど三ツ石山荘にその3人の姿は無かった。
その3人は今夜は大深山荘か八幡平の陵雲荘に泊まったのだろう。もし大深山荘に泊るのなら松川温泉から三ツ石山を経由すれば今日のこの素晴らしい景色を見れたのにと勿体なく思った。


山荘はまだ新しそうできれいだった。平日なので混んでなくて良かった。

プシューッ!とプルリンクを引く。わざと周りの人にこの音が聞こえるように。
ビールを飲みながら文庫本を読む。至福の時間だ。
周りの人から声をかけられたけれどただ返事するだけのつまらない会話になってしまって悪かったなと思う。
いつからだろう?ビール&文庫本は小屋やテントでのルーティーンなってしまった。

5時半になると暗くて本が読めなくなったのでヘッ電の灯りで夕飯を作った。
メニューはラーメンにソーセージとニラを入れたもの、柿の種、貝ひも、さきいか、チーズ、それにワイン一本。
僕はお酒があれば幸せなのでこれで十分満足なのだ。

もう既に寝ている人もいるのでなるべく音を立てないようにお酒を飲んだ。
7時にシュラフに入るとすぐに眠ってしまった。


最後にこの写真。小屋のトイレは右のドアから用具入れ、女性用、共用、あれっ男性用は?
予想以上の山 編へ 続く
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