甲斐駒ケ岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆8月12日
立川(0:29) +++ 甲府(2:21/4:30) === 夜叉神峠登山口(5:50/6:00) --- 夜叉神峠小屋(7:15/7:25) --- 杖立峠(8:30/8:40) --- 苺平(9:40/9:50) --- 南御室小屋(10:20/10:50) --- 砂払岳(11:35/11:50) --- 薬師岳(12:10/12:20) --- 観音岳(12:45/12:50) --- 赤抜沢ノ頭(13:50/14:00) --- 高嶺(14:45/14:50) --- 白鳳峠(15:25/15:30) --- 広河原峠(16:20/16:25) --- 早川尾根小屋(テント泊)(16:55)
◆8月13日
早川尾根小屋(4:00) --- 2553mピーク(4:45/5:10) --- アサヨ峰(6:30/6:50) --- 栗沢山(7:35/8:00) --- 仙水峠(8:45/8:50) --- 駒津峰(10:05/10:30) --- 甲斐駒ケ岳(11:20/11:50) --- 摩利支天(12:15/12:25) --- 駒津峰(13:10/13:25) --- 双児山(14:05/14:10) --- 北沢峠(15:05/15:30) === 広河原(15:55/16:00) === 甲府(17:55/18:08) +++ 高尾(19:35)

山日記 (めざせ早川尾根小屋!編)

FRAGILE
ダンボール箱になにげに貼られたステッカー、見るたびにドキッとする。
「FRAGILE=こわれもの」 山登りを始めて数年経った頃の僕はそのせっかちな性格の命じるまま下山する時は早足で駆け降りていた。そのせいで段々と膝痛がするようになり、そのうちに治るんじゃないかとそのまま登山を続けていたらとうとう黒斑山では膝が痛くて降りれなくなってしまった。
好きな山登りを続けるためには膝をちゃんと治さなきゃだめだ!そこで心機一転、まず体重を少し落として膝にかかる負担を軽減し、足を鍛えるため週一回ジョギングを行うようにした(週一回では少ないかもしれないけど)、最初は5kmあたりで膝が痛くてなっていたが最近は8km走っても大丈夫になった(これ以上は走った事が無い)。そして何より下山する時はゆっくりと降るように心がけた。
その成果があってかここ3年位は膝が痛まなくなった。

今回の山行は色々と試してみたいことがあった。
まずは少し長距離歩いてみて膝が痛まないか?を確かめることだ。このへんで膝痛に終止符を打ちけりをつけたいのだ。
そしてもう一つは最近「疲れない、バテない山登り」について歩き方、休憩、装備、水分補給など自分なりに考えて色々と試行して来たのでその集大成?というと大げさだけれど、その試してきた事を全てやってみて結果を見てみたいと思った。

行き先は鳳凰山から甲斐駒ケ岳までの一泊縦走。何と言う贅沢なコースだろう。色々と試すことはあっても・・・「楽しくなけりゃ山登りじゃない!」が僕のモットー。
鳳凰山はどの山も良いにだけど特に以前歩いた時に砂払岳から薬師岳へ至る登山道で見た日本庭園のような景色は忘れられない、いつか 機会があればもう一度見たいと思っていた。
それからアサヨ峰は登ったことが無く一度は行ってみたい。
そして甲斐駒ケ岳、雪のように真っ白い花崗岩で覆われた頂を持つ山。
前の登った時はあいにくの曇り空で、今度こそ、青空の下でその白い頂を見てみたい。

また徹夜!
立川でムーンライト信州に乗るが全く眠れないまま甲府に着いた。
ホームのベンチに酔っ払いが寝ている。「よくあんなデコボコな椅子で眠れるなー」と感心しつつ立ち食いそばの横にシート敷いて横になった。
回送の電車がうるさい、清掃員のオジサンが直ぐそばを歩くので落ち着かない。とうとう一睡も出来ないまま4時になってしまったので仕方なくシートをザックに戻し改札を出てバス乗り場に向った。


夜叉神峠小屋からの白峰三山 以前の記憶をはみ出してしまっていた。
そこには既に50人程の登山者の列が出来ていた。駅前の吉野家で朝食用に牛丼弁当を買おうと考えていたがグズグズしていたら座れなくなってしまうので慌ててコンビニで幕の内弁当を買いバス乗り場に戻った。
3年前、北岳に登った時は満員のバスで広河原まで立って行った。こんなに人が多いんじゃ今日もそうだろうなと落胆していたらバスが増発していたので座る事が出来た。
「これで夜叉神峠口まで眠って行ける!」とほくそえんだが何故だか全然眠れない。電車もそうだけど「乗り越しちゃいけない!」という気持ちが眠れない原因だろうか?、結局、一睡も出来ないままフラフラと夜叉神峠登山口でバスを降りることになった。
今回の山行は距離が長い、こんなんで大丈夫かな?と早くも弱気になってしまう。
最初の30分が勝負の分かれ目!
弁当を食べて夜叉神峠登山口から登り出すといつものように他の登山者にドンドンと追い越される。僕よりずっと年配らしいオジサンにも追い越される。でもここはじっと我慢だ!疲れない山登りの第一の方法は登り始めの30分は特にゆっくりと歩く事だ。あせるな、あせるな!と自分に言い聞かせる。
夜叉神小屋まで来ると一気に展望が開け、北岳、間ノ岳、農鳥岳の白峰三山がでーんと姿を現した。「すごっ、わーすごっ!」寝ぼけた頭もスッキリ、一気にボルテージが上がる。こんなに白峰三山って綺麗だったけ?」自分の中の記憶と目の前の映像が重ならない。おもわずニンマリしてしまう。
地図のコースタイムでは夜叉神小屋まで一時間となっているが僕は一時間と15分もかかってしまった。良し良し、ゆっくり歩けたぞ!と思う反面、遅すぎるかな?という気もしないでもないのだけれど。

苺平付近は苔の森 新緑の頃もう一度訪れてみたい。

砂払岳から見た薬師岳と観音岳
味のマルタイは良かたい!
ここまでは、はやる気持ちを抑えてゆっくりと登って来た。そろそろ体のエンジンも動き出したに違いない。いよいよここからアクセルを少し踏み込んでみるのだ。
杖立峠までの登山道はその名前とは似つかわしくなく杖なんて要らないほど緩やかな登りだった。今まで抑えていたパワーを徐々に出してズンズンと歩く。
峠を過ぎるとそれまでのカラ松林は消え、岩がゴツゴツした潅木帯になった。ここで再び北岳とご対面。
苺平が近くなると苔がビッシリと地面を覆うようになり、八ツの白駒池付近を彷彿させる良い感じの森だ。
南御室小屋は行程の丁度中間地点だ。
順調に半分まで来た!と思いつつラーメンを作る。山行計画している時、地図に水場があるのを見ると無条件にラーメンを作ってやろ!と思ってしまう。
今回はマルタイラーメンを持参、このラーメンは麺が棒状なのでコンパクトでザックの中に押し込んでも粉々に砕けてしまう事が無いのが良い。
南御室小屋の水は冷たくておいしかった、その水で作るラーメンもモチロンうまいのだ!

日本庭園のような薬師岳への登り これが見たかった! 

広い薬師岳山頂 写真では晴れているように見えるがひっきりなしにガスが流れ周りは真っ白
偉大な芸術家
南御室小屋を出て樹林帯を登って行く。久しぶりに九州の味を食べて落ち着いたせいか?やたら眠くてしょうが無い。ボケ−ッと歩いていると一気に眠気が吹っ飛ぶ光景が目の目に広がった。
展望が開け、灰色の岩がモコモコと乱積した薬師岳の姿が目に飛び込んで来た。砂払岳山頂の巨大岩の間から見える北岳の姿はまた一段とデカくなった。
甲斐駒も綺麗だが砂払岳山頂から見る鳳凰三山も負けるとも劣らない美しさだ。花崗岩の白さが空間に弾けている。
今まで晴れていた空に雲がモクモクと徐々に上がって来て視界を遮るようになった。もう少し待ってくれ!と願わずにはいられない。
薬師岳小屋を過ぎる。もうそこは日本庭園のような美しさ。白砂の中に誰かが意図して置いたかの様に岩が配置されている。自然は本当に偉大な芸術家だと思う。
一気に落ち込む
薬師岳山頂に立つ。山頂からの眺望は最高のハズなんだけれど北岳はガスって全く見えなくなっていた。観音岳は雲の間を行ったり来たりしている。
夏は午前10時頃から段々と雲が上がって来ことが多いので仕方ないかとも思うが、僕の今日一日はまだ先が長い!まだ長い道のりをガスの中を歩くのかって思うと正直言って気がめいる。気持ちはへこむがとにかく今は歩くしかない。早川尾根小屋を目指すのだ!
観音岳に来ると更にガスって周りの山は一切見えなくなってしまった。たまにガスが切れると一瞬残雪か?と思わせるような真っ白い山肌が見えるがそれも次の瞬間には幻だったかのように消えてしまう。

薬師岳山頂のイルカ岩 岩の向こうに北岳が見えるはずなんだが・・・
唯一目を楽しませてくれたのはタカネビランジだった。水分も栄養分も無いような砂礫に可憐なピンク色の花を懸命に咲かせていた。
赤抜沢ノ頭で休憩しているとガスが切れてオベリスクが姿を見せた。アッと思った途端にやっぱりガスに覆われてしまった。一瞬見えたオベリスクは相変らず変わった形をしていた。孤高で個性的な姿は魅力的だった。

観音岳の観音様は小さかった お金に埋もれています
答えはYES!
赤抜沢ノ頭で自問してみる。まだ歩けるか?体力は残っているか?・・・NO!の返事だったら予定を変更して鳳凰小屋へ向うしかない。だけど答えはYES!・・・まだ大丈夫!早川尾根小屋へ向って歩き出した。
だけど高嶺への登りは結構辛かった。更に白鳳峠までの降りは足に堪えるほど長かった。
峠ではキッチリ5分休憩する。休憩はせいぜい10分、長すぎると筋肉が冷えてしまい歩き出すのがしんどくなる。ここまで来るとただ惰性で歩くという機械的な作業を続けているという感じだ。
赤薙沢ノ頭に来ると雲が空の上に向ってドンドン消えて行った。シルエットではあったけど再び北岳とご対面。ここ(赤薙沢ノ頭)も高嶺もハイ松の山頂で展望が良く北岳に近い。ガスって無かったらきっとスバラシイ景色があったのだと残念に思う。
広河原峠から少し登ると後は平坦な道になったのでラストスパート。木々の間に小屋が見えた時にはケッコウ感激してしまった。
計画よりも一時間半も早く目的地に到着出来た。各ポイントのコースタイムを山岳地図のコースタイムと比べてみると夜叉神峠小屋から苺平までの間で時短出来ただけで他は地図のタイムとほぼ同じだったので特に速く歩けたわけではなかった。ただ嬉しかったのは最後まで歩くペースが落ちていないことだった。これは最後まで体力を持続することが出来た証だろう。
遠き山に日は落ちて
「テントですか?」小屋前のテーブルにザックを降ろすとスーッと一杯のお茶が出てきた。小屋泊まりでもない客にも出された一杯の冷たいお茶、小屋番さんの心使いが嬉しかった。
テント代400円も安い。八ヶ岳が1000円だったのを考えると安い。あまり山小屋に泊まらないのでハッキリは言えないが二食で6500円の小屋宿泊代も安いのでは・・・
受付をして小屋下にあるテン場に行く。20は張れそうなテン場だがこの日、テントは僕を含めて4つだけだった。小屋の宿泊客はなんと一人だった。普段でも客は多くないらしいが特にお盆の前後は少ないと言うことだった。

早川尾根小屋 水場もあり森の中の静かな小屋

テントを設営して休んでいると「小屋で催し物やります。テントの方もどうぞ!」と声がかかる。小屋に入ってみると小屋番さんのケーナ(南米の笛)演奏が始まった。「コンドルは飛んで行く」など(これしか知らなかった)南米の曲を数曲、そして「五木の子守唄」など日本の曲も演奏されてゆく。ランプを灯した小屋の中に素朴な笛の調べが流れる。窓の外、木々の間には北岳が見え、音が山の雰囲気に違和感無く溶け込んでゆく。観客は少ないが皆、静かに聞き入っている。
最後にオカリナによる「遠き山に日は落ちて」で終演となった。
ビールを2本買った。1本は頑張った自分へのご褒美、そしてもう一本は良い演奏を聞かせてくれた小屋番さんへの御礼だ(飲むのは2本とも僕だけど)。

昨夜は一睡もしていないのでビールを飲み終えると直ぐに撃沈、ライトを消してシュラフにもぐり込んだ。
小屋も周りのテントも既に明かりは消え、辺りはすっかり闇に包まれていた。

めざせ甲斐駒ケ岳!編へ続く

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