開聞岳 (楽しいテント 編)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:飛行機/フェリー)

◆5月12日
鹿児島中央(12:05) +++ 開聞 (13:45) --- (買い物) --- 開聞山麓ふれあい公園 (15:00)

山日記

「今日、テント泊したいんですが」
「出来ますよ・・・・・・ただ・・・・・・今どしゃ降りですよ!」
「・・・・・・」

予定では10:05発の電車に乗るつもりだった。
駅についてキャンプ場へ予約の電話を入れると「どしゃ降り」との情報が僕の行動を躊躇させた。
開聞岳を登る計画にはもう一つ案があって、それはホテルにデカザックを預かってもらいサブザックで日帰り登山するというものだ。今からホテルに戻って、明日、日帰り登山にした方が良いのでは?と悩んだ。

駅の待合室で、途中のコンビニで買った文庫本を読みながら空の様子を見ることにした。

雨は降り続いた。だけど天気予報では明日は晴れとなっている。もしかしたら午後には雨は上がってしまうのでは?
人はこういう場合、良い方向に物事を考えてしまうものかもしれない。
12:05の指宿枕崎線で開聞駅へ向かった。

薄っすらと結露したガラスの向こうは雨。
車窓の外に見える海は漆黒色、重そうに波を寄せている。反対側の窓から山側を見ると地上50m位の高さまで灰色に雲が立ち込め、その下の民家は今にも押しつぶされそうだ。
今日は移動するだけだから雨でもかまわないのだけれどやっぱり気持ちは暗くなる。

生まれて初めてだ。こんなにバウンドする電車に乗ったのは。横揺れはしないけど縦揺れが半端じゃない。
向かい側に座っているおかあさんが手に持っているマックフライポテトがカップからバンバン飛び出る。
「すごいですね」おかあさんが苦笑いしている。
地元の人でもこの揺れには全然慣れていないのだ(て言うか、このおかあさんもこんなにバウンドしている電車の中でよく食べようと思ったな)。

一瞬、運転手が停止する位置を間違えたのでは?と思った。
開聞駅は2両分の長さのホームが広場の中にポツンとあるだけで改札はおろか駅舎さえ無い駅だった。
手の中の切符は一体どうしたら良いのだ?教えてくれる人の姿も無い(後で分かったことだけれどワンマン電車の場合、降りる駅が無人駅だったら切符は運転手後ろの運賃箱に入れて降りないといけない)
慌てて傘を差すと食料を買うため、Aコープへ向かった。

「こんにちはーっ!」デッカイ声で中学生の集団に挨拶される。あまりにも声がデカイので怒られている感じがする。
雨が降っているのに傘は差していないし体育会系と言うよりこいつら野生児か?

これだけ何も無いとは・・・開聞駅は百名山の玄関駅なのでは?

この辺りはカツオが旨いと聞いていたのでAコープでカツオのタタキと寿司、それから忘れずにビールとラーメンを買って、今日キャンプする開聞山麓ふれあい公園へと向かった。

思っていたより急坂なので汗ダクダクなる。
坂道を登って行くと開聞中学の校門前に傘を差していない野生児たちが大勢たむろしていて、挨拶の一斉攻撃を受ける。

向こうがきちんと挨拶してくるのでこっちもきちんと挨拶を返えさなければいけない。
僕のせいで登山者の印象が悪くなってはいけないし、中学生がグレてしまったらそれこそ大変だ。

中学校を過ぎた頃から雨が強くなった。
合羽を着ようとも思ったけれど道路の真ん中で立ち止まってザックから合羽を取り出すのも面倒なのでそのまま歩いた。

大雨強風にズボンはビショ濡れだ。駐車場の奥に公園の管理棟が見えた時はホッと安心した。

こんな日に登山?管理棟の前には登山姿の男女が6人立っていた。
管理棟の中に入ってテントの受付を済ませていると外で歓声があがった。見るとドシャ降りの雨の中から合羽を着た登山者が3人現れて、その3人を管理棟前に居た人がハイタッチで出迎えている。

受付の男性に尋ねるとこの人たちは香港からやって来たツアー客らしいのだが、こんな雨の日にわざわざ登らなくても良さそうにと思う。やっぱり中国人は山登りが好きなのだろう。

突風が吹くと建物前に置いてある看板や傘立てがバンバン倒れ、女性が悲鳴を上げた。
そんな中、びしょ濡れ姿の登山者が一人二人とドシャ降りの雨の中から現れる。
風が強いと袖口や首元から雨が進入し易いので濡れによる低体温症に特に注意しなければいけない。ツアーガイドもこの状況でよく登山を許したなと思う。

午後4時まで管理棟の中で雨や風が治まるのを待っていたけれど一向にその気配が無い。ズブ濡れだったズボンも乾いたので合羽を着てテント場へ行った。

((管理棟に食料、キャンプ用品等の販売あり(パール金属のガスカートリッジもある、EPIやプリムスとの互換性は不明。)
テント場代\610円(但し繁忙期は\1200円))

雨風が強いので炊飯棟の中にテントを張ろうかとも思ったけれど、炊飯棟の中には管理棟に入りけれなかった香港人十数人がガタガタ震えながら立っているし、もし他にテントを張る人が居たら邪魔になると思ったのでやめた。

こんなに日に登山するのもどーかと思うけど、テント張るのもどーかしてる。

テント場は全体が緩やかな傾斜になっていて、所々テントを張る場所だけ水平になるように盛土がしてある。

ザックを炊飯棟に置き、テントだけ持って一番近い盛土の場所へ走った。

風にテントが暴れる。一本目のペグダウンが大変だった。

香港人が興味津々の眼差しで見つめる中、テントを無事に張り終え、中に飛び込むとやっとホッとすることが出来た。

雨が激しくテントを叩く。その音に対抗するかのようにラジオのボリュームを上げる。
狭いながらも楽しい我が家、買ってきた刺身と寿司でビールをグビグビやると最高の気分だ。

何か冷たいものが脳天にポタリ。・・・・・・雨漏りしてるじゃん。
見るとテント入口もすっかり濡れている。慌てて入口のファスナーを開けて見るとフライシートのファスナーからポタポタと雨漏りがしている。
前室に置いた登山靴、傘、ザックカバー、合羽はすでにビショ濡れ状態。

前室の中に折り畳み傘の中棒を短くした状態で傘を無理やり広げた。
天井からの雨漏りはふき取るしかない。

九州に来る前にテントの防水はしっかりやったはずなのに・・・なんてこった。

つい一時間前、ビールを飲みながら「Have You Ever Seen The Rain?」を大声で歌っていたのが夢みたいだ。

もう他に浸水している箇所は無いだろうな?ザックやシュラフマットをどけてテント中に視線を這わせる。
あった。テント底の四隅の一つから大量に浸水していた。テントマットをはがして見ると下にりっぱな水溜りが出来ていた。

くそっ判断を間違えた。今日はホテルに居るべきだった。明日日帰り登山にすれば良かった。

泣きたくなった。
テント内は狭い。普段その狭さは安堵感を感じさせるけれど、こうして雨漏りし始めるとその狭さは逃げ場の無い密室に閉じ込められたような閉塞感を感じさせた。
10分毎にタオルで拭いては絞るを繰り返えさなければいけなかった。

午後8時、風が治まってきた。

午後9時になってようやく雨が止んだ。

雨漏りとの格闘3時間・・・・・・やっと寝られる。
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