叶岳、高地山、高祖山、鐘撞山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2023年3月14日
叶嶽宮前(8:35) --- 叶岳 (9:30/9:50) --- 高地山 (10:20/10:55)
--- 高祖山 (11:55/12:15) --- 鐘撞山 (12:50/13:05) --- 叶嶽宮前 (13:35)
山日記

福岡に移住して2か月が経った。
毎年3,4月は花粉症のため外に出るのを躊躇してしまうけど何故か今年は早くも花粉症から解放された。
福岡市は川崎市に比べて花粉の量が少ないのだろうか?理由は分からないけれどとにかく外出できるようになったのでいよいよ福岡での初山登りなのだ。

福岡最初の山は自宅から一番近い叶岳、高地山に行ってみることにした。
登山口である叶嶽宮前バス停まで自宅から自転車でわずか1時間なのだ。

叶嶽宮前バス停で自転車を止めるとどこか懐かしい香りがした。
子供のころ農協の倉庫や精米所で嗅いだような乾燥した藁の香ばしい香りだ。

不慣れな土地での初めての山はどこか落ち着かない感じがしたけれど鳥居の並ぶ参道を登り始めると、いつもと何も変わらない。
むき出しの地面を靴底がしっかり掴むように登って行く。
ただ心配なのはYamap地図のダウンロードに見事失敗していて手元にあるのがガイドブックの小さな地図だけだということだけ。

鳥居が肩を寄せ合うように並ぶ参道には朝日がまだ届かず、朝の冷気に包まれた道はまだ静けさの中にあった。

巨岩を取り囲むように鳥居が並んでいる。暗い森の中、太陽のエネルギーは収束したような一筋の光が巨岩を照らし空気の流れが止まっている様は神の存在を朝の静けさが語りかけているようだ。

御神体である巨岩の先に少し広くなったには場所に遥拝所があった。
その境内に立つと青い玄界灘にぽっかりと浮かぶ能古島が想像していたよりずっと近い。
登山口から登りだしてわずか12分でこの視界を刺激する眺望なのだ。
日本庭園の庭石は山を表現しているらしいがここから見た風景はまさしく広大な日本庭園そのものだった。
以前登った三浦半島の大楠山や仙元山から見た海を思い出してしまった。
やっぱり山から眺める海は理屈抜きに良いなと思う。


鳥居の真ん中に鎮座していた御神体の巨岩。実際はもっと薄暗い感じで霊験あらたかに感じる。


登山口から登ってわずか13分でこの眺望です。♪つきせぬ思いに今夜は眠れそうに今夜は眠れそうにない♪。

遥拝所から先は鳥居も無くなり山の香りが一層濃厚になった。
雨水に削られて溝になってしまった登山道の壁を指で触ると砂糖菓子みたいにボロボロと崩れてしまう。
室見川を見ると川底には薄茶色の砂が積もっているけどその砂はこれら叶山塊から流出したものが堆積したのかもしれない。

木陰の向こうが白く明るいと、もうダンマリは許されない。
たどり着いた一人占めの空間の向こう側に眩しいほど青い海が静かに広がっていると呼吸を整えるのも忘れて思わず歓声を上げてしまう。

ジグザクの道の途中には時折思い出したように眺望が良い箇所があって高く登って行くにつれ海の奥が広がって行く。


こんな展望台が所々にあって段々と遠くの海が見える。


石仏なんですね。何だかマツコデラックスみたいですが後光が差しています。


花崗岩でしょうか?雨水に削られた砂礫の登山道が叶岳まで続きます。

分岐には「左へ124歩」と書かれていたけどわずか30歩で着いてしまった不動岩はデンとした巨岩でその岩壁に不動明王が祭られた小さな祠があった。

不動明王の眼光に見送られるように歩いて行くとすぐ先に眺望の良い場所があった。


登山道から124歩外れた場所に静かに不動岩はあります。

姪浜の小戸公園から大きく弧を描き志賀島まで続く群青の海岸はキラキラと輝き光る福岡市街地に埋め尽くされ、その中ほどに見覚えのある福岡タワーやPaypayドームが見えた(意外とドームよりもその横のヒルトンホテルが大きいのだ)。
福岡に移住したばかりの僕にとって新鮮であり親近感を感じさせる光景だった。
(余談だけどPaypayをカタカナ表記するとペイペイ=未熟な人となってしまい軽薄な感じなのでYahooドームの方が良かったのでは?と思う)


叶岳山頂のすぐ下にある展望台からは博多湾から山間部まで広がる福岡市街地が一望出来た。


室見川の向こうに一層大きい福岡タワー、ヒルトンホテル、Paypayドームが印象的。

展望台横の石段を登ると鳥居の向こうにひっそりと叶嶽神社の社殿があった。
山頂の神社は朝日に照らされるように東側が開けた場所に建てられているという印象があるけれど、この神社はぐるりと木立に囲まれてどこにも眺望は無かった。
先ほどの展望台は東側が開けているからここまで朝日が届くのかもしれない。

社殿の横を過ぎると眺望の無い場所に叶岳山頂を示す標柱と玄海国定公園の案内板があり、ここから先は森の散策路を辿るような緩やかな尾根道に変わった。

気が付くと日光をかみ砕いたような光の粒が周りの草木や地面からシャワーの様に照り返し、次のピークを目指すために歩いているというより山登りを楽しみたいという気持ちがより強くなった。


静かな佇まいの叶嶽神社。


神社の少し先にある地味な叶岳山頂。

スコンと灌木の中の開けたピークに出た。
「伊都の国、中央展望台」は周りの山々がぐるりと一望出来て視線の遥か先まで山が連なっている。
それらの山々は全てまだ登ったことのない山ばかり、とうとう福岡の山にやって来たのだとしんみり思うと同時にどこかこれからの未来を予感させる景色に思えた。

ガイドブックの小さな地図では心もとないのですれ違う人に高地山や高祖山の道を尋ねると皆さんスゲーっ親切に教えてくれるのだ。
こっちが一つ質問すると三つは投げ返してくれるのはありがたいけれど経験談がリレーし始め、歩き出すタイミングが見つからないのだった。

中央展望台のすぐ先には高地北展望台があった。
ここは尾根の淵にあり北側が開けていて玄界灘から山の麓まで広がる福岡市街地が一望できる場所で「いつもは見上げている福岡タワーを見下ろしている」感動モノの景色なのだけれど何だか無理やり草木を伐採して作った展望台みたいでどこに立ったら良いか落ち着かない感じがする。

高地山の山頂はもう少し先の場所だけどテーブルのあるこの展望台で昼食にすることにした。
それはカップラーメンの出来上がりを待つ何もしない3分間の素晴らしさを実感させられた。
目の前の動かない景色をボーッと眺めているとラーメンが出来上がっているという当たり前の事なのに。

高地山の山頂には二丈岳から井原山までを示す山座同定の写真(自家製の)があり、地図が無い今日の自分には貴重な案内役だった。

山頂は眺望は良かったけど狭く座る場所も無かったので山頂直下の北展望台でのんびりと昼食出来たのは良い判断だったと思う。
こんな小さなことでも気持ち良い山ではプラス思考に変わってしまう。
だからまた山に来てしまう、そんな自分に会いたくなってしまうのかもしれない。


中途半端のテーブルがあったりして無理やり感のある高地北展望台も眺望が良い。


青空の下に広がる福岡市街地を一望。


反対側を眺めるとこれから向かう高祖山や周りの山々が見える。

高地山からまだ先があるのだ!
未知なる行程が深緑の常緑広葉樹の森の中に続いていた。

途中にいくつか地元の人しか分からないような分岐点があってその度にガイドブックを見直すけど出ていないので不安になるばかり。
標高が低いのでもし道を間違えたら引き返せば良いや!と思うしかない。


花ごと落ちるので人の首が落ちることを連想させるそんなヒゴツバキが下ノ城の城跡に散っていた。

おーっ高祖山が近い、あの頂が高祖山なのだろう!
過保護過ぎだと思えるほどあまりにも平坦な巻き道を歩いていると突然目の前に洞窟が!中に入ってみると何も無くてただ暗く、じめっとしていて薄気味悪い。
これって何だろう?
ガイドブックでは高祖山頂は城跡と書かれているので山頂直下のこの洞窟は何か城跡の一部なのだろうか?長居していると落ち武者の霊に取り付かれそうな感じがして慌てて洞穴を飛び出した。この後にあるいくつかの洞窟もすべてスルーした。


高祖山の山頂下にある洞穴は何だろう?奥まで入っても何も無けてじめっとしているので逃げ出す。

高祖山の山頂は縦走路から少し離れた場所にあり、その分岐から緩やかに登って行くと目の前に現れた山頂の第一印象は「心穏やかに落ち着ける山頂」だった。

山頂の真ん中に巨木があり、茂った緑が日差しを遮り涼しげに影を落としている。
山頂をぐるりと囲む木立の間から見る青い空と海は映画館のスクリーンみたいにそこだけ光を放ってはみ出そうとしている。

木立の額縁から見る景色は絵画の様で海岸に沿って移動する波紋が唯一時間の流れを感じさせた。
本当に残念に思ったのが地図が無いので海に浮かぶ島や小高い山の名前が一切分からないことだ。

高祖山から鐘撞山への登山道が分かりにくかったので山頂で休んでいた女性に道を尋ねた。
鐘撞山(かねつき山)が読めず、「かね・・・山」ってどう行くんですか?と何とも恥ずかしい質問なんだけど答えてくれた女性も初めて高祖山に来たらしく、僕にYamapの画面を見せながら「かね・・・山」へはこの道ですよ!とやっぱり読めなかったのでそのことにも安心した。


高祖山の山頂からは糸島の立石山、可也山が見えます。がこの時は地図が無いので山名は分からなかった。


立石山は海に迫り出しているので半島みたいに見える。憧れのゼローメートルからの山登り。


山頂は木立に囲まれているけれど能古島も見えます。


祠かと思ったら登山記念のご褒美箱です。


お札かと思ったら手作りキーホルダーみたいです。


幹が一面コケに覆われたブナの巨木が山頂の真ん中で影を落としています。

高祖山から鐘撞山への登山道の標示板には「高祖神社」とか「高祖東谷」とか鐘撞山を示す案内が無く、鐘撞山ってマイナーな山なのでは?登山道は分かりにくいのでは?と心配になった。
だけど登山口に自転車を置いているのでもどうしても戻らなければならない。

「あーっ、つくしょーっ!何でダウンロード失敗したんだろう?」それにしてもやっぱりここでもYamap最強なのだ。


鐘撞山までウバメガシなどの常緑広葉樹の森を歩いて行く。

鐘撞山は山の端っこに突き出たピークみたいな山だ。
山頂を目指して最後の坂をひたすら登った行くと目の前に海が広がった。

頭上から延びた青空はひたすらまっすぐでそれが玄界灘の沖、水平線で海の青と重なっている。
海岸沿うように波の淵が白い光となってが次々とリレーして行き青に消えた。

山頂の立つツブラジイの枯れ穂が山頂一面を覆っていてジブリ映画のような不思議な空間だった。


一見すると毛虫みたいなツブラジイの枯れ穂が鐘撞山の山頂を覆いつくしています。


山頂から立石山を超えて先まで青空と海が広がっている。今日は来て良かった!


面白かったミニ縦走も能古島の眺望を最後に終わりです。

福岡での最初の山登りもこの鐘撞山で終わりなの
だ。
叶岳→高地山→高祖山→鐘撞山の周回縦走は低山ながら眺望の良い個性的な山々で近郊の海を眺める眺望はオムニバス映画のワンシーンを見ているようだった。

福岡に移住してまだどこか不安な日々の中で訪れた山はそんな僕を春の祭典のように華やかに迎えてくれた。

もう始まっている。
これからのことは分からいけれど今日の山々のように気持ちはまっすぐでありたいと思った。

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