涸沢、穂高岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2015年9月28日
新宿 (22:30) === 上高地 (5:20/5:30) --- 明神 (6:25/6:30) --- 徳沢 (7:30/7:35) --- 横尾 (8:30/9:00) --- 本谷橋 (9:55/10:10) --- 涸沢(池ノ平) (12:10)

山日記 (風のむこうの紅葉へ 編)


涸沢の紅葉のピークは以前は9月末だったけど温暖化の影響か?最近は10月初になるらしい。
涸沢ヒュッテの「混雑予想カレンダー」を見ると赤色の「かなりの混雑日」が10/1から10/8まで連続している。
ということで今年の紅葉のピークを10/4と予想した(他力本願だな)。
だけど混雑した山は苦手なので紅葉ピークの一週間前に行くことにした。

9月27日だけ「さわやか信州号」に空席があった。
ネット予約すると座席選択は出来なかったのでもしかしたら残り1席だったのかも知れない。



朝5:20に上高地に到着した。
まだ暗い中、バスターミナルのテーブルでコンビニで買っておいたサンドイッチを食べた。
肌寒い朝、ホット缶コーヒーでも飲もうかと思ったけれど自販機も無く、土産屋も閉まっていた。

河童橋から穂高岳を見ると曇り空。天気予報の晴れに期待して歩き出す。

6時半、明神館から見上げる明神岳には少し雲が掛かっていたけれど晴れ出した。


さあいよいよ憧れの紅葉を見に行くのだ! 頭をなでられているように天気が回復していく。


前穂高岳と屏風の頭が見えた。これも良い景色なのだけれど道草もしないで足は横尾へと向う。


朝の光が森へと降り注ぐ。 光を受けた葉っぱが緑の影をアチコチに落としていた。


M・I・C・H・I・K・U・S・A オレッ、オレッ、とても恥ずかしくて道草出来そうにありません。

明神岳や前穂高岳を木々の間に眺めながら横尾に到着。
天気は完全に晴れ。空の青さに前穂高岳山が映える。
もうこれだけで嬉しい気分になるから不思議だ。
買っておいたカツどん弁当を食べると幸せな気分だ。

横尾大橋を渡る。生まれて初めて渡る。
そばに居た女性に「涸沢へはこの橋を渡るんですね?」しつこに確認する。

実は明神でも徳沢でも周りに人に涸沢への道を尋ねながら歩いてきたのだ。
上高地には何度も来た事があるけれど涸沢へ行くのは初めてなので妙に神経質になっていた。
皆さんとても親切丁寧に涸沢への道を教えてくれたので後になってみると僕のためにわざわざ時間をとらせてしまって悪かったと思った。


さあ、いよいよです。横尾大橋を渡って未知の地へ向います。

横尾大橋を渡ると前から多くの登山者が降りて来た。平日なのにこの多さは何だ?
やっぱり紅葉の涸沢はすごい人気なのだ。

前から歩いて来た70歳くらいの男性の足下を見ると登山靴が白い結束バンドでグルグル巻きにしてある。
登山中にソールが剥がれたんですかと尋ねると自宅を出る前から剥がれていたらしい。
よくこんな靴で登ろうと思ったな、僕だったらスニーカーでも履いて来るけれど。
同時に涸沢は何でも有りの山なんだろうなと思った。


このデコスケは屏風岩。 これが地味に感じます。ここから先は元気の連発。


休憩している人が多い本谷橋。ここから紅葉している木々が多くなる。奥に見えるのは北穂高岳の東稜。

「あんまり紅葉してない、上の方は紅葉してんのかな?やっぱ来るのは早すぎたか!」
横尾から歩いて1時間、本谷橋で休憩して再び登りだすと周りの木々が段々と色付いてきた。
行く先に目を向けると木々の間の黄色は透き通って見えた。

登るにしたがって登山道は色鮮やかさにを包まれた。
涸沢の紅葉の素晴らしさは涸沢カールだけではなく、その途中も十分に魅力的だった。

前方に岩壁が見えてきた。
あそこが涸沢だろうか。
登山道が段々と岩がゴロゴロして来た。
紅葉に包まれた。それは熱狂的な鮮やかさだった。


紅葉が増えるにつれて何だかアッチコッチ撮影してしまう。だけどどこも良いんだな。


登山道はずっとなだらかな傾斜で歩き易かった。裏切られたようなキラキラが続く。


段々と紅葉の密度が上がってきた感じだ。一つのステップがハイタッチの連続。


登山道が岩でゴロゴロしてきた。あそこが涸沢なのか?段々と心が解放される感じ。


んーん、まだ涸沢には着いていないけれど、こんなに美しくて良いのでしょうか。


歩くのが嫌になったら立ち止まって良いのだ。何でも許しちゃうユルユル登山道。


こりゃシャッターチャンスだと思っても次の瞬間には裏切られてしまう。


涸沢に来る前に描いていたスケールの大きさの違いに戸惑う。最初のイメージも思い出せないほど。


立ち止まってしまうことが多い場所。ただここはただの通過点なのだ。


かわいらしいナナカマドの一表情。小さな赤い点から広大な景色へと波及していくのです。


次々と景色が流れて行く、このドキドキ放題はどこで終結するのだ。


そして繋がっていく。ここがまだ旅の途中なのだろうか?涸沢ってただの涸れた沢?

ここかぁ!
憧れの涸沢に着いた。
ネットで見ていた画像と同じだ。
画像では気温や風力、匂い、音など伝わらないけれど、その大きさも伝わらないものだと思った。
これまでネットで散々見た光景なのにやっぱりそのスケールは全然違っていた。

涸沢は一面の岩だらけ。
アチコチにテントを張った跡が何か虫の巣穴みたいに点在していた。
テントの受付はどっちの山小屋だろう?と思ったらテント受付専用の小屋があった。
さすがに人気の大きなテント場だ。
テントの受付は1時からと小屋の扉に書いてあったのでとりあえずテントを張ることにした。

どこか良い場所はないかと探したけれどどこも似たり寄ったりで石がゴロゴロしたところばかりだ。


空に向ってステップ踏んで散歩の延長みたいです。何度もネットで見た光景なのに未知数の塊です。

しかしマイッタ!
僕のテントには弱点がある。
一般的な山岳テントはクロスしたポールの延長先に張り綱がある。
ところが僕が使っているテントはテントの長辺側、フライシートの左右に1箇所、計2本しか張り綱がないのでテント4角底をペグダウン出来ないと耐風性が著しく落ちるのだ。
この石ゴロゴロの地面では全くペグが打てない。強風の時、はたして2本の綱だけで持ちこたえることが出来るだろうか。

谷からの風が強い!
隣を見るとダンロップVS10がドタンバタンと風に舞っている。
張り綱1本でどうにか飛ばされずに地面とくっ付いている。
テントの中はカラみたいだけれどどうして重石になる装備とか入れておかないのだ。
テントが壊れる前にどうにかしてあげたいけれど、張り綱は1本しかないので補強することも出来ず、他人のテントを勝手に畳むことも出来なかった。

今回の山行で一番の失敗、後悔がこれ!
何を思っていたのかテントを設営し終えると中に入り、文庫本を読み始めたのだ。

「山と山小屋」(小林百合子)を読んだら「登山者の中には山小屋に着いて夕食までの時間に寝ている人がいる。あれではせっかく山に来たのに勿体無い」と書いていて自分と同じ感想だなと思った。

景色は見れる時に見ておけ、写真は撮れる時に撮っておけ!だ。

最近、テントの中で本を読むのが習慣化してしまったのだろうか?
以前だったらテントの周りを貪欲に歩き回っていたのにどうしたんだろう。

テント場のすぐ上には見晴らし台やパノラマコースなどの散策路もあるのに何やってんだろ!
時間はたっぷりと有るのに景色も見ず、写真も撮らず、テントの中でひたすら有栖川有栖のミステリーを読みふけっていた。


好きな景色を全身で浴びている。 会いたいから会いに来たのだ。こんな日がやってきたのだ。

今から30年ほど前に話題になった一つにピラミッドパワーがある。
ピラミッドの相似形の模型を作り、きっちり南北の向きに設置するとピラミッドの不思議な力で中に入れた食べ物が腐らないとか、コーヒーやワインが極上品に変わると言われた。
また人が入れるほどのピラミッドの中で勉強するとピラミッドパワーで理解力や記憶力が格段に増し頭が良くなる言われた。
初めてテントを張ったとき、テントは方錐(四角錐)では無いけれど中に入っているとピラミッドパワーの力を受けるのではないか?と思った。

その事を突然思い出した。涸沢に来て思い出した。
涸沢はカール状になっているのでパラボラみたいに周りの気を集めるのでは?
だけどテントの中で本を読んだけれど特にピラミッドパワーは感じなかった。
逆に隣のステラリッジ2の男性が作っている焼肉の匂いが気になって読書に集中出来なかった。
気を集めないで匂いを集めるピラミッドパワーなのかもしれない。


涸沢カールはまるでメリーゴーラウンドのよう。クルクルと色を変える光の束が表れては周る。

4時になってヒュッテにおでんを買いに行った。
10人位の人が並んでいたので面倒くさかったがおでんのために我慢した。

「おでんはあと三つです!」
やばかった、次の人で売り切れみたいだ。
振り返ると残り三つを宣告されたイエレン似のおかあさんが雨に濡れた子犬のような目をして呆然と立ち尽くしていた。
僕は手の中のおでんの温かさに幸運を感じた。
振り返るとイエレン議長が僕を見ていた。悲しそうな子犬の目だった。

ビールとおでんのうまさにふと、こんなにユルユル登山で良いのだろうか?
涸沢岳から白い雲がこっちへ流れている。
時間の緩やかな流れ、たまにはのんびりするのも良いだろう。

ひっきりなしに荷物を運ぶヘリコプターが飛来した。
この2時間で10回以上は物資を運んできた。
近くで見ていたら機体が大きく揺れている。こっちへ墜落するのではないかとヒヤヒヤした。
気流の関係なのか、涸沢沿いに飛んでくるヘリは来る度にヒュッテの上を通過したりテント場の上を通過したりと飛行コースを変えた。
それにしても皆さんヘリの写真を撮るの好きだなー!


重なる一瞬の光景にじっと耐えているかのようなテント群。でも一つ一つで始まっているかもしれない。

5時になって夕食にしようとヒュッテに水を汲みに行った。
周りの若い人達がザワザワしている。
どうやらアイドルの女の子がテレビ番組の撮影に来ているらしい。
僕はアイドルに疎いので女の子を見ても誰か分からなかった。
ただ菊池桃子では無いことだけは分かった。

7時になってテント場の夜景写真を撮りに行った。
ヒュッテのテラス(屋上)に多くのカメラを構えた人の姿を見たら急に撮る気がしなくなった。
尾瀬の撮影ポイント(水芭蕉の咲く小川の向こうに至仏山が見える場所)と同じ感じだ。
他人のテントを撮ってどーする!と思いながらテントに戻った。

石がゴロゴロで眠れるかな?と思っていたけれどエアマットは確実に地面のデコボコを吸収してくれた。
シュラフに入るとワインの酔いもあって直ぐに寝入ってしまった。

20年経っても変わらないもの 編へ 続く
   
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