鹿島槍ケ岳、五竜岳

(扇沢―種池山荘―爺ヶ岳―布引岳―鹿島槍ヶ岳―五竜岳―遠見尾根)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆7月19日
立川(0:29) +++ 信濃大町(5:17/5:45) === 扇沢(6:10) --- 登山口(6:20/6:30) --- 種池山荘(9:20/9:30)--- 爺ヶ岳(南峰)(10:20) --- 爺ヶ岳(中峰)(10:30/10:40) --- 冷池小屋(11:20/11:30) --- 布引岳(12:25/12:35) --- 鹿島槍ケ岳(13:20/13:50) --- キレット小屋(15:00)

◆7月20日
キレット小屋(5:10) --- 五竜岳(8:00/8:20) --- 地蔵ノ頭(?/?) --- 神城(12:30/13:41) +++ 松本(15:01/15:15) +++ 立川(17:40)

山日記

梅雨明けは大体7月20日前後であるが”梅雨明け10日”と言うように梅雨明けから10日間位は天候が安定している時期だ。山登りをこよなく愛する人にとっては梅雨明け宣言は夏山宣言であり、行け行け宣言なのだ。「待っていました!」とばかりに気持ちは遥か天空の頂まで飛んで行ってしまうのだ。
今年も例年どおり梅雨が明けた。後立山は前に白馬岳から五竜岳まで、針ノ木岳から種池山荘まで登ったことがあるがその間の五竜岳から種池山荘までは歩いていない。理由は簡単、地図に危険マークがあるので岩場が苦手な僕は行くのを避けていたのだ。だがあれから色々な山に登ったので臆病な僕でもそろそろこのルートを登る実力が養われたのではないかと思い鹿島槍ヶ岳-爺ヶ岳を歩いてみることにした。

(注:ここから信濃大町に着くまでの話がやたら長く、おまけにくだらない内容なので忙しい人は飛ばして読んで下さい)

天気予報での梅雨明け宣言を聞いて早速”みどりの窓口”に行った。夜行列車の急行アルプス号が上手い具合に予約できた。
会社の仕事が終わると自宅へぶっ飛んで帰ってザックにパッキングして駅に向かった。JR武蔵小杉駅で南武線に乗り換え立川に出てアルプス号に乗るのだ。武蔵小杉で電車を待っていると発車時刻を過ぎているのに電車が来ない。立川で中央本線に乗り換え時間の余裕は6分しかないので電車が遅れると乗れなくなってしまう。焦っていると3分遅れでやっと電車が来た。金曜日のこの時間はいつも混んでいるが今日は特に混んでいるようだ。電車は溝の口、登戸と駅を進んで行くがどの駅も混雑していて乗客の乗り降りに時間が掛かってしまっている。「大丈夫だろうか?間に合うだろうか?」と段々不安は募る。
電車が立川駅に着いた。時計を見るとアルプス号の発車時刻までなんと1分しかない!アタフタしていると二つ隣の6番線ホームにアルプス号が入線して来た。慌てふためいてザックをつかむと階段を2段ずつ駆け上り走った。6番線ホームに駆け降りていると発車のベルが鳴り始めた。「ヤバ、ヤバイー!」自分の予約した座席の車両がどこかなんて確かめている時間は無く近くのドアに飛び込んだ。

車内は冷房が効いていないのか?蒸し蒸しと暑かった。階段を全速で走って来たので汗がドッと吹き出てきた。この電車は名前がアルプス号というくらいなので車内はザックを抱えた登山者ばかりでごった返していた。通路はもちろん、乗車口まで通勤ラッシュ並みの混雑である。自分の席まで移動しなければならないが車内を通って移動は出来そうに無いので次の八王子駅で一旦ホームに出て移つことにした。
電車が八王子に着いたので降りようとしたが乗車口付近にはでかいザックがいっぱいあって中々降りられない。やっと外に出て予約席の車両を探す。前だろうか?後ろだろうか?前だ!。。。自分の乗るべき車両は前の方であった。前に向かって走り出すが2,3両行った所で発車のベルが無情に鳴り出した。しかたなく一番近いドアに飛び込んだ。またしても自分の席まで辿り着けなかった。せっかく座席を予約したのに何で立ってなけりゃいけないんだ!なんとしても次の大月駅で自分の席に座るぞー!。
電車が八王子の駅を出ると「もう客は乗ってこない」と思ったのか立っていた登山者らしい乗客が次々と床に座り始めた。僕は他の客に迷惑をかけるような我が物顔のずうずうしい登山者の姿を見ると同じ登山者として腹が立つ。こういうヘタレ野郎を見るとビブラムソールの靴で思いっきり蹴飛ばしたくなるのだ。
大月駅でようやく自分の予約した車両に乗り換えることが出来た。人を掻き分け自分の席に行って見るとおばさんがグッスリと眠り込んでいたので起こして変わってもらった。無情かも知れないがそこは仕方が無い。
それにしても本当に混んでいる。網棚はいっぱいでザックを置けそうに無く膝の上に置いた。自分の座席の下までザックが置いてあり足を伸ばすことも曲げることも出来ない。時刻はすでに夜中なのに相変わらず蒸し暑く、背中にはじっとりと汗がにじんで来る。
結局、窮屈な姿勢のままで一睡も出来ずに松本に着いた。松本で客が減ったので楽になり急に眠くなった。少しウトウトしたと思ったら信濃大町に電車は到着した。こんな状態で山登りできるのだろうか?と不安な気持ちで電車を降りた。

大町駅前から扇沢行きのバスに乗る。バス乗り場は登山者でいっぱいで座れるか心配したが増発便が出たのでどうにか座ることが出来た。バスの中で少しでも眠ろうと努力したが努力している最中に扇沢に到着。バスを降りると扇沢は沢山の登山者で賑わっていた。どの人の顔も楽しそうだ。それに引き換え僕は睡眠不足で頭がボーッとしたまま登山口へ向けて歩き出した。
食欲は無いが食べないとバテるのでオニギリ2個を無理やり口に押し込んで登りだした。登山道はいきなりの急登で早くも意気消沈状態。しかし歩いていると少しずつ調子が上がってきた。寝ていないにもかかわらず意外と調子が出てきたのには驚いた。ただ僕は元気ハツラツの時でも登るスピードはとても遅い。他人から見ると余りにも遅いのでバテていると勘違いされるほどだ。この時も”調子が出てきた”とは言っても他の人に比べたら比較にならないほど遅く、次々と後続の人に追い越されてしまうのだった。
「せっかくのチャンスだ!小屋に着くまでに一体何人の人に追い越されるか数えてみよう!」と数えだしたが30人くらい数えて止めてしまった。歩いている時はドンドンと追い越されるが僕は余り休まないらしく追い越した人達が休憩している間に追い越してしまうので数え切れなくなってしまった。僕は50分歩いて10分休憩の繰り返しである。これは登山入門の本に書いてあったのでそうしているだけだが他の人は違うみたいだ。
急登だった登山道は一時間ほど登った所から緩やかになり歩くのが楽になった。


立山をバックに種池山荘の赤い屋根が実に印象的な景色です!
結局、こんなにダラダラと歩いてきたのに予定よりも早く種池小屋に着いてしまった。
エレキギターの神様エリック・クラプトンは指の動きに無駄が無く、難しいフレーズを弾いている時も余り指が動いていないように見えるため、付いたあだ名が”スローハンド”。この僕も足運びに無駄が無いため、ゆっくり歩いているようで実はものすごく登るのが早く、ついたあだ名が”スローフット”。。。まあそんなことあるわけないよなー!地図のコースタイムは少し甘く表記されているだけだ。
小屋の前で休憩していたら小屋のオヤジが出てきて「運搬用のヘリが来るので小屋の中に入って下さい!」と良く通る声で叫んだ。周りにいた人はゾロゾロと小屋に入っていったが僕は「ヘリコプターの搬送シーンを見れるせっかくのチャンスだ!少し離れていれば危険なことは無いだろう!」と小屋の外に立っていた。
やがて遠くで「パタパタ」としていた音が段々近づいてきて「バリバリ」と変わった。「オーッ!ヘリがやって来たぁー!」と最初はワクワクしていたがその内に「コリャ!マズイ、マジヤバーッ!」状態になってしまった。予想以上に風が強く周りの草木も台風中継みたいにバタバタと揺らぎ始めた。更に風がドンドン重くなっていき周りの草は地面にべったりと押し付けられた状態になった。慌てて帽子を押さえて小屋の陰に逃げ込んだ。ヘリコプターのこんなに近くで見るのは初めてだがこんなに風が強いとは思わなかった。考えたらあの機体と荷物をこの風圧で持ち上げている訳だから当たり前である。
ヘリコプターは荷物を降ろすと「バリバリ」と爆音を残し大空に飛び去って行った。小屋からゾロゾロと人が出て来て明るい笑い声が広がり賑やかさを取り戻した。僕は「なんでこんなんでビビッてんだろー!情けねぇー野郎だ!」と自分に叱咤しながら爺ヶ岳へ向け出発するのだった。
爺ヶ岳への登山道は尾根道となり展望が良い。種池小屋を振り返ると夏の光にキラキラと輝く緑の中に小屋の赤い屋根が印象的だ。この景色で完全に元気になった。大体僕はお調子者なので落ち込んでいても直ぐに立ち直る性格なのだが元気の源はやっぱりこの景色だ。ありきたりの表現だが一言で言えば「最高!」の気分である。北アルプスの山は岩が乱積した山頂の印象が強いがこんな深緑の景色も良いなと改めて感心した。
爺ヶ岳山頂は360度の展望だった。地図と展望を見比べながら「あれがあれで、これがこれか!」などと山の形と名前を符合させていると僕もいっぱしの山ヤになった気分である。
立山を見ると山頂にまだ雪が残っているのに、ここ爺さん山はお日様ジリジリ状態のてっぺんなのだ。立山と爺ヶ岳の緯度はほぼ同じであるのにえらい違いだ。
爺ヶ岳から冷池小屋へ向かっていると稜線の東側から分厚い雲がモクモク湧いてきた。稜線の向かって左は晴れているのに右は雲で真っ白になり何も見えなくなってしまった。雲に向かって「こっちへ来るなよー!あっちへ行けー!」と念じてもやっぱり同じだーね。

爺ヶ岳山頂 360度の展望に「最高!」これ以上言うこと無し
冷池小屋にはかなり疲れて到着。小屋の前では早くもテントを張った人たちがビールを飲みながらのんびりと景色を眺めている。”冷池”と言うくらいだからビールも良ぉーく冷えている違いない。この小屋を過ぎると鹿島槍まで2時間、更にキレット小屋まで2時間の計4時間のコースタイムである。そこまで歩けるだろうかとちょっと心配になる。休んでいる人を見ていたらいっそこの冷池小屋に泊ってしまおうか、冷えたビールをゴクゴクと咽喉に流し込んでやろうか!」と誘惑されそうな気分だ。

爺ヶ岳から立山を見る 天上の散策路だ!
でも天気は良いし景色も良い。「こんな恵まれた日に頑張らんと何時がんばるんだ!」と気合を入れる。
小屋を出てしばらくはお花畑の中を歩く。なんだかドンドン歩いて行ってしまうのがもったいない道なのだ。今度、来た時はゆっくり歩こう。ここの花畑が綺麗なことをしっかり覚えていよう!だから今回はスマン!スマン!なのだ。
米つきバッタみたいにスマン!スマン!を繰り返していたら鹿島槍ヶ岳山頂に到着。文章では一行だが歩くと2時間かかったのだ。
途中の展望はやっぱり登山道の右側(信濃大町側)はガスって真っ白け、左側(立山側)は快晴とハッキリ分かれていた。鹿島槍山頂(南峰)からも信濃大町側はびっしりと雲に埋め尽くされ展望は無かったが立山側はかろうじて見えた。五竜岳は東から分厚い雲が押し寄せてきて今にもその雲に飲み込まれそうだ。北峰は湧き上がる雲にかろうじて山頂だけが頭を出していた。
それにしてもこれは晴れていたらすごーい!展望に違いない。とにかく残念。。。。しかし「残念!」だと思う気持ちが意識の中に感じられた途端に今度は「ちかれたー!」という思いが湧き上がってきた。じっくりと景色を眺めるためにというより疲れのために崩れるといったような感じで座り込んでしまった。登り始めて6時間も歩いているのだから”当たり前田”なのだ。
さて、ここからキレット小屋までは僕の嫌いな危険野郎な道なのでとにかくゆっくりでも良いから気を抜かないように歩かなきゃいかん。夏山の滑落事故は「なんでこんな場所で???」と思われる箇所で発生していることが少なくないと雑誌に書いてあったのを思い出した。良い時に良い事を思い出した。僕の前頭葉も中々賢いぞ!エライエライ!
つまりここから山小屋まではなぁーんてことない道でもなぁーんてことある道でも常に気持ちを引き締めて歩かなくてはならないのだ。

五竜岳に向う途中から鹿島槍を振り返る
少し緩んだ頭のネジを締め直して降りにかかる。ザレ場を降って行くとちょっとした岩場があるがたいしたことは無く、結局心配していた危険マーク箇所もなぁーんてこと無く無事キレット小屋に到着したのだった。

キレット小屋の部屋は2段ベットみたいに一人ずつ木の枠で仕切られていた。数人で泊まる人には隣の人とのコミュニケーションを取りづらいかもしれないが僕にような単独行には他人に気兼ねなく寝ることが出来るので心地良かった。周りのおばちゃん達が話しているのを聞いていると昨夜、五竜岳小屋も種池小屋もすごい混みようだったそうだ。ここキレット小屋は穴場的な小屋でいつも比較的空いているそうである。(それにしても五竜岳小屋も種池小屋、この離れた二つの小屋の情報をどうやって知ったのか?。。。オバサンの情報網は流石だ!)


五竜岳までもう少しだ! 
翌朝、朝食を食べて小屋を出ようとした時、そばに居た男性が日焼け止めクリームを顔にベタベタ塗りたくって真っ白の”バカ殿”顔になっていたのを見て思わず吹きだしてしてしまった。僕は一旦笑い出すと止まらなくなるので慌てて小屋を飛び出して外でおもいっきり笑った。オーストラリアでは最近、オゾン層の破壊で有害な紫外線が多量に降り注いでいるみたいなことをテレビニュースで言っていたが日本でも危ないのか?気のせいか女性ばかりでなく日焼け止めクリーム+つば広帽子の完全武装の男性も目立つのだった。
朝から天気が良く歩いていて気持ちが良い。そのせいか危険マークの箇所もヒラリヒラリと難なく通過して行くのだった。途中にちょっとした岩場で人がすれ違えない場所があった。向こうから人が来たのが見えたのでこちらで待機していた。
しかしいくら待ってもその列が途切れることは無く延々と続いている。やって来た人に「向こう側に人は多いですか?」と尋ねると「私達50人のパーティーなんです!」と言う返事だった。こっち側は僕を入れて3人だけである。岩場の向こう側を見ると男性が脇に立って誘導していたので「こちらは3人だけなので先に通させてください!」とお願いしたら誘導していた男性が「私達は同じパーティーなので途中で列が途切れるとマズイんです!」と返事が返って来た。列が途中で途切れると何故マズイのか?僕には分からない、むしろ10人ずつ位に分かれた方が歩きやすいと思うのだが。。。結局15分ほどパーティーが通過するのを待った。じっと待っていることってもの凄く疲れることなんだと勉強になった。
いくつかのピークを過ぎると五竜岳山頂である。結局、地図には危険マークが沢山あって僕を心配させたけれど歩いてみるとたいしたことは無かった。今度来る時はテントを担いでもっとゆっくりと攻めたいと思うのだった。
五竜岳に登ったのは今回で2度目である。前回の印象は「天気が良かった!」というなんだか少し情けないことしか憶えていない。今日も快晴である。白馬岳を見ると東からモクモクとした雲に今にも飲み込まれそうである。鹿島槍も雲が東側から沸きあがってきた。

白岳辺りから五竜岳を見る 青空が良く似合う! それにしても上の三枚の写真の僕のポーズは腕組でどれも同じ!我ながら参った。
なんだかこの山頂だけが雲をはねつけている様に見える。僕は太陽と仲良くなりたくて山頂をグルグルと歩き回った。
なんだか今回の印象も「晴れていた山頂!」で終わりそうであるがまぁー良いか!。

遠見尾根を降る。この道は「これでもかー!」というくらい降りが続く。標高もドンドン下がってくるので暑くて死にそうだ。
小遠見山で振り返ると五竜岳が薄っすらと霞がかかったように見えた。ずい分降ってきたんだなーと思うが地図を見るとまだ2時間も降りがあるのだ!。
リフト駅から下を眺めると下の駅までかなりの標高差があった。もうかなりバテバテ状態でとても登山道を歩く元気は無い。素直にリフトのお世話になった。リフトの中から下を見ると何とこのクソ暑い中を歩いて登っている人や降っている人の姿を見つけた。何という根性だろう。こういう山ヤを見るとなんだか自分がヘタレ野郎に思えて情けなくなる。歩いて降りたら何かを発見したり、出会いがあるようで損したような気分でもある。
がしかし。。。かといってやっぱり歩く元気もないんだな!これが。

●山麓をゆくへ

  ●ホームへ

inserted by FC2 system