竜ヶ岳、毛無山、長者ヶ岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆4月29日
川崎(5:39) +++ 富士 (7:51/8:01) +++ 富士宮 (8:19/8:25) === 本栖入口(9:20/9:35) --- 登山口 (10::00) --- 経塚 (10:50/10:55) --- 竜ヶ岳 (11:35/11:55) --- 端足峠 (12:30) --- 雨ヶ岳 (13:30/13:50) --- タカデッキ (14:30/14:35) --- 大見岳 (15:10/15:15) --- 毛無山(15:35) (テント泊)
◆4月30日
毛無山 (5:50) --- 地蔵峠 (6:45/6:50) --- 金山 (7:05/7:10) --- 雪見岳 (7:35/7:40) --- 猪之頭峠 (8:10/8:20) --- 熊森山 (8:45/8:50) --- 湧水峠 (9:30/9:35) --- 長者ヶ岳(11:05/11:20) --- 天子ヶ岳(11:55/12:10) --- 白糸の滝(13:55/14:20) === 富士宮(15:01/15:14) +++ 富士 (15:33)
山日記 (竜ヶ岳〜毛無山 編)

数ある星の中で唯一、表と裏があるのは?・・・それは月。地球からいつも見えている面が表、見えない面が裏と呼ばれている。
自宅の屋上から富士山を眺めるとちょうど二ノ塔(丹沢)の向こうに端正なその姿が見ることが出来る。いつも自宅から見える側が富士山の表だとするなら今回、向かうのは富士山の裏側を眺望できる山々、富士山包囲網登山もいよいよ最終章、富士山の西側にある山へまで足を伸ばすことになった。

バスを降りて歩いていくと目の前に本栖湖の青い湖面が広がった。
水の透明度と水深の深さを誇る湖だ、濃青の湖面が春の暖かな日差しをいっぱいに受け止めていた。
本栖湖の南にはこれから登ろうとする竜ヶ岳、北には今年の一月に登ったばかりの三方ヶ山が見える。富士山包囲網と銘打っているならばこの三方ヶ山から続きをきっちりと歩かなければいけないのだけれど、どうも精進湖へのバスのアクセスが悪く、しかたなく今回は竜ヶ岳から南へ向かうことにしたのだ。だからこうして目の前に三方ヶ山の姿を見ているとちょっと悔しくてしかたがない。

キャンプ場の中を歩いて登山口へ向かう。やっぱり五月連休だな!あっちこっちにカラフルなテントが立ち並んでいる。
オートキャンプはとにかく豪華だ。テーブル、イス、ラジカセ、それにテレビまで揃っている。それに引き換え僕の家財道具は全て背中のザックの中。別にテレビが羨ましいとは思わないけれどザックが重いのはどうにかならないかな!とは思ったりする。
歩きながら失敗したな!と思った点が一つ。それは湖の公衆便所でポリタンに水を入れたこと。こうやってキャンプ場の中を歩いているとアチコチに炊事場があるんだよね。トイレ使用料50円払って、それもトイレの水をわざわざ入れることはなかったな!と思う。


本栖湖からの竜ヶ岳 湖畔にある山はいつも涼しげ、春の陽射しの下にあると、いっちょ行ってみますか!と深呼吸。

キャンプ場を抜け登山口から登り出す。登山道はこの西側にもう一つあってそっちの方が時間的に早く登れる。毛無山へ早く着きたい僕は最初、そっちのコースを行こうと思ったけれど、やっぱり景色が良いってことは大事だ!特にこんな快晴の日にはとっても大事だ!と距離は長くても景色の良い(らしい)こっちの道を登る事にした。

ジグザグの道を登って行く。暑くも無く寒くも無く清々しい季節、新緑に少し早いのが惜しいけれどこうやって自然に触れていると春の中で立ち止まっている感じがして嬉しい。
振り返ると本栖湖が青い、そして空もまた青い。そして視線を遥か遠くに向けると空の中に真っ白な雪山がまるで白い切紙をピンで留めたみたいに張り付いてるのが見えた。
北岳だな!もうその三角の形はしっかり北岳なのだ。もっと登って行けばもっと良く見えるに違いない!そう思うといけないと分かっちゃいるけれどどうしても自然と足が速くなってしまう。

登り出して1時間弱で一面笹原になっている経塚に到着した。
竜ヶ岳の名前の由来は・・・
平安時代の800年、湖底に住む竜が富士山の大爆発を村人たちに告げた。山に登って噴火の難を逃れた村人たちはそれまで小富士と呼ばれていた山を竜ヶ岳と呼び、石仏を祭って信仰するようになった・・・と言われている。
柵に囲まれている石仏を見るとまさか平安時代に設置された石仏では無いと思うのだけれどかなり風化され表面が丸くなっていた。何だか遠い太古の時の流れを感じてしまう。


経塚の石仏は木の柵に中に安置されている。 ここから山頂への笹原のジグザグ道は竜の眠る道


登山道途中から見下ろすと経塚は平らな緑の笹原。
子供達のはしゃぎ声と共に登って行く。

経塚からは笹の中をジグザグに登って行く。周りは家族連れハイカーの姿が多く、これほどデカザックが似合わない山も珍しい。

「笹の海を歩く!」
ガイドブックにはそんな風に紹介されていたけれどその表現がまさしくピッタリだ。以前はスズタケが覆う山として上級者向きの藪こぎの山だったらしい。ところが2000年の初日の出、それもダイヤモンド富士を竜ヶ岳の山頂で拝もう!という気運が高まり、1999年に登山道が整備された。
そんな作られたばかりの登山道は周りに高い木が無いので展望はピカイチ!八ヶ岳、金峰、大菩薩、それからもちろん振り返れば富士山がデカイ!んーん良くぞ登山道を作ってくれました。


竜ヶ岳を登って行くと周りの山々が見え出した。八ヶ岳も快晴みたいで今登っている人は最高なんだろうな


こんな笹原を登って行く。振り返るとそこには大きく裾野を広げた富士山の姿があって爽快な気分。

そして気持ちいの良い笹原は竜ヶ岳山頂まで続いていた。
ポッカリと開けた山頂はただ空が広いと言うただそれだけで素晴らしい!そして山頂の向こうに南アルプスの姿がズラリと並んでいるのを見つけた時にはためらいもなく有頂天!
こんなにズバンと見えるのは富士山の外輪山の中で一番ではないだろうか?ザックを下ろすのも忘れるほど展望に引き付けられてしまった。


広い竜ヶ岳山頂 何より嬉しいのは南アルプスの山々がズバンと見えたこと

大河ドラマ”風林火山”のタイトルバックに映る北岳の姿、初夏の頃だと思うけれど少し雪が残っていて緑でいっぱいの山の姿に見るたびに南アルプスへの憧憬は募るばかりだ。それにテーマ曲が長調へ転調するタイミングでズバンと北岳が画面に現れる演出もまたニクイ!
今こうして目の前に北岳の姿を見ているとやっぱり北岳は良いよ、南アルプスは良いよ!と夏の計画がチラリと頭に浮んだりする。
もちろん山頂からは富士山もしっかりデカイのだった。まったく揺るぎの無い大きさにはいつでも圧倒される。春の暖かな陽射しの下、こうしてまだ雪が積もった富士山の姿はどこまでも清爽で心と体をじんわりと満たしてくれる。


もちろん富士山もしっかり見えます。元日にはダイヤモンド富士の名所になるてっぺん


竜ヶ岳山頂から見ると雨ヶ岳はずっと高くてガックリ。右のピークが雨ヶ岳、左のピークはタカデッキ

こんなてっぺんには理屈抜きにお弁当がお似合いだ!
山頂のあっちこっちでザックが開きお弁当が出てくる。
ところが僕にとってはゴールはまだ先!オニギリを頬張りながらちょっとした陰影をも見逃すものか、時間いっぱいまで見てやろうと遠くから近くへとせわしく視線を走らせる。富士山を見て南アルプスを見て、何か見落とした物があるような気がしていつまでも瞳孔が定まらない。

いつまでもこうして景色を眺めていたいけれどそろそろ行かなきゃ、僕にはまだ先があるのだ!
ザックを背負うとこれから向かう雨ヶ岳は思ったよりずい分高く見えた。


竜ヶ岳からは急な降り。写真では分かりにくいけれど長い階段になっていて足がヘロヘロに。

竜ヶ岳から毛無山までの縦走路をインターネットを検索してみると、本栖湖から竜ヶ岳までの登山道が整備されたのに前後して竜ヶ岳から毛無山までの間もも整備されたらしい。
ネットで検索した山行レポを見ると2000年以前は背丈ほどの笹に覆われた藪漕ぎの世界でコノヤロー度もかなり高い、それに反して2000年以後のレポでは藪も無くなりお気楽登山に変わっている。
また昭文社の山岳地図でも以前は登山道の表記が無かったが最近の地図では一般登山道としてしっかり表記されている。だからこうして僕みたいな藪漕ぎの技術も経験も無いハイカーが安心して来れるようになったのだ。

山頂からしばらくは気持ちの良い笹原だったが、その先はいきなりの急斜面だった。
僕の持っている2004年版昭文社の山岳地図では竜ヶ岳から端足峠までは”笹の急斜面”となっているけれど実際は笹原の中の階段になっていた。
この階段が実に急で長くて、ザックの4リットルの水の重さが効いた、長い階段を降り終えるとかなり足がヘロヘロになってしまっていた。

そして端足峠から雨ヶ岳までその標高差は約500メートル。低山だと侮ってはいけない、ゆっくりで良いんだ!自分に言い聞かせながら登り出す。
途中で一人の男性がぶっ倒れているのを見てギョッとする。どうもケガなんかではなくただ眠っている様なのでその横を通り過ぎたけれど、こんな登山道の途中でいきなり人が倒れていると誰だってビックリしてしまうだろう。今度暇な時にやってやろうと思う。


左:新緑にはまだ早かった。バイケイソウの緑は鮮やかにそんな山を飾っている

右:白樺の木の上の雲。こんなの何となく良いと思う

いくら登ってもまだ先があるような感じだ。ゆっくり登って来たので息切れはしなかったが額から大粒の汗が流れ落ちる。
山頂へもう少しという所まで来た時、一人の男性が降りて来て「途中で寝ている奴いました?」と大笑いしていた。話を聞いてみると先ほど見かけた男性は途中で登るのを諦めたらしいのだが、正直に言って「こんな山に登れないでどーする!」と戻って説教したくなってしまった。


雨ヶ岳からは富士山の展望が良い。ここでテントを張っても気持ち良さそうな場所だ。

失敗したな!
雨ヶ岳山頂についてまずそう思った。思っていたより山頂は広くて、それに富士山の眺望が素晴らしい。まったく余計なお世話なんだけれどさっきの途中で寝ていた男性はこの景色を見ることが出来なかったのだ。失敗したよな!とイジワルに思えるほど展望は良かった。

富士山を眺めながら休んでいると夫婦と思われる二人が毛無山方面からやって来た。僕のザックを見て「今日はテント?良いねぇー!」そう言われるとやっぱり嬉しいもんだ。

スゴイな!と思ったのはこの夫婦の行程だ。毛無山登山口の麓に車を停め、地蔵峠→毛無山→雨ヶ岳と縦走し、端足峠から自然歩道を降りて麓まで戻るそうだ。地図のコースタイムで約10時間の距離だ。
この夫婦が行ってしまうと入れ違うようにしてまた別の夫婦が登って来た。そしてまた僕のデカザックを見ると「私達にはもうそんな体力ないですよ!」と羨ましそうに言うのだけれど、話を聞くとさっきの御夫婦と全く同じコースを歩くらしく、一体、この辺りの登山者の体力はどうなってんだ!と思わずにはいられなかった。

雨ヶ岳からさらに150メートルほど登るとタカデッキだ。緩やかなピークで山頂を現わす標示も無く、山頂がどこかハッキリしない。そのせいでタカデッキなんておかしな名前になってしまったのだろうか?
笹原になっていて展望は良いのだけ広くなった場所がないので立ち止まるキッカケを逃してしまい、気が付いたらもう降り出していた・・・とそんな感じの山だった。


左:タカデッキはどこが山頂か?分からないまま、いつの間にか通り過ぎてしまった。この辺りも富士山や南アルプスの展望が良い

右:大見岳山頂は展望が無く、地味な山。ナゼか山頂の標柱の周りにロープが張られていた。入ってはいけないのか?

タカデッキから少し降って再び登り返すと大見岳だ。天子山魂の最高峰だけれど山頂はグルリと木々に囲まれて全く展望は無い。山名が大見山だからもう少し展望があっても良さそうな感じがするが、大見山とは他から大きく見える山の意味かもしれないな。

大見山から毛無山まではほぼ平坦な道が続く。草付になっていて富士山やその裾野まで一望出来た。あんまり気持ちが良さそうな場所なのでこの草付にテントを張ってやろうか!とも目論んだけれど「自然を大切にしましょう」とシツコに立札があるので気が引けてそれも出来ない。


予定よりずっと早く毛無山へ到着。標柱に体重をかけたら傾いてしまって慌てた。


山頂にテントを張る。下の方に赤いテントが張ってあった。展望の良い場所を取られてちょっと悔しい。

そして毛無山へ到着。ここも富士山がデカイ!
結局、竜ヶ岳から毛無山までの縦走路で不明瞭な箇所や歩きづらい箇所は一箇所も無かった。それに歩く人が増え道が良く踏まれたためか?地図のコースタイムよりかなり短い時間で歩くことが出来た。


草付で暮れていく富士山を眺める。少し赤く染まった。

山頂は広いけれど展望は富士山側だけというのも惜しい。
富士山を確認するように眺めるとすぐにテントの設営にかかる。
どこか良い場所は?と眺めると、少し降った所に既にテントが一つ張ってある。日帰りで登れる毛無山で幕営するなんて僕一人位だろう!と思っていたので意外だった。僕の経験では単独行の登山者は良い奴か、変わった奴のどちらかなのだが、少ししか話せなかったけれどこのテントの男性は僕と同じで?良い奴みたいだ。
そこへ親子二人が登って来て、この日、山頂には3つのテントが並ぶことになった。

テントを設営すると早速お湯を沸かしてアイリッシュコーヒーを作る。テントを張った場所は富士山に向けて緩やかに傾斜していたのでそこに座ってコーヒーを飲みながら文庫本を読んだ。
この時期の山は虫が多い場合があるので防虫スプレーを持って来たのだけれど幸いにも虫に悩まされる事もなかった。
本とちょっとアルコール、そして富士山を眺めながら夜に向かってゆっくりと時間は流れて行った。


毛無山〜天子ヶ岳 編 へ続く
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