木曽駒ヶ岳、三ノ沢岳
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:ロープウェイ)

◆9月9日
駒ヶ根 (11:00) === しらび平 (12:00/12:20) *** 千畳敷 (12:30) --- 乗越浄土 (13:20/13:30) --- 伊那前岳 (13:50) --- 乗越浄土 (14:10) --- 中岳 (14:30/14:35) --- 頂上山荘キャンプ地 (14:45/15:05) --- 木曽駒ヶ岳 (15:15/16:00) --- 頂上山荘キャンプ地 (16:10) (テント泊)

◆9月10日
頂上山荘キャンプ地 (5:00) --- 中岳 (5:10/5:35) --- 乗越浄土 (5:45/5:50) --- 伊那前岳 (6:05) --- 乗越浄土 (6:15) --- 宝剣岳 (6:45/6:55) --- 遭難ノ碑 (7:10/7:15) === 三ノ沢岳 (8:35/8:55) --- 遭難ノ碑 (10:10/10:20) --- 極楽平 (10:35) --- 千畳敷 (11:10/11:20) *** しらび平 (11:30/11:40) === 駒ヶ根 (12:24)

山日記

青春18切符を消化する旅、それはちょうど文庫本一冊の列車の旅だった。

駒ヶ根駅で降りてしらび平行きのバスに乗る。
乗客は8人だけでバスはガラガラ状態だし、やっぱり平日はこんなものだと思う。
バスの乗客は登山姿の人ばかりで、それもほとんどがソロみたいだ。まーっ平日に山登りしようとする人はどうしてもソロになってしまうものらしい。

発車する前から早くもバスの中は山の話で盛り上がっている。
駒ヶ岳山頂付近の山小屋はどこも休日には超満員なってしまうので、こんな平日でないとゆっくりと泊まることは出来ないらしい。
何でもここ数年の登山者数はどこの山でもピークになっているらしく、と言うのも一斉に退職した団塊の世代の人達が平日登山の楽しんでいるので最近は平日でも天気が良いと山小屋はどこも混雑するらしいのだ。
昨年、今年と富士山の登山者数が過去最高になったのも同じ理由かもしれない。
もっとも団塊の世代のハイカーも後10年20年すると山から離れてしまい、若い人の登山人口は減少傾向にあるので、その後は急激に登山人口が減るのでは?ということも懸念されている。

バスが駒ヶ根高原へ到着。
近くで祭りでもやっているのかな?と思うほど駐車場前のバス停には長蛇の列が出来ていた。
駒ヶ根高原からしらび平まで一般車両は通行禁止なっているので車で来た人はここからバスに乗り換えないといけない。
それにしても平日なのになんという人の多さだ。乗客8人だったバスはたちまちすし詰め状態になってしまった。補助席を使っても全員座りきれず立っている人もいるほどだ。
僕もザックを膝の上に抱きかかえたけれど目の前で揺れ動くザックに乗り物酔いしそうだった。
バスの乗務員さんの話では以前はしらび平までの道は一般開放されていた。だけどあまりにも交通事故が多発するので今のように通行止めになってしまったらしい。

すぐ目の前のザックのせいで景色はほとんど見ることが出来ないまましらび平へ到着した。
このしらび平に来るのはこれで2度目だ。一度目は9月の休日だったけれどその時はロープウェイに乗るのに3時間待ちだった。
さすがに今日は平日なので駐車場に人影は無い。バスを降りた乗客がそのまんまロープウェイに移ると千畳敷を目指して登って行った。

宇宙飛行士の向井千秋さんが以前トーク番組で語っていたけれど、宇宙船から初めて地球を見た時にあまり感動しなかったそうだ。訓練で繰り返し見ていたシュミレーションの映像とあまりにも同じだったのがその原因らしい。
僕にはもう以前千畳敷に来た時の記憶は無くて、ただあるのはネットのライブ映像でみた千畳敷の姿だけだった。
ロープウェイを降りて千畳敷に立った時、悲しいけど「ライブ映像と同じくらい綺麗だなー!」と感激してしまった。だけど同時にやっぱり山の大きさはディスプレイに収まりきれない、パソコンでは三次元的な空間を感じさせることは無理だな!と改めて”生”の素晴らしさを実感してしまった。
そうするとライブ映像っていうのは登山者にとってシュミレーションなのか?ただのお節介なのか?分らなくなってしまう。

それにしてもだ、ここは標高2640m・・・あまりに楽にやって来たことに罪悪感すら感じてしまう。

剣ヶ池は名前は勇ましいけどホントに浅くて水溜りみたいだった。
がしかし、ここからの千畳敷カールの眺めはまさに圧巻!
ただこの写真、どうしても塗り絵みたいになってしまう。レタッチの仕方が悪いのか?モデルが悪いのか?
今日の行程は千畳敷から頂上山荘キャンプ地まで登るだけなので良く言えば気持ちに余裕があり、悪く言えば緊張感のカケラもなかった。
とりあえずユルユルと遊歩道を下って剣ヶ池まで降って行く。

すっこーんと広大なカールはまさに圧巻だ!
さすがの超絶展望!花の時期には遅かったけれど岩壁の白さとカールを埋め尽くす緑のコントラストはまさに絶景だ。
地表は観光客でザワザワしているに対し、青空に浮かぶ宝剣の何と雄大なことよ!

「やっぱり山に慣れた人は違いわねぇー!」僕の後ろを歩いていたおかあさんの声が聞こえた。あーっこれはきっと僕の事を言ってるに違いない!ニヤリとほくそえんでいたら「だって歩くのがあんなに遅いもの!」・・・ほめているのか?けなしているのか?何だろう、この中途半端さは!

千畳敷から乗越浄土までのコースタイムはわずか40分なので、ここには気合とか頑張とかスポ根的な単語は要らない。頑張って登るほどではないので千畳敷の眺望を振り向きつつゆっくりと登って行く。

僕にとってスゴク違和感を感じたのは降りて来る人の服装だった。
ほとんどの人が軽装の観光客ばかりでビジネスシューズをきっちりと履いたおじさんやオマケみたいなザックを背負った学生ばかりだった。
そして極めつけは・・・乗越浄土で休んでいたら女の子が登って来た。タンクトップにヒップハングのホットパンツ、足元は素足にミュールという3000m級の山ではとてもお目にかかれないムンムンムレムレだった。
僕のそばで食事中のハイカーは何か恐い物を見るような感じでその女の子をチラチラと盗み見ている。僕の視線も手にしたオニギリから半ケツ状態のパンツに流れてしまう。
浄土とは仏が住む欲望や苦しみのない世界を言うのだけどこの乗越浄土っていったい何っ?

乗越浄土への途中から千畳敷を見下ろす。
積雪期はこの斜面を直登のか想像すると恐ろしい。


乗越浄土での写真は疲れた感じだけど全く疲れていない。だって40分しか登っていないからね。

乗越浄土にザックをデポして伊那前岳(伊那岳っていう山は無いの?)へ向かう。
和合山をトラバースして歩いて行くと眼下の千畳敷はまるで緑の箱庭のようだ。

靭銘石の横を通って南アルプスが一番近く見える所まで歩いた行く。
山と空を分ける稜線の形が見慣れた中央線沿いからとは違っているのはどこか不思議な感じがする。
誰も居ないからついつい岩の上に腰掛ける時間が長くなってしまう。いつまでも南アルプスの山々を眺めてしまう。

伊那前岳からの千畳敷カールと宝剣岳。ここまでやって来る人は少ないのでノンビリとした尾根歩きが楽しめる。


乗越浄土にデポしてあったザックを背負って中岳へ向かう。ここでもひたすら・・・ノンビリ

乗越浄土へ戻ってザックを拾い上げると中岳をゆるりと登ってキャンプ場へ向かう。

頂上山荘へテントの受付に行くと「土日以外は休業してます。テント場代は後で徴収に行きます」の張り紙があって・・・・何でだぁ小屋には誰も居ないではないか!!!
あーっこれじゃ水が無い!水は木曽小屋か宝剣山荘まで買いに行かなくてはなんねー!?と思っていたら便所の扉がするりと開いて洗面所の蛇口から水が出たのでホーッと一安心した。

駒ヶ岳山頂はグルリと360度の眺望。頂上木曽小屋が近いためか夕方になっても登山客が絶えない。

山頂へのルートは幾つかあるけれど憧れの西駒山荘方面から登って来たソロの女性が羨ましかった。

御岳、乗鞍、北アが近いですね。
駒ヶ岳は信仰登山の山・・・それにしても山頂に祠が多すぎ。

ガラガラのテント場、好きな場所にテントを設営し終えると空身で木曽駒ヶ岳山頂へ向かった。

夏のギラギラとした喧騒はもうここには無かった。
山頂では数人の登山者がユルユルと陽だまりを満喫中。
逆光なのであんまり良くは見えないけれど御嶽山や北アルプス、南アルプスや八ヶ岳の山の形や位置を一つ一つ確認するのってパズルみたいで結構楽しい。
山頂にある方位標示盤は傷だらけで山名を確認するのには一苦労したけど、それもご愛嬌、標高3000mでは完全のまま継続されるの方がむしろ不自然かもしれない。


駒ヶ岳からの中岳、宝剣岳の展望。何と山頂に45分も居てしまった。
こんなことならお酒でも持って来るんだった。何で中腰になっているか?
後ろの景色がより写すためのだけど・・・こうして見るとただの馬鹿にしか見えないのが悲しい。
駒ヶ岳山頂からテントに戻るとお湯を沸かしてまずは甘めのアイリッシュコーヒーを一杯。
今回はしっかり酔っ払おうという計画なのでウイスキーを大量に持って来ている。
山小屋が休みなので、もしお酒を持って来て無かったら秋の夜をシラフで過ごすという最悪な夜になっていたことだろう。

山頂から眺める南アルプスは意外と近くに見える。
左から鋸岳、甲斐駒、仙丈岳でこの右には北岳、間ノ岳・・・と南アルプスの山々が連なっている。


この日は風も無く、暑くも無く、快適なテント日和だった。
テント5つがほとんど同じ距離を置いて張られているのは偶然だろうか?

いつのもことだけどツマミにはこだわりはなくて今日もスルメとサラミ。
風が緩やかなのでウイスキー片手にテントの外に出て見るとカリンとした青空はまだしっかり残っていてくれた。
岩に腰掛けて砂地に足を投げ出すと最高の気持ち良さ。こんなに気持ち良い時間の過ごし方は初めてかもしれない。暑くも寒くも無くて只の時間つぶしにしては勿体ほどテント場からの八ヶ岳の姿は移ろいにじんで見えた。

夕方、ベロベロに酔っ払って中岳へ登る。良い子の皆さんはこんなマネはしないで下さい。
夕陽に染まっていく宝剣岳をただただ眺めた。風が無いので寒くは無い。こんなことならお酒を持って来るんだった。
こんなに酔っ払って歩けるかな?と思いつつ黄昏に追い立てられるように中岳へ登って行く。
絶対に行くしかあるめぇー!なにせ北海道の山では朝日や夕陽などアンバー系の空にはほとんど縁遠かったので紅色の空に心から枯渇していた。

御嶽山の左に沈んで行く夕陽を眺めた。
取り留めの無いグラデーションの連続が濃くなっていく様はまさに一日の終わりを啓示しているような神々しさだ。
こんなのが見たかった!やっぱ山の終わりはこーでなくちゃイカン!
ここにお酒があったらなー!とポツンと思った。

御岳の右側に太陽が沈んでゆく。
湧き上がる雲に夕陽が当たり炎のような揺らめきを見せた。

テント場への分岐まで降りて来るとすでに赤みを帯びているのは空の下だけになってしまっていた。

テントに戻ってウイスキーを飲んでいると中岳の上に月が・・・でテントの中からパチリ。

北海道から戻ってテント、マット、シュラフまで全てクリーニングしたのでいつもの汗臭さは消えてかすかに洗剤の匂いがした。
今日は薄っすらと額に汗を掻く程度の運動量だったのでシャツのベトベトも無い。
ふっくらと太陽の匂いがするシュラフをハグハグしていたらすぐに寝入ってしまった。


静かな夜

翌朝、まだそれは夜明け前。
暖かいシュラフを抜け出してテントのファスナーを開けるとそこには満点の星空が広がっていた。
実は今回の一番の目的は星空を見ること。
特に早起きしたわけではないけれどこの時期、午前3時はまだ星のめぐる時間だ。
テントから頭だけ出して腕枕して眺める沈黙の星空は永遠を奏でるかのような無数のともしびに包まれていた。
あーっ、空いっぱいに天ノ川が見えますねー!


今回の一番の目的は星空を眺めること!駒ヶ岳上空の天ノ川を撮ったつもりだけど・・・んーん!
目を細めると天ノ川の痕跡がかすかに見えるかも。
秋は朝の訪れが遅いから、そんなに早起きしなくても大丈夫。
このテント場は夜明けを感じさせる。
闇に沈んでいたテントにオレンジ色の薄光が差し込んで来る。
漆黒の闇に向こうには八ヶ岳のシルエットが浮かび上がって一抹の予感を感じさせる。

朝3時、テントの横に三脚立てて中岳の星を撮影してみた。感度400、絞り13、シャッタースピード25分
僕がカレーを食べている間にも星はグルリと夜空を周っていたのだ。
この写真ねー、天体写真としては面白くないと思う。でも本人にとっては一瞬のときめきでした。
朝日の微かなほてりにまかせてテントの撤収。
僕以外の4つのテントは静まり返って微動だにしない。
もし誰か目覚めていたら「うるせーなぁ!」と言われそうなほどテントをバサッバサッと振って露を吹き飛ばすと出発の準備完了!

朝、テントは段々と朝日に包まれていく。東には真っ赤な空を背にした八ヶ岳の山々が並んでいた。

中岳でご来光を待つ。
ホシガラスや岩ツバメが何かに追われる様にせわしなく岩を駆け上がって行く。
西の空が紫色に染まって行くとその瞬間も近い。

やがて秩父の山から真っ赤な太陽が顔を出し始めた。まさしくこれは歓声の無いバトンタッチの瞬間。
山頂には誰も居ないのでとりあえず思いっきり万歳してみたけれど、その後の突然過ぎる静けさに空しくなって苦笑いしてしまった。

朝の空気をしこたま吸い込むと中岳を降った。
宝剣山荘まで降ってみるとすでに小屋の前にはザックを背負った登山者の姿があった。
時間は午前6時、小屋の朝食は何時だったのだろうか?山小屋は朝食が遅いので泊まることを躊躇してしまけれどこんなに早いんだったら泊まってもみたくなる。

中岳山頂でご来光を待つ。
夜明け前の沈黙の富士山。

秩父連山から(どの山かは?)太陽が昇った。

とりあえず万歳!コーヒーでも作りたかったけどやっぱり面倒くさい。

さすがにこんな早朝ではムンムンムレムレな子はいやしない。
小屋前のベンチにザックをデポしてトットと伊那前岳へ向かう。
ガイドブックによると中央アルプス一番の景観だと言う伊那前岳からの宝剣岳を見るためだ。
和合山、伊那前岳と登山道は山頂の下を巻いているので厳密な山頂ではないけれど伊那前岳からの宝剣岳は絶景だった。
太陽がじわーっと昇るに連れて影が引き千畳敷の緑が彩を増した。
何ともじれったい様な嬉しいようなそんな気分が心に沁みる。


夜が明けると空気が一気に軽くなった感じがする。
ザックが重いのは相変わらずだけど、それにしても山の朝は気持ちが良いもんだ。


宝剣山荘前にザックを置いて空身で伊那前岳へ向かった。登山道は巻き道でほとんど水平なので朝の体に優しかった。

乗越浄土へ戻る途中、立ち入り禁止のロープを乗り越えて和合山へ登っている二人の人影を見た。
登山道脇に投げ捨てられたザックには銀マットがくくりつけられているのでそれなりに山登りを経験した人達だとは思うのだけれど・・・頭もスキルアップしなくてはいかんよ!
頭に白いタオルを巻いた二人によっぽど注意しようと思ったけれど止めてしまった。注意するのもけっこうツライのだ。こんなに気持ちの良い朝から気分を害したくは無いのだ。

ここ伊那前岳からの宝剣岳の眺めはアルペン的風貌で中央ア一番と言う人もいるほど。
んーん、なだらかなカールと宝剣の対象的な印象的。なるほど素晴らしいの一言です。
岩登りは何よりも経験が大事!
前回来た時はかなりビビッてしまった宝剣岳への登りも意外とすんなりとクリアして山頂へ到着してしまった。
山頂には大岩があってこの岩によじ登るハイカーも少なくは無い。下から見たほど高度感は無いから頑張れば登れなくはなさそうだけれど僕はとても登ろうとは思わなかった。
大岩に登る達成感>大岩に登る危険度 ・・・僕は不等号の向きがきっと他の人と違うのだろう。

宝剣岳山頂。山頂の大岩に登る人も少なくない。だけでビビリ屋のオレのは到底無理だ。


さてと三ノ沢岳へ向かいます。大きく上下を繰り返す尾根道を見るだけで疲れます。

遭難の碑にザックをデポして三ノ沢岳まで・・・と思ったらサブザックを忘れてきたことに気が付いた。しょうがないので手にカメラ、ペットボトルはズボンのポケットに突っ込んで歩いて行く。
目の前に見える三ノ沢岳・・・地図の等高線はゆったりとしているけれど目の前の稜線の起伏はケッコウきつそうだ。

三ノ沢岳は縦走路から外れているのでここまでやって来る人は少ないのでは?と思っていたけれどこれが意外と多かった。往復する間に追い越した人、すれ違った人は20人位だった。

振り返ると屏風のように屹立した駒ヶ岳や宝剣岳が谷を挟んで対峙している。
三ノ沢岳って駒ヶ岳や宝剣岳を眺めるには絶好の場所やないの?あまりネットや本で紹介されていないので意外と穴場的な山かもしれん!
僕みたいに気楽な稜線歩きを嗜好とするようなハイカーにはたまらないプチ縦走路だった。

もう少しで三ノ沢岳山頂です。こんな風に空身で登っているので楽です。何だか周りの登山者に悪い気にもなる。


三ノ沢山頂の端っこ。御岳の眺望が良い。登山道は山頂の下を巻いているので山頂へは少し戻る感じになる。

「昨日、南駒でお会いしましたよね?」と言われて一瞬そうだったかな?と考える。
僕はこれまで「昨日○○山でお会いしましとね!」とか「以前△△山でお会いしましたよね!」とか言った声をかけられても、顔を覚えることが苦手な僕はその度に考え込んでしまうことが多かった。
で今回もそうだっけ?と自問してみたけれど、うんにゃー!昨日は南駒ヶ岳に登った記憶は無い、いや絶対に登っていない!
「それは私じゃありませんよー!」と答えると「昨日、お会いしたじゃないですか?」・・・ってこのおかあさんもオレ以上に人の顔を憶えられない人みたいだなぁ・・・
「昨日、南駒で会ったじゃない!」って隣のおかあさんも言うし、しだいに南駒ヶ岳に登った気になっていくオレ!

それにしてもこのパーティーは福栃平から入って越百山、空木岳と縦走して来たらしいけれど、縦走路から外れたこの三ノ沢岳まで足を伸ばすというのはかなりの健脚、根性の持ち主だと思った。

三ノ沢山頂からの中ア主峰の眺め。左から木曽前岳、木曽駒ヶ岳、中岳、宝剣岳、濁沢大峰
本当に素晴らしい眺めだった。この山の配列はこっち側でしか見れないので得した気分だ。
三ノ沢岳山頂に登って行くと水彩画を描いているご夫婦の姿があった。
水彩画の良い所は絵の具の微妙なにじみによるグラデーションの柔らかさと色彩の透明度。
んーん、まったく山を描くにはピッタリではないの!絶賛と妬みの交じり合ったため息。
ご夫婦の絵を横目で盗み見つつ、オレにもあんな心得が有ったらな!パチリと無造作にシャッターを切ることに軽薄感を感じてしまう。

山頂からの東川岳や空木岳は逆光が岩肌に陰影を作ってちょっと崇高な感じだ。反対に御岳山は山一杯に日が当たっているし、その広い裾野は開放的でどっしりとしている。

本当にノンビリした感じ!
今日は時間はたっぷりあるということが嬉しい。これだったらガスストーブとコーヒーと文庫本を持って来るんだったなぁーと思う。
この山頂で寝坊したい気もする三ノ沢岳でありました。

三ノ沢岳からの御岳。御岳はバスによるアプローチがし難い山。いつかはテントを持って!と思う山なのだけれど今はここからこうして眺めるだけでガマンしよう。


三ノ沢岳からの穂高、槍ヶ岳。槍ヶ岳は遠くからでもすぐ判別出来る山だ。この左にも特徴のある山が見えていたけれど結局山の名前は分らずじまい。

山頂の下は草原になっていて、ここも駒ヶ岳や宝剣岳の眺望が素晴らしくてグズグズしたい場所だった。何でこんな良い場所を知らなかったんだろ?やっぱり山は行ってみなくちゃ分らない!

山頂から僕の前後を歩いていた男性の話では7月下旬、雪が少し残る季節には三ノ沢岳一帯は一面が花に覆い尽くされてしまうほどらしい。そう、花好きのハイカーの穴場的存在なのだそうだ。
今はもうすっかり花は影を潜めてしまっているけれど、それでもこの景観の素晴らしさ!これは絶対にまた来るしかあるまい!

あーっ、ぐずぐずしたい!
千畳敷からや伊那前岳からのカールと宝剣岳の眺めも素晴らしいけれど・・・こっちも良いなー!
写真では表現出来ないけれどこの辺りは広い平原になっているので
アルペン的は山々の姿との対比で一層雄大な景観をかもし出している。
気持ち良い尾根を歩いて宝剣岳へ引き返していく。
千畳敷からの眺望が表宝剣ならこっちからは裏宝剣になるのだろうか?
歩いて行く度に形を変えていく山々の姿にワクワクしっぱなしの時間の流れ。

ゆっくりと宝剣岳方面へ戻って行く。終わりが近づくのが勿体ない気分だ。
初夏にあるとこの辺りは一面の花畑になるそうなので機会があったら再訪してみたい。
何でだろう?・・・今日はやたら前から来る人に話しかけられる。
多分、この青空と平日登山の開放感からに違いない。
「三ノ沢岳までどれくらいですか?」「花は残ってますか?」「紅葉はまだですか?」こんな感じで世間話が始まる。
三ノ沢岳とか宝剣岳を眺めながら話していると立ち止まっている事がとても贅沢な時間に思える。

自宅に帰ってオコジョを撮った写真を見るとシッポだけの写真や何も写っていない写真ばかりでガッカリした。
あまりにも動きが早いのでファインダーに入ってくれない。


何だよ何だよ、しつけぇーな!と思う人も居るだろうけれどちょこまかと動くオコジョがどうにか撮れたのでアップしてみます。

んなーろーっ!
僕とオコジョの距離は1.5m位、だけどあまりにちょこまか動き回るのでファインダー内に収めることがとても難しい。
それにしてもオコジョっていうのは逃げるわけでもなく、近づくわけでもなく、何でこうして僕の半径1メートル外を走り周っているのか?その行動が不思議な奴である。
縦走路途中の鞍部で小さな穴を出入りするまだ小さな子供のオコジョと出合った。あまりに動きが早いので撮影11枚中、写っていたのは4枚だけというお粗末さだったけれどその愛くるしさはキチンと撮れてました。

遭難の碑まで戻って来た。改めて眺める宝剣岳はやっぱり先鋭な山だ。
ここでカロリーメイトを食べて一休みするといよいよ降るだけ。
遭難の碑まで戻って来る。空身で歩いたのでそれほど疲れは無かった。
こうして宝剣岳を眺めてみるとその険しさを再認させられる。
宝剣岳は宝剣山荘から山頂よりも山頂から遭難の碑までの方が危険な箇所が多いと思う。

この宝剣岳に関する事故として今年の一月の滑落事故は印象深い。
Yahoo掲示板のトピ主さんが掲示板で募った仲間と滑落したのでは?と憶測され、考えさせられることの多い事故だった。ただこうして青空の下の宝剣岳を眺めているとそれはどこか別の世界の出来事にも思えてしまう。
遭難の碑に追悼の念を捧げて後にした。

この山登りもそろそろ終わりだな!
遭難の碑から極楽平までのわずか5分の道程は本当にぐずぐずだ。
終点に向かって嫌々秒読みしながら歩いている感じだ。

いよいよこの景気ともサヨナラです。ユルユルな二日間の山旅も終わりに近づきました。
極楽平から千畳敷駅まではこんな景観が続きます。
極楽平から降りだすと、すぐ前を歩いている女性に追いついてしまった。
その女性は「撮影している人=花に詳しい」の図式があるらしくてカメラを抱えた僕に花の話題を投げかけて来るので困った。
僕は花に関しては「言われたら分る」程度の知識しかないので女性との会話についていくのがやっとだった。
「まだ残ってますね!」回る季節に取り残されてしまったかのような夏の花を見つけるとこの女性は本当に嬉しそうだった。平日登山は人が少ないのでこうしてゆっくりと花を愛でるトレッキングには最適なのかもしれない。時間の流れもどことなく緩やかに感じるのはカラッとした今日の天気と緩い風のせいかもしれない。

「これ、ウサギギクですよね!」知っている花で良かったと思った。
段々と千畳敷駅の赤い建物に近づいて行くけど花の名前の羅列は続いていた。
振り向けば山の稜線は見上げるほど上の方になっていた。白い稜線の上の空は緩やかに秋に向かっているように澄み切っていた。それはまた同じ空に戻って来る、そんな予感の青さだった。

山は緩やかに秋に向かっていた。
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