木曽駒ヶ岳、空木岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆9月17日
立川 (0:29) +++ 塩尻 (4:11/6:54) +++ 木曽福島 (7:37/7:59) === 大原 (8:19/8:25) --- スキー場 (9:10) --- 登山口(川を渡る) (9:55/10:00) --- 四合目 (10:10) --- 四合目半(力水) (10:50/11:00) --- 六合目 (11:50/11:55) --- 七合目(避難小屋) (12:30/12:45) --- 八合目(水場) (13:40/14:00) --- 九合目(玉ノ窪小屋)(15:00/15:10) --- 駒ヶ岳 (15:40/16:00) --- 頂上山荘(16:10) (テント泊)
◆9月18日
頂上山荘 (5:15) --- 中岳 (5:25/5:35) --- 伊那前岳 (6:10/6:20) --- 宝剣岳 (7:05) --- 三沢分岐(7:25/7:35) --- 極楽平 (7:40) --- 檜尾岳 (10:00) --- 熊沢岳 (11:10/11:30) --- 東川岳 (12:35/12:45) --- 木曽殿越 (13:00/13:30) --- 空木岳 (14:45/15:00) --- 赤椰岳 (16:00/16:10) --- 摺鉢窪避難小屋 (16:30/16:50) --- 南駒ヶ岳 (17:30/17:50) --- 摺鉢窪避難小屋 (18:10)
◆9月19日
摺鉢窪避難小屋 (5:00) --- 南駒ヶ岳 (5:45/6:00) --- 仙涯嶺 (7:10/7:20) --- 越百山(8:20/8:40) --- 越百小屋(9:05) --- 福栃平 (10:55/11:05) --- 伊那川ダム (11:50/11:55) --- 須原 (13:50/15:10) +++ 塩尻 (16:13/16:43) +++ 八王子 (18:43)
山日記 (9月17日)

いよいよ待ちに待った木曽駒ヶ岳だ!
木曜日の会社の帰り、ムーンライト信州のチケットを買いにみどりの窓口に向かった。
木曽駒ヶ岳から空木岳までの縦走は二日間では厳しく、三日間は欲しい。以前から計画は立てていたもの三連休が取れず中々そのチャンスは無かった。そして遂にこの三連休いよいよそのチャンスが巡ってきた。

「空席,ありませんねー」
またしても冷たい仕打ちだ!いったいどうしちまったんだろう?今年は信州号のチケットが全く取れない。例年にない登山ブームなんだろーか?まー信州号に乗るのは登山者ばかりではないので何か他の理由か?愛知博は関係なさそうだし・・・理由は何であれ、ガックリと肩を落として家に帰るしかなかった。

計画変更だぁー!予定していた木曽福島Bコースを登るのは諦め、しらび平からロープウェイで一気に木曽駒ヶ岳に登ることにした。これだと夜行列車を使わなくても早朝自宅を出て中央本線に乗れば何とその日の昼過ぎには山頂に立っているのだ。

最初、木曽駒ヶ岳の登山計画を立てた時のコースはやっぱりしらび平からロープウェイを利用するものだった。ところがたまたま見たNHKの”山の歌”(だったと思う)で地元の中学生が毎年学校行事で何と一合目から歩いて山頂を目指しているのを知った。
ロープウェイがあるってことで視線がそこにしか行かなかったけれど地図を広げて木曽駒ヶ岳への登山道を見ると実に色んなルートがあって、どの道もとても素晴らしい山旅を約束してくれそうに思えた。
しょーがない!今回は残念だけれどしらび平からロープウェイを利用することにしよう。

金曜日、会社の帰りにダメモトでみどりの窓口に寄った。わっ空席が・あ・っ・た!!!


もんどりうってホームに飛び出た。
今年6月の燕岳において二日酔いで山に登ることがいかに辛いか!十分身に染みて分かっているはず、そんな不摂生では山屋失格なのも分かっているはず、なのにケッ!また飲んでしまった。それというのも木曜日辺りから鼻はツマルし、頭がフラフラするし、完全に風邪の初期状態に陥っていた。それで体の中からアルコール消毒してやろうじゃないの!と飲み始めたのだけれど、さすがに立川から3時間半ずっと飲んでいたのはヤバそーな気がする。

ともかく仮眠しよう!
塩尻駅のホームにあるベンチは肘掛が付いているのでデコボコで寝れそうに無い。ホーム待合室の中のベンチはフラットで寝やすそうだけれど朝の4時だと言うのに既に人が居て空いているベンチが見当たらない。


やっと乗ることができました

ヨロヨロと階段を登り、改札を出て待合室に行ったがここにも人が居て眠れそうに無い。再び改札を入ってホームに戻ると中津川行きホームの端っこに薄ボンヤリとした待合室があった。行ってみるとおあつらえむきな棚があったのでその上にシュラフを敷いた。

中津川行き始発電車に乗る。
2時間弱の睡眠だが頭はスッキリしている。たださすがに食欲は無く、昨夜コンビニで買った弁当も箸が進まない。線路の両側は迫り来るような山で電車は山と山の間を木曽川に沿って進んで行く。さすがに木曽は木材の土地だ。材木所や製材所が目だって多い。

木曽福島駅で5,6人の登山者が降りた。僕以外は御嶽山行きのバスに乗ってしまい、大原行きのバスに乗ったのは一人だけだった。
今回の登山で心配な事があった。僕が登ろうとしている木曽福島Bコースは登山者が少なくて廃道もしくは荒廃しているのではないかということが懸念された。登山道は人が歩いていないと草木が生い茂ったり、枯葉が道を覆い隠してしまったりして直ぐに不明瞭になってしまう。ロープウェイがメインルートになってしまったこの山でワザワザ一合目から登っている人が多いとはどうしても思えない。おまけに僕が登るのはよりによってBコースである。
だいたいにおいてBはAより見劣りしている場合が多い。A定食がハンバーグ定食だったらB定食は煮魚定食、A賞がハワイ旅行10名様だったらB賞はオリジナルエプロン50名様だったりする。
なんだかBコースはヤバそうな感じなんだけれどここが一番アプローチが良かったのだからしかたない。
大原でバスを降りて歩き出す。
結局、ここからの登山者は僕一人だけだった。この辺りは別荘地らしいが夏が過ぎた今は人の姿は見えず、車も通らない、雨戸が閉まった家々は閑散としている。空は薄曇でボンヤリとした日差しをアスファルトに落としている。

ノッケからこれでは元気が出ない。トボトボと歩いていると後ろからハッハッと荒い息づかいが聞こえてきた。変質者?!驚いて後ろを振り向くと「おはよぉース!」小型のザックを背負った人が走って来た。何処へ行くんですか?と訊ねると原野駅から走って一気に駒ヶ岳へ駈け登るという返事が返って来た。
まったく世の中にはスゴイ人が居るものだ!と感心させられると同時にムクムクと元気がわいて来た。
こんな所でヘコンでいる場合じゃないぜぇ!

塩尻のホーム待合室で泥酔で爆睡
睡眠時間は2時間足らずだけれど良く眠った感じだった。

道の分岐や曲がり角にはしっかりと標示があるので迷うことなく木曽駒スキー場へ到着した。道はゲート前でグルリと向きを変えると更に登って行く。ゲレンデの下で舗装されていた道が砂利道に変わり、ゲレンデを過ぎると林道に変わった。ガイド本にはとにかく林道が無くなる所まで進むとあるのでズンズンと歩いて行くと川にぶち当たったところでプッツリと道が途切れ、登山道を表す標識があった。

川を渡るといきなりの急登だ。林道歩きの後なのでこんな急登でも懐かしいような山の匂いを感じホッとさせられる。
登って直ぐに4合目の標示があった。木々に遮られて展望は全く無く、ジトッと湿った森の中をジグザグと降り返しながら登って行く。
4合目の標示を過ぎ、延々と40分登ったところで少し広くなった所に飛び出した。もう6合目位までは登っただろ?と木の幹に取り付けられたプレートを見ると4合目半!・・・ま・だ・半?!!こんなに登ってやった半分かよ!
側に”力水”と呼ばれる水場がある。水が小指の先ほどの太さで樋から落ちている。口に含むとヒンヤリと冷たく、体の疲れがスーッと取れていく感じだ。まさしく力水だな!と大きく深呼吸した。

左:川を渡るといきなりの急登
ジメッとしていた。とても緑色した苔が生えていた

右:4合目半にある水場
良くこんな場所見つけたなと思うような岩の割れ目に樋が差し込んである

水場からは登るにつれ傾斜が段々と緩くなっていった。4合目から4合目半まで40分もかかってしまったのでこの先どうなることやら!と気落ちしそうになったけれど、4合目半から5合目までが30分、5合目から6合目までが30分と合目を表すプレートを通過する時間が段々と短くなっていった。
それに意外と登山者の数が多く、6合目までに4人とすれ違った。登る前は廃道になってやしないか心配したけれど、それは全く無用の心配だった。

6合目を過ぎ、展望台まで登って来た。ここでやっと展望が開けて御嶽山が見えるはずなんだけど・・・ぜんぜん見えない!
モクモクとした雲が空に張り付いている。多分あそこの雲の中に御嶽山があるんだろうな!思わせぶりに雲のスキマからそのカケラがかすかに覗いている。

左:7合目避難小屋の中の様子
この小屋は数年前に火事で焼失したまま放置されていたらしい。それを有志の方が建て直し、管理されているとのこと。頭がさがります。

右:やっぱり夏に比べて花の数は少ない
昆虫達も残された時間の中でとにかく必死で飛び回ります。

7合目の避難小屋は山小屋というより普通の民家みたいだ。まだ建てられたばかりのようで新しく、玄関の引き戸をガラガラと開けて中に入ってみると土間の真中にはデンとストーブが鎮座していて周りを長いすが囲んでいる。ちゃんと薪まで用意してあり、ここで暖かいストーブを囲んで宴会をやったらしんみりとお酒がうまそうだ。
土間の隣は板張りの部屋でロフトみたいに上下2段になっていている。
なんだか泊まり心地も使い心地も良さそうな小屋だ。


7合目から10分ほど歩くと初めて駒ヶ岳のご対面!
雲の切れ間に撮影

七合目からは麦草岳を巻くように平坦な道になった。それまでのうっそうとした森は消え、展望の良い草原に変わった。少しだけれどアザミやトリカブトの花がまだ残っていて、これが真夏だったら無数の輝きを散りばめた花畑になっていたことだろう。

ここで初めて駒ヶ岳との御対面だ!なんだけど山頂は雲の中で見えない。駒ヶ根側(東側)から次々と白い雲が山頂を乗り越えてくる。それでもここからの駒ケ岳は緑のカール地形が素晴らしく綺麗だ。

やがて巨大な岩が乱積する場所が現れた。山姥だ。名前は’やまんば’と日本昔ばなし風だけれど白い岩と緑のハイ松のコントラストが綺麗な場所だ。雰囲気は北アの天狗ノ庭って感じ。


一足秋へはみ出したゴゼンタチバナ
山姥辺りは苔も多い
山姥の少し先が八合目で水場がある。沢なので水量は多い。ここが最後の水場なのでここで4リットルの水をポリタンに入れた。

ザックが4キロ重くなったわけだけど担いだ時はそんなに重たくなったな!という感じはしなかった。ところが九合目の玉ノ窪小屋に向かってハイ松帯を登っていると足が前に出なくなってしまった。林道をかなり早足で歩いたのでその疲れが今になって出て来たみたいだ。

膝がガクガクに成りながらようやく九合目の玉ノ窪小屋に到着。
稜線上に人の姿は無く、東側は吹き付ける雲のため真っ白で何にも見えない。
雲は稜線を超えた途端にチリジリに分かれてしまうので木曽福島側(西側)は雲が多いがどうにか晴れている。
小屋の中には誰かいるのだろうけれどシーンと静まり返っていて、風が耳をボアボアと鳴らす音だけしか聞こえない。
展望は全く望めないのは残念だけれどせっかく一合目から登って来たのだ。もう少しだ、頑張って山頂を目指そう!と白いガスの中に突入して行った。

石像や石碑が並ぶ登山道を登っていると突然頭上の雲が取れ出した。周りは相変わらず白い雲に覆われているのだけれど頭の上だけポッカリと青空が覗き暖かい日差しが差し込んできた。
何だか不思議なものでお天道様の明るい光の中に漂っているというだけで先ほどの憂鬱な気持ちから脱却してしまう。暖かくて幸せな気持ちがたちまち充満してしまう。
木曽頂上小屋からもこの太陽の光に導かれるように人が大勢出て来て山頂を目指し歩き出した。


チングルマの穂が白く輝いていた

おーし、やったぜぇー!とうとう駒ヶ岳山頂に立った。
一合目から登ったことを自慢しようとはサラサラ思わないのだけれど、ロープウェイで登っていたらあまりの退屈さにきっとこの「やった!」という気持ちは出てこなかったんじゃないかと思う。
雲の上から山の神様の声が聞こえるような気がする。「ようこそ木曽駒ヶ岳へいらっしゃい!」

フーッと風が過ぎるとデカイ雲の塊が動いて一瞬、頂上山荘が見えた。そしてまた風が過ぎると今度は木曽前岳が見えた。ホンの少しだけどスゴイ景色だ。
隣で景色を眺めている男性の話では早朝は雲一つ無い快晴だったのに直ぐに雲が覆い始め、日中は完全に真っ白で何も見えなかったらしい。
んー、ってことは僕ってラッキー!完全に雲が無くなることは無かったけれどカードをめくるみたいにアッチコッチから次々とごきげんなシーンが飛び出してくる。
それはブラフ無しの正真正銘の山頂からの景色だった。


駒ヶ岳山頂 風が強く雲も多いけれどこれで日中より雲は少なくなったらしい

雲の切れ間に中岳、その下には頂上山荘が見えた


今度は馬の背から登ってみたい!
そう思わせるほど気持ち良さそうな尾根

馬の背はその名前のように歩いてみたくなるような長く展望の良い白い稜線が延びている。今度はやっぱり市ノ萱から登ってみようとたくらんだりする。
気が付けば随分山頂の人が増えた。皆この時を待ち望んでいたらしく頂上山荘からも沢山の人が登って来る。

ただ、宝剣岳やその向こうの山はシブトイ雲にまつわり付かれて姿が見えない。このまま待っていてもいつ現われるのか分からないし、時間も時間だし、お酒も飲みたいし、一旦、テント場へ向かうことにした。

左:駒ヶ岳から頂上山荘へ降っていきます。これで今日の行動も終わりかと思う瞬間!

右:テント場の地面は岩がゴツゴツしているのだけれどテントを張るスペースは砂地でナイスです
それにしてもガスってなんかさえない、寂しい感じの写真。まーしゃーないか?

小屋でテントの受付をするといきなりガッカリさせることがあった。なんと水は只なんだよ!
地図を見るとテント場の水は残雪がある期間のみとなっている。それで出かける前に頂上山荘に確認の電話をしたんだけれど地図に記載されている番号に電話すると「この電話は現在使われておりません!」と繰り返すだけだった。
ウーン!不通の電話を握り締め低く唸ってしっまたのだった。

残雪が無かったら小屋から水を買えば良いんだけれどどこかの山小屋みたいに300円/1リットルもしたんではたまらない。3リットルも買ったら900円になるではないか!これでテント場代が600円だから合計1500円になってしまう。
しゃーない!水は八合目から持って上がろう!と4リットルの水を持って足がヘロヘロになりながら頑張って登って来た。それがなんの事はない水は只なのだ!これにはさすがにガッカリした。(おまけに翌日、水をあまり飲まなかったのでせっかく苦労して持って来た水1リットルを捨てることになる)

テントを設営して早速、ウイスキーを飲み始めた。持って来たウイスキーの量は500CC、2泊するにはいささか物足りないような気がするが、まー、足らないようだったら小屋でお酒でも買うことにしよう。
僕が好きなテント場の条件は2つ、1つは水が豊富であること。2つ目は展望が良い場所がある(出来たら山頂が近い)ということ。
このテント場は二つの条件を見事にクリアしていてかなり高得点なのであった。


頂上山荘とテント場 僕のテントは右から2番目の青

5時を回ったので太陽が沈むところを見るために木曽駒ヶ岳の山頂へフラフラと登って行った。
さっき登った時には駒ヶ根側から雲が湧き上がっていたけど今は木曽福島側から雲が流れて来て周りの山々を隠してしまっていた。
日没時刻になったけれど太陽はどこにいるのやら?居場所は全くつかめない。
やがて空全体がブルーからグレー、そしてより濃いグレーに変わって行った。
なんだかはっきりとしない今日の終わり方に煮え切らない気持ちのままテントに戻って行った。

テントに戻って夕食を食べるとモーレツに眠くなってしまった。隣のテントの話し声が大きく鮮明に聞こえてくるのだけれどそれも気にならない。
今、このテント場に居る登山者の中で一合目から登って、水も持って、アルコールも持って来たバカって、おそらく僕だけだろうな!と思う。
頭使えよ!もう少しザックを軽くしろよ!せめてアルコール類は持って来ないで山小屋でビールを買えば良いじゃん!
なんだか無駄な努力をした一日だったような気がする。でもそれでいてなんだか充実した一日だったような気もする。
シュラフがえらくヌクヌクしている夜だった。


日が沈んでやっと宝剣岳が見えた
二日目へ続く
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