北岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆9月8日
立川 (6:43) +++ 甲府 (8:46/9:00) === 広河原 (11:10/11:20) --- 白峰お池小屋 (13:30/13:35) --- 肩ノ小屋 (テント泊) (16:00)
◆9月9日
肩ノ小屋 (6:15) --- 北岳 (7:00/7:15) --- 八本歯ノコル (7:45) --- 二俣 (8:55/9:00) --- 広河原 (10:20/10:30) === 甲府 (12:26/12:29) +++ 立川 (13:42)
山日記

きさん、くらさるーぞ!
まったく自分の頭をぶん殴りたくなった。
大樺沢道を登っているつもりが道を間違えていることに気が付いた。
予定では広河原から大樺沢道を登って北岳山荘でテント泊、明日は間ノ岳、農鳥岳から奈良田へ下山つもりだった。それがだ、いつ沢に下りるのだろう?と思いながら歩いていたら下りるどころかドンドンと上って行くじゃないか。おかしいな?と思い地図を広げると自分が大樺沢道ではなく白峰お池小屋への道を登っているのに気が付いた。
これには愕然としてしまった。
これでは夕方までに北岳山荘に着くのは時間的に難しい。お池小屋でも肩ノ小屋でもテントは張れるのでビバークは避けれれそうだけれどそれでは明日、奈良田まで行くのは無理だ。
一体何をやっているんだぁ、道を間違えるなんてこれじゃズブの素人じゃねぇーか!

「最近は星空を見ていません」先日Iさんからもらったメールの一節が心の端っこに引っかかってしまっていた。そうなのだ、この夏はまだ星を眺めてなかったのだ!
おーし、星空を見に行こう!
Iさん待ってろよ!本当は北沢駒仙小屋まで行って甲斐駒や仙丈岳をピストンしようと思ったのだけれど前日の台風の影響で広河原-北沢峠間は不通になってしまっていた。


北岳はつり橋から始まった。北岳はすでに雲の中。

だったらそうだよ北岳へ行こう!

今回見たいもの・・・
1.星空を見る(はたして標高2位の山からの星空は?)
2.北岳を見る(風林火山やマークスの山に触発されて)
3.富士山を見る(なんてたってこれでしょ!)
4.農鳥岳を見る(数年前登った時の眺望が忘れられない)
5.そしてノンビリ歩いて色々なものを見ること

それがどうだ!大げさかもしれないけれど心の中に描いていたものがガラガラと音をたてて崩れてしまった感じがした。
でもよく考えたら肩ノ小屋で幕営しても農鳥岳へ行けないだけで富士山も星空も見ることが出来るじゃないか!
それにもしかしたらがんばれば北岳山荘まで行けるかもしれない?そう思うと自然と足が速くなってしまって、もうノンビリ歩くってことも忘れてしまっていた。

登山道は最初は登り一辺倒だったけれどやがて山を巻いて歩くようになった。
前々日の台風で倒れた木が道をふさいでいる箇所が数箇所あって、それでもどうにか通れるように木の枝を切ってあったり、迂回路を作ってあったりして山小屋の人がやってくれたんだろうか?対応が早くてありがたい!

白峰お池小屋は山小屋というよりペンションといった雰囲気だ。まだ新しくて立派な建物だ。晴れていたらここからは対峙する鳳凰三山が見えるのかも知れないけれどガスってまったく何にも見えなかった。

白峰お池小屋からは花畑の中の急登になった。
花はまだ咲いていたけれど真夏だったらもっと沢山の種類の花が咲き匂っていた事だろう。ただ道が狭く、真夏だったら草いきれで蒸し暑い場所なのかもしれない。


白峰お池小屋付近に多い花、見た目ははハクサンフウロに似ている、でも鼻(おしべ)が長いグンナイフウロでした。

二俣からの道と合流するあたりからは森林限界を超えて砂礫の道を歩くようになる。
ここまでくると甲斐駒ケ岳や仙丈岳が見えるはずなのにガスって何にも見えない。湿気を帯びた風が露出した腕や足に吹き付けるので寒い。

ガスの中で声がする、やっと肩ノ小屋だ。
時間は午後4時、このまま歩けば北岳山荘には6時には着ける、そうなれば予定通り明日は農鳥岳まで行くことが出来る!と思うのだけれど、これから更に2時間も冷たいガスの中を歩くのを想像すると嫌になってしまう。体力的にはまだ歩けそうなのだけれど、もうテントの中に飛び込んでしまいたい!
つまりは根性が無いってことだな!ここで楽な選択をしてしまった。

肩ノ小屋のテント場にはすでに15張りほどのテントが張られていたのだけれどまだまだフラットな場所がたくさん残っていてきちんと整備されているテント場だった。
テントを張るとすぐにお湯を沸かしてホットウイスキーを作った。ビールも良いけれど今回はウイスキー、キリンの”富士山麓”を持って来た。富士山を眺めながら”富士山麓”を飲む(ベタだけどこんなのが好き)。疲れた体にジンワリと沁みるよー、落ち着くなぁー!

午後5時40分、突然テントの周りから歓声があがった。
もしや!とテントから顔を出して外を眺めると、おーっ富士山が出ているじゃないか!
待ってましたとばかりにカメラをつかんで、ズボンをはいていることをしっかり確認して(ズボンを脱いでシュラフに入っていたので)テントの外に飛び出した。
ところが立てない!マズイ!酔いが完全に足に来ていた。
富士山を見る前に既に”富士山麓”で酔っ払ってしまっている。(何やってんだオレ!)
目がグルグル回る。よろけながらもどうにか登山靴を履いて、もう一度シツコにズボンをはいていることを確認し小屋まで登っていった。


黄昏の富士山は薄ボンヤリしてた。でもそれも良いんだよなー!一日に終わりはこんなに静かです。


湧き上がる雲の間で彷徨う仙丈岳。風があるのに空気は止まっているような不思議な感じがした。
雲がモクモクと周りを取り囲んでいた。そしてその雲の遥か先には茜色の富士山の姿。
ざわざわとした心の中にスーッと新鮮な空気が流れ込んで来たっ、そんな感じがした。
その姿は決して大きくは見えないのだけれど黄昏の光の中に段々と消え入る富士山の姿は実に荘厳で僕の心を魅了して放さないのだ。

こんなふうに終わっていく山の一日、それはとても素晴らしいことに思えた。


朝2時半に起きてテントから顔を出し空を見上げる。
そこには満点の星空が広がっていた。広い空一面にギッシリと詰め込まれた星の数の多さが嬉しい、久しぶりだ、やっぱ山の星空はこうでなくちゃーいかん!
夜空を埋め尽くす天ノ川の勢いもまだまだスゴイ!星座?オリオン座しか分からないけれど、もうつべこべ言わせないほど目の前の無限をただ押し黙って眺めていた。

3時半、朝食を食べ終えていよいよ出発の準備だ。今日は予定は北岳山頂でご来光を見て間ノ岳までピストンしようと思った。
ところが再びテントから顔を出して空を見上げると曇っているではないの!これじゃ今から北岳へ登っても山頂はガスっているのでは?
またまた予定変更、これじゃ登ってもつまらないだろう!と明るくなって北岳へ登ることにした。シュラフを広げると中にもぐり込んだ。
飯を食ってすぐに寝たんでは健康に悪いなー、太りそうだな!などと考えていたらすぐに寝入ってしまった。

5時に起きて空を見ると・・・晴れている・・・失敗した!!!
やっぱり予定通り北岳へ登るんだった!けれどもう遅い。

カメラを持って稜線まで登るとそこにはすでに沢山の登山者が東の空を見つめていた。
東の空の下からオレンジ色の光がにじみ出し深青へとグラデーションしてる。


肩ノ小屋でのご来光。櫛形山から太陽が昇る。
何かが始まる!日の出はそんな心意気。


肩ノ小屋からの富士山。少し雲がかかっていたけれどその美しさはちっとも変わらない。

ひそやかに夜明けはやってくる。
空にちりばめられた星が段々と消えていって、やがて山の向こうから圧倒的な光の束が放たれる。
それまでただ静かに見守っていた人の心をつんと刺激する光景がやって来た。

富士山も薄赤く染まった。ただただボーッと見つめるしかない。壮大な一日の始まりはいつも厳粛に進行していく、どこからかSLAVAの曲が聞こえてきそうな感じだ。


肩ノ小屋とテント場が朝日に燃えた。なぜか早立ちのテントは居なかった!どうしてだろ?


テント場からは東側の眺望が良かった。もちろんこうして富士山も見えてます。

朝の光は確かに可能性を含んでいる。
5時半になると早くもガスが沸き始めた。北岳山頂を見るとガスがひっきりなしに通り過ぎていた。
予定もすっかり狂ってしまった。このまま広河原まで降りるか?それとも北岳山頂に登るか?いっそコインでも投げて行き先を決めるか?とかなり自虐的になっていた。
だけど朝の光に照らされているとムクムクと元気が沸いてくるから不思議だ。とにかく北岳山頂を踏まなきゃ、それからだろっ!

30分でパッキングとテント撤収を終え、肩ノ小屋から登りだす。
稜線の西側は真っ白くガスって何にも見えないけれど等身大の蜃気楼・ブロッケンの光の輪だけが僕と歩調を合わせてついて来る。


ブロッケン多発、裏を返せばガスっているってこと。ギラリと太陽が輝きを増すと七色が濃くなった。


北岳山頂。居るだけで気持ちが良い場所、太陽に近いから?高い割にはノンビリできるてっぺんだ。

山頂からはたまにこうして富士山が見えた。雲海の富士山に出会えるのは南アルプスだけだろ!

こんなご来光を見たの初めてだよ!山頂から降りてくる人の会話が耳に突き刺さる。んなろーっ!と歯軋りしながら登って行った山頂、それはやっぱりガスで真っ白だった。

山頂の西側は分厚い雲に覆われて何にも見えない。だけど東側は時折、雲が切れて鳳凰三山や富士山が雲の合間に姿を現した。それは5分に1分くらいの割合で短い時間だったけれど山頂にいる人達からはその度にオーッとかワーッとか歓声があがった。

「やっぱりここから見る富士山は全然違うな!」隣の男性から声をかけられた。この男性は沼津に住んでいる方で自宅からいつも富士山を眺めているらしい。
そうだよな、目の前の富士山は川崎や丹沢、大菩薩からの眺めとは全然違っている!
幾重のも雲海に漂う富士山の姿はここ南アルプスからしか見ることは出来ないよね。

昨日は北岳山荘へ着けるか?奈良田まで歩けるか?なんて悩んだけれど結局この天気では奈良田まで行けなくて良かったかもしれない、案外山登りなんてこんなものかも!などとぼんやり考えていた。そうしたら、また雲が途切れて富士山が姿を現した。

オレ、なんか、来て良かった!


そよ風が騒ぎを止めた、鳳凰三山が目の前に広がった。
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