金峰山、甲武信岳 |
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行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー) ◆10月23日 |
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山日記 さあ行くべ! 韮崎駅を出ると数人の男性が「瑞牆山荘へのバスはこちらでぇーす!」と川崎仲見世通りの客引きみたいに連呼していて左を見ると一台のバスが停まっていた。 バスは増富温泉を過ぎると渓流沿いの道を走って行った。今は紅葉の最盛期、朝の陽を受けた色とりどりの葉が渓谷を流れる水の煌きに負けじと輝いている。あちこちにカメラを構えた人の姿が見受けられ、そのキラメキを一つでも逃さずにファインダーに収めようと奮闘している。 瑞牆山荘でバスを降りると直ぐそばの岩にドカッと腰掛けてサンドイッチを食べ始めた。喉が渇いたので水を飲もうとしたけど水筒代りのペットボトルに水をいれてなかった事に気が付いた。水場を探していたら山荘の扉に張り紙があった・・・「水道はありません、水はこの上の富士見平小屋で」 歩き出して30分は特にゆっくり登るように心がけているのだけれど今日は余りにも次から次と人に追い越される。余りにも追い越されるので段々自己嫌悪にさいなまれていく。「これ以上追い越されたらきっと自信喪失、ヘコンでしまうなー」と焦って少し歩くペースを上げる。 富士見平小屋は唐松林の中にポツンとたたずんでいる素朴な小屋だった。テン場も気持ちよさそうな感じなので「次に来る時はここにテントを張って瑞牆山までピストンするのも良いなー!」ってまたまた未来計画を立ててしまいます。こんな風だから山はいくら登っても次から次と行きたい場所が出て来るんだな!と一人でウンウンと感心してしまった。 |
大日小屋から大日岩を見上げる。雲がかなり多くなってきて嫌な予感。 |
富士見平小屋から唐松林の中を登って行く。木々の間にチラリと覗く空に少しずつ雲が増えてきた感じがして不安になる。 しかしその不安がみごと的中!大日小屋に着いた時には朝の快晴が信じられないくらいの曇り空になってしまった。たまに雲の間から青空が覗くが直ぐに雲の中に入ってしまう。 こうなってくると歩くことが途端につまらなくなってしまう。本当だったらここでババンとこの重苦しいマイナス思考を跳ね除けなきゃーいけないんだけど・・・お腹がスカスカ、靴もスカスカなので元気までスカスカと抜けてしまったみたいだ、なさけねえー! |
上から沢山の人が降りて来る。僕のザックがでかいのを見ると「今日はテントですか?」と声をかけてくる人も少なくない。でもその後が決まって「朝は綺麗に晴れていて、ものすっごく良く景色が見えたんだけど降りる頃から急にガスって来て・・・」という言葉が続いて、もちろん本人は僕を落ち込ませようとしてこんなことを言ってるんじゃないけど・・・その人が見ただろう景色を脳裏に思い浮かべると羨ましくて、悔しくて・・・ということでまたしてもここで撃沈!。 岩のゴツゴツとした稜線に出た。本当だったら周りの瑞牆山などのゴキゲンな景色がズバッと見えるはずだけどガスって何にも見えません。 |
予想通り?金峰山山頂は真っ白で何も見えなかった。直ぐ後から登って来た男性と僕と頂上には二人だけ「何も見えませんねー」とお互いに苦笑し合うしかなっかた。今、山頂にいる人の中に日頃の行いがスゲー悪い奴がいるに違いない!こう思ってまたお互いに苦笑し合った。 もーこうなったら早くキャンプ地に行って酒を飲むしかない。とりあえず五丈岩の写真を撮ると直ぐに出発した。 山頂から歩き出すと気持ちよさそうな尾根歩きだ。 これで天気が良かったら・・・と思ったそばから雲が切れて紺碧の青空がチラリと覗いた。慌ててザックを降ろし三脚にカメラを取付け、セルフタイマーをセットして駆け出した。 この一瞬の青空を逃してたまるか!と慌てたのが原因だった。駆け出す時に三脚を蹴飛ばしてしまったのだ。スロー再生ビデオのようにユックリと三脚が倒れて行くのをただじっと見送るしか出来なかった。 |
金峰山山頂の五丈岩。ガスって何も見えません。日頃の行いが悪い奴がどこかにいるに違いありません。 |
弾かれたようにカメラを拾い上げる。電源スイッチを入れてみると液晶画面に文字が表示された。どうにかカメラは壊れなかったようだ。試写してみようとレンズキャップを外そうとした、ところが外れない。よーくカメラを見るとキャップがレンズにめり込んでいた。力まかせにキャップを外してみるとガラスの破片がパラパラ・・・・レンズが割・れ・て・い・る!!! 唇がワナワナと震える、頬がピクピク引きつる。「この先、写真が撮れない!」「いやそんなことよりもこのレンズはたしか5万円もしたのに!」今朝から小さいことだけど良くない事が次から次へと起こって嫌な感じがしていたけどいたがまさか、まさか・・・いうまでもなく深い漆黒の海底まで撃沈! ザックからゴミ袋を取り出して地面に散乱しているガラス片を拾った。破片を一つつまんで袋に入れる度に本当にむなしくなってしまう。 地面に落ちている破片を拾い終わり、いよいよカメラに残っているガラス片をつまんでみる。 なんと奇跡は起こったのだ!割れているのはレンズの前に付いているフィルターだけだったのだ。残骸の中からこんにちは!ってレンズが現れた時は飛び上がらんばかりの嬉しさだった。ちょっとレンズに傷が入ってしまったがこの際まーこれも大したことはないのだぁー。 |
朝日岳山頂付近は立ち枯れの木が多い。一瞬の晴れ間にそんな木々が白く輝きました。 |
展望の良さそうな尾根歩きも直ぐに終わり、また樹林帯へ突入していった。この辺りから苔がビッシリと地面を覆うようになり、八ヶ岳の白駒池周辺を彷彿させるなんとも良い感じの森に変わって行く。 朝日岳山頂は周りをグルリと木々に囲まれているので展望は良くない。山頂の手前に西側が開けて展望が良い場所があり、金峰山が見えるはずなんだけどもちろん見えない。立ち枯れしている木の上に一瞬青空が覗いたが直ぐにガスってしまった。「大弛小屋へ向かおう!」再び雲に隠れてしまった青空にどこかフンギリが付いたように歩き出した。 |
ワァーワァーと人の楽しそうな声が聞こえてきた。峠には数台の車が止まっていて、その直ぐ脇で12,3人がバーベキューの真っ最中。登山の服装をしているので山から降りてきたのか?それともここにキャンプして明日、山に登るのだろう。 美味しそうな匂いをかきわけかきわけ小屋に向かった。 小屋の中からなぜかロシア民謡が聞こえてくる。扉を開けるとそこは凄まじい音符の嵐。 「カチューシヤ」を聞きかながら受付をする。「今夜、ロシア民謡を皆さんで歌います。飛び入り大歓迎ですからよろしかったらどうぞぉー!」小屋番さんは明るい人だ。曲が「トロイカ」に変わった。僕の後ろをふとっちょオバサンが歌いながら通り過ぎた。ソプラノの声がキンキンと響いていて頭がしびれた。とてもじゃないけど僕には耐えられそうに無い、歌えそうにない。 テン場代300円を払うと逃げるように小屋の外に出た。「ともしび」が外まで聞こえてくる。でもなぜ?なぜこんな静かな山小屋でロシア民謡を歌うんだろ?聞くの忘れたなぁー!と思ったが既に辺りは暗くなり始めていたので小屋横の水場でポリタンを水で満たし慌ててテン場へ向かった。 翌朝、3時に起き、朝食の支度をしながらラジオを点けた。知らない間に大変な事が起こっていた。 4時半にテン場を出発。周りのテントを見ても灯りが点いているテントは無い。小屋もまだ真っ暗だった。その小屋脇の登山道を登って行く。 |
今朝のラジオのことがふと頭をかすめる。新潟の被災地の人々は今、この時間、どんな思いで朝を迎えようとしているのだろう?そう考えるとこうやって自分の好きなことが出来て、こうやって自由気ままに歩けることがなんて幸せなことだろうかとシミジミ感じるのだった。 歩いているとヘッドランプが暗くなり始めた。「フッ、来たな!」これも前回経験しているので慌てることはなく余裕しゃくしゃくだ。 電池は寒くなると電圧が下がることが分かったので今回は予備の電池を直ぐ取り出せるようにポケットに入れてきた。 真っ暗な中で手探り状態で電池交換する。最後の一本をパチンと差し込むとたちまち突き刺すような閃光が闇を引き裂き、進むべき道が目の前に現れる。ヘッドランプが本当に頼もしい奴に思える。 |
北奥千丈岳から見た夜明け前の金峰山、奥は八ヶ岳。 |
いよいよ一日の始まりです!良い日でありますように。 |
北奥千丈岳で一人、日の出を待つことにした。日の出にはまだ時間があるので先へ行こうか悩んだが、この先に展望が良い場所はありそうにはなかったのでここで待つことにした。 30分ほど待っていると6人パーティーが登って来て山頂は急に賑やかになった。空が段々と明るくなり始め、昨日登った金峰山、朝日岳それに八ヶ岳、南アルプスの山々が闇の中から徐々に浮かび上がって来る。 さーいよいよ夜明けだ! |
壮厳な一日の幕開けに皆、息を呑んで押し黙ってしまう。ただただ見入るばかりの光景だ。何度見ても元気が出る光景だ。 |
国師岳は北奥千丈岳から歩いて5分ほどのところにある。このてっぺんでまず視線に飛び込んでくるのは何て言っても富士山の姿だ。富士山っていうのは端正な円錐形をしているのでどこから見てもきれいな三角形をしている。今年登った、至仏山、槍ヶ岳、甲斐駒ケ岳のてっぺんからもやっぱり三角形の富士山が見え、ここ国師岳からもきっちり三角形をした姿を見ることが出来た。この当たり前のことがうれしくなってしまう。 ここから甲武信岳までが遠い!地図のコースタイムでなんと5時間もかかるのだ! |
国師岳山頂。富士山が雲海に浮かんで見えました。 |
陽が登ると雲海が金色に輝いた。 |
国師岳から甲武信岳への道は地面一杯に緑色のコケが密集している森だ。朝の透明感のある日差しが木々の間から差し込み。いっそう緑を鮮やかに輝かせている。風が吹いて森がザワザワと音を立てる。秋にはこの木々のザワザワがたまらなく似合う。 「いいぞ、中々いいぞーっ!」僕はそのザワザワの中を歩いていく。歩くと風が出来る。その風はまだ朝の湿気を含んでいて柔らかく心地良い。 卑屈な性格なのか?普段の生活の中で「いやし系アイドル」「いやし系音楽」「いやし系ペット」など、“いやし系”って言葉を耳にすると「バーロー!そんなに誰も彼もがいやされたいのだろうか?」と反発心を持ってしまうのだけれどこうやって木々のザワザワに包まれているとこれもいやし系だよな!と一気に“いやし系”肯定派に変わってしまう。 |
甲武信岳へは5時間の道程、その間、森の良さに感動し続けるというのはさすがに難しい。確かに森は素晴らしいが展望は全く無くて単調な道だ。 ラジオを点けるとイルカさんの声が聞こえ「遠い世界に」という曲が流れ出した。この曲は昔の曲だけれどこうやって朝の森の中を歩きながら聞くとスゴク良い!2曲目は「この広い野原いっぱい」という曲だ、2番の歌詞の「この広い夜空いっぱい咲く星を一つ残らずあなたにあげる。 虹に輝くガラスに詰めて・・・」ってところが今朝の夜ハイクを思い出してたまんなくうれしくなる。 他に「風」「あの素晴らしい愛をもう一度」「翼を下さい」など珠玉の名曲ぞろいだ。 こうやって自然に接しながら聞いていると一つ一つの言葉から受ける小さな感情もストレートに感じとることが出来るから不思議だ。 |
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これから向う甲武信岳も南からの雲に覆われてしまいそう。 |
これらの曲は昔の曲だけど、今の歌みたいに愛だの恋だのベタベタと甘ったるいことがなく、聞いているとムクムクと足元から勇気が沸いてくる感じがする。 歌は人を元気付ける!そういえば昨夜の小屋で民謡を合唱していた人達も・・・ あーっ、あの人たちは歌う前から元気が良かったなぁー。 |
途中、両門ノ頭では展望が良く。金峰山、国師岳、その奥には八ヶ岳、これから向かう先には甲武信岳が良く見えた。ただ心配なのは南からモクモクと雲が広がりだし、今にもその雲に国師岳や甲武信岳は飲み込まれそうだ。向こうの八ヶ岳を見ると完璧に晴れている。なんで僕が居る場所だけ雲ってんだー!と雲の気まぐれにがっかりさせられてしまう。 登り降りがあまり無かった道もミズシへは一気に登る。登ったと思ったら今度は一気に降ってガッカリするがいよいよ甲武信岳へ向かって最後の登りだ。やっと長かった道程も最後だと思うと元気が出て一気に登ってしまった。 |
甲武信岳へ来たのは2回目、前回は高曇りの空、そして今回は・・・ガスって何にも見えない。頭上を見上げると細く羽毛みたいな雲がひっきりなしに流れていく。その中で太陽が薄くぼんやりと姿を出したかと思うとまた雲に見えなくなってしまう。周りの展望も同じでたまにふわっという感じで突然八ヶ岳が見るのだけれど皆がカメラを構えると見事に逃げられてしまう。 ここで雲の切れる一瞬のシャッターチャンスが来るまで待とうかどうしようか迷ったけど、実は先はまだまだ長いのだ。予定では甲武信岳を降りて西沢渓谷に滝と紅葉を見に行こうとたくらんでいた。北奥千丈岳に一時間も居たのでちょっと予定時間より遅れてしまった。残念だけどここでの展望は次まで取って置くことにして甲武信小屋へ降っていった。 |
国師岳から甲武信岳への道は地面一面、苔に覆われています。良い感じだけどとにかく長い! |
甲武信岳山頂の標柱。山頂はあまり広くはないけど標柱はデカイ! |
山登りを始めたばかりのころ、山小屋のオヤジの口の悪さには驚いた。その口の悪さに思わず蹴飛ばしてやろう!と思うこともあった。 その中にあって初めて「小屋のおやじって優しいな!」と思ったのがここ甲武信小屋だった。あれから十数年経っている。今ではそのオヤジの顔さえも忘れてしまった。もちろん小屋の様子もすっかり忘れてしまっている。小屋をこうやって訪ねてみても「こんな小屋だったっけ?」と首をかしげるばかりだった。 もしかしたらあれから小屋も変わって、オヤジも変わってしまったのもしれない。 小屋の中から楽しそうに笑う声が聞こえる。ちょっと覘いて見ようかな!とも思ったけど「こんにちは!」の後の言葉が見つからない。中に入ってモジモジしているのも変だし、オヤジの顔も憶えていないから特に何かを確かめるというわけでもない。結局、扉の前で立ち止まってしまった。 木賊山へ登るザレ場の途中で甲武信岳を振り返って見たら山頂はすっかり雲に覆われていた。さよならをすることも出来ずに降りることになってしまった。 |
シャクナゲの森を過ぎると広葉樹と変わり、木々の間から見える周りの山々はすっかりと紅葉している。ただもったいないのは展望が良い場所が無く、木々の間にかすかに見える紅葉にただため息をつくばかりだった。 途中で道が二つに分かれていた。地図を広げたが載っていない、なぜだぁー? |
甲武信小屋前には真っ赤な実がタワワに実っています。 |
こんな色々な森を抜けて西沢渓谷への分岐点までたどり着いた。ここで予定通り、西沢渓谷に行こうとして迷った。体も余力を残しているし足はまだまだ大丈夫だ、というよりもう少し歩きたいほどだ。 なのに躊躇(ちゅうちょ)したのは噂には聞いていたが余りにも観光客の数が多く、その雑踏の中にこのでかザックを背負って突入して行く気分にはとてもなれなかった。人ごみの中に身を置くことを考えると頭痛がしそうだ。 |
徳チャン新道をかなり降って来ました。唐松林が綺麗です。 |
一休みしながら考えよう!靴を脱いで草むらに座り込んだ。 風が吹いて木々がザワザワと音を立てて揺れた。その風の一片がフッと汗ばんだ体に触れて来て心地良かった。 そんなフワリとした感情が一瞬にして凍りついた。何気なく足を見てビックリした。靴下が真っ白になっている?靴の中を覗きこむとポリウレタンの中敷が粉々に砕けていた。この中敷は少しでも足への衝撃を柔らめようと交換した物だ。 ポリウレタンのソールは5年が寿命と聞いたけど中敷も同じように劣化してしまうのだ。 西沢渓谷に行くか、止めるか決めなくてはいけない!振り返ると山は重ったるい雲に頭を突っ込んでいる。頭のどこか隅っこに今朝ラジオから聞こえた歌がふっと浮かんだ。 |
「何かを求めて振り返っても、そこにはただ風が吹いているだけ」 ・・・今日はこれで帰ろう!天気はシリアスに曇り空だし、西沢渓谷はまた天気が良い日に再訪しようと思った。 西沢渓谷バス停に向かう。 川沿いの遊歩道を歩いて行く。観光客が歩道越しに歓声をあげ、立ち止まり紅葉にカメラを向けている。 |
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