甲州高尾山、棚横手山
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆12月24日
立川 (5:55) +++ 勝沼ぶどう郷 (7:18/7:30) --- 大滝不動尊 (8:40) --- 展望台 (8:55/9:00) --- 棚横手山 (9:35/9:50) --- 富士見台 (10:05) --- 甲州高尾山 (10:55/11:20) --- 剣ヶ峰 (11:30) --- 柏尾山 (12:25/12:30) --- 大善寺 (12:50/12:55) --- 大日影トンネル入口 (13:10) --- 勝沼ぶどう郷 (13:50/14:07) +++ 立川 (15:31)

山日記

電車が大日影トンネルを抜けると車窓の外に甲府市街の町並みが広がった。
その向こうの南アルプスの山々はでっかい壁のようだ。
中央本線を利用して山へ向かう時、列車の車窓から見える甲府市街の町並みとその向こうの南アルプスの山々は雄大で通過する度に気になる存在だった。

この風景をどこかの山から見てみたい!
この願いを叶えてくれる山を見つけたのは“高尾山”をネット検索している時だった。
甲州高尾山は標高は1000mほどで低いけれど甲府盆地の北東に位置しているので甲府市街と南アルプスを一望出来き、おまけに富士山も見える山だと紹介されていた。
以前の昭文社の山岳地図では登山道の表記も無いような山だったけれど南アルプス、富士山の好展望地として、また都心からも近いこともあって最近は登る人が増えたようだ。

駅を出て右に曲がり高架下をくぐる。
駅を降りてそのまま登れる山は気楽で良いのだけれど駅周辺の住宅地は道路が入り組んでいるので道を間違えないように地図を見ながら歩いて行く。
大滝不動尊の案内板にしたがって道を折れ、郵便局、小学校と地図のマークを確認しながら進んで行くとやがて大滝不動尊前宮へ到着。
ここから道は急に細くなり勾配も急になった。ダウンジャケット、フリースを脱いでTシャツ一枚になっても暑くてたまらない。汗ダクダクになりながら三滝橋へ到着した。

この先、大滝不動尊奥宮まで道は山をグルリと巻くように進んで行く。勾配も平坦になって急に足が軽くなった。朝の凛とした空気の中で木々の間に見える甲府市街地が銀色に光っていた。

門をくぐって石段を登って行くと本堂の奥に大滝が見えた。今の時期だけかもしれないけれ落差はあるのだけれど水量が小さくて何だか寂しい滝だった。

本堂の右脇から登山道へ入って登って行く。
途中に山の斜面の崩壊で道が無い箇所があり、注意しながら登って行くとT字路の林道に飛び出した。
やっと登山道を歩けた!山らしくなった!と思っていた矢先だったので整備された道にはさすがにガッカリした。

広い空に押しつぶされたように甲府市街の町並みが広がっていた。
日蔭になった展望台には小さな祠があり、西側は開けていてそこからくっきりと青い空が覗いている。黒い山陰の向こう側に朝日を浴びた市街地や山々の姿がくっきりと浮かび上がり、映画館で動かないスクリーンを見ているみたいだった。
これで南アルプスに雲がかかっていなければ何も言うこと無しなのだけれど。

展望台から見た甲府市街の町並み。南アルプスは雲が多かった。
T字路へ戻って今度は棚横手山へ向かう。
林道を10分ほど歩いていると右へ山道が分岐していた。暗くジメッとした植林の中を登って行くと明るい稜線へ出た。ここで富士山とご対面!
富士山が見えると聞いてたので、いつ見えるか、どこで見えるか、と歩きながらワクワクと期待していたのでやった見えたよ!って感じで何だかホッとしてしまった。

富士山の周りの山々は逆光のせいでシルエットにしか見えない、その黒いシルエットの上に真っ白い雪を被った富士山がニョッキリと顔を出していた。富士山辺りは風が強いのだろうか?次々と雲が湧き上がってはその表情を絶えず変化させている。

富士山の周りの山もやっぱり気になる。特に自分が登ったことがある山も有るだろうからその姿を確認したくなる。
三ッ峠山山頂の鉄塔って景観を損ねるものだとして邪魔なもの要らないものとしか思えなかった。けれどこうしてそのシルエットでしか山を確認できないとなると鉄塔の存在は有り難かった。
鉄塔があるのが三ッ峠山、そうするとその隣が黒岳・・・というふうに芋づる式に山名が分ってしまう。

待ってました!富士山とのご対面はホッとさせる瞬間


棚横手山は山梨百名山になっていた。富士山が大きい

棚横手山へ向かう。登山道は展望が良くていつも右に富士山を見ながら歩く。
予想以上の急勾配を息を切らしながら登って行くと、なんてことだよ!またしても林道に飛び出してしまった。
ここまで頑張って登って来たのがどこか無駄な努力のような感じがして一気に興ざめしてしまう。
とにかく富士山を見よう!林道を横切って3分ほど登って行くと棚横手山山頂だ。

小さな陽だまりの山頂は富士山の展望が良かった。地味だけれど山梨百名山にもなっていてノンビリした休憩にはもってこいの場所だ。


富士見台を過ぎるとこんな気持ちの良い尾根歩きが続く

鳳凰三山も見える。やっと雲が取れて展望が広がった
来た道を戻り、富士見台へ向かう。富士見台!登山道からはずっと富士山が見えているのでわざわざそう呼ばなくても?などと思って歩いて行く。、何だ何だ!富士山が段々と近くなって行くではないか。富士山の大きさに比べたら僕が歩いている距離なんてただがしれているのに一歩足を進める度に確実に富士山は大きくなっていった。そして富士見台がこの稜線上で一番富士山が大きく見える場所だったのだ。

甲州高尾山の下には林道があってちょっとがっかり。


んーん、甲州高尾山山頂から南アルプスを望むの図

富士見台を過ぎ、起伏の少ない道を歩いて行く。
冬の登山は風の有る無し、日差しの有る無しで体感温度はえらく違ってくる。こんな風も無く、日当たり良好の登山道はまったくポカポカして歩いているだけで本当に心地よい。富士山には月見草も良いかも知れないけれどススキも似合うな!

段々と近くなってくる甲州高尾山はハゲ山だった。
ネットからの情報では以前山火事があったらしく山の南側斜面にはまだ小さい苗木が一面に植えられている。枝ばかりで魚の骨としか見えない木々に覆われた山はヘリンボーン柄の山、そしてその向こう側には南アルプスがキッチリと見えていた。


甲州高尾山山頂からの白峰三山 
この左側のは荒川岳や赤石岳も見えていたけれど写真は残念だけど割愛しました。
前方に南アルプス、左に富士山を見ながらノンビリと歩く・・・何と言う贅沢!
棚横手山や甲州高尾山は標高が低いのでヤッホー度はイマイチだけれど富士山や南アルプスの眺望は良いのでガッツリ度はそうとう高い!
しかし残念なのは登山道の20mほど下には林道が並行して走っているので”山登り”という感覚の希薄さには始終悩まされる。

甲州高尾山山頂。風も無くてポカポカなてっぺんでした。

高尾山山頂からの富士山はこんな感じでかろうじて見えている

名前は剣ヶ峰と勇ましいけれど、どーってことないダラリとしたてっぺん

甲州高尾山山頂には僕を含めて山頂には3人だけだった。あまり登山者が多いのには耐えられそうにないこじんまりした山頂だったけれど展望は良かった。
南アルプスを眺めると北岳には雲がかかったり取れたりを繰り返していて、北岳より南の山々は晴れ、北岳より北の山々は甲斐駒も始終雲の中だった。
もう白っぽくなってしまった富士山を見ながら食べるお弁当とポットの温かいお茶、こんな陽だまりの下では何よりのご馳走だった。

この山行で一番辛かったこと!!!!!
山頂に居た男性と展望について話が盛り上がった。
富士山は雲がかかってますけど南アルプスは綺麗に見えてますね!右から北岳、塩見岳、荒川静香・・・オレのダジャレに聞こえないフリされたのは正直、辛かった!!!
せめてニヤリとでもしてくれたんだったらまだ救われたのだけれど無視されたのは辛い!
しかしオレも空気読めよっ!二人の崇高な会話の途中でいきなり荒川静香はないだろっ!


甲府市街や南アルプスを下に見ながら降って行く。こんなに眺望の良い登山道も珍しい。
甲州高尾山は富士山が見えるギリギリの高さだったのだ。
山を降り始めるとすぐに富士山の姿は黒岳の向こう側に見えなくなってしまった。
ドンドンと降って行く。標高も低くなって気持ち的には山を降りるだけ!と既に帰宅モードなのだけれど、どっこい展望はこれでもかっ!と終わりはしない。
南アルプスがより近くに迫ってくる、これまで木々に遮られていた奥秩父や八ヶ岳も一望出来るようになっていった。金峰山は灰色の重そうな雲が山頂にまとわり付いている。金峰山の左に見える白く雪を抱いた山は赤岳だよな!

まだ残っていた山火事跡。焼け残った木が墓標のように立っていた


山の南側斜面は植林されたばかりの小さな木でいっぱい。

甲府市街地を下に見ながらドンドンと降って行く。
途中、山火事跡をわずかに残すように焼けた巨木の幹だけが墓標のようにポツリポツリと立っていた。
鉄塔が立つ柏尾山の分岐点を左に進み、急斜面を一気に降りて行くと大善寺へ到着。

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これで今回の山行が終わったと思ったらおーマチガイ!!!

甲州高尾山の特徴がもう一つ、それは山の上も歩けるけれど山の下も歩けることだ。
JR中央本線の旧大日影トンネルが遊歩道として開放されているので今歩いてきた甲州高尾山の今度は下を歩いてゴール地点のぶどう郷駅まで戻る事にした。

日本には色んな山があるけれどこんな山の上も下も歩ける山は他にないだろう。北アルプスの赤沢岳、鳴沢岳の下には扇沢から関電トンネルが通っているけれどあそこは歩行は出来ないしね。

大善寺から右へ向かうと勝沼ぶどう郷駅なのだけれど逆に左へ向かい、深沢川沿いの道を上流方面へ200mほど歩いていくと大日影トンネル遊歩道の入り口だ。
下を見ると短い鉄橋の向こうにポッカリと穴が開いていた。


東京側のトンネルはワインワイナリーとして利用されている

鉄橋を渡っていよいよトンネルに突入します

甲州高尾山の下へ行きまーす!
行く気まんまん!!!


トンネルの前にやって来た。ただの遊歩道なのだけれど真っ暗な穴はちょっと冒険心をくすぐる、ワクワクする。
ゴールへ向かって・・・さあ始まる!はっきり言って行く気満々です!

外からトンネル内を見たら真っ暗だったのでザックからヘッドライトを取り出したけれどトンネル内に入ってみると薄暗いけれど十分歩ける位の照明はされていた。当たり前だよな!遊歩道なんだから真っ暗なわけは無いのだけれどだけれどちょっと気負い過ぎだったのかもしれない。


全長1.2キロ 中央本線大日影トンネルの遊歩道。トンネルの両脇がきれいに舗装されて歩き易くなっていた。
ただちょっと薄暗くて不気味。
トンネル内はワインワイナリーとして利用されているくらいなので気温が外より数℃低く、また冷たい風が吹き抜けているので寒かった、慌ててフリースを着込んだ。

トンネルの壁は一面の赤レンガ造りらしいけれどスス汚れや石灰化により黒や白に変色していっそう物々しさを感じさせる。
全長1.2キロメートル、トンネルの先を見ると一定間隔で設置された蛍光灯の光が青白い輪になってずっと奥まで続いている。はるか向こうに見える出口は心細くなるほど小さな白い点だ。

一定間隔で設置されている待避所に当時の写真や解説が展示されていてちょっとした交通博物館みたいになっていた。時代の流れとトンネルの閉塞感、重々しい空気の中では壁に描かれた文字や数字もどこか歴史的な遺物に見えてしまう。

待避所はライトアップされて解説が有ったり無かったり。

向こうの出口は小さな点。線路の真ん中は溝になっている箇所あり注意

これは何かの暗号?
何もかも意味深に見えてくる

トンネルの中間地点。
だけど先を見るとまだまだ長い

資材置場を利用した休憩所。なんだけれど薄暗くてあまり休憩したくない

出口(ぶどう郷側入口)は新旧トンネルが並んでいる

1.2キロの道程は普通に歩いたらつまらなく退屈だろうけれど、このトンネル歩きは何だかもう終わってしまったのかという感じて出口に着いてしまった。
この山行のゴール、そして今年の山行のゴールはもうそこだ!
大日影トンネルを出てぶどう郷駅までは100mほどだった。
甲州高尾山ミニミニ3次元的グルリ縦走もとうとう終わりなのだ。

駅のホームに立つと出発した朝と同じように南アルプスの山々が変わらずに白く輝いていた。甲州高尾山は地図を見ると大菩薩山塊の端っこにかろうじて引っかかっているような小さな山だったけれど面白くて小粋な山だった。
前回の櫛形山もそうだったけれど登ったことが無い山の中にはまだまだこうした珠玉のように輝いている山がまだまだ潜んでいるのだ!
また来年もいっちょやってみっか!


駅のホームから南アルプスを眺める。やっぱいいなぁー、良い一日、良い一年だった。
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