三俣山、大船山、黒岳 (九重山)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)
◆ 2023年10月25日
豊後森駅 (9:38) === 長者原 (10:41) --- 諏蛾守越 (12:05/12:15)
--- 三俣山西峰 (12:40/12:45) --- 南峰 (13:15/13:35) --- 本峰 (13:50/14:00)
--- 諏蛾守越 (14:30/14:35) --- 法華院温泉 (15:25) --- 坊ガツル(15:40)
山日記 (1日目:三俣山 編)
「あぶなかった!」
コミニュティバスが豊後中村駅が着くと乗客が10人ほど乗り込んでここまで僕一人だったのが一気に満席になってしまった。
乗客の中には同じ特急列車で見かけた登山者の姿もあり、中村駅からバスに乗っていたら座れなかったかもしれない。やはり一つ前の豊後森駅でバスに乗ったほうが特急料金がも安くなるし正解だったなと思った。

客の大半は「九重“夢”大吊橋」で降りてしまい長者原まで乗っていたのは登山客の4人だけだった。

長者原に広がるカヤトがキッパリと太陽の光を跳ね返し黄金色に輝いているのを見た途端「やっぱり来て良かった!」と心が弾んだ。
僕の欠点は登山計画した時点では紅葉した九重山の風景が頭の中いっぱいに広がりウキウキするのだが決行日が近くなると「電車乗り換えが面倒」「装備を準備するのも大変」「朝早く起きると眠い」「テントは寒い」「重いザックを背負って歩くのは大変」といわゆるマリッジブルー状態になってしまい結局、家でのんびりしていよう!とドタキャンしてしまうことも少なくない。
ただ今回は「坊ガツルでのんびりしよう」とだけを呪文みたいに復唱してきたので雑念に悩まされることもなく割とすんなりと来れた気がした。

モンベル店の左側から登山道へ入って行くと真っすぐな林道が森の中を緩やかに登っていた。
前を歩く登山者の背中が柔らかい秋の光に揺らいで見える。
始まったのだ、九重の懐にこれから入って行くのだ!
こんな緩やかな道は意外と体力を消耗するのでゆっくり歩くように心がけていると前を歩いている人たちの背中が段々と小さくなるのは少し焦った。

林道を離れ登山道に入ると少し急こう配になったけれど土の感触はやっぱり良いものだ。
登山道は再び林道と合流し、振り返ると紅葉した黒岩山や泉水山がポツンとそびえている。
「富士山を見たいのなら富士山に登るな」と言われるように九重山を見るなら黒岩山や泉水山に登った方がひょっとすると壮大な景色が見れるのでは?と思った。

林道を歩いている前後の登山者を見ると林道をショートカットする登山道を歩かずに林道を回ってきた人もいるようだ。
再び林道と別れて岩がゴツゴツとした急なガレ場に変わるとビール2本、ワイン1本、ウイスキー1本の重みが肩に掛かり、足を進める度にザックの重心に体が持って行かれそうになる。
まったくお酒を持ってき過ぎだろ!と思うけど「坊ガツルでのんびりする」ミッションには絶対に外せないアイテムなのだ。

地図の等高線を見て予想をしていたけれど急なガレ場も直ぐに終わり案外楽に諏蛾守越に着いた。
避難所では休憩している登山者が多く、これから登ろうとする人の熱気と降りて来た人の安堵感で満ち溢れていた。

ザックからサブザックを取り出して必要最小限の装備だけを詰め込むと元気スイッチが入った。
三俣山は今回の山行ではぜひ登りたい山、主峰の久住山に登らなくてもこの山だけは登っておきたい山だった。
以前坊ガツルから見上げた三俣山の姿はあまりにも急峻で「こんなに険しい山だけどいつの日か登ってやろう!」と憧れた山だった。
その三俣山をこうして目の前にしてみると坊ガツルから見た時も急だったけれど諏蛾守越からでもそれは変わらなかった。
薄緑の笹原の中に細く急な登山道をが一直線で山頂へ伸びている。


写真では分かりにくいけど諏蛾守越から眺めた三俣山はすごく急斜面だ。


岩で出来た諏蛾守避難小屋では多くの登山者が休憩していた。

いざ登り始めると思ったよりも足が前に出た。
デカザックから軽量なサブザックに変わったんだから当たり前なんだけれど下から見た時は急斜面で登るのは大変だと思われたけれど意外と楽に西峰と南峰の分岐に登りついた。

「まだ先がある!それもかなり登っている!」
分岐から眺めた三俣山主峰はまだまだ遠くに見えガッカリした。
諏蛾守越から見上げた時に見えていたピークは西峰ではなく三俣山のただの端っこだったのだ。地図を見ると分岐から西峰へは実線標記の一般道、南峰へは点線標記の難路となっているが前を歩く人達の姿は南峰へ向かっているのでこっちの方が意外と登りやすいのではと思いその後について行った。
ところが道はどんどん降って行くし先を見ると笹原の中の道は一旦大きく降り南峰へ登り返している。この様子に心配になって前を歩いている人に尋ねると、その人達はこれから坊ガツルへ下るのだと言うことで三俣山へ登るなら西峰から登った方が楽だと教えてくれた。
「地図をちゃんと見ろーっ!」大分降ってしまっていて振り返ると西峰が遠くなっていたことにガッカリした。

時間と体力のロスに腹立ちながら西峰へ登って行くと段々と斜面が緩やかになって山頂に到着するとそこには絶景が待っていた。
北千里浜を要に星生山と中岳が扇状に広がる岩稜の荒々しく雄大な景色だ。
ガイドブックによると星生山も紅葉の名所になっていたけどここから見る山肌は岩稜に覆われ草木は生息していないように見える。


道に迷いながら着いた三俣山西峰だけどまだ先が長いのだ。


西峰からは険しい星生山、久住山の姿。

目の前の登山道をひたすら前進する健気な登山者の姿に元気をもらって西峰から本峰を目指して先へと進んでいく。
前を見ても後ろを見ても周りの景色は素晴らしく立ち止まりながらのんびりと登って行くと次のピークは本峰ではなく三俣山W峰というピークで地図には載っておらず、いったいここは何なの?って感じだ。

ドローンの撮影をしているらしく羽音が空間を飛び交っていた。
W峰に立つと東側に新たなピークが見える。あっちが南峰だろうか?主峰を目指して登って来たのにどこかで道を間違えたらしいがとりあえず目の前に見える南峰へ向かうことにした。
しかし困ったことにここから登山道がはっきりしない。

W峰ピーク付近は熊笹に覆われており、その中に細い踏み跡らしい筋がいくつも見える。
ドローンのスタッフらしい人から「ここから直接南峰へ向かう道は藪が酷いので少し遠くなるけど左側を巻いた方が良いですよ!」とアドバイスを受けた。


おーっ!紅葉している。三俣山って紅葉の山だったのだ。


振り返ると西峰の稜線を歩く登山者の姿。


本峰だと思ったら地図にも無いW峰でその東側にあるのが南峰だった。

歩き易い道だと教えられたけれど実際歩いてみると登山道は細く、笹に覆われて地面が見えない箇所も随所にあった。
熊笹は成長が早く、例えば谷川岳や北海道の山では3年に一度は笹払いをしないと登山道が埋もれてしまうと聞いた。ここは笹原の登山道の整備がされておらず、登山者の足任せのか細い筋道が南峰へ続いている。

笹の抵抗を足に受けながら歩いて行くと笹原を脱出し灌木帯の歩き易い道になり南峰へ着いた。
山頂から南に目を向けると荒涼とした北千里浜、東にはカヤトの坊ガツルを抱いた大船山を臨むことが出来た。


待ってろよーっ!南峰から大船山を臨むと紅葉しているようで明日の登山が待ち遠しい。


南峰山頂の端っこに来てみると下にカヤトの坊ガツルが見える。


南峰山頂からは荒々しい九重の山々が一望出来た。

南峰から本峰への道も分かりずらかった。
目標が目の前にあるので方向は分かるのだが登山者が思い思いの所を歩いているらしく笹原には細い踏み跡が幾筋もありどこを歩くのか迷ってしまう。
この付近の笹原の登山道ももう少し整備してほしい場所だ。

本峰からは紅葉した北峰が実に美しい。
山頂から見える北千里浜や大船山ももちろん良いけれど北峰の紅葉を見た瞬間に三俣山へはこの景色を見るために登って来た気がした。
ただその紅葉した北峰への前には大鍋と呼ばれる笹原の窪地がありその高低差が登山意欲がそがれる。
見ると北峰の急斜面を登っている人の姿が確認できたけれど今回は北峰まで行く時間は残念だけど無いのだ。
本峰から引き返すしかない。(登山地図では等高線が分かりにくいけど他の人の山レポを見ると本峰→北峰→南峰は2時間くらいらしい)

晴れているけど雲が多く北峰の紅葉をなめる様に雲の影が絶えず移動して行く。
ファインダーを覗くとどこかに暗い影があってカメラを構えたまま山頂でシャッターチャンスを待った。


笹原の登山道は不明瞭だったけれどやっと三俣山本峰に着いた。


三俣山で一番紅葉していた北峰だけど高低差があって行くのは大変そうだ。


西峰へ戻って来た。やっぱりW峰が一番目立っていた。

登る時は苦労して登って来た印象が強かったが降る時は割とすんなり諏蛾守越まで降りることが出来た。初めて歩く道は険しく長く感じるものなのかもしれない。
またここから酒のたっぷり詰まった重いザックを背負うのだがここから坊ガツルまで降るだけなので気分的には楽だ。

北千里浜は谷間に広がる砂漠の台地であり火山ガスの影響か?ススキの群生しか植物は見当たらない。
先を歩いている人が立ち止まって右の斜面を撮影していたので何を撮っているのか尋ねると岩塊を指さして「あれが九重のゴジラ岩です」と教えてくれたけど、そう見ればゴジラに見えないこともないけどあんな岩なんて探せばいくらでもありそうだし、それに「九重の・・・」と言うほど凄く無いようなのでとりあえず笑っておいた。

行く先の大船山は近づくにつれ茶色だった山肌が鮮やかな赤や黄色に変わって行く。
明日はあの頂を目指すのだ。どうか晴れますように、きっちり紅葉していますようにと願うばかりだ。


北千里浜から坊ガツルは降るだけなので楽だ。右端に見える岩塊がゴジラ岩らしいけど・・・


坊ガツルが見えて来た。雲が多いので大船山にも影が多い。

法華院温泉山荘の手前で今朝、長者原まで同じバスだった人に会った。
挨拶を交わすと大船山へ登りこれから長者原へ戻りということだった。今からだと長者原16:40発の最終バスには間に合いそうにないけど今夜はどこに泊まるのだろうか?服装はタウン着で持ち物は小さなショルダーバックだけという軽装だったので少し心配になった。

法華院温泉山荘は温泉のある山荘としては宿泊料も安く立地条件も良いので登山計画を立てる時に泊まろうかなとは思うものもやっぱり坊ガツルのテント泊の魅力には勝てなくて今日も山荘の玄関先を通る際に体力があるうちはテント泊を続けようと思ってしまう。


法華院温泉山荘に着いた。立中山も紅葉が素晴らしい。


山荘は静かだったけれど坊ガツルへの途中で宿泊するらしい多くの登山者とすれ違う。

温泉山荘へ泊る人達とすれ違いながら歩いているといよいよ目の前に坊ガツルが迫って来た。
周りの山々に抱かれて広がるカヤトはまさに別天地だ。
ススキの黄金色と大船山の紅葉が織り成す秋山は訪れた人にただただ優しいのだ。
この景観が長者原からわずか2時間ほど歩くだけで出会えるのだ。箱根の仙石原の賑わいを思うとここはなんと静かなんだろうと思う。

テントの数はざっと30張位だろうか。平日のためか?その数は思ったよりもずっと少なかった。
でも良い場所はさすがに取られていたのでカヤトの中の空き地に張ったけれどそこはススキを踏んで広げた場所みたいなで罪悪感を感じて落ち着かない。
この無料キャンプ地は長者原からも近く炊事場やトイレが設けられていて利便性が良いのだけどカヤトの中に無秩序にテントが張られているのが気になった。


9年ぶりに訪れたカヤトの坊ガツルは素晴らしいの一言。


大船山もしっかり紅葉しているようで明日が楽しみだ。明日は雲が少ない晴れでありますように。

テントを張り終えるとまずはビールだ。
今回はお酒もおつまみも沢山持ってきたのでアル中にとって最高のひと時だ。

ネットで調べると夜7時に南西の方向に天の川の端っこが少しだけ見えるはずなのだけど夕方から雲が多くなってしまい星は全く見えなかった。

サニーで買ったおでん、そして「うまかっちゃん」で閉めて、その後はワインを飲みながら「ミステリー・クロック」(貴志祐介)を読んで初日は終了した。

大船山、黒岳 編 へ 続く
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