黒斑山 (浅間山)

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2022年10月12日
佐久平駅 (8:35) === 高峰高原ホテル (車坂峠) (9:30/9:40) --- 槍ヶ鞘 (10:40/10:45)
--- トーミの頭 (10:55/11:00) --- 草すべり分岐 (11:05)
--- 湯ノ平分岐 (11:25/11:30) --- 賽ノ河原分岐 (11:45/111:55) --- Jバンド分岐 (12:50)
--- 鋸岳 (12:55/13:00) --- Jバンド分岐 (13:05/13:15) --- 仙人岳 (13:40/13:45)
--- 蛇骨岳 (14:00/14:05) --- 黒斑山 (14:30/14:35) --- トーミの頭 (14:50/14:55)
--- 車坂峠 (15:40/16:20) === 新宿バスタ (20:10)
山日記

ナナカマドの赤とカラ松の金色に憧れていた。
どうしても見たい紅葉は二つあった、涸沢と黒斑山だ。
涸沢は2015年に登ったので残りは黒斑山だけ、だけど休日と晴れが重ならないので計画するたびに跳ね返されてきた。

それがいよいよ今年重なった。
ネットで調べると黒斑山の紅葉最盛期は10月15〜20日だ。少し紅葉には早いと思ったけど高峰高原ホテルのブログを見ると「カラ松色づき始め」となっていたので。

少し早いけど、これはとっとと行くしかあんめい!

公共交通利用の僕にとって登山口である高峰高原へのアクセスは小諸駅からのJRバスだけだ。
テント泊など色々考察したけど交通費を考慮すると、
行き:東京→(新幹線)→佐久平→(バス)→高峰高原
帰り:高峰高原→(バス)→新宿
の日帰り登山がベストだった。

新幹線を佐久平駅で降りると駅前はガランとして何も無い。飲食店や商店街も無くて新幹線の駅ってこんなもんなの?これってストロー効果なのだろうか?
駅の待合室に併設されていたキヨスクでホットコーヒーを飲みながらバスを待った。

「座席定員制のバスとなります。満席となりますとご乗車いただけません」JRも無茶苦茶なことを言うなぁ、新幹線で来てバスが満席だっら乗れないっていったいどうしたらいいの?
最近のインバウンド需要で満席になるのでは?と予想していたけど、幸い、発車15分前にバス停へ行くと6人しか並んでいなかったのですんなり乗ることが出来た。

バスは小諸駅を過ぎると高峰高原へ向けてグングン登って行く。
車窓に映るカラ松の林はまだ緑色で「けっ、やっぱり紅葉には少し早かったかもしれない」ともうガッカリした。

ところがバスが高峰高原ホテルへ着いてみると車坂峠付近はキッチリと紅葉していた。
わずか標高差、数百メートルでこうも違うものなのか?


前からずっと登りたかった黒斑山はここから始まるのだ。意外と寒くなかった車坂峠。

トーミの頭へは表コースと中コースがあるけれどとりあえず表コースを登っていく。

足元の草木は小さな水滴を浮かべて静けさの中で陽の光を待っている。

この澄んだ空気の中にいることが自分にとってとても大事な時間に思えた。
ここは登山者にとって矢継ぎ早に過ぎていく記憶の隙間に見つけた小さな居場所なのかもしれない。


表コースを登って行くと紅葉したカラ松の向こうにシラビソに覆われた黒斑山が見えた。

先を行く女性の姿が気にかかってしまう。
腕力が無い人にとってストックは体を押し上げることが出来ずバランスを取るだけの道具になってしまう。
ストックを持つとその荷重が腕に負荷になるので腕力が無い人は使わない方が体力を削られないのだ。

途中の避難小屋は扉が無くただの鉄製の筒なので避難小屋というよりこうした火山地域ではシェルターの役目なのだろう。
小屋と言っても装備がない人の宿泊は難しく逆に避難小屋特有の閉塞感はないので中でテントを張るのは快適な感じがした。


ガレ場からは紅葉した篭ノ登山や湯ノ丸山が一望出来た。


とうとうの前に・・・・頭だけしか見えないけれどシラビソの中を歩いて行くと浅間山だぁーっ!。

「この日を待っていた!」
森を抜けるとそこに紅葉の浅間山があった。それはずーっと憧れていた紅葉の新たなる1ページだ。
ネットでその姿を見てずっと憧れていた風景が今、目の前にある。
山道のカラ松はまだ緑だったし紅葉には少し早すぎたかもしれんと危惧していたけど、この景色でぶっ飛んだ、ちゃんと紅葉してくれてた。

浅間山山頂の赤茶色から麓へと山吹色へとグラデーションが広がっていて、もしかしたらこの光景ってSFXで造られた特殊映像なのでは?と思わせるほど理想に満ちていた。
予備知識が無い人が見たら幻想的な別世界の風景に見えたのかもしれない。


良かったぁーっ!これが見たかった。紅葉には少し早いかなと心配していたけどしっかり紅葉してました。

トーミの頭から見下ろす湯ノ平はジオラマみたいでカラ松の山吹色の絨毯に一面埋め尽くされた谷は桃源郷、まるで「ガラスの仮面」に出てくる「梅の里」のカラ松版みたいな感じを受けた。

ところで「ここまでくると紅天女をどっちがやろうが早く完結してほしい!」と唐突的に思った。

こんな山って他にあるだろうか?と思う。赤色の無い、黄色だけで道理の全てが完結している。

やっとこの景色を見れた!が逆に車がある人は車坂峠からここまで1時間歩けばこの景色が見れるのだと思うとあまりに無情だ!責任者出てこい!


トーミの頭で休憩している人がいっぱい。山頂の向こうは切れ落ちている。

ここでこの景色をずっと見ていたいけど、先の景色を期待して草すべり分岐から降っていく。
ネットで見ていたので分岐からの下降は急斜面だとは知っていたけれど登山道はジグザグを繰り返しているし、それに草紅葉の中を歩く楽しさもあって思ったよりずっと楽に歩くことが出来た。

降って行く度に黄金色のカラ松が迫って来る。
あまりの期待にもう頭の毛細血管が切れそうである。多分、数本は切れただろう危険な光景だった。


このまま眺めていたいけど草すべり分岐からいよいよ湯ノ平へ降りて行き来ます。


急な斜面も意外とすぐに終わってその先にはカラ松の森が広がっていた。

おーし、ここが湯ノ平分岐かぁ。金色のカラ松越しに黒斑山はそそり立つ岩壁ではなく柔らかい若草色の草木を覆った山でこの景色を見れただけでも幸せの気分に浸ることが出来た。

湯の平で休憩しているとやってきた女性から「ここからトミーの頭まで急な登りですよね」と尋ねられてその時は別に違和感は感じなかったけど、すぐに地図を確認したらやっぱり「トミー」じゃなくて「トーミ(遠見)」だったのでブフフと思わず笑みがこぼれてしまった。
これはタカラ(宝)だぁ、こんなのが嬉しい!

この分岐から浅間神社方面へも歩いてみたいけれど今日はその時間がない。
せめてもう少しここでのんびりした気分なんだけどそうすると後半にそのしわ寄せがくることが分かっているので先を急いだ。


草原の湯ノ平分岐周辺は高いカラ松ばかりでひょろりとしたマルバダケブキがちょっと幻想的な感じだった。


湯ノ平分岐から黒斑山を眺めると岩ばかりだと思ったと岩壁は若草色の草木に覆われている。

湯ノ平のカラ松は予想以上の紅葉だった。
カラ松の紅葉が好きな僕はこれまで八ヶ岳、大菩薩、三つ峠、笠取山、戦場ヶ原などカラ松の原生林が有名な山に登ったけれどこれまで納得出来る紅葉は少なかった。
カラ松は紅葉期間が短くてすぐ落葉してしまうこと、それに木が高く見上げる紅葉は遠く感じてしまうこと。
それに比べてここのカラ松は全体的に背が低いので視線のすぐ先にしっかりと繊細な紅葉があった。
観葉植物も植木鉢の大きさに合わせて成長するのでここのカラ松もこれ以上大きくならない地質なのかもしれない。


庭園みたいなカラ松の森は紅葉の色がこの辺りだけ濃くてオレンジ色。

今回歩くコースで一番悩んだのははたして前掛山まで行く時間があるだろうか?と言うことで理想のコースは
トーミの頭→湯の平→前掛山→Jバンド→黒斑山→トーミの頭、またはこの逆回りコースなのだがコースタイムを計算してみるとこれだと帰りのバスにギリギリ間に合わない。

それで賽ノ河原分岐の到着時間が11時半前だったら前掛山へ登ろう、11時半前を過ぎてたら予定を変更しなければならないと思った。
もっとも予定通り前掛山へ登るには車坂峠を出発した時点で急いで歩かなければいけないことは分かっていた。
それが槍ヶ鞘で浅間山を見た瞬間に「のんびり楽しもう!」と思ったのでこの分岐での時間遅れは予想できたものだった。

ここで考えられる選択しは二つ。
1。前掛山へ登って湯ノ平へ引き返しトーミの頭へ戻る。
2.前掛山は諦めて外輪山を周る。
答えは決まっていた。今回の一番の目的はカラ松が紅葉した浅間山を見ることなので前掛山登山よりも外輪山を周ることを優先した。
ただこの判断は前掛山を登れなくて残念に思うことよりもこの先はのんびり歩ける!と思う気持ちの方が強かった。

どこからこの色はやって来たのだろう?ガラスの様な繊細な透き通った黄金色の中を歩いて行く。
青空がいつの間に広がり、いつもより気持ち良い風が吹いていた。
動かぬ月のような浅間山の足元を蹴とばすように足を進めて行く。


湯ノ平を進むにつれてカラ松の紅葉がオレンジ色から黄色へ変わっていく。


どこを取っても絵になる場所ばかりでカラ松の奥に仙人岳が見えるここにも多くのカメラマン。


足元ではまだ小さなカラ松も負けじと紅葉しています。ガラス細工みたいに繊細で透き通った黄色。


主役登場!山の紅葉の主役はやっぱり山ですね。主役がしっかりしているから紅葉も引き立ちます。

目の前に鋸岳を臨むと湯ノ平の散策モードは終わり、一変して登山モードへと推移していく。
Jバンドへは急な斜面だけど前掛山登山を諦めて時間に余裕があるので楽な気分でのんびりと登っていく。

「おぅ、ゆっくり登ろーぜぇ!」と言いながら二人の男性が後ろから登ってくる。
ゆっくり登ると言いながらハーハーゼェーゼェーと荒い呼吸は絶えることがない。僕はそこまで呼吸が荒くなるような登山はしないので避けれる場所があるとその二人をやり過ごそうと思って立ち止まるのだけどその差が縮まることはなくJバンド分岐まで登ってしまった。
多分その二人は前掛山へ登った後なので疲労困憊なのだと思う「気持ちが先する山登りではゆっくり歩くことは本当に難しい!」


ここを登れば後は楽だぁ!Jバンドへ登る途中から見る湯ノ平。なぜか大岩に登る人が多い。

アメリカのロックバンド、Jガイルズバンドとの関係は不明だけどJバンドから鋸岳へ行ってみると浅間山が一層大きく迫ってくる。
山頂から湯ノ平へは切れ落ちているのでその標高差が余計際立っている。

赤茶色の山腹には登山道が一本の筋となってくっきりと螺旋を描いているのを見るとやっぱり前掛山に登る時間が無かったのは本当に残念で仕方なかった。


それはまるで濃厚ビスクみたいな浅間山をすぐ目の前に臨む鋸岳。

気が付いたら周りに誰も居なくなっていた。
Jバンド分岐から一人旅が始まった。鋭く切れ落ちた稜線を歩くと絶えず左側には浅間山が見え、思惑通り、この外輪山は浅間山の良展望台なのだと思う。
周りにハイカー姿があればどうしても引っ張られてしまう、無意識に歩調を合わせたり間隔を保とうとする。
帰りのバス時間にはまだ余裕があるし、こうやって自分だけの時間の流れの中を浮遊する心地良さがあった。


Jバンドから外輪山の淵を歩いて行く。山の東側は岩壁、西側は紅葉したなだらかな山肌。


唯一無二の景色がここにも広がってた。この景観だけでもご飯一杯食べられそう。


地面を赤く染めるのはクロマメノキ。草みたいだけどツツジ科の木でここではその赤が貴重。


Jバンドから周りには誰も居なくなって景観独り占め状態だけど滑落したら誰にも気づかれないと思いながら。

黒斑山までの稜線は東側がきっぱりと切れ落ちた岩壁になっていて湯ノ平に広がる草原を見守る城壁のようだ。

西側はなだらかな勾配の山肌になっており紅葉が進んでいる。
こうやって見ると外輪山は浅間山の西側の一部にしかないのはなぜだろう?浅間山の噴火した溶岩が軽井沢側に流れたことと何か関係があるのだろうか?それとも湯ノ平はカルデラではなく爆裂火口なのだろうか?


外輪山はどこも浅間山の好展望台です。歩く度に少しづつ浅間山の表情が変化して飽きることなし。


仙人岳の西側には嬬恋とその奥には雄大な四阿山の山並みが続く。

仙人岳から蛇骨岳へと浅間山を左に見ながら岩の稜線を歩いて行く。
少し歩くと浅間山の表情が変わるのでその度にシャッターを押してしまい足が中々先に進まない(後で撮った写真を見るとあまりのも同じような写真ばっかりだった)。

蛇骨岳から先はシラビソの森の中の道でぬかるんだ場所も多かった。。
時々思い出したように崖の上に出て浅間山が見えるのでこの登山道は岩壁のギリギリの場所に作ってあるのかもしれない。
雨の浸食で崖の淵が浸食された登山道から滑落することはないのだろうか?


黒魔術みたいな名前の蛇骨岳から先はシラビソの森へ突入していく。


ジメッとしたシラビソの森を歩いていると時々見晴らしの良い岩場に出て雄大な景色と再会。

黒斑山の山頂には携帯電話の中継アンテナらしきものがあり、何で利用者が少ないこんな山の中に?といった感じだ。

黒斑山からも浅間山の眺望は良いので写真を撮るけど黒斑山の崖下まで広がる草原をファインダーに収めることが出来ずにガッカリした。


黒斑山山頂には携帯の中継アンテナがあったけど利用者が少ない山中になぜアンテナが?


黒斑山からは浅間山の眺望が良いんだけど足元まで広がる草原まで写せなくて残念なのだ。

一周してトーミの頭まで戻って来るとここで浅間山とはお別れだ。

朝と昼では何かが違うのか?朝見た時と浅間山の色が少し違って見える。
朝は澄んでいるように見えた風景が今は落ち着いて見え、絵画に例えるなら朝が水彩画で昼は油絵かなといった感じだった。

トーミの頭にはまだ数人のハイカーが居て景色を眺めたり写真を撮ったりしていた。
車坂峠からここまで歩いて1時間だから多少遅くなっても大丈夫なのだろう。


トーミの頭まで戻って来るとそこには別れを惜しむような富士山の姿。

トーミの頭からは登りと違う道を歩いてみたかったので中コースを降りた。
シラビソと苔のうっそうとした森の道だ、所々で雨に浸食された道が溝になり歩きにくい。

30分ほど下っていると視界が開け篭ノ登山が見えた。もう車坂峠は近い。
今日の山登りも終わりなのだ。


トーミの頭からは中コースを下った。シラビソと苔の森で浸食された道が歩きにくかった。


視界が開けると篭ノ登山が目の前に、車坂峠もすぐそこだ。

「こんな山奥でもおいしいコーヒーってあるんだ!」
車坂峠のビジターセンターは木の香りがする綺麗な建物だ。
温かいコーヒーを飲みながらバスを待っているといつもよりお洒落な自分になった気がして心地良かった。

やって来たバスに乗り込んだのはほとんど朝のバスと同じ顔触れだった。
皆さん、今日はどこを歩いてきたのか分からないけど充実した一日になったことは想像できた。
天気予報では晴れだったけど空にはひっきりなしに雲が流れて少し残念な一日だった。

憧れていた紅葉の浅間山は鮮やか秋の色に覆われ、その色は透けるようだった。

バスが新宿の近づくと車窓に次々とネオンが流れていく。
それは人知れず夜を迎え霞んでしまった秋の断片の様だった。

●山麓をゆくへ   ●ホームへ
inserted by FC2 system