霧ヶ峰、鷲ヶ峰、三峰山、鉢伏山、高ボッチ山 1

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 5月26日
茅野 (7:45) === 車山高原 (8:45/8:55) --- 車山 (9:55/10:05) --- 蝶々深山 (10:45/10:55) --- 物見石 (11:10/11:25) --- 八島ビジターセンター (12:20/12:30) --- 鷲ヶ峰 (13:10/13:20) --- 和田峠 (14:00/14:05) --- 三峰山 (15:40)

山日記 (どかどか草原トレイルをゆく 1 編)

日本ロングトレイル ・・・ 偶然、ネットで見つけた。
日本ロングトレイル ・・・ 何だかすごくカッコ良くない?
日本ロングトレイル ・・・ バキバキの闘争心を煽られる!

日本ロングトレイルの中の一つ、中央分水嶺トレイル。
それは長門牧場ー大門峠ー車山ー和田峠ー扇峠ー美ヶ原まで全長38kmのトレイルだ。

トレイルとは・・・登山道やハイキング道、林道、古道などをつなぎ合わせた距離の長い自然歩道を歩くことらしい。

でもどうなんだろう、登山者にとって山麓や平地を歩く意味とは?と素朴な疑問が立ちはだかる。
それじゃー車山から美ヶ原まで歩いてみるか。
ちょっと待ってお兄さん!
美ヶ原は以前一度登ったことがあるし、だったら車山から鉢伏山へ向うのはどうだ。
鉢伏山は山頂まで車道が通っているし、車が無い僕にとってはこんな機会じゃないと登らない山だと思った。

あれっ・・・んーん、これだと日本ロングトレイルがただの車山ー鉢伏山縦走になってない?




車山スキー場では誰も乗っていないリフトがカラカラと音を立て次々と車山へ昇って行く。
車山山頂まで片道1000円かぁー!少し気持ちが動いたけれどやっぱり自分の足で登らなくては。

何でだろう?
これまで車山高原(霧ヶ峰)には2回来ているけど車山には一度も登ってない。
今回はちゃんとピークを踏まなくては!・・・何だか目標が小さくねぇーか?

地図(山と高原地図)ではスキー場から直接車山に登れるルートが記載されているけれど今回もやっぱりその登山道が見つけられない。
仕方なく車山乗越へ向うことにしたけれど、地図にあるようなスキー場のド真中を登る登山道も見つからないのでスキー場の北側を大きく回り込む「信濃路自然歩道」を登っていく。
(もしかして地図の登山道はゲレンデを歩くのかも?)

登りだして20分ほどで蓼科山の臨む尾根へ登り着く。
そこからは八ヶ岳を背負うように、緩やかな道を登っていく。

日差しは強い。けれど朝の風はまだ熱を帯びて無くて暑さを感じさせなかった。
・・・何だかガラス越しの景色みたいだ。


目指すは車山初登頂! 車山スキー場から車山乗越まではこんな車道みたいな道。

それまで緩やかだった道が車山乗越から先は少し急になった。
登山道横のリフトを見ると同じバスに乗っていた二人の女性が早くも車山から降りてくる姿を見かけた。
自分の足で登ってこそ、良い景色に出会えるのだ!と思った。
だけど・・・少し背筋を伸ばしていた、疲れてないフリをしていた。

山頂の測候所は思っていたよりも大きい。
これまで遠目に見ていた白く丸いドームがこれだったのだ。
けぇっ!山頂からの眺望の前に気象ドームの存在に少し圧倒されてしまった。

3回目の登山でやっと山頂に立ったけれどやっぱり絶叫するほど感動はしなかった。
多分、山頂までそれほど苦労して登っていないからだろう。

測候所の北側に周ると、そこからは北アルプスが見えるはずだけど残念ながら雲の中にその姿は隠れてしまっていた。


これだったのかぁ!車山頂にはでっかい気象レーダードーム。この写真撮影10分後、喧騒に包まれるはめに。

それでも山頂からの360度の展望は圧巻だった。
八ヶ岳の一つ一つのピークを記憶と重なり合わせるのは楽しい時間だった。

ザワザワ!
がさついたような空気の流れを感じた。
見ると赤いジャージの中学生が大勢登って来た。
つい数分前はガラガラだったリフトが今は子供を生産する工場のコンベアみたいになっていた。

これでは落ち着いて景色を眺めることは出来ないので退散することにした。
すれ違う中学生からはお決まりの挨拶攻撃だ。
学校登山とは体と心を鍛錬するものではないのか?それをリフトを使ってどーする!
疲れ知らず、元気一杯で挨拶されるこっちの身にもなって欲しいもんだ。

「ヤッホー!」
今時、山でヤッホーなんて言う子供がいるか?と声の方を振り返ると何と僕に手を振っている。
もしかしたら小バカにされたのかも知れなかったけれど嫌な感じはしなかった。
子供達のヤッホーが山に活気を与えている気がする。そんなこと思うオレもジジイだな!


笹の葉が風に揺れ、雲が流れる、自然から与えられる物、全てを受け止める。おっしゃー!蝶々深山へ向うのだ。 


蝶々深山から振り返って見る。 空の大きさに押しつぶされてしまったかのような草原の広さに風の音さえ動かない。

車山乗越に戻り、今度は蝶々深山へ向う。
一本の木道が先へ先へと広い草原を貫いている。
ただただ気持の良い場所、心がのんびりする場所、透明なほどの開放感に浸る場所。
霧ヶ峰で一番好きな場所だ。

蝶々深山頂からの北アルプスを期待していたけれどやっぱり雲に隠れて見えない。
八ヶ岳や南アルプスは逆光なので空に並んだのはそのシルエットだけ。
富士山は惜しむようにシルエットさえ見せなかった。


ゆけゆけどんどん! 蝶々深山から物見石へ向う道も何だか申し訳ないほど平坦なのだった。

歩いていてふと思った。
自分と同じ方向に歩いている人が誰も居ないのだ。
前を見ても後ろを振り返っても他の登山者は僕と逆ルート、つまり八島ヶ原湿原の方から歩いて来る人ばかりだ。
多分、八島ヶ原湿原付近に駐車して周回する人ばかりなのだろう。


物見石の裏側にでっかく赤い字で「物見石」と書いてあるのだが、それってどうよ?いらなくねぇー?と今日も思う。

物見石での昼食。小さな贅沢、コンビニ弁当を食べた。
風が強くてレジ袋やバランが飛ばされないように気を使いながらの食事になった。

大きな雲の塊がいくつも頭上を横切っていく。
八島ヶ原湿原にホルスタイン模様の影を作っていく。

ハエは強風にもびくともしねぇー。猛然と弁当を目掛けアタックしてくる。
レジ袋を押させながら弁当を食べ、ハエを追っ払う。せわしい昼食だった。
「日本人はケチだね!ハエが食べる量なんて高が知れているのに・・・」インド人は言った。
それでも僕はハエを追っ払うのだ。


空を流れる雲の影が地面の凹凸にあわせて形を変え、八島ヶ原湿原の上を滑るように走って行く。

物見石から八島ヶ原湿原へ降って行く。
ここら辺りから新緑を感じさせる景色に変わっていく。モミの木?鮮やかな緑が青空に映える。
同時に鳥のうるさいほどのサエズリが耳を覆う。
あーっ、のんびりしたいと思う・・・だけどまだ先は長いのだ。

涸れた沢をいくつか横切るように小さな森を歩いて行くと車道に出た。
トイレの横には山小屋か何かの廃墟があって、車道を少し歩いた先にある奥霧ヶ峰キャンプ場も閉鎖されていた。キャンプ場の横にある奥霧小屋も廃墟状態だった。
そこは時に置き去りにされた空間みたいだ。


湿原へ降って行くと気持ち良い草原と森が待っていた。


草原にポツリ。廃墟となった奥霧小屋とキャンプ場。

物見石から見た八島ヶ原湿原は一面が乾燥した蜂蜜色の草原だった。
だけど鎌ヶ池はしっかりと光を仰いで水の臭いを湛えた水鳥のオアシスになっていた。
水鳥が水中に潜る度に水面に広がる波紋が金色に輝いて見える。

設置された木道を歩いて湿原の淵を周って行く。

八島ヶ池の島を数えてみる。・・・8、9個。小さな島まで入れると10個以上あった。
初めて来たけれど良い景勝地だね。
水のある風景は人の心まで潤ませるものなのだろう。


八島ヶ原湿原は乾燥したただの草原だ!と思っていたら鎌ヶ池は水を湛える鳥たちの楽園になっていた。


んーん、こんな場所だったのだ!島の数を数えて見る。八島ヶ池は日本庭園の趣き。

今回の縦走で一番心配だったのが水の確保だ。
ネットの情報で奥霧ヶ峰キャンプ場は既に閉鎖されていることは分かっていたので水はどこか近くの山小屋で得るしかない。
ネット検索していると八島ビジターセンターにトイレと水道があることが分かった。

「この水は飲めません」
えーっ!まったく予想外の展開に焦った。
八島ビジターセンターのトイレには無情なことが書かれていた。
仕方が無いので水はセンター事務所でもらうことにした。

「ここに水道はありません」
えーっっっ!またしても予想外の展開に焦った。
事務所で飲んでいる水は持ち込みだそうだ。
話を聞いてみると水道の水には大腸菌等の懸念があるので飲料を禁止しているらしい。

ほんなこつ、せからしか!
僕は腹をくくった。もう良かっ!大腸菌入りの水を持って行くけんね!
もう近くの山荘に水をもらいに行くのも面倒だし、その時間の余裕も無かった。

トイレの水道で2.5リットルの水をポリタンに入れ歩き出す。
足が重いのはザックが重くなったためだけではなかった。


八島ヶ原湿原を背に鷲ヶ峰は今日一番の登りだ。最近ジョグしていないので体力の無さを痛感している図。

鷲だろうか?鷹だろうか?大きな鳥が円を描いて飛んでいる。

鹿避け対策の柵を潜って鷲ヶ峰へ登りだす。
こんな柵は八島ヶ原湿原にもあった。車山では高電圧柵まであって鹿被害の深刻さを感じさせた。
最近、何だかあっちこっちの山で鹿避け対策の柵を見かけるようになった感じだ。

鷲ヶ峰へは今日一番の急登だった(と言うかここまで登りらしい箇所は無かった)。
それにしても暑い!
何だこの暑さは。朝はあんなに涼しかったのに昼になって気温が大分上がったようだ。
大粒の汗を掻きながら振り返ると・・・そこには八島ヶ原湿原が広がっていた。
んーん。八島ヶ原湿原は車山よりこっちから見た方が感じが良いな。


鷲ヶ峰への急登に大汗を掻いていると・・・道はすぐに平坦に変わった。か弱き僕に優しい山であった。

鷲ヶ峰山頂は視界を遮るものは無く360度の展望だった。

気象ドームの右に赤岳が並んで見えた。
八島ヶ原湿原の先には車山の広大でなだらかなスロープ、更にそれは八ヶ岳へと繋がっている。


鷲ヶ峰山頂はこんな感じです。予想以上の良い山。


山頂には方位盤もあるけれど見えづらかった。


鷲ヶ峰山頂は八島ヶ原湿原の好展望地だ。雲の影が無かったらもっと地球色だったのに。

ものすごく貧乏性なのかもしれん!
和田峠には蕎麦屋らしい店があった。
背負った大腸菌入りの水は捨ててその店で水をもらおうと思った。
だけどせっかくここまで苦労して背負って来た水を易々と捨ててしまうのも何だか悔しい。
それにいきなり店に行って水をもらうのも小っ恥ずかしい。
勝負だ!僕の腸が勝つか大腸菌が勝つか賭けてみるか。

ネットを見ていると三峰山への登山口を間違えたというレポが少なくなかった。
登山口は峠のスキー場小屋跡の横を登って行くのではなく、車道を更に100mほど進んだ先にある指示板に従って登っていく。


三峰山登山口は和田峠の100mほど先にある。


カラ松林の中、しっとりと草に覆われた緑の登山道。

車道を離れ、登山道へと入っていくとそこは地面一面しっとりと草に覆われた緑の小道だった。

カラ松の林を抜けると旧和田峠だった。
ここには旧中山道の碑があり、ここから中山道は西の諏訪へ、三峰山へは北へと分かれる。

三峰山への登山道は地図では点線表記の難路となっているけれど、しっかりと整備され迷うような箇所や歩きにくい箇所は無かった。
道の所々に「中央分水嶺トレイル」の標示板があったのでトレイル用の道として最近整備されたのかもしれない。


足下にはスミレが群生していた。


旧和田峠で中山道と別れ、三峰山を目指す。

やっちまったーっ!
旧和田峠から少し登ると僕の好きそうな山が目の前に現れた。
あららららら!
緑のビロードのような草原が緩やかに起伏を繰り返しているので心が揺れる。

草原に包まれた山は霧ヶ峰や美ヶ原だけではなかったのだ。
もうここら一帯の山はどこもかしこもしっかりと草原に包まれているのだ。


やられたぁー!まだまだ良い山、知らない山ってあるのだ。三峰山ももちろんそんな山の一つだ。

隠れた名物、隠れた名所など隠れた○○と言われる物には良い物は無い。
本当に良い物だったら隠れているはずが無いと誰かが言った。

だけど、鷲ヶ峰も三峰山も隠れた名山なのだった。それとも僕が単に知らなかっただけ?
この山も忘れられない山の一つになりそうなそんな気がした。
名前すら無いピークの向こうにはまだまだ見果てぬ山がこうして存在しているのだ。


行け行けどんどん! 三峰山頂はもう直ぐだ。草原に一本生えた木がチャームなのだ。

三峰山頂はちっともてっぺんらしくなかった。
草原の一番高い場所、単純な場所だった ・・・また来るぞと思った。

振り返ると車山が遥か遠い。気象ドームはもう小さな点でしかない。
あそこからここまで良く歩いたな!と思う。

広い山頂は空をいっそう広く見せた。
周りをぐるりと取り囲む山々との距離が空をいっそう広く見せた。
ここも360度の眺望だった。
ただ富士山も北アルプスも結局、今日一日その姿を見せることは無かった。

明日歩く鉢伏山までの稜線を地図と照らし合わせて確認する。
登り降りの高低差が大きく大変な一日になりそうな予感がした。
美ヶ原を眺めると、そこには草原が・・・ 道も高低差が少ないような・・・
やっぱり美ヶ原へ向うか?気持ちが揺れる。

時間は午後四時、テントの設営をする。
山全体がなだらかなのでどこでもテントが張れそうだけ中々水平な場所が見つからない。
地面のデコボコはマットである程度吸収出来るので気にならないけれど傾いていると寝ている間に体がズレてしまい安眠出来ないのだ。


三峰山頂は風が強かった。直ぐにフリースを羽織る。


美ヶ原への眺望。あれっ、こっちの方が良いのでは?

テントを設営し終えると・・・

高波だ!
波が喉の奥で弾け散った。
これほどビールが旨いと思ったことは初めてかもしれない。
ご褒美ビール・・・何だか最近完全にはまってしまっている。

山頂の平たい岩に腰掛けて足を伸ばして見るとくすぐったいような筋肉の疲労を感じる。
それにしてもビール500ml、ワイン720ml、単純計算で合計重量1220g。
自分のアホさが嬉しいてっぺんでのご褒美ビールだった。

少し早い夏は傾むき始めた太陽のオレンジ色を急ぎ足で今日を明日へと誘う。
動かない景色は風の中で黙り込む。

広い草原。その山頂にたってグルリと周りを眺めてみる。
八ヶ岳、北アルプス、南アルプス、中央アルプス、どの山々も薄っすらと霞んで昼間の勢いもぼやけて見える。
広い空間にポツンと一人、でもそれは一人取り残される感じではなく、どこかぼんやりと自然に溶け込んでいることを感じさせる時間の流れだった。


テントを張るのも気持ち良いてっぺんだ。 三峰山頂からは今日歩いた車山からの道程が一望出来た。

諏訪の夜景を楽しみにしていたのにいつの間にか眠ってしまった。

眼が覚めて時計を見たら夜中の11時。
このまま眠ってしまう前に夜景を見よう!星を眺めよう!と思ったのに・・・
砂時計みたいに確実に睡魔が積もっていく。

次に眼が覚めたのはアラームが鳴った午前3時だった。

どかどか草原トレイルをゆく 2 続く
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