三原山

行程 (着/発)(、===:バス、---:徒歩、***:船)

◆9月14日
浜松町・竹芝桟橋(23:00) *** 岡田港(5:30/5:40) === 三原山温泉(6:00/6:15) --- 三原山頂口7:00/7:15) --- 噴火口(8:00/8:10) --- 休憩所(8:20/8:40) --- 剣ヶ峰(9:00/9:15) --- 裏砂漠・鳥居(9:45:9:55) --- 櫛形山(11:25/11:50) --- 三原山温泉(12:40/13:37) === 岡田港(14:05/14:20) *** 浜松町・竹芝桟橋(18:05)

山日記

「怖いもの知らずとはこいつらのことだな!」
乗船を待つ列に並んでいると僕の前に並んでいる若者二人が訳のわからないラップを歌いながら踊り始めた。僕はここに来る途中でチャンポンを食べたので気合十分、おまけにビールも飲んだので「来るなら来なさい!」状態、そしてドカドカ登山靴を履いているのでやたら凶暴になっている。そんな僕の目の前でこともあろうかアホな踊りを始めやがった。周りに迷惑かけたらこの靴で蹴飛ばすけんね!。。。と三角目になって鼻息を前方斜め30度で噴射していると一人が「あれっ?切符が無い!」と急に慌てだした。「でぇーから言わんこっちゃない。ばかちんがぁー!」
でもこんなんで熱くなっている僕の方こそ久しぶりの船旅で興奮しているのである。周りの乗客を見てみると1/3がでかいクーラーボックスを抱えた釣り人、1/3がまだ夏を追いかけているやたらウキウキ若者集団、そして残りが島の住人らしき人やその他モロモロの人でごった返している。でもこんなに人が居るのにザックを背負い、登山靴を履き、むさくるしい格好をしているのはって言うと。。。僕一人だけである。完全に浮いてしまっているような感じは否めない。

乗船開始のアナウンスを合図に人々の列が進んでいった。まるで飛行機に乗る時のような通路を渡って乗船するのでこれだけでいやおうなしに興奮されられる仕組みになっている。切符にある2等席和室の自分の座席番号を探すとそこは和室と言っても畳が敷いてあるわけでもなく、ただのカーペットの船室だった。番号順に床にガムテープで1畳程を囲ってあり、枕がポツンと一つ置いてある。
出港合図のドラが鳴ったのでザックを降ろすとデッキに出てみた。船が段々と岸を離れて行く、流石に紙テープは無いけれど水面に映ったネオンのきらびやかな光を見ていると「えーど、えーど!」とそこには夜のしじまに揺れる哀愁しかないのだ。なんだか今から山登りに出かけるような感じは全くしない。普段見慣れている街の灯りもこうやって見ると随分違って見える。きらびやかなネオンもやがて船が羽田空港の合図灯を過ぎると急に寂しくなり海は静けさを取り戻した。


三原山温泉ホテルから見た三原山
船室に戻ろうとしてデッキの端を見るとそこには毛布に包まった寝ている何人もの姿があった。更に階段を降りて行くと踊り場や通路にも大勢の人が寝ていた。どうやら2等席には"席なし"という切符があり、その切符の人達は席が無いのでどこでも空いている所に自由勝手に寝るらしい。なんだか混雑時の山小屋を連想させるワイルドな光景である。僕が切符を買ったのは乗船する30分前である。そう言えば切符を買うとき、売り場の人が「2等席和室が取れました」と言っていたのを思い出した。と言うことは僕が買う時にたまたまキャンセルされた切符があったに違いない。普通だったら今ごろはこの人達と一緒に通路に転がっていたんだな。
翌朝、周りの人たちの話し声で目が覚める。と直ぐに大島に到着するというアナウンスが船内に鳴り響いた。ところがアナウンスを聞くと入港地は元町港ではなく、岡田港だと言うことだった。計画では元町港から三原山へはいわゆる”0メートルから山頂を目差すワッセワッセ汗かき登山”を考えていたので「こりゃ、まいったな!」と思いつつ、下船してとりあえず待合室まで行ってみた。
すると案内の人が「元町行きのバスはまもなく発車します!」と叫んでいた。バスの時刻表には載っていないが船を降りた人をそれぞれの目的地まで運ぶバスが運行されているようだ。
「やった、元町までバスがあった!」と思ったが待てよ、隣を見ると三原山温泉行きのバスがある。「ここから元町まで水平移動するよりも温泉行きに乗って上昇移動した方が三原山に登るのは楽だよな!でもそれだと0メートルからの登頂というもくろみは達成できない」とグズグズ考えていたが直ぐにバスが発車するというので思わず楽な方の三原山温泉行きバスに飛び乗ってしまった。

剣ヶ峰山頂 圧倒的な眺望に眠気も一気に消し飛ぶ
三原山温泉ホテルでバスを降り、三原山頂口まで車道を歩く。歩いていると茂みから「ザザーッ!」と音がするので目を凝らしてみると猿だったり、リスだったり、キジだったりと色んな動物が次から次に飛び出すまさに動物王国状態なのだ。だけど道路標識には東京都と書いてあるので自然と都会の背中合わせが何だか不思議な感じがする。
途中の展望台から登った事のある富士山、天城山が見えた。思ったよりも近くに見えるので思わず遥かなるてっぺんに向って「おーぃ!僕は今、ここにいるよー!」って呼び掛けてしまうのだ。

剣ヶ峰から見た噴火口 火口の周りのオンタデがオシャレ!
山頂口のお土産屋はまだ閉まっていて人気は無い。パンを一つ食べると山頂に向かって歩き出した。
道が舗装されていると傾斜が緩やかだと錯覚してしまい、ついつい歩く速度が早くなってしまう。気が付いたら心臓バッコン、息ハーハー状態になっていた。おまけに太陽の光に直接照らされて顔がジリジリと焼けているようである。でもまあ、30分で山頂に到着。
噴火口を見るために火口コースへ向うが歩いていると何だかものすごく暑い。頭がズキズキと痛む。もしかしてこんな低い山で熱中症?情けないがとにかく日陰が欲しい。火口近くまで歩いていったが火口は剣ヶ峰の日陰になっていて良く見えない。
ヘロヘロになって引き返し山頂で唯一の日陰である休憩所になだれ込んだ。二階に上がってコンクリートの床に座り込んでいると通り抜ける風が気持ち良かった。しばらく風に吹かれていると気分が少し楽になった。
休憩所からお鉢めぐりコースを右回りに歩き出すがやっぱり頭が痛い。目がショボショボして日光が眩しい。高度が高くなるにつれて周りの景色が見えて来た。
「病気は気から」という例えはこの場合少し違っているけれど「カァーッ!」思わず歓声を上げた瞬間に頭痛や目のショボショボは消し飛んでしまった。眼下に裏砂漠の広い平原、そしてその向こうに青く光る圧倒的に広大な海、火口の迫力にも圧倒されそうである。わずか764メートルの三原山に壮大な景色を期待していたと言えば正直に言って嘘になる。がしかし目の前の眺望は予想以上の出来栄えだった。
この山は標高は低いが根っこの部分ではやっぱり山としての威厳を持ち、きっちりと勝負を挑んでくるのだ。「このへんで根性見せんと山になめられてしまう!」と肢体にガッツを入れるのだった。

表砂漠と裏砂漠の分岐点にある鳥居 いよいよここから裏砂漠に突入するのだ!
剣ヶ峰山頂から3分も歩かないうちに前方に伊豆七島の島々がほぼ一直線に並んで見えてきた。思ったよりもずっと近い。山登りを始めた頃、北アルプス薬師岳山頂で周り360度が全て山、ずっと遠くまで目を凝らしても見延々とした山並みが続いている光景に出会った。その景色を見た時、「こんな山ばっかりの場所があるんだ!日本はデカイ、地球はデカイ!」と思った。今、こうしてここから360度の水平線、そしてその中に浮かんでいる伊豆七島の島々を眺めているとあの時のように「日本はデカイ、地球はデカイ!」と少し青臭い感情が再び沸き起こった。
そして「次はあの島々の山に登ってみよう!」と心のスケジュール帳にしっかり書き込まんでしまうのだ。

オンタデの薄ピンクの花(実?) 一面に生息しているオンタデが三原山を優しい表情に見せている
火口を3/4周った地点で裏砂漠へ進むためにお鉢めぐりルートから降りる。降下点には標示板の跡らしき柱が数本立っているだけだった。本当は表砂漠へむかう登山道を降りて行くのだけれど西の方角を見ると鳥居があるのでそこを目指してドンドンと降って行った。
鳥居からは車のワダチが残る道を歩いて裏砂漠へ突進。ところが道は地図にある裏砂漠ルートから段々外れて一直線に白石山へ向かっているのでどうもおかしい事に気がついた。どうやらこのワダチはあちこちに見られる何かの測定器を設置した時のものらしい。地面は固い砂地なので余り歩かれていない裏砂漠ルートは廃道化してしまっているようだ。
ワダチを歩くのを止めてコンパスの指す北を向けて砂漠の中に突入した。道は無いのだが見晴らしが良く、三原山に沿うように歩いていれば別に迷うことは考えられないので全然不安は無い。
薄く降り積もった新雪の上をワッセワッセと歩く雪ワッセも楽しいが砂を蹴散らしザクザクと歩く砂ワッセも楽しい!。もちろん砂の上に健気に生息している植物を踏まないように気をつけるのは忘れない。オンタデの薄ピンクの花が見えるとドカドカと駆けより、はたまた面白い形の岩が合ったりするとドカドカと駆けより、あっちこっちをドカドカ散策しながら進んで行った。振り返ると褐色の砂礫に点々と足跡が残っている。なんだかでっかいキャンバスにコリャまたでっかい絵を描いている気分だ。はてしなく広がる空は青く、海からの風もヒンヤリと心地よい。聞こえるのは靴が砂を噛む音だけ。
三原山は標高も低く、百名山はおろか三百名山にも入っていない山である。「でもこの山は良い。こんな山登りも"あり"だ!」と心が喜んでいる。
こんな裏砂漠ルートなんか歩いているのは自分だけだろう!と思っていたら櫛形山の麓に来た時に前から来た6人の中高年パーティーとすれ違った。すれ違う時、と言っても50メートルくらいの距離はあったのだが、しばらくして振り返って見るとそのパーティーの姿が見えない。「あれっ!どこに行ったんだろう?」と探してみて驚いた。そのパーティーは一直線に剣ヶ峰に向かって登頂中であった。剣ヶ峰の登山道両側にはロープが張られて「岩がもろく危険ですので立ち入らないで下さい」と立て札が立っていた。おまけに良く目を凝らしてみると薄っすらと蒸気が立ち上っている箇所さえあった。そんな危険な所を登って大丈夫だろうか?危険知らずなのか、命知らずなのか分からないが危なかしくって見ていられない。
三原山をバックに”きもちん良か!”ポーズ
前方に温泉ホテルが見えて来た。予定よりもずい分早く来てしまった。こんなことだったらやっぱり元町港からの0メートル登山をやれば良かったなぁ。時間が嬉しく悔しいほど余っていたので櫛形山へ登ってみることにした。
山頂からは展望はまさしく圧巻!はてしない空と海の狭間に裏砂漠の褐色の平原が広がり、その末端に向って沖から白い波が次々に押し寄せてくる。三原山や白石山はもはやちっぽけな隆起に過ぎないのだ。ここでは風の行方まで見つけられそうな気さえしてくる。

三原山と櫛形山の間を流れる?砂の河
ザックから最後のパンを取り出して食べていると「ずごぉーっ!」てすごい音を出しながら4WDの車が登ってきた。この山は木も草も全くないなだらかな砂礫の山なので車で直接山頂まで登って来れるのだ。運転しているのは民宿か何かの人らしく、車を降りた観光客らしい4人家族は僕の隣で記念の写真を撮ったりビデオを回し始めた。今更ながら伊豆大島、そして三原山は観光地なのだ!と言う思いがどこか物悲しくさせる。この家族から見ると観光地である三原山で一人焼きそばパンを食べているって僕って、もしかしたら暗い性格?に見られているかもしれない。せめて焼きそばパンではなくメロンパンにしておくんだった。
でも焼きそばパンは両端から食べていって最後に紅しょうがも丸ごと口に放り込むと美味いんだよな!などと考えていると家族は車に乗って白石山方向へ行ってしまった。ペットボトルのスポーツドリンクをゴクリと飲み干し大きく息を吐いた。
櫛形山を降りて溶岩帯を突っ切ると裏砂漠ハイキングコースにぶつかった。この道は溶岩帯の中を温泉ホテルへ向う道でゴツゴツとした溶岩の中から見る三原山は砂漠から見た時とはまた別の荒涼とした表情だ。
ボケッと立っていると右の膝のあたりがムズムズしていることに気が付いた。膝に目をやるとそこには何か黒いヒモ状のものが。。。良く見ると10センチほどのムカデがへばり付いていた。全身の毛が逆立つとはこのことだ。手でムカデを払い退けると1メートル後ろに飛び退いた。それでも膝のモゾモゾした感じが治まらずにラジオメーターみたいに理由もなくその場でクルクルと5回半回ってしまった。
今回の山行記こそは片岡義男風に進行する予定だったのに、何でいつもこうなんだ!

櫛形山山頂からの展望 左が白石山、右が三原山 天空のキャンバスにしっかりと足跡を刻むのだ
温泉ホテルで出港地へ向かうバスに乗る。座席に座った途端に眠ってしまった。岡田港に到着すると出港時間まで15分しかなく慌てて切符を買い船に乗った。2等和室席の自分の場所にザックを降ろし、大の字に寝転がった途端にまた眠ってしまった。

目が覚めると4時を回っていた。自販機でビールを買ってデッキに出てみる。乗客のほとんどは客室で眠っているらしくデッキの人影は少ない。一番上のデッキは展望は良いが日を遮るものが無く暑いのでその下のデッキに行った。
船尾付近のテーブルに座ってビールのプルリングを引き開けると「プシュッ」と音がしてその音を聞いただけで「良いよなー、船上でのビールって良いよなー!」って気分になる
”下山後マッタリ感+デッキ+潮風+ビール=良か良か状態”の図式の完成だ。

房総半島を横に見て、初島を過ぎると遠くに都心の建造物が見えてきた。さっきまでデッキの隅にシートを敷いて宴会で盛り上がっていたおっちゃんおばちゃんもいつの間にかスヤスヤと昼寝している。
隣のテーブルの外人さんは夕日で赤く染まった景色をデッサンしている。デジカメで撮影していたカップルも今は海に映った夕日の帯を黙って眺めている、船尾ではスクリューで跳ね上げられた魚を狙っているのか?カモメが白く泡立つ水流に果敢にダイブを繰り返している。

風に吹かれてゆったりとした時間が過ぎていく。僕は3本目のビールのリングを引いた。
わずか764メートルの天空の砂丘。こんな山登りも僕の中では全部あり!!!。

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