御正体山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆12月10日
大月 (7:23) +++ 富士吉田 (8:07/8:30) === 平野 (9:07/9:10) ---石割神社 (10:05/10:15) --- 石割山 (10:30/11:00) --- 奥ノ岳 (11:55) --- 中ノ岳 (12:20/12:30) --- 前ノ岳 (13:00)--- 御正体山 (13:30/13:50) --- 御正体入口(細野) (15:30) --- 谷村町駅 (16:20/16:30) +++ 大月(16:49/16:50) +++ 高尾 (17:32)
山日記

頭上は白い雲に覆われていた。
所々雲が薄くなり青空が透けて見えている箇所もあるけれどあまり愉快な天気とは言えない。
天気予報では「曇りのち晴れ、晴れるのは午後からになるでしょう」と言っていた。登山日和とは言えないないけれど、最近、雑用に追われて山へ行けなかったので、まーっ、雨が降らないだけでも良しとしよう!とスキマを埋めるために今日はほとんど勢いだけで来てしまったようなもんだ。


石段を登り、避難小屋を過ぎると目の前に石割山が。
登山道の横には鹿に食べられるのを防止するための筒が墓標みたいに並んでいる。

平野から山伏峠へ向かって舗装道路を歩いていくと地図にある赤い鳥居が見えてきた。これでやっと車道ともお別れ、いよいよ山だな!・・・どこか懐かしささえ覚える。

ふーっ、こりゃ300段以上はあるな!
鳥居をくぐり抜けると見上げるほど長い石段だ。どうやらこの道は石割神社の参道らしい。いきなりのっけからこれかよぉ!・・・とここでショックを受けそうだけれど、この日の僕は・・・久しぶりの山登りで気力体力は充実、もうこれくらいの石段なんて「かかって来なさい!」とかなり余裕シャクシャクで眺めることが出来た。

ゆっくりと・・・噛みしめながら?という表現は可笑しいけれど、靴の裏に久しぶりの山を感じながらと石段を登って行く。
ゆっくり登ったので息は切れなかったけど、石段を登りきった途端に額からボタボタと大粒の汗が滴り落ちてきた。汗も久しぶりの出番を待ってたんじゃないか?と思わせるほどの汗。
雲ってはいるけど12月としては暖かい日、あまりに暑いのでズボンの下に履いていたタイツを脱ぐ事にした。周りを見回して誰もいないのを確認し、靴を脱ぎ、一気にズボンを脱ぎ、タイツを脱ぎ捨てた。ここは参道では?ここでブリーフ一枚になってはバチが当たるかもしれんな!どーか神様許してください!
しかし上半身はきっちりと服を着て、下半身がブリーフ一枚というのはどうもバランスが悪いな!かえってブリーフ一枚姿の方がアブナイ奴に見えるのではないか?こんな姿で居る時に誰か登って来ないかハラハラしてしまった。まったく僕は参道で何をやっているんだか・・・


石割神社の御神木 いきなりデッカイ木が目の前に
ここから道はいよいよ登山道らしくなった。こうやって山を歩いていると、土の感触に心が落ち着く。普段の生活じゃ土の上を歩くことってまず無いからな!
もう4ヶ月も前になる北アルプスの縦走、あの山行は自分にとってかなり満足いくものだった。あまりに満足してしまったので「これはもう今年はこれで山に行けなくても心がザワザワと騒ぐこともないのでは?」とさえ思った。もし満足度を計るメスシリンダーのようなものが有ったとしたら上限の目盛りを超えてあふれてしまっていたことだろう。
・・・しかし貪欲な心は乾くのが早すぎる。
ネットで色んな人の山行レポを見ていると北アルプスでの感動もいつの間にか過去に置き去りにされてしまって、新たな感動を探し触れてみたくなってしまう。
(・・・などと山への深い想いをとつとつと語るのだけどブリーフ一枚の後なのでどうも説得力が無いんだよな!)

石段から少し登ると平野温泉からの合流点で避難小屋が立っていた。避難小屋と言っても屋根とベンチのみの休憩所といった佇まいだ。
この辺りはまだ標高は低いけど展望が良く、平尾山や大平山を見ながらのんびりと登っていく。北や西は青空も見えるけれど南、東側は真っ白い雲にふわりと覆われていて高指山方面は見えない。

石割神社に到着。まずは大木が目に付く。
立て札に書かれていた内容によるとこの桂の大木は御神木とされ、干ばつの際に雨乞いの儀式が行なわれたのこと、神木の後ろには水の湧き出る石があり百数十キロに及ぶ相模川の源流であると書かれているのだけれど、でも今は水は涸れているのでどーも源流という感じはしないのだった。


横綱のある岩の裏側が割れている。
あと3キロ痩せなきゃ通れそうに無い。

大木の奥には神社・・・とまずその社よりも横の巨岩がどえれぇ迫力で目に飛び込んで来た。この横綱をしめた岩が石割山の名前の由来になった岩なのだろう。

神社に拝礼しようと・・・あれっ、賽銭箱はどこ?見ると「お賽銭はなるべく奥へ投げ入れて下さい」の札がある。格子戸から中を覗いて見たが暗くて賽銭箱がどこにあるのか分からない。適当に投げ入れてしまったけれど、はたして良かったのだろうか?・・・とにかく鈴をガランガランと鳴らして安全登山を祈願した。社のすぐ脇にある小道を登って大岩へ行って見る。

この大岩の割れ目を通り抜けると幸運に恵まれるということだけど・・・んーん、思ったより・せ・ま・いじゃないの!これは肥満度測定器かぁ?でなきゃメタボリック症候群判定器か?
僕の前を小学3年生くらいの男の子が横向きになって通り抜けているのだけれどこんな小さな子供さえ完全に背中やお腹をスリスリしているではないの!
んーん、これって子供や女性は大丈夫だろうけれど男はどうだろうか?途中で岩に挟まってしまったら前に後ろにも進めなくなってしまってヒジョーにカッコ悪いではないか!シャレにならんぞ!幸せになるどころか最悪だぞ!などとビビッてしまって情けないことに・・・幸せになり損ねてしまったのだった。あーっ、今になって後悔!!!
神社から道はいよいよ登山道らしくなった・・・おーし、いいぞいいぞ!と思ったらあっけないほど直ぐに石割山山頂へ着いてしまった。


石割山山頂。雲の合間に少しだけ富士山が見えていた。


かえってこれくらい雲が暴れまくってくれた方が面白い。

おーっ!思わず歓声、そこには諦めていた富士山の姿!
ここまで登って来る間は常に頭の上には白い雲が覆いかぶさっていたので山頂からの眺望は諦めていたけれど、こうして眺めてみると富士山から西の方は雲は多いものの結構晴れているのだった。
そしてもうひとつのご褒美があった。御坂山塊の向こう側には雪で真っ白な南アルプスが一列に並んでいる姿がきっぱりと見えているのだ。今年は暖冬なので南アルプスでの積雪は例年よりずっと少ないと思っていたけれどちゃんと雪化粧しているのだ。それにだっ、その姿が、空気が澄んでいるためなのか?距離は遠いのだけれどきっぱりと見えているのだ。
後から次々と登って来る人達も南アルプスのキッパリ度に歓声を上げていた。


御坂山塊の向こう側にスッコンと南アルプスの姿 登山者の皆さんから思わず歓声が上がる。山名は分かりますね!

御正体山に登る場合の登山ルートは、車利用の場合は細野からのピストン、バス利用の場合は細野までのバスの運行本数が少ないので細野から登って縦走し運行本数の多い平野側へ降りるのが一般的らしい。僕も最初は細野から平野へのルートを計画していたんだけれど、それだと石割山へ着くのが午後になってしまい、逆光のため、せっかくの富士山の眺望が期待できないのは勿体無いと思った。
ということで最初の計画の逆ルートを歩くことにしたのだ。当然、細野から駅まではバスが無いので車道を歩かなければいけなくなるのだけれど・・・これも富士山を眺めるため、しゃーないな!利益とリスクはいつも正比例なのだ!
まぁー、快晴とはいかなかったけれど、どーにかこーにか富士山が眺められたので元本割れは回避する事が出来た。(なんのこっちゃ?いかんこんなことでは。山登りは私利私欲、決して打算的な考えはいかんのだ!)


奥ノ岳からの御正体山

送電鉄塔からの御正体山


送電鉄塔からの杓子山

御坂山塊の方から富士山に向かって丸い雲が一列になって流れて来ていた。雲と雲の間は空いているので、今、富士山を被い隠してしまっている雲が去って次の雲が流れて来るまでにバッチリと山頂を拝めるに違いない!ブフフとあやしい笑みを浮かべながら待っていた。
だけれど一列に連なっている雲は富士山に近づくにつれてなぜだか間隔が狭くなってしまって、それでいくら待っても次から次と山頂は雲に覆われてしまって・・・30分山頂で粘ったけれど、もう限界だっ!
これ以上待っていると暗くなるまえに下山できなくなるので悔しいけれど、これで諦めて御正体山へ向かわなければいけない。.


中ノ岳はベンチがあって広いけれど展望は無いのだった。

石割山から奥ノ岳までは小さなピークを上り下りする尾根道だった。振り返ると石割山の奥にどっしりと富士山が見え、その構図も素晴らしく、まったく雲が無かったら・・・と舌打ちしてしまう。
登山道の展望はイマイチだったけれど道に積もった枯葉をカサカサと鳴らしながら歩くのもまんざら悪くはない。
J-Waveにチューニングを合わせると”Fields of gold”が流れてきて、んーん、曲の感じも、そしてStingのハスキー声もこんな山歩きのBGMにはあまりにもお似合いなのだ。
ただ登山道からの景観は・・・葉をすっかり落としてしまった木々の間から周りの山々がほんのちょっぴり望めるくらいで展望は良くなかった。

ガイドブックにあるように送電鉄塔の周りの木々は伐採されていて、ここだけスッポリと展望が開けていた。ここからは御正体山や杓子山の展望が良く、でぇ富士山もバッチリ見えるはずなんだけれど、残念!どーも石割山の上に雲があって富士山は半分くらいしか見えなかった。
送電鉄塔からはいきなりの急登、さっきまでのほのぼの路線を一気に離脱し、汗ぼたぼた路線へ突入。
急登だけれど距離が短いのでそんなには疲れなかったけれど中ノ岳に着いてみると背中はうっすらと汗ばんでいた。


あーあっ!中ノ岳から前ノ岳へ向かっていると、とうとうガスって何も見えなくなってしまった。

中ノ岳から前ノ岳へは再び緩やかな道になって、こんな道は良いな!やっぱ低い山の魅力はこんな道にあるんだな!としんみり思う。

ラジオの天気予報では東京は今、快晴だと言っている。やっぱり天気予報が当たって雲りのち晴れになったようだ。・・・しかしだ、こっちは都心と違って益々雲が多くなってんじゃないの?いつの間にか周りは真っ白!しっかりガスの中に突入しているじゃないの!

何にも見えやない。
前ノ岳から今日一番の急勾配になった。登山道が律儀と言うか筋が通っていると言うか、とにかく急斜面を一直線で登っていく。巻いたり、ジグザグしたり容赦は一切無いのだ。ピンと筋が通った硬派なのだ。これで木枯らしが吹き、小雪が舞ったらまさしく任侠映画の世界なのだ!
こんな山は低いけれど舐めてかかるとえらい目に会うな!情けないけれど大腿二頭筋がプルプルし始めた。


御正体山山頂の少し前辺りはしっとりとした森が広がっている。

木々の葉はすっかり落ちているのに苔の緑は青々と生きていた。

静かな時間の流れの中にしっかりと森は息づいていた。
プルプルに耐え、ひたすら登っていると前方の木々の間がしだいに明るくなり始めた。どうやら山頂も近いみたいだ。後ろを振り向くと雲の上に出たらしく下の方はガスって木々が白く霞んでいる。
もう直ぐだ!と予感はするものの、勾配が段々とゆるくなっていくだけで中々山頂へは着かなかった。何だかただっぴろい森の中を歩いている。
森全体が昨日までの雨でしっとりとしていて呼吸する度に鼻の奥がヒンヤリしてくる。ぶなの大木がポツポツと点在していて、おやっ?杓子山、石割山、三つ峠とはどこか雰囲気が違っているぞ!思わずぐるりと視線を動かしたくなる、そんな感じの森が広がっていた。

あらあら・・・こんなてっぺんなのかぁ!
森を抜けたてっぺんは明るかった。ただ周りをぐるりと木々に取り囲まれているので展望は無いけど。誰もいない山頂の真ん中にまだ新しいテーブルがポツンとあって、決してドラマチックでもエキセントリックでないけれどどこか柔らかな雰囲気、今流行の言葉で言うとロハスな、自然でシンプルなてっぺんだった。
まぁー、展望が無いのは残念だけれど、どこもかしこも展望が良い山ばかりじゃつまらない。中にはこんな山があっても良いじゃないか?と思う。

小さな石祠で安全登山のお礼を拝礼するとテーブルでサンドイッチ、それにポットのコーヒーでのんびりとコーヒータイム、空に雲は多いけれど風が無くて暖かな時間。
御正体山かぁ・・・“正体”と言うと時代劇では「正体見たぞ、越後屋!」だったり、ヒーロー物では「正体を現せ!地獄博士!」など悪者に対して使われることが多く、そんなダーティーな名前の山なので「はたしてどんな山なのだろうか?」戦々恐々としていたけれどその正体はグッと柔かな山だったのだ。

2004年の10月に皇太子殿下が登山されたという札が立っていて、もしかしたらこの山は何か歴史ある山なのかもしれんな!何で事前に調べない?失敗したなぁ!
小説を読む時には決まって解説を先に読んでしまう僕なのに山に関しては登山前に歴史や名前の由来なんかを調べることはほとんど無い。登る時にそんな知識をどこか頭の隅っこに置いておけば(頭でっかちも困るけれど)より充実した山登りになるだろう。
いかんな、いかんよ!山登りは体と同時に頭も鍛えなきゃな!


御正体山山頂は展望は無いけれど穏やかさに満ち溢れていた。しかし立ちションしているようなポーズは失敗したな!

予定より早く山頂に着いたのでゆっくり休憩することが出来た。だけどあまりのんびりもしていられない。暗くなる前に登山口(細野)まで下りなきゃいけない。

細野へ降る登山道もまた急勾配、こりゃ筋肉痛になること間違いなしだな!と舌打ちしたくなる。
1時間ほど道を降って行くと舗装された道路に出た。やっと登山道も終わりか・・・と思ったらこの先も急勾配で登山口の細野まで急勾配から解放される事はなかった。大腿四頭筋までがプルプルし始めた。

細野から富士急線の谷村駅まで歩かなきゃいけない。
地図でおよそ5キロ弱の距離だろうか?大した距離ではないけれどここを歩くバカは僕くらいだろな!と思う。でもまぁーこんな奴が一人くらいいても良いじゃないか!とも思う。
予定では細野に降りてくるのが4時半だったので駅までへッ電を点けての歩行を覚悟していたが、1時間も早く着いたのでどうやらへっ電のお世話にならずに済みそうだ。
御正体山を振り返ると実に堂々した山なのだった。あの稜線を歩いたんだろうな!ここから見てもやっぱ急勾配だな!
木々が寄せ合って展望が無いてっぺんだったな!でもそんな山が一つぐらいあっても良いじゃないか!
・・・おうよ、駅まで歩くこんなバカが一人ぐらい居ても良いじぁないか!
久しぶりの山登り、けっ、こんなんじゃまだまだ風が足りんな!と思った。
駅まで1時間・・・行くぞぉー!


自宅に帰ってキリンの富士山麓を飲む。グラスにウイスキーを注ぐと、おーっ、そこには金色の富士山がぁ!
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