那須岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆10月9日
上野 (5:10) +++ 宇都宮 (6:52/6:57) +++ 黒磯 (7:48/8:10) === ロープウェイ山麓駅 (9:25/9:30) --- 峰ノ茶屋 (10:00/10:05) --- 牛ヶ首 (10:25) --- 南月山 (11:00/11:20) --- 牛ヶ首 (11:35) --- 姥ヶ平 (12:00/12:50)--- 牛ヶ首 (13:10) --- 峰ノ茶屋 (13:20/13:30) --- 朝日岳 (14:00/14:10) --- 熊見曽根 (14:20/14:45) --- 峰ノ茶屋 (16:10) --- 山麓駅 (16:50/16:55) === 黒磯(17:20/17:24) +++ 新宿 (19:50)
山日記

一杯のコーヒーから夢の花咲くこともある・・・

一杯のコーヒーじゃ無いけれど、たった一枚の写真に魅せられて山を目指すことだってある。
写真の中の紅葉、いつかはその色を自分の目できっちりと見たい!とため息えをついてしまう事ってある。
北海道は大雪山、東北なら栗駒山、信州だったらやっぱり涸沢や室堂・・・そして今日目指すのが関東では一番だと思う那須岳だ。


黒磯駅で電車を降りるとバラバラと改札口へ急ぐ登山者の姿が多かった。
やっぱり紅葉の季節は登山者も多いなぁ、宇都宮駅でも日光に向かうらしいハイカーの姿が多かったし、こりゃ僕も急がないとバスに座れないかもな!
・・・といつもの僕だったらここでダッシュして周りのおとうさんやおかあさんをぶっちぎってしまうのだけれど今日は違う。今日の僕は心の広い寛大な人間なのだ!なにせ前回、北アルプスに登って2ヶ月経っているので体力気力は充実、バスで立つくらい何とも思わないくらい心に余裕があるのだ。
と言うことでその前にまずしっかり腹ごしらえだ。

バス停へいそいそと向かうハイカーを尻目に駅の立ち食いそば屋に入る。
この立ちそば屋のうどんは美味いので黒磯に来るたびに利用しているのだ。
天ぷらうどんをすすっているとバックには僕の好きなケニーGの曲が流れているじゃないか!それも連続して・・・んーんいいぞ!こんな始まりは理屈はいらん、ただうれしい!何だかこれだけで良い日になりそうな、そんな予感がする。
しかし、そば屋とケニーGの曲・・・んーん全然合わんなー、不釣合いだなー、何か悲しいなー!
ソプラノサックスの音が湯気の間に薄ら寂しく漂っているのだった。

那須岳ロープウェイ行きのバス停に行ってみるとさすがにバスは満員状態でこれは1時間の立ちっぱなしもしょうがないな!と思う。
登山口までは出来れば座って行きたい、山に登る前にその貴重な体力を多少たりとも消費してしまうのはあまりにも勿体ない!と登山者だったら誰もがそう思うだろう・・・しかし今日の僕はムフッと「かかってこんかい!たかが一時間、立っていることなんかどぉーってことないのだ!」と妙に粋がってしまう。

バスが殺生石を過ぎると車窓の外に那須の山々が姿を見せ始めた。ちょうど中腹辺りが紅葉の真っ只中で早くあそこを歩きたい!という思いで一杯になってしまう。
ところがロープウェイ山麓駅が300メートルほど上に見え始めた地点から大渋滞になってしまいバスが進んでは止まるを繰り返しのノロノロ運転になってしまった。
これはまったく心情に悪いのである。終点の山麓駅がもうすぐ目の前に見えているのに、そこに中々たどり着けないこの焦燥感!イライラ!本当に体に悪いのである。
原因は路肩駐車だ!カーブだろうが、どこだろうがお構いなく、それも道の両端にぎっしりと車が停まってるため車体が長いバスはカーブを曲がれないでいるのだった。
まったく観光客や登山者の中にはバーローがいるな!路肩駐車したらしたらこうなるって分からんのかな?この違反駐車の光景にバスの中ではヤジや罵声が飛び交っている。
ほんとに「わしら自分のことしか考えないけんね!」の人が多すぎる!中々近づいて来ないない風景にかなりイライラした。

僕もせっかちな性格だけど、世の中にはもっとせっかちな人がいる。
進まないバスに業を煮やした数人がとうとうバスを降りて歩き出してしまった。
大丸温泉からは車道と並行または横切るように登山道があるのでバスの周りには路肩に駐車した車から降りた人、バスから降りた人、沢山のハイカーがわっさわっさと歩いているのだった。

バスはノロノロ走り、ようやくロープウェイ駅まであと30メートルまで迫った。
ところがここでバスは完全に動かなくなってしまった。どうやら山麓駅付近の駐車場が満車で車が立ち往生しているようだ。
しばらく待っても動き出す気配が無いのでバスの乗客のほとんどここで降りだした。せっかちな僕もとうとう辛抱できずバスを降りる事にした。

外は風が強かった。
北海道の東にある熱帯低気圧の影響がまだあるみたいだ。前を歩く女の子の長い髪が風に煽られて激しく舞踊っている。
ここでこんなに風が強いんじゃー、風の通り道になっている峰ノ茶屋ではものスゴイことになるのでは?白馬岳の遭難のニュースを聞いたためか、この強風だけで少し不安を感じてしまう。

峠ノ茶屋から山に視線を向けると、もうこの時点でスゴイことになっている。駐車場の向こう側には真っ赤に染まった鬼面山。まだ登山道を登り出してもいないのにこの紅葉はどうよ!やっぱり那須に来て良かった!とじんわり思った。
本当は7,8,9日の三連休は八幡平へ行く計画をしていた。ところが台風17号のため東北地方の天気が悪く計画は急遽中止。せめて8,9日の二日間だけでもどこか天気が良さそうな山はないかと予報を見たら北ア南部、中央ア、南アは天気が良さそうだった。だったら涸沢から穂高岳に行ってみるか?と地図を広げた。
だけど8日の天気図を見ると北海道付近にある熱帯低気圧の影響で何本もの等圧線が日本を横切っている。これではたとえ天気は良くても強風で山は大荒れになりそうな感じなので穂高へ行く計画も止めてしまって、三連休最後の日に日帰りで以前から狙っていた紅葉の那須岳へ行ってみることにしたのだった。
目の前の紅葉、もしかして正解だったかも?あとは山頂へ登ってみてどうかだな!どーか神様、とびっきりの紅葉を用意して待っていて下さい!

潅木の中を登り出してすぐに渋滞になってしまった。立ち止まるほどではないけれどいつもすぐ前を誰かが歩いている感じでせわしなく、自分のペースで登れないので疲れる。でもまー、これはお互い様だから愚痴ってもしょうがないのだ。

潅木帯を抜けると目の前にお約束の大展望が広がった。
朝日岳から鬼面山へかけての紅葉と笹の緑のコントラストが素晴らしい。鮮明な緑と赤という対極の配色にサイケデリックな感じさえする。
茶臼岳、朝日岳も見事に黄色く色付いて、こうやって強風の中で眺めていると、ノホホンと構えた山の姿に、まだ季節に取り残されてはいないな!とどこか安堵感を覚えて強風も気にならなくなってしまうから不思議だ。
ところが軽装の観光客はそうはいかないみたいだ!
突風が小さな女の子を足をよろつかせるとお父さんが慌てて体を支えたり、ほぼ四つん這い状態で登っている女性がいたり、かなり必死な思いで進軍しているのだった。


峰ノ茶屋へ向かう登山道は展望が良い。茶臼岳も塗り絵のような秋色一色。


いつ来てもしっかりと答えてくれる朝日岳は登山者の味方?今日もしっかり紅葉で答えてくれる。

峰ノ茶屋に立つ。
下であれほど風が強いのだから・・・と心配していたけれど、下と変わらない、と言ってもやっぱり強風には違いないのだけれど。
さてここからいよいよ今日の目的地である姥ヶ平へ向かうのだ。
今まで何度か那須岳には来ているけれど、姥ヶ平?全く印象が薄い、と言うか全く記憶にない場所なのだ。山に登るとどうしても視線は山頂に向いてしまうから無理ないのかも?それとも僕が単に知らなかっただけなのか?

茶臼岳をトラバースするように無限地獄へ向かうとそこはその名のとおり大量の水蒸気を空に向かって吹き上げている所なのだ。
登山道のアチコチには大型、中型のカメラを持った観光客や登山者の姿が多い。多分皆さん目的地は同じなんだな!とついつい僕の足も早くなってしまう。

道の行く先に三脚を構えた男性が数人、ずらりと構えているのが見えた。レンズの向く先を目で追うとひょうたん池が見えた。あれがそうなのか!と思うと同時に予想していたより紅葉している木が少ない、紅い割合が少ない!これが関東一(と僕が勝手に思っているだけ)の紅葉スポット?・・・もしかして今年はハズレ年、まさかもう紅葉が終ってしまった後???
などと気をもんでいたらやがて眼下にポッカリと白い露地が見えてきた。そしてその露地の周りは嘘みたいに紅く染まっているのだった。あれかぁーっ!あれが姥ヶ平だな!と思わずニタついてしまうのだった。


峰ノ茶屋からの剣ヶ峰。標高は低いのにどこか北アルプスに似ている。
写真では晴れているいる感じだけれど反対の西側は雲が多かった。

姥ヶ平への分岐点、牛ヶ首はものスゴイ強風だった。
おそらく今日一番かも知れない!来ているレインウェアがバタバタと激しく暴れる。周りの登山者を見ると風のハンガーにでも吊るされたみたいにビタッと動けなくなっている。
さあ、さあ、いよいよ行ってみますかぁ、姥ちゃんへ行っていますかぁーっ!
と・・・だけど姥ちゃんを見るとものスゴイ人、人、人!!!

ここでちょっと考えた。すぐにでも行きたいのはヤマヤマなんだけど、あんなに混雑してるんじゃーのんびり観賞というのは期待できん!それに空を見ると晴れてはいるのだけれど、西から次々と雲が流れてきて影を作っている・・・天気予報では午後の方が天気は良いと言ってたし・・・んじゃー、ここはひとまず姥ちゃんはうっちゃって南月山へ行ってみるべ!


無限地獄付近からのひょうたん池。写真では分かりづらいけれど木道には多くのハイカーの姿。

牛ヶ首はモーレツな風。三脚が立てられないのでピンクのレインウェアの人はたまたまさん。

「あのぉ〜この山”みなみがっさん”って言うのよ!」
南月山へ登るのは2度目、だけど知らなかった・・・休憩中におかあさんと話していたらこの山はは”なんげつやま”ではなく”みなみがっさん”ってことを教えてもらった。
月山(山形)の姉妹山じゃーあるまいし、この山は”なんげつやま”だろっ!って思っていたけれど、茶臼岳は昔は月山と呼ばれていたらしく、その茶臼岳の南にあるから”みなみがっさん”だそうです。何とも失礼しました。
しかし山名の訂正を聞いた時にはかなり話は進行していて、何回も間違った山名を連発してたオレって・・・
おかあさんも会話の最初に教えてくれたら良いのに!こうゆうのって結構恥ずかしい!
以前苗場山に登った時に、苗場山のことをどう勘違いしたか”いなばさん”って言い続けた男性がいて・・・その人と同じじゃん!とヘコンでしまったのでした。


南月山山頂からの茶臼岳 それにしても薄ら寂しそうな僕のポーズ 景色は最高だったのに・・・いかんな!

ところでこの南月山はノンビリ歩くのには最高の山なんだな。
僕はこの開放感が好きだな!誰が何と言おうと・・・ってここで言い張ることもないのだけれど、下には沼原池がターコイズブルーの湖面を輝かせているし、こんなに好展望なのに人は少ないし、茶臼岳もカッコ良い!
ここでユッタリと昼食にするとウロウロと茶臼岳へ引き返して行った。

またやってしまった!
日の出平付近で写真撮影に夢中になって気が付くと手に持っていたはずのレンズキャップそれに軍手が無い!
8月の雲ノ平でも撮影に熱中しすぎて手に持っていた地図を落としてしまってスイス庭園まで引き返したのだけれど、まただよぉ!
道を引き返して探したら軍手は見つかったけれどカメラのレンズキャップは見つからなかった。キャップも惜しいのだけれどそれよりもゴミを残してしまったことが気にかかる。誰か拾って使ってくれたら・・・と願うだけ。でもその可能性はないかな。

左:日の出平は紅葉した潅木で写真撮影に没頭、あれキャップ無い!

右:紅葉した広葉樹が風に揺れている。ここにも幸せな感じがあふれている。

再び牛ヶ首へ戻って来た。相変らず風が強い。
さっき来た時は西からひっきりなしに雲が飛来していたけど今は太陽がかなり頑張りを見せている。
おーし、いよいよオレの出番だな!ブフフと笑みを浮かべて、周りから見たら気持ち悪りぃー奴に見えたのかしれんけど、そんなことはお構いなく、いよいよ姥ヶ平へ降りて行くのだ。

どーん、そこには絶景が待っていた。
フ、フ、フ、フッ、いつか見た写真と同じだぁー!
あーっ自然は偉大な芸術家、どうしてこんな完璧な景色を作られたのか!
茶臼岳の噴煙も正面に見え、白煙に下には笹の緑が広がって、そしてドウダンツツジやナナカマドの紅葉。そしてそれらがこうしてズバンと南側にあって陽の光に輝いているってこと!
そしてなにより山がキッパリと勝負していること!紅葉の波に呑まれることなくキッパリと勝負しているのがただただ素晴らしい!んーん出来すぎだよ!
いつの間に風が影を連れ去ってくれた。紅色が空で踊る!この目に映る全ての物、心にじんわりとにじんでくる柔かさがあって秋山はほんとーに良いな!と思う。

悶絶しそうになりながら写真を撮りまくる。そうしたら隣でやっぱり三脚で撮影していたおとうさんが「今年はイマイチだなー、これじゃー撮る枚数が少ないなっ!」
えーっ冗談だろう?この人形焼きみたいな顔をしたおっちゃんは一体何をほざいているんだ?この目の前の絶景が目に入らんのか?・・・しかしそれとも例年はこれ以上に紅葉するのだろうか?それともこの人形焼きは目が肥えているのか?・・・んーん、だとしたら来年もこの紅葉をきっちり確認しに来なければいかんな!と決心を固めたのだった。.


どうだぁー観念しろーっ!まったくいつか見た写真と同じです。一体目の前にはいくつの色があるのだろう?

姥ヶ平の写真でこれは!と思ったシーンがもう一箇所、それはひょうたん池だ。
地図に表記が無いのでその場所が分からなかったけれど上から見たら姥ヶ平から三斗小屋へ向かう道の途中に見えたのでそっちへ向かった。
歩き出して3分、途中から分岐して木道になっていた。木道を歩いていくとやがて池の黒い湖面が姿を見せた。


ひょうたん池。これね、写真が大きいと・・・めちゃ綺麗なのだけれど、どれもこれも大きく載せてはらんないからしかたなく。


姥ヶ平から牛ヶ首へ登っていく登山者の列。
周りにはまばゆい紅葉が広がっている。

憧れの写真は水面にいわゆる逆さ茶臼岳を映した写真だった。
木道を降りて池の辺へ行こうとしていたら隣の男性が「以前はこの木道までしか来れなかったけど登山者が池の辺まで降りていってしまうものだから、歩いた所の木が枯れて道が出来てしまった・・・こうやって段々と自然は失われていくんですよ!」と話すので、とてもじゃないけれど池まで降りれなくなってしまった。
僕が行かなきゃ自然が回復するわけでもないけれど、これ以上自然にダメージを与えるのはとてもじゃないが忍びない。池に映った景色も見てみたいけれどここはグッと我慢だ!グッと!
池の辺には三脚を構えた男性と女性の姿!良い写真と引き換えに・・・でもその代償は大きいな。


牛ヶ首へ登る途中で姥ヶ平を振り返る。
そこにはまばゆいばかりの彩色の数々


峰ノ茶屋からの茶臼岳。姥ノ平の余韻がフツフツと・・・
まだだ、とにかく動き出そう!

いつだって帰る時はやってくる!
悔しいけど、どんなに素晴らしい景色もポケットに入れて持ち帰ることは出来ないから・・・
再び牛ヶ首まで登って峰ノ茶屋への道を辿る。

そして峰ノ茶屋でまたまた考えた!
はたしてあの山の向こうはどうなっているんだぁ?ざわざわとした気持ちになってしまった。
ああーっ好奇心旺盛なこの人、このまま降ってしまうには余りに勿体無いので疑問の答えを探しに朝日岳まで行ってみる事にした。


峰ノ茶屋まで戻って来た。
以前来た時には閉鎖されていた避難小屋は開放されて登山者が一杯。
風も朝よりいくぶん弱くなっていた。
さあ、まだまだ行きまっせ!

朝日岳へ向かった観光客はいないらしく(当たり前?)降りて来る人は皆しっかりとした登山靴を履いていた。この登山道はとても2000メートルの山だと思えない、危険な箇所は無いけれど見た目は3000メートル級の山に匹敵する険しさだ。
朝日岳山頂は風が強くて三脚は立てれなくて自分の姿をファインダーに納めることが出来ない。
それでも展望は良かった、特に登って来る時に見た鬼面山の紅葉が最高だった.。


朝日岳山頂から鬼面山を見ると赤色を散りばめた平原が広がっていて、そこに登山道が無いのが残念!


熊見曽根からの朝日岳。ここから見るとポコッと急斜面な山

もう時間が無くてそろそろ下山しなくていけないのだけれど・・・三本槍岳はどうなっているのか?
ここまで来たらその先を確認しないと気が治まらなくなってしまっていた。
もう一発かましてみっか!と隣の熊見曽根へ向かう。

熊見曽根からの三本槍岳は物言わぬ静かな裾野が広がっていた。
赤いのは何の植物だろう?緑の笹原に赤色が点在している。登山者の姿も少なくなって、風の中に立ってただぼーっと眺めている。目の前の広大な色彩の羅列をただ眺めた。風の音がボアボアと耳を鳴らした。


熊見曽根からの三本槍岳。
山名の三本とはどの辺りが三本なのか?は難しい疑問だけれど、そんな愚問は横に置いてただただ展望を堪能したのだ。
ここも記憶にしっかりと残しておきたいと思う、そんなシーンだ。
残念だけど、もう本当に帰らなきゃいけない。
あまりノンビリしているとバスに間に合わない。
いつの間にかあれほど強かった風がピタリと止んでいた。西の空を被っていた雲も無くなって遅まきながら空は晴れ渡っていた。

熊見曽根から峰ノ茶屋まで一気に降る。そこにはまだ数組の登山者が秋の余韻に浸っていた。
こんなことは珍しいくらいに無風な峰ノ茶屋から山麓駅へ向かってドンドンと降りて行く。

「山がさよならしてるっ!」
そばを歩いていた女の子がつぶやいた。その声に惹かれるように振り向いて見ると茶臼岳の向こうに水晶のような太陽が音も立てずに沈んでいくところだった。
紅葉をめでる山登りもとうとう終わりなんだな!とじんわり思った。
風の向こう側にある景色を追い続けた一日だったな、ひたすら狂おしいほどの紅葉が陽光にさらされていた一日だった。
そうなんだ、今日は何だか空いっぱい、風の向こう側に空いっぱいの秋を感じた一日だった。

しっかり確認したでぇー!紅葉に彩られた山は振り向く度に遠くなっていった。

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