間ノ岳、農鳥岳、広河内岳、黒河内岳

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2015年9月23日
両俣小屋 (3:10) --- 野呂川越 (4:10/4:15) --- 独標 (5:30/5:35) --- 三峰岳 (7:15/7:35) --- 間ノ岳 (8:20/8:40) --- 西農鳥岳 (11:00/11:10) --- 農鳥岳 (11:55/12:10) --- 大門沢下降点(12:50/13:10) --- 広河内岳 (13:45/13:55) --- 大籠岳(下) (15:00)

山日記 (懐かしのむふふ筋肉痛 編)

今日の分:1500ml、夕食:1200ml、朝食:800ml、明日の分:1000ml、
=合計:4500ml。

今日一番の問題は水の確保だ。
今夜は大籠岳付近にテントを張る予定だからそこまで水をボッカしなくてはいけない。
途中にある農鳥小屋で水を確保しても良いのだが水場まで往復30分掛かる。
コースタイムを計算するとその30分の余裕が算出出来ないので両俣小屋から水4.5Lを持って行くことにした。

水をザックに押し込む。重い!多分ザックの重さは22kg位だと思う。
僕はザックが20kgを越えると急に疲労の度合いが大きくなるので大籠岳までの道程を考えると気が重くなった。

せめてウ○コさえ出てくれたら少しは体重が減るのではないかと小っちゃい事を考えた。
僕は山に来ると極度の便秘になってしまうのでザックが軽くなっていくに従って逆に体重は増えているのでは?と考えてしまう。
便秘は山の環境には優しいかもしれないけれど。

朝3時10分、もう朝食の準備を始めていた小屋番さん(柴田理恵)に挨拶して出発した。
ヘッドライトはBダイヤモンドのギズモでは頼りないのでプリムスのトレックを用意した。

昨日、野呂川越から降りてきた時は思わなかったけれどこうしてライトの光で照らし出される登山道はけっこう荒れて見える。
やっぱり光量のあるライトじゃないと判断に不安な箇所があった。

こうして一人で夜道を歩くのは何度目だろう?
昨日の仙丈ヶ岳みたいに周りに誰かいるのではなく、本当に一人で歩くのは多分4度目だと思う。
さすがに4度目になると慣れてしまって恐怖心は無くなった。
以前だったら物陰に何かが潜んでいるのでは?いきなり青白い物が視線の先をふわっと横切るのでは?などとビビリまくりながら歩いていた。
(情けないことに夜道の恐怖は動物、滑落、道迷い、などではなくオバケであった)。

「うわあぁーっ!」
思わず声が出てしまった。突き出た太い幹を掴んだらそこにいたでっかいナメクジを素手で思いっきり掴んでしまった。
あーっ気持悪い、手を洗いたいけど水は貴重だし。
やっぱり暗い所ではやたらと枝とか幹とか掴むのは危険だ。

地図のコースタイムでは1時20分になっていたけれど1時間で野呂川越へ着いた。
急いだ訳ではないけれど自然と足が速くなってしまったのかもしれない。

野呂川越から独標までは緩やかな登り道だった。
暗いので感覚が敏感になっているのかもしれない。
体の中にコンパスがあるかのように自分がちゃんと南東に向って歩いていることが実感できた。
北岳の稜線が段々と白っぽく成って来たのを視線の端っこで意識していたのかもしれない。

独標から三峰岳までがつらかった。
岩場の急な登りでデカザックを背負った体を押し上げるのが大変だった。

ただ、木々の間に見える中白峰から間ノ岳の間に広がる花崗岩の白いカールがまだ弱い光でも鮮明に発色していたのは目覚めたばかりの前頭葉をチクチクと刺激させる光景だった。


独標で樹林帯を抜けた。木々の間からまだ夜明け前の中白峰のカールが色鮮やかに覗いた。


三峰岳までの急な登り(左のピークが三峰岳)は疲れた。ただ塩見岳(真ん中)が見えてホッとさせられた。

三峰岳山頂は風が強くて寒い。あまり長居はしたくない感じだった。
山頂から眺めると周りの山も段々と影の中から浮かび上がってくる感じだ。
西側を埋め尽くす雲海の中から木曽駒ヶ岳が覗いていたので印象的だ。

標高2000mの両俣小屋から約1000m登った。
ここまで来たらあと大変な登りなのは農鳥小屋から西農鳥岳までだ。
そう考えると気分は随分楽になった。

岩陰で風を避けての休憩すると間ノ岳へ向った。


三峰岳山頂は風が強く寒かった。


三峰岳山頂からの塩見岳にはまだ陰の部分が多い。


三峰岳山頂下から仙丈ヶ岳を臨む。あそこから歩いてきたんだと思わずにはいられない光景。

間ノ岳山頂で登山者の数が急増。と言っても5,6人だけど。
僕は今まで3回、北岳に登った事があるけれど何だかまともに北岳やその周りの山をまともに見た記憶も写真も無い(もしかしたら天気が悪かったのか?)。

富士山や北岳は見る山であって登る山ではないと思っていた。
それが手を伸ばせば指先が触れてしまいそうなほど近くの絶景。
欺いていたのは僕の心?
今回は仙丈ヶ岳や北岳、塩見岳の良さを再認識させる眺望があった。


北岳から間ノ岳までピストンの人が意外と多い。


おーっ、鳳凰三山も遠くに見える。

2014年に間ノ岳の標高が3190mに改定され奥穂高岳と並んで日本3位の高峰になった。
昨日、仙丈ヶ岳山頂からは標高1位から3位までTOP3の山が並んで見えるということで写真を撮っている人が多かった。
北岳の標高が3193mなので間ノ岳山頂に3mのケルンでも作ったら2位になれるな。
それが許されるならわずか1mで3000m級の仲間入りが出来ない剣岳はすぐやりかねないな。
その様子はドキュメンタリーとして映画化されるな。
木村大作がカメラ回すな。
日本アカデミー賞を取るな。・・・ 妄想が続いた。

山頂で写真を撮ってくれた男性と話をすると、その男性は昨夜は肩の小屋に泊まって今日は広河原へ降りるそうだ。
何とも勿体無い!
僕が南アルプスで好きな山の一つがこれから向う農鳥岳なのだ。
ここまで来て農鳥岳へ登らないなんてキャベツだけ食べてトンカツを捨てるようなものなのだ。
(注:僕の後輩の長嶋君は和幸でキャベツの追加だけでご飯を5杯もおかわりし、お腹いっぱいになってしまい肝心なトンカツは食べれなかった。)


来年は行くぞぉーっ、塩見岳、荒川岳に誓う。今年の南アルプス縦走はこれで終わり。


これほどガッツリと北岳を見た記憶が無い。きれいな山だと再認識した朝だった。

間ノ岳から西農鳥岳へはザレた登山道、好きなコースなのでノンビリと降って行く。
小屋に東側が黄色く紅葉している。夏とはまた違った装いだ。

間ノ岳が3190mで鞍部にある農鳥小屋が2813m、西農鳥岳が3050m。
377m降って237mの登り返し。普通は嫌になるこの高低差がそのまま山の魅力になっている。

でっかい、とにかくでっかい!僕はこの開放感にひたすら憧れる。
チマチマ登ってどうする!半端な優しさとか要らんのだ。


さあ行くけんね。 これから南アルプスで好きな山の一つ、農鳥岳へ向うのだ。


早速、農鳥岳が見えてきた。夏は緑一色だった色が増えていた。決して約束してた訳じゃない。


登山道の両側にはウラシマツツジの紅葉が地面一面に広がっている。


好きなコースなのでダラダラする。行ったり来たりする。ガレ場は脱線してみる。とにかく道草してみる。

コルに建つ農鳥小屋はそのまま通り過ぎた。
小屋の前にザックが6つ、一人がテント撤収中。他に人の気配は無い。

見上げると西農鳥岳は壁のように太陽の光を遮り立ちはだかっていた。
ガツンガツンと急な登山道を登る ・・・ って行きたいけれどザックが重い。

登るのは苦しい、振り返ると登山者を見守るように白い間ノ岳がどっしりと鎮座している。
長嶋君に言うぞ。南アルプスに来て間ノ岳を見なきゃ、それはキャベツだけ食べてトンカツを捨てるようなものだぞ(何のこっちゃー)。

永ちゃんが「成り上がり」の中で「名前は後からついてくる」と言ってたけど(人の善し悪しや人格は名前とは関係ない)間ノ岳のその場当たり的な山名はどうにかならんもんかな。


人気の山小屋、農鳥小屋を一気に通過し、ひたすら西農鳥岳を追いかける。


振り返るとこの眺望だよ。こんな雄大さって他にある? デッカイ間ノ岳を背にゆっくりと登る。


西農鳥岳の右側に上り詰めると後は緩やかな道が続く。 求めた訳では無いけれど贅沢な時間。


西農鳥岳山頂が見えた。もうここまで来たら大籠岳まではユルユルと歩いていくだけなのだ!と思えた瞬間。

西農鳥岳山頂から見た間ノ岳はデカイ。その高度感が山の大きさを一層引き立てている。
あんなに苦労して登った三峰岳もこうして見ると間ノ岳の一部にしか見えない。

西農鳥岳はこんなにデッカイのに山頂は狭い。
4、5人も居たらザックの置く場所に困るくらいの広さだ。
誰かが登ってきたらトコロテンみたいに山頂から押し出されるしかない。

スゴイ勢いで登って来た人がいたのでそろそろ山頂を降りなきゃと歩き出そうとしたらその登って来た人はトレランランナーだった。
白峰三山にもトレランはいるだ。
あの間ノ岳から農鳥岳の高度差を一気に駆け抜ける人がいるのだ。


西農鳥岳山頂から間ノ岳を臨む。農鳥岳もあんな下だ。永遠を感じさせるこの高度感が素晴らしい。


西農鳥岳山頂から塩見岳を臨む。この後、雲が上がってくるので塩見岳はここで見納めになってしまう。


西農鳥岳山頂からの熊ノ平小屋。 この胸中の熱さは来年まで取って置くけんね!


西農鳥岳山頂からの農鳥岳山頂。 ここまでの疲労を忘れて眺めて見たい、そんな眺望だった。

あれっ、足が重い!
西農鳥岳を降りだしてすぐにそう思った。
ここまでザックが重いのでゆっくりと歩いたつもりだったけれどそれでもかなり乳酸が足に溜まってしまったらしい。
明日は久しぶりに筋肉痛になるかもしれない、そんな予感がする。

山登りを始めた頃はバテて当たり前、筋肉痛は当たり前だった。
だけど自分の歩くペースが分かってくるとバテも筋肉痛も無くなった(膝痛は多いけれど)。
もう10年以上も筋肉痛になった記憶が無いけれど明日は久しぶりに筋肉痛だと思うとナゼかむふふとワクワクした。


西農鳥岳山頂から歩き出す。あれっ、足が重い。こんなトラバース気味の道でもつらかった。

昨日も一昨日もそうだったけれど今日も午後になると雲が上がってきた。
農鳥岳へ来た時には周りの山は段々と雲に隠れることが多くなった。

ただ富士山だけは孤高なる山、雲海の上にそのてっぺんをしっかりと覗かせている。


山頂はガスっていたのでこれが3回目の撮影。


ガスの切れ間に西農鳥岳を撮影。


心の休止符、富士山。モクモクと雲が涌いて来ても孤高なる姿は無音で時間さえも止めてしまいます。


農鳥岳山頂からガスの切れ間に慌てて間ノ岳を撮影。 コルに建つ農鳥小屋がもうあんなに小さい。

以前(夏)に来た時には庭の散策だと思った農鳥岳から大門沢下降点までもガスの中ではつまらなかった。

下降点の黄色い鐘が見えた時には白峰三山もここで終わりかと思うと寂しささえ感じる。


大門沢降下点。遭難者の遺族が建てた慰霊の鐘。 皆さん、ここからは大門沢へ降りていきます。

僕の後ろから歩いて来た人は吸い込まれるように大門沢へ降って行く。
がしかし、僕は先へ進むのだ、まず目指すは広河内岳。

元々、広河内岳〜奈良田越間は南アルプス主脈の眺めが良い前衛の山として知られていたが途中に小屋や水場が無くプローチも悪いので穴場的な山として一部の登山者だけにしか歩かれていなかった。
ところが最近、黒河内岳(笹山)から奈良田への登山道が開かれアプローチが楽になったのでことで赤丸急上昇中のコースなのだ。

あれっ、道が無い?
と思ったけれど黄色の鐘から赤ペンキを辿っていくとハイ松に隠れた道が見つかった。
更に10mほどのハイ松を抜けるとはっきりした道になった。

ガレた登山道を登って行く。
振り返ると農鳥岳山頂で話を交わした70歳くらいの男性が大門沢降下点の黄色い鐘を鳴らしているのが見えた。
この男性には農鳥岳山頂で遅い昼食(弁当)を食べているのが気になって声をかけた。
昨日は北岳山荘に泊まって今日は大門沢小屋に泊まるらしい。
小さい山小屋では宿泊客人数分しか夕食を作らないので3時頃までに到着した方が良いですよと教えたんだけど。
あーっそんなノン気に鐘鳴らしている場合じゃないよーっ、早く降りないと夕飯食べれないよ!
・・・ しかし僕の声はもう届かず!

僕の前後に歩いている人の姿は無い。またしても一人旅。
広河内岳まで歩く人は少ないみたいだけど道はしっかりしている。

重い足でどうにか広河内岳へ着いた。
段々と近づいてくる塩見岳の眺望を楽しみにしていたけれどガスって見えなかった。


待ってろよ!正面に見えるピークが広河内岳。


広河内岳山頂。もう塩見岳は雲の中だった。

時間は13時40分。
本当は大籠岳までは行きたいけれど疲労がけっこう足にきている。
広河内岳から先はテントを張れそうな場所を探しながら歩くことにした。
と思っていたら山頂をわずか10mほど降ったところでテント跡を見つける。

ここに張ってしまおうか?悩んだけれど、明日の行程を考えるともう少し歩ける所まで行く事にした。


広河内岳を降りながら振り返ると、農鳥岳はさりげなく紅葉した山だったのだ、独り言みたいな紅葉だった。

目の前をガスが次々と通り抜けていく。

広河内岳から先は踏跡が薄くなった。黄色や赤色のペンキを頼りに道を歩いて行く。

ガスっているので先の方は見えなくなることもあるけれど目印のペンキは10m間隔くらいで付けられているので迷うことはなかった。
尾根を外さないよう、ペンキを見落とさないように緩やかな登り降りを繰り返しながら歩いて行く。


広河内岳からも気持良い尾根道は続く。


マーカーのその先へ、ただただ稜線を追っかける。

「次に見つけた所でテントを張ろう」
途中でいくつものテント跡を見つけるがそのまま通過してしまう。

広河内岳を歩き出して約1時間、広く開放的な場所に出た。テント跡もある。
時間は午後3時、今朝、両俣小屋を出てほぼ12時間行動している。
もうここでテントを張っても良いだろう。そう思うと目の前のピークを越える元気も無くなった。
地図を見る。目標の大籠岳へは届かなかったけれど2772m地点は越えたはずだ。

テント跡で平になっている場所があった ・・・ うっ、オシッコ臭い?!
ここはファブリーズしなきゃ臭くてテントを張れない。
仕方なくその隣に、少し傾斜している場所だったけれどテントを張った。


午後3j時に現れた開放的な場所、テント跡もあり、となるともうこれ以上前進出来ません。

今回の新装備の三つ目。
プラティパス(エバニューウォーターキャリー2L)を買った。
もう10年以上前、発売されたばかりのウォーターキャリー(メーカー忘れた)を買ったら数回使っただけで折り目から水漏れするようになってしまって、それから使う気はしなかったけれど今回はザックの軽量化のため買ってみた。

片手でうまく持てない。
例えば左手のペットボトルに水を移そうとすると右手だけだとフニャフニャでうまく掴めない。
これは慣れの問題だろうか?

一番困ったことは、夕食用に1200mlまでは使えるのだけれどウォーターキャリーって上部が薄く、下部が厚くなった形状なので2000ml中、どの辺りまでが1200mlなのか分からない。
持って来たウイスキー500ml中、300mlほど飲んだところでもう水を1200ml位は使ってしまったのではと思い、そこで使用はストップ。
(ウイスキー200ml残し、おまけに翌朝、使い切れなかった500mlほどの水を捨てることになる)

天気予報では明日は曇りのち雨だ。
雨だったらまだ良いけれどガスったらペンキやケルンを見つけにくいな!
大事をとってガスったら大門沢下降点まで引き返えそうと思った。

深い闇の向こう側、明日はどんな一日になるのだろう。

チャレンジャーはどっちだ 編へ 続く
●山麓をゆくへ   ●ホームへ
inserted by FC2 system