男体山、女峰山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆8月16日
上野(6:51) +++ 宇都宮(8:23/8:25) +++ 日光(9:09/9:20) === 霧降高原(9:47/10:00) --- 小丸山(10:25/10:30) --- 赤薙山(12:00/12:10) ---女峰山(15:00/15:30) --- 唐沢小屋(16:00)(小屋泊)

◆8月17日
唐沢小屋(5:00) --- 女峰山(5:40/5:50) --- 帝釈山(?) --- 小真名子山(7:50/8:00) --- 大真名子山(9:05/9:15) ---志津小屋(?) --- 男体山(12:30/13:00) --- 二荒山神社((15:03/15:10) === 日光(16:20/16:40) +++ 宇都宮(17:23/17:29) +++ 上野(19:09)

山日記

霧降高原は登山者よりもハイキングを楽しむ家族ずれのほうが断然多かった。キスゲ平から丸山の景色は良いけど。。。人が多さにはうんざりしてしまう。
登山道を登っていると木々の間からリフトが人を運び上げているのが見えた。音も無くスーッとサイレント映画のように人だけが上がっていく。鉄塔を通過する時だけ「ゴトゴト」という滑車の音がしてリフト上の人を少し揺らしている。
僕はといえば歩き出して10分ほどで汗が噴き出て早くもバテぎみ。リフトで登って行く人を見ると高原の爽やかな風を受けてとても気持ち良さそうに上がっていく。このクソ暑い登山道をのろのろ歩いていることが馬鹿馬鹿しくなってしまう。
目指す女峰山の山頂は雲がかかって天気が良くないのでどことなく元気も出ない。
登山道は樹林の中の道で展望はあまり無くつまらない道だった。たまに見晴らしの良い場所があり、そこから景色を見るとその度に空は段々曇っていくので「こんなに僕が頑張っているのに無情な天気だ!」と天気の神様が憎たらしくなってくる。

「こういう天気の日は早く山小屋について「グビグビ、ハァー」と酒でもかっ食らっているのにかぎる」と思いながら一里ヶ曽根付近を歩いていた時だった。後ろに「ハアハア」と荒い息遣いが聞こえた。振り向くと30歳位の男性がすごい勢いで登ってきた。
しかし変な奴だ。まず服装だがいわゆる登山の格好をしていない。普段着のまま来たという感じで開襟シャツに綿パン、靴も普通の運動靴。がしかしこんなカッコで登山する人もいるだろうからおかしくないと見ればそう見える。なによりも変なのはこの人が手ブラだということだ。ザックも何も無しの空身状態である。この近くにザックがデポしてあるのだろうか?それともこのまま下山するので軽装なのか?。。。だがまてよ!ここから今日中に下山出来るルートがあるのだろうか???
「こんにちわ」と挨拶すると男性は目礼して先へ行ってしまった。「まったく訳がわからない登山者もいるものだ」と思いながら歩いていると、とうとう雨が降り出した。合羽を着ての歩行である。蒸し暑くてたまらない。天気予報は晴れだと言っていたのに全く当たらない。


帝釈山からの展望 男体山、大真名子山、小真名子山、太郎山が望める
三脚に付けたカメラの影が僕の口に。。。
女峰山に着いた。
雨の山頂には誰もいない。山頂から眺めた男体山も雨に濡れて憂鬱そうである。「これはもう唐沢小屋に行って酒を飲んで「かぁーっ」とやるしかない」と降りようとした途端に雨が上がり晴れ出した。山の天気は変わりやすいと言うがこんなに急に変わることってあるんだなぁー。こうなると景色も一変して「こりゃ最高!の景色」となった。ダイナマイトが百五十屯の風景だ。
半月山から見た男体山も良かった。反対側の太郎山から見た男体山も良かった。そしてここ女峰山からも男体山は本当に良い形をしている。
小真名子山、大真名子山そして男体山と三つの山が並んでいる。どの山も山頂から裾野までなだらかな緑のスロープが続いている。

明朝もこの山頂を通るのでその時の景色を楽しみにしながら唐沢小屋に向かう。小屋に入ると10人位の人だった。30人は泊まれそうな小屋なので余裕で泊まれそうだ。
どこに寝ようか見渡していたら部屋の隅に居た人に視線が止まった。先ほど一里ヶ曽根付近で見かけた手ブラの男性が居た。「なんだ!ここに装備を置いて散策していたのかぁー」と納得したのだがどこか変な感じは残る。
水場で水を酌んで戻ってみると皆さん食事中だった。僕もさっそく食事の準備を始めた。近くの夫婦の会話が聞こえてきた。「ねえ、あの人。何も持って無いみたいだけれど食べ物はあるのかしら?少し分けてあげましょうよ!」夫婦の視線の先にはやっぱり手ブラの男性だ。もしやとは思っていたがどうやら何も持って来ていないらしい。
どう見てもこいつはかなりヤバイ奴だ。避難小屋に泊まるのに何も持って来ていない。夫婦のお母さんの方はこの男性の事を心配しているようだ。お父さんのほうは「ほおっておけばいいよ!」と言っている。やはり女性は優しいと思う。とうとうお母さんが菓子パンを男性のところへ持って行った。二人の会話でこの男性の素性が分かると思って聞き耳をたてる。しかし二人の会話はクロスワードパズルみたいにバラバラで会話になっていなかった。なんだかますます謎は深まるばかりだ。僕はといえばこの男性が妙に薄気味悪く、食事が終わるとこの男性からなるべく遠い場所にシュラフを敷いた。


大真名子山山頂 かなりヘトヘトで到着
翌朝、小屋を出る時にこの男性の姿を探すと部屋の隅で毛布(小屋に有った)に包まって寝ていた。

再び女峰山に登り、山頂から見た景色はやっぱり最高だった。緑の山並みの奥に白根山もはっきりと見える。
ここから男体山まで縦走が始まるのだ。空は快晴で気持ち良く出発する。

富士見峠まで降る。ズンズンと降る。随分下まで降る感じだ。地図の等高線の数から受ける印象に比べてずいぶん高低差があるようだ。降った分だけまた登り返さなければならないと思うといいかげんに降るのを止めてほしい。せっかく登ったのにもったいない。富士見峠までずうーっと降りの道だったのでずいぶん疲れた。
小真名子山への登り道はザレ道だった。夏の日差しが地面で照り返しジリジリと暑い。額から落ちた汗の滴は乾いた小石に直ぐに吸い込まれていく。足を踏み出す度に足の下の石がザラザラと崩れて歩きづらい。
汗だくになって小真名子山頂上に着いた。頂上には電波反射板があるが展望は良かった。ここで休憩してまた下りだ。「お願いだからあまり降らないでぇー」と哀願しても登山道は薄情なようにズンズン降って行った。
鷹ノ巣まで降り、再び登り返す。一つ一つ積み上げたものが崩れ、また最初からやり直しといったような挫折感を感じる道だ。山登りを楽しむ気持ちはどこかへ行ってしまって、もはやただ交互に足を前に出すという原始的な動作を繰り返すだけだった。

大真名子山からの男体山 どこから見ても形が良い山です
大真名子山頂上には小さな神社があり石像を見ていたら何となく気分が落ち着いてきた。ここから見る男体山はデカイ。右のほうに少し見える戦場ヶ原も緑の草原で爽快感を感じさせる。

大真名子山を後にして志津乗越まで一気に降る。ここまで来るともうヤケだ。いくらでも降ってもらおうじゃないか!と開き直ってしまうのだった。

志津乗越には沢山の車が駐車していた。ここで一息入れる。それにしても今日の”上り下り連続攻撃”には参った。峠の位置が低かったので縦走して来たというよりも幾つかの山を別々に登山して来たような感じだ。しかしこの縦走も残すところ男体山だけになった。ここは気合を入れて行くしかない。
駐車場を歩いていたら市毛良枝似の女性に声を掛けられた。「どちらからこられたんですか?」と聞かれたので「昨夜、唐沢小屋に泊まって、小真名子山、大真名子山を縦走して来ました。こらから男体山に登ります」と言ったら「すごい健脚ですね!」と驚いていた。僕は鼻高々になって、今まで「ぜえぜえ」と息も荒かったのだが「この位平気さぁ」と平穏を装うのに息を止めたので苦しかった。この女性は男体山をピストンして降りて来たところだった。「もし日光方面に行かれるようでしたら私の車に乗りますか?」という誘いには断るしかなかった。しかし残念だ。あぁー残念だ。
志津小屋の中を覗くと中々奇麗な小屋だった。2,3人のザックが置いてあるが人の姿は見えない。小屋の前の水場は水は流れておらず、ただの水溜まりだった。

男体山山頂の御神像は雲に乗っていた
小屋で休んでいよいよ最後の登りにかかる。登り始めるとすぐに息があがってきた。登山者は家族連れの姿が目立つ。子供達は皆元気だ。その元気がうらやましい。僕はといえばお化けような足取りで繰り出す足に覇気が無い。額から次々と流れ落ちる汗で顔はグチャグチャになっている。なんでここまでして山に登るのか自己問答してしまう。「もう二度と山に登りたくない。市毛良枝似の女性の車に乗せてもらって楽しく日光まで戻ったほうが良かったかなぁー」と後悔した。
登り始めて一時間でついに限界。ヨレヨレになった背中からザックを降ろす。よく見ると背中とザックから薄らと湯気が立ち上っている。真夏だというのにどうなっているんだ。背中にピッタリと張り付いたポロシャツが冷たい。休んでいたら悪寒がしてきた。完全に熱射病だ。こりゃ!かなりやばい状態である。「こんな時は栄養を補給しかない」と口の中にカロリーメイトを放り込む。いくら噛んでも唾液が出ないのか口の中で粉状に砕けるだけで飲み込めない。仕方なく水で流し込んだ。しかし人間の体は丈夫なものである。「もう限界だ!」と思っていたけど休んでいたらかなり元気が回復した。
再び登り出した登山道も30分ほど歩くと傾斜も緩やかになってきた。おまけに花が多くこうなると気分は最高!雲上の散歩となった。
ようやくたどり着いた男体山山頂は薄っすらとガスっていて展望は今一つだった。まあ良いや!この山は今後何度も訪れそうだ。いつの日か笑顔を見せてくれるだろう。
眼下に中禅寺湖が見える。あそこまで降りたら今回の登山は終わりである。ゴールは近い。

三合目で林道に出て、再び樹林帯の中を歩く。このとき「膝が笑う」というのを初めて経験した。膝がカクカクとして力が入らない。今日はハードな一日だっただけに体はボロボロであるが心は達成感で一杯だった。力が入らない膝についつい笑ってしまうのだった。

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