入笠山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:ゴンドラ)

◆1月10日
立川(5:55) +++ 高尾(6:13/6:15) +++ 富士見(8:37/8:45) === パノラマスキー場(8:55/9:05) *** 頂上駅(9:05/9:25) --- 入笠湿原(9:40/9:45) --- 入笠山(10:25/10:55) --- マナスル山荘(11:20) --- 大沢山(11:45/11:50) --- マナスル山荘(12:40) --- 入笠湿原(12:50/14:00) --- 頂上駅(14:20) *** パノラマスキー場(14:30/15:05) === 富士見(15:15/15:35) +++ 高尾(18:02)

山日記

スノーシューを買ってしまった。

スノーシューは最近、ちまたであーだ、こーだ言われているので興味はあったんだけど雪山にはあまり行かないし、無くても困った事はないし、かろうじて記憶の端っこに引っ掛かっている程度の代物だった。
それがお正月セール!の文字に踊らされて、ほとんど勢いだけで買ってしまった。

入笠山は日本三百名山の一つだけど、車が無い僕にとってはアプローチが悪い山の一つでもある。
せっかくの三連休、八ヶ岳でスノーシューデビューをと考えていたけどムーンライト信州のチケットが取れなかったので断念!
だったらどこか日帰りで行けるところ・・・と物色していたら入笠山へバスが季節運行していると言うことなので行ってみる事にした。

バスは富士見駅からわずか10分でパノラマスキー場に着いた。
スキー場は山の中腹にあるのかと思っていたら、ほとんど平地にあって、見上げると入笠山はまだまだずっと上の方だ。ガックリと来てもーため息しか出てこない。
「しかたない、歩いて上まで登ろー!」地図を広げてみるとなんとスキー場が載っていない。「今、自分はどの辺りにいるのだろー?、まだかなり下に居るのはたしかだけど・・・」こうなってくると登山道がどこかも分からない。
「もしかしたらかなり登山道から離れているのかもしれない!」周りを見渡してみると登山者らしい姿があった。「あの人たちに付いて行こう!」とその姿を目で追っているとゴンドラ乗り場に向って行った。
「くそったれ!この根性なし!」こうなったら自分で登山道を探すしかない!・・・と気合を入れてみたものの、この一面の雪ではそれも難しいように思えて急に弱気になってしまった。
いっそゲレンデを歩いて登ろうかとも思ったが何となく恥ずかしいし、ここは素直にゴンドラに乗ることにした。(後で分かったことだけどゲレンデは歩いてはいけないらしい)

ゴンドラに乗ってみる。地上がグングンと離れて行き、頂上駅まで標高差が結構あった。こりゃ、歩かなくって正解だったかも・・・と思った。
しかし・・・ゴンドラの中には5人の客が居るけど1人地味なカッコウの僕は周りのスキーヤーから完全に浮いた存在だった。
くそー!早く頂上駅に着かないかなー!と視野の中に次々と飛び込んで来る八ヶ岳や富士山の姿はその意識の壁にはじき飛ばされてしっまていた。

頂上駅で準備をして歩き出す。
周りを見ると華やかなスキーヤーウェアの姿ばかりで、レインウェアに身を包んでいる奴なんて・・・おまけにこのレインウェアが濃紺なんで何だか作業用みたいだし・・・これモンベルで作業用じゃ無くて登山用なんだよ・・・やっぱ作業用にしか見えないだろうな、せめて黄色にしとくんだったなー・・・ダサいなー、くそったれ!と思いながら歩いて行った。
ゲレンデの最上部に立つといきなり目の前に八ヶ岳の全ての山々の姿が一望でき、いきなり「いいぞー!、かなりいいぞ!」と嬉しくなってしまう。だけど直ぐ近くのラウドスピーカーからは賑やかな曲がひっきりなしに流れているし、すぐ横からスキーヤーがビュンビュンと飛び出すようにゲレンデに駆け下りて行くのでとてもじゃないが落ち着いて展望を眺めるなんて出来やしなかった。
横を見ると入笠山への標示があったので追われるように進んで行った。


入笠湿原でパチリ!白樺が雪に映えます。
こんな景色を期待してたんだよー!

登山道は森の中をトラバースするように進んでいる。さっきまでの喧騒が嘘のようにまとわりついていたあらゆる音がスーッと消えて行った。
15分ほど歩くと入笠湿原に出た。湿原と言っても今は一面の雪原状態、雪が無い時はどんな所なのだろ?今は登山道を示す杭がかすかに見えるだけだった。
雪原の中に白樺の木が立っている。この光景は登山者のハートをビビットと刺激する光景だ。さっきまでギザギザに苛立っていた気持ちがグッと落ち着いてくる。
「これを見に来たんだ!」波に洗われた後の砂浜のように忘れていた存在が現われて来た。

湿原からは林道沿いの散策路を歩いてマナスル山荘まで行った。
山荘から入笠山へは標示はあるのだけれど、踏み跡が縦横無尽にあってどこが登山道だか分からない。
ふと左を見る広い雪原がある。地図を見るとスキー場のゲレンデのようだけど、リフトは無いし、人も滑っていない。何だか良く分かんないけどその中にポツポツと足跡があるようなので行ってみた。

ゲレンデの一番下に立って見ると、上までポツポツと続いているのはスノーシューの跡だ。
「おーし!いよいよスノーシューの出番だ!」ザックからスノーシューをオゴソカに外して装着する。自宅で一度履いてみたけど、スノーシューは爪先に金属の刃が付いているので土や道路の上は歩けない。実際に歩くのはこれが初めてだ。

スノーシューを買った時に店員さんが「スノーシューは普段歩いているように歩いてください。あまり足を上げ過ぎると返って疲れますよ!」と言った言葉はしっかり憶えている。
それではいよいよ、行ってみっかぁー!と歩き出す。ギュウギュウと雪が窮屈そうな音を立てる「やったー!」別に難しい事は何も無く、普通に歩ける。後ろを振り返って見ると足跡がデカイ!それがまたうれしい!
だけど、積雪量は20センチ位なんだけれどスノーシューで歩いても15センチ位はしっかり埋もれてしまう。雪の状態が新雪でサラサラしているので、これは仕方ないのかもしれないけど、雪の上を滑るように歩けると思っていた想像にはかなり遠い。
「スノーシューを外して歩いてみよう!そうしたら真の実力が分かるべぇ!」とツボ足で歩いてみるけどやっぱり15センチくらい埋まってしまって、何らスノーシューと変わらないのにあんぐり!スノーシューの効果が確認出来なくてがっかり。


初めてのスノーシュー!予想以上に埋まってしまいます。はたしてこんなんで良いのでしょうか?これ結構マジで登ったので疲れました。
こんな風に雪原を数分間歩いてみたんだけど・・・何か違う、どこかが違う。ヤマケイのスノーシュー特集なんかを見ると中のグラビアには楽しそうに歩いている男女の姿が写ったりしているんだけれど・・・正直そこまでは面白いものではないみたいだ!
スキーやスケートみたいにレーサーではないし、アイゼンほどのファイターでもないしなぁー。
あの白い歯キラリの笑顔は今の僕には無理ですたい!

でも、せっかく買ったのでスノーシューを装着して入笠山山頂まで登ることにした。


入笠山山頂でガオーッ!
後ろには御岳山や木曽駒ケ岳が見えるはずなんですがア・イ・ニ・ク・・・
登山道は緩やかな登りだったが爪先の裏についている熊手状の刃が良く雪を噛んで安定して歩くことが出来た。それに思ったほど重さが気にならなし、雪が裏にくっ付くことも全然無い。
まーっ、スノーシューに関しては今後も仲良く付き合っていくつもりなので、おいおいその特徴が色々と分かるだろー!。

正直に言って・・・入笠湿原から入笠山を見た時、そのあまりもの特徴のなさに「これが入笠山?」と我が目を疑ってしまった。入笠山は300名山の一つなので花が多いとか、見かけ以上に険しいとか、何か他の山には無い特徴があるのかも知れないけど、その時、目の前には雪に薄っすらと覆われたなだらかな山容のパッとしない山が横たわっていた。

だから樹林帯を抜けて山頂に出た時には視線の先に広がる広大な眺望にガツンと一発、食らわされてしまった。
山頂に立って北を眺めると、茅野の市街地が大気に押しつぶされるように大地に広がっていて、その向こう側に大波のように八ヶ岳の山々が押し迫っていた。そしてその波の左端は雪を覆った車山や美ヶ原まで遥か遠くまでロールしていて、空の大きさ、大地の大きさを余すところなくさらけ出している。

入笠山からの八ヶ岳は雲の下でした。くそっ!と思う気持ちよりこんな八つもまた良いもんだ!と見入ってしまいました。
くそーっ!何て景色だ!完全に騙されていたぜぇー!
ただもー残念なのはこんなに頭上は晴れているのにグルリ反対側の木曾駒ケ岳や御嶽山、それぞれの山頂には重っ苦しい雲にスッポリと覆われてしまっていて、山頂にある方位標示盤でしかその存在を確認出来なかった。甲斐駒ケ岳や北岳、富士山は逆光で薄ぼんやりとしか見えなかった。

大沢山へ登って行きます。広い雪原です。
ここはゲレンデ?はたまた牧場???
山頂で昼食にして、さてこの後どうしよう?と考えた。インターネットで検索すると入笠山はスノーシューでのウォーキングが盛んな場所らしいが、いざ来て見るとそのコースはどこなのか?さっぱり分からない。「ちゃんと確認しとくんだった、くそっ!」と思っても今更遅い。
地図を見ると、近くに大河原湿原と言う場所があるので行って見ようかとも思ったが、どーせ雪が積もってただの広い雪原になっているだけだと思って止めた。
山頂から見渡すと入笠山と対座している大沢山(地図では小入笠山)の山肌は木の生えていない雪原になっていたのでそこに行って見る事にした。
スノーシューを履いたままマナスル山荘まで降り、そこから山頂のパラボラアンテナを目指して大沢山を登って行く。
5分ほど登った所に金網の柵があってそれをまたいで越えてしまったけど、もしかしたらここは牧場か何かの私有地で入っていけないのかも?と思った。見つかってしまってもこの空の青さが許してくれるだろー!許してくれなかったらまだ体力は十分残っているし全力で逃げよー!ととんでもないことをたくらんでしまった。

大沢山山頂はアンテナがあるだけで展望は無し!こうゆう時って気持ちの置き場所にホント困ってしまう。達成感はなし、感動もなし、もちろん征服感もない。
地面を見ると、鹿か、ウサギか、狸か、わかんないけど色んな動物の足跡がヤタラメッタラ付いているのでここで何かの集会が行われたのは間違いない。その足跡を憂さ晴らしにスノーシューで跳ね回ってズタズタに乱してやろうと思ったけど余りに大人気ないので止めてしまった。


大沢山から西へ降りて行くとそこには雪原が広がっています。ここもゲレンデ???
山頂から西へ向って降りて行く。
こっち側も草原?牧場?ゲレンデ?何だか分かんないけどやたら広い雪原になっていたので、わっせわっせと駆け降りて行った。
気持ち良い雪原歩きも10分ほど歩いているとまた柵が行く手を拒んだ。けっ!しょーが無いけど、ここで本日のウォーキングは終了!
そこからは大沢山の中腹をトラバースするように歩いてマナスル荘に戻って行った。

マナスル荘の前でスノーシューを外していると、十数人のスノーシューパーティーがやって来た。積雪量は少ないけどやっぱりここはスノーシュー銀座なんだろーか?他に数人の登山者がいたけど、ワカンだったり、ミニスキーだったりとツボ足の人はほとんど見かけなかった。


大沢山の中腹は一面雪に覆われています。ポツポツとある木の間をノンビリ歩いて行きます。

入笠湿原まで戻って来た。電車の時間までまだ時間があるので湿原の周りを散策していたら西の空から雲が段々と覆い始め、フッと立ち止まってみると寒々とした風の中にただぼんやりと立っているだけだった。

ゴンドラ駅に着き、乗り場に行くと当然のことだけど下りの乗り場には誰も並んで居ない。
一人でポツンとゴンドラに乗り込む。次々とスキーヤーを乗せた上りのゴンドラとすれ違う。ゴンドラに乗って降りる奴なんて他に居やしない、くそっ、かっこわりー!

富士見駅でパッキンをやり直していたら意外とスノーシューが傷だらけになっているのに気がついた。でもそれは今日一日の高揚したり、沈んだり、浮き沈みの激しかった気持ちを思い浮かべると嫌な感じと言うよりはむしろじんわりと心に来る傷跡だった。

初めてのスノーシュー体験、くそったれ!と思うこともけっこうあった。
入笠山はそんな裏切りの一歩手前でその素晴らしい眺望を脳裏に残してくれた。
でも考えたらスノーシューといい、眺望といい、入笠山自身よりも、今日はその向こう側を見ていたのかもしれない。
春、夏・・・とにかく雪が融けたらもう一度再訪して見よう。
駅のホームからはもう入笠山の姿は見えなかったけれど視線の先には確かに花がいっせいに咲き匂った春を、光を増した太陽の下の入笠山の姿を思い描いていたのだった。

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