御座山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆5月11,12日
立川(22:04) +++ 高尾(22:24/22:25) +++ 小淵沢(0:35/6:09) +++ 羽黒下(7:35/7:55) === 農協前(8:15/8:25) --- 登山口(9:20/9:25) --- 茂来山(10:35/11:10) --- 赤羽の頭(12:25/12:35) --- 四方原山(13:50/14:10) --- 白岩(16:00/16:10) --- 林道終点(17:10)(テント泊)

◆5月13日
林道終点(4:30) ---御座山(7:10/8:10) --- 栗生(10:00/10:10) --- 三川(10:45/10:55) --- 馬越峠(12:00/12:10) --- 天狗山(12:50/13:15) --- 大深山中央(15:38/15:39) === 信濃川上(14:54/15:09) +++ 小淵沢(15:52/15:55) +++ 立川(18:24)

山日記

御座山へのアプローチを調べてみると白岩からでも栗生からでもバスの運行数が少ない。茂来山も一度は登りたかった山なのでテント一泊で茂来山から御座山までつなげて歩くことにした。

小海線の始発まで小淵沢駅の中央本線ホームで寝ようと待合所まで行って見ると既に学生らしきパーティーが一杯にシュラフを広げていた。仕方なく小海線のホーム待合所に行く。ここのベンチは短く、足を曲げて寝なくてはならなかった。

羽黒下駅を降りて慌てた。朝食、昼食用に弁当を買おうと思っていたが駅前には酒屋が一軒あるのみで他に店らしいものはない。しかたなく酒屋でとりあえずパンを2個買った。
バスに乗り運転手に「下車する農協前のバス停前に店がありますか?」と訪ねると一言「何も無い」と言う返事だった。仕方ない、朝昼にパン一個づつと侘びしい食事だが我慢するしか無い。
僕一人を乗せ駅前を発車したバスは5分程走ったところで急に止まった.「お客さんここで待っていてあげるから欲しいものが有るならそこのコンビニで買ってきて良いよ!」となんとも嬉しい言葉が運転手から出た。早速、コンビニでおにぎりを買ってバスに戻った。
やっぱり山ではおにぎりである。自分が「ハム、トマト、玉子、レタスそれにチーズ」の贅沢サンドイッチを食べても他の人が三角おむすびにかぶりついているのを見ると無性におにぎりが食べたくなる。僕はもちろん山下清では無い。顔もぜんぜん似ていない。どちらかと言えば竹中直人に似ている。顔の事はどうでも良いが、しかしおにぎりはうまい。特にてっぺんで食べるのはおにぎりに限るのだ。
こうして憧れのおにぎりをめでたく得ることが出来たのだった。
茂来山登山口からは単調な道をただひたすら登る。展望ないが巨大な栃の木が有ったりして退屈しない。


茂来山からは八ヶ岳が全部見える
山頂は視界を遮るものは無く展望が良い。いきなり八ヶ岳が目に飛び込んで来た。天狗岳から赤岳まではまだ雪に覆われている。その雪が春の日差しに白く輝いている。蓼科山から赤岳までが横一列のすべて丸見え状態。あまりの露出に「こんなに見せちゃって大丈夫?」と尋ねたいほどだ。八ヶ岳をこっちの方向から見るのは初めてかもしれない。
その奥には「俺もここにいるぜ」と北岳も顔を覗かせている。北に視線を移せば浅間山が意外と近くに見える。思ったより噴煙が多い。どうやら今日はサービス日らしい。
そこから少し右に眼を移せば超個性的山容の荒船山がその船体を上州の山並に浮かべている。
残念だが御座山は木の影に隠れている。

茂来山山頂 浅間山、荒船山も見える
頂上には僕と女性二人のパーティーの三人だけだった。この二人はこれから登山口まで降りて車で内山峠まで行き、荒船山に登るという事だ。なかなかのがんばり屋さんだが地図を持ってきていない無鉄砲さが少し心配。
僕はおにぎりを腹に詰め込み四方原山へ向かう。登山道に踏み跡は少ないが赤テープの目印が所々にあるので大丈夫だ。展望は無いが明るい雰囲気の道を爽快にずんずん進んでいるとやがて赤羽の頭に到着。この当たりから所々熊笹がうるさくなる。もうそろそろ四方原山に到着してほしいと思っていると背丈ほどの熊笹が段々密集してきた。「いかんいかん。こりゃ大変だ!これ以上密集すると歩けない」と思っていたらその先はきれいに刈られていた。
四方原山の頂上へ到着。がっかりした。ピークは無く平坦な山頂で「登ったぞ!」という達成感が無い。頂上を知らせる立て札が無かったら行き過ぎてしまいそう。おまけに唐松林に囲まれて展望は無い。これでは八方塞山である。
頂上は僕一人だと思ったらコゲラだろうか?ドラミングの音が存在をアピールしている。展望が無いが他に人は居ないので青空の下でゆったりと休憩した。

四方原山からの下山途中で道が小さな沢に行き当たり登山道がバッタリ途切れてしまった。地図では沢の右側に登山道が有るとされているが周辺を捜しても道は見つからない。仕方なく沢を降りることにした。幸い水量は多くないので石の上を左右に渡りながら歩く。もしかしたらこの沢は普段は水が無く、沢自体が登山道なのかもしれないがどうも踏み跡がはっきりしない。「啄木鳥はドラミングでテリトリーを主張するというが登山道も自己主張しなきゃいかん?」と不安と怒りが入り混じった気持ちで歩いていると林道に飛び出した。


四方原山の頂上 展望は無い人も居ないが鳥は多い
白岩で幕営予定だったが、到着してみると人家が多く幕営する雰囲気ではない。予定より早く到着したこともあり、もう少し先まで行くことにした。
水2.5Lを補給して畑の中の道を登る。頭の中は既に「重たい」と「疲れた」を反復横跳び状態でかなり疲れている。
そんな時、「御座山に登るのか!天気は良いし頑張れよ!」と真っ黒に日焼けした顔をクシャクシャにして畑仕事のおじさんが笑っていた。この言葉に元気が出た。登る人、降る人、とにかく他の登山者と会わない道だったから少し人恋しくなっていたのかもしれない。
御座山登山口の駐車場でテント設営。
朝4時になるとテントの外がうっすら明るくなってきた。それを合図に朝の静寂をやぶり鳥たちが一斉にさえずりだした。今日は行程が長いので早く出発する。駐車場にはいつの間にか車が2台止まって夜明けを待っていた。御座山への尾根を登っていると赤火岳の左から朝日が登ってきた。今日の始まりだ。さあ気合いを入れて行こう!
途中、登山道を見失ってしまった。山の斜面をトラバースしていた道は直角に曲がっていたがそれに気がつかずにそのまま直進してしまった。道を見失ったと分かった時、とにかく上に行けば登山道に行き当たるだろうと思い上へ上へと登ったが尾根に着いても道は無く、コンパスで確認してみると別の尾根に居ることが分かり慌てて引き返した。これで約20分ロスした。

御座山山頂
御座山の頂上はそこだけ露岩状になって頂に立つと360度の展望である。どうやら頂上一番乗りらしく周りの山々を独り占め状態だ。
山頂からは八ヶ岳が「これでもかぁー」という位に目の前にその姿をさらけ出していた。四方原山はここから見ても頂上が何処かはっきりしない。五丈岩が特徴の金峰山はデンと構えてデカい、両神山のギザギザ頭も見える、浅間山の噴煙がここからでも見えた。
天気が良くこのまま下山するのも惜しいので少し早いがここでラーメンを作って食べることにした。決して豪華な食事ではないけど朝の澄んだ空気と目の前に広がる大パノラマ!これで美味くないわけが無い。
御座山からは八ヶ岳がより近くに見える 御座山の登山道は登ってきた北側と降る南側では木々の感じが大分違う。北側はうっそうとした暗い感じに比べて南側は明るい日差しが木々の間から登山道を照らしていた。
そんなジグザグの道を降っていると男性が座って日向ぼっこをしていた。頂上も良いけどこんな樹林に囲まれての陽だまりも良い。
「こんにちは」と声をかけようとして「こ…」まで出掛かった声が止まった。日向ぼっこしていると思っていたが近くに来て見るとうんこをしていた。先日の丹沢山行の時、キジ撃ち集団を目の辺りにしていたので今回は余裕を持ってこの場面に対応することが出来た。せっかくの機会なのでこの男性を観察してみる。

御座山から見た茂来山 四方原山はどれだろう?
どこか空間を見つめる視線に力は無く、姿勢は妙に背筋が延びている様な感じでそのまま硬直している。力の抜けた体の内部に秘めた力が一筋の光となって今放たれようとしている感じを受ける。もうこれしかない。今、うんこがおしりからちょうど出ている最中なのだ。これしか考えられない。。。
陽だまりのうんこは気持ち良いだろうがキジ撃ちはどこか見えない所でやってほしい。でも貴重なシーンを見られたという思いでその場を早足で通り過ぎた。
栗生から三川までの林道歩きは峰雄山を巻いているので思ったより高低差は無く楽であった。しかし三川からの林道歩きは長く疲れた。車がスイスイ走っている横を黙々と歩くのは辛い。しかもラジオを聞いていると「今年一番の暑さで夏日になるでしょう」と言っている。途中、山菜取りらしい人から数回声をかけられた。でかザックを背負って歩く僕がよほど異様に見えたのだろう。
待避所で休んでいると目の前を車上に時間表示板を搭載した車がスーッと通り過ぎて行った。その後を足にテーピングをしたランナーがクタクタになって過ぎていった。晴天の霹靂で一瞬何のことだか分からなかった。この光景はこんな山の中にはどこか不釣合いの感じがする。

天狗山からの御座山 良くここまで歩いたもんだ
ランナーの背中を見ると「野辺山100kmウルトラマラソン」と書いてあった。なんでこんな峠を走っているのだろう?おまけになんと100kmだ。
林道歩きという非合理的なマゾ行為をしているバカは僕だけじゃなかったんだ。このランナーに妙に親近感を感じてしまった。馬越峠までは数人のランナーに追い越されながら歩いた。
峠で休憩して天狗山へ登りにかかる。登り始めて自分で思っているより体は疲れていることに気がついた。少し登っただけでも息があがる。おまけに持病の膝痛が再発して足が動かない。「もう終わりにしようぜ!」と心の中でビール片手にもう一人の自分が手招きしている。

天狗山からの男山(後ろは八ヶ岳) 実は膝が痛い
膝痛を我慢して急登を登っていくと視界の中に空の青が広がった。天狗山山頂に到着だ。
ザックを放り投げ足への負荷を和らげてやる。汗で濡れた背中が涼しい。次に大きく深呼吸して息を整え、ザックから水筒を取り出した。
「すいません、シャッター押していただけますか」。
見ると5人のおじさんパ−ティーがカメラを差し出して笑みを浮かべている。喉がカラカラでまず水が飲みたい、それにまだ景色だってぜんぜん見ていない。僕は駄々をこねる子供みたいに泣きたくなった。
山頂からは御座山が大きい。歩いて来た下方の林道を目で追ってみると随分長い。「良くあそこからここまで歩いたもんだ」と感心する。
男山に視線を移す。「体は疲れておまけに膝は痛い。だがあそこがゴールだ。何とか頑張って歩こう」とアンパンをほお張りながら気持ちを奮い立たせる。
男山に向う途中、登山道が二つに分かれた分岐にさしかかった。一つは尾根の岩上を進んでいる。もう一つは左に降っている。地図を出して確認してみたが地図では登山道は一本しかない。僕は考えた「多分下りの道は巻き道でいったん降ってそれからトラバースして鞍部まで続いている楽々コースに違いない」。下りの道に進路をとり、どんどんと急斜面を降った行った。
道を間違えたと気がついたのは木々の合間に見える鞍部が視線より高くなった時点だった。おまけに方向は南東へ進んでいる。気持ちは悔しいが体は完全に意気消沈して動きそうに無い。今、降って来た急登を再び登る気力はもう無い。男山は残念だが諦めよう。

道は踏み跡が無く下山途中で道が分からなくなった。無理やり木々を突っ切ると明るいゴルフコースのグリーンに飛び出した。

未練がましく信濃川上駅のホームから男山を捜した。電車に乗っても車窓から男山を捜した。ふと見ると電車と平行してウルトラマラソンのランナーが走っている。彼らはまだ見ぬゴールをめざしていた。

参考

茂来山、四方原山山頂はテントを張る場所あるが御座山でテントを張る場所は無い。天狗山にも無い。
水場は御座山の不動ノ滝のみ

●山麓をゆくへ   ●ホームへ
inserted by FC2 system