大楠山、乳頭山、仙元山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2021年4月18日
逗子駅 (6:19) === 前田橋バス停 (6:40) --- 大楠山 (7:40/8:20) --- 阿部倉 (8:50)
--- 木古庭 (9:20) --- 畠山 (9:50) --- 乳頭山 (10:20/10/40) --- 茅塚 (10:55)
--- 大桜 (11:20/11:25) --- 観音塚 (12:25/12:35) --- 戸根山 (12:55/13:05)
--- 仙元山 (13:20/13:30) --- 葉山元町 (13:50/14:08) === 逗子駅 (14:22)
山日記

暖かくなってきたし、花粉症も収まったのでそろそろ山登りを再開しようかなと思った矢先「まん延防止措置」が20日から施行されるとの報道があった。
この法は「生活に必要な場合を除き外出の自粛」ということなので山登りに行けなくなる(山登りは生活に必要か?という考えは人それぞれだけど僕はコロナ禍よりも世間の目の方が怖いので山登りに行かないのだ)。

まん防が施行される前に「駆け込み」で山に向かうしかねぇー!。
電車バスの乗車時間が少ない近場の山をアレコレ考えて選んだのは三浦半島の山だ。



車窓の外に大海原が広がった。寄せる波の白さにゆったりとした時間の中に包まれたような心地よさを感じる。
ウエットスーツに身を固めたサーファーが早朝から果敢に波に挑んでいる姿も浜辺沿いをジョギングする人に姿も、海岸沿いに並ぶ雰囲気の良い店も「わたせせいぞう」のスタイリッシュなイラストを見ているみたいで始めて訪れた葉山はお洒落なリゾート地に見えた。

前田橋でバスを降たら海が見たくなった。
それにしても葉山って車道の道幅が狭い。上り下りのバス停位置が離れているのも道幅が狭いからだろうか?そんな狭い道を車がビュンビュン走っているので向こう側に渡れず海岸まで降りるのは止めにしてしまった。

ポケットから地図を取り出す。いつも山に登るときは「山と高原」の山岳地図を持ってくるけどこの地域の地図は発行されていないので今回はネットで適当な地図をダウンロードしA3にプリントして持って来た。道があまり詳細でないので迷わないか不安だ。

バス停を降りるとそこに大楠山の道を示す表示があったのでその指示にしたがって歩いて行く。

前田川にあった案内板を見ると川沿いの遊歩道を歩いていくとその先に大楠山の登山口があるらしい。
持って来た地図では登山口など細かい事は一切分からないので素直にその案内図に従って歩いて行くことにした。

遊歩道は前田川の河原に作られているけれど、
前田川の両壁はブロックで埋め尽くされ、そこから突き出たパイプから生活排水らしき水が流れ出ているので何だかドブ川を歩いている感じがした。
ところが50mほど上って行くとブロック壁は無くなり森の中の渓谷のような景色に変わった。

浅瀬の飛び石を渡って行く。足元のカモはまだ寝ぼけているのか?全然逃げようとしない。
残念なのはまだ朝の早い時間なので渓谷は日陰になっており、水の流れも新緑もひっそりと陰の中で身を潜めたように寒々と見える。

遊歩道が終わり、川から車道へと登って行くと大楠山の登山口があった(バス停から車道を歩いて来てもこの登山口に来る様だ)。

登山道は小鳥の鳴き声に包まれていた。まるで三浦半島の鳥がここに集結しているのでは?と思えるくらい幾重にも重なって響き渡っている。

整備されて歩きやすい登山道はうっそうとした灌木に囲まれ、地面も羊歯などの草に覆われているので緑色の密度が濃厚だった。
杉や檜などの植林も無く人の手の入っていない自然の低山の姿をシッカリと残していた。

歩いているとすぐ横の枝を台湾リスがスルスルと渡って行く。近くの茂みの中を何か大きな動物がゴソゴソと逃げて行った。船の汽笛が聞こえるほどまだ港に近いはずなのにここは隙間のような森なのかもしれない。

標高が低く急な登り降りも無いので公園を歩いているように気分爽快だ。
ただ木々が密集しているので視界が開いている場所がないのは残念だった。


森のトンネルを抜けると木々の間に眩しいほどの海が広がっていた。

道が平坦になり広い場所に出た、視線を上に向けると緑に生い茂った枝の間に白い塔が見えた。登山口から登ってわずか40分で大楠山へ着いた。

木立の間に顔を出した青空の下、緑の森に埋もれるように白い建物が並び、その向こうにキラキラと小さな反射を繰り返すした海が広がっていた。
標高が低いので目の前の森も海も手が届きそうな近さだ。

白い電波塔は海が近いためか灯台を彷彿させた。
たしかこの辺りに黄色い花を咲かせた菜の花畑があるはずじゃ・・・
電波塔の下辺りには茶色の土が掘り起こされたままの畑が広がっていた。菜の花は花が終わったので刈り取られてしまったようだ。菜の花畑を見るには来るのが少し遅かったようだ。

電波塔横の展望台に登ってみると360度ぐるりと見渡すことが出来た。
春の富士山が新緑の森の向こうの海にぽっかりと浮かんでいる。半島なのでどこを見ても景色の奥には広大な海が広がっていた。

電波塔の周りをウロウロした後、下山しようと思ったら200mほど先にもっと高い場所があるのを見つけた。ここが大楠山の山頂だと思っていたけどどうやら山頂はアッチのようだ。


海が近いからか?灯台のように見える電波塔。でもここは山頂では無かった。

山頂はぽっかりと広場になっていて売店(ビューハウス)と展望塔があった。
展望塔は入り口に鍵がかかっていたので登ることは出来なかった。
先ほどの電波塔付近よりもこの広場の方が高い位置にあるので少し眺望が良くなった。

ツツジが満開でクロアゲハ蝶がせわしなく舞う広場は整備されているので山頂の趣は希薄だけどこうした天気が良い日にぶらりと訪れるには景色も良いし絶好な場所だと思う。
お弁当と文庫本がお似合いの自分を忘れてしまいそうな場所なのだ。


大楠山山頂広場のビューハウスと展望塔。展望台は鍵があって登れなかったのは残念!


広場からは気楽に海に浮かんでいる様な春の富士山の姿。


広場からの横須賀方面の景色。広場の周りには何かの台らしきコンクリの跡が多数ある。


広場から油壷方面の眺めでけど草木が生い茂っていなければと思う。


寝転がって文庫本を読みたい広場はツツジが満開で黒アゲハが乱舞していた。

大楠山の山頂から降り始めるとすぐにゴルフ場の横を歩くようになった。
金網の向こう側の日差したっぷりの芝生が眩しくどこか別世界のように見える。

ゴルフ場を過ぎ阿部倉の渓谷歩道を下って行く。
登山道は整備されているけど渓谷は自然美をまだしっかり残していた。
ひょっこりと車道に出た時には改めてこんな市街地と背中合わせの自然は珍しいと思った。


阿部倉の渓谷歩道は自然がたっぷりと残っていて、このすぐ下に民家があるなんて想像できない。

大楠山を降りて今度は畠山へ向かった。
阿部倉から横浜横須賀道路沿いに歩いて行けば不動橋に着くはずなのだがが持って来た地図では細かい道が良く分からない。
横横道路の下を潜って道路の右側(東側)に出てみたけど道路沿いの道が見つからないので道路を潜る前にあった「阿部倉温泉」への案内板の方へ進んでいった。

横横道路に沿った左側の道を歩いて行くと道路を横断する陸橋に出た。陸橋を渡らずに先に歩いて行くと道は横横道路を離れドンドン登って行くのでこっちではないようだ。
それで陸橋を渡って横横道路の右側へ行くと今度は横横道路に沿って歩く道が見当たらない。
良く見ると横横道路の左側に明らかに公道とは思えないかすかな踏み跡の細い道があり他に道は無いので一か八か行ってみることにした。

100mほど進むと畑になり、その先は横横道路の下を潜る場所で、とうとうここで行き止まりだと思ったらその先に獣道みたいに細い踏み跡があり、登って行くと横横道路の右側に出た。
50mほど先の陸橋を再び渡って横横道路の左側に出ると目の前は不動橋の交差点だ。

目の前に畠山が見えているのに登山口の案内が見つからない。
仕方なく近くで庭の手入れをしている人に道を尋ねた。教えられた通りに消防第一分団の右側の道を登って行き、民家が切れた所に畠山への登山道を示す案内板を見つけた時にはホッとした。


阿部倉から不動橋までは道が分かんなくて気持ちイライラ。でも優しい景色にも出会った。

ようやく山登りの再開だ。山を歩くよりも市街地を歩く方が疲れた。
畠山の登山道はしっかりと踏まれているけど一人がやっと通れるほど狭い。
途中にいくつかの分岐があるけれど案内板が示す地名が全く分からないのでとにかく畠山だけを追っかけて歩いた。

畠山の山頂はぽっかりと広くはなっている草地で全く展望は無かった。
標高が205mなので息が切れるような登りは無くて楽だったけれど逆に山登りをしている実感は乏しい。
ここで昼食にするつもりだったけれど座れる箇所が無かったので先へ進むことにした。


くそったれ畠山へ向かうぞ!散々迷って登りだすとすぐに長い回廊のような竹林。


畠山は展望も無くて地味な山頂だった。そんな事より登山中にマスクしている自分に違和感!

鳥の鳴き声も多いけれど横浜横須賀道路の車の音が絶えず聞こえる。

畠山から少し歩いたところに一か所だけ展望が利く場所があり横須賀方面が見えた。
登山口から登って来て初めての展望だったので延々と焦らされた後のちょっとしたご褒美みたいだ。


畠山から先を歩いていると山道に紅葉した?葉が散乱してた。緑にサイケ調の赤が生える。

乳頭山は茅塚への縦走路から100m離れた場所にあった。
これまでの閉ざされたドアを開いたように山頂にはポッカリと一か所だけ展望が利く箇所があって横須賀の海が覗いている。
潮騒もここまでは届かず木々で縁取りされた景色は音のないスクリーンのようにまぶしく輝いて見えた。

三角点の座台に座って遅い昼食だ。弁当のご飯が寒さで硬くならない季節になったのだ、雪山は登らない僕にとっていよいよ山登りのシーズンがやって来たのだという思いでがっつくカツ丼弁当はやたら旨かった。


乳頭山の山頂もあまり展望は良くなかったのでガックシ。


ただ山頂の一角から横横道路の向こうに横須賀の港を眺めることが出来た。


上の画像を右にパンすると続きはこんな風景。海は近いけど標高の低さを実感する景色でもある。

茅塚は縦走コースから外れていて分岐から100m先にあった。
登って行くと視界が開けた先に送電塔が立っていた。送電線はなだらかなスロープを作って里へと向かっている。

茅塚って山名ではなく山稜のピークの一つなのだろう。
茅塚を先に進むと縦走路に合流すると思ったけど何だか段々と踏み跡が怪しくなっていったので分岐まで戻ることにした(ただ縦走路の先に上山口小学校への分岐があったので茅塚を先に進んでも縦走路に合流したのかもしれない)。


開花の時期にはさぞ盛大に咲き誇ることだろう大きな桜の木。


ブナ科の常緑高木マテバシイの巨木が直線状に連なる尾根道。やっぱり葉山は温暖な土地?

観音塚は白いタブノキの巨木が印象的でその根本に小さな観音様が鎮座する静かな山頂だった。
枝から2cmほどの黒い毛虫がやたら垂れ下がっていることが気になってはいた。
ふと足元を見ると数匹の毛虫がズボンを這い上がっているのを見た瞬間に静寂は破られた。ズボンにくっ付いている毛虫を5匹をデコピンで弾き飛ばし頭を高速で叩くとすぐに山頂を後にした。


観音塚の山頂には白いタブノキの巨木。石仏があって静寂な山頂だなと思ったのも束の間・・・


タブノキはクスノキ科の常緑高木。マテバシイと見た目が変わらんけどと突っ込んでおきます。

大山への分岐で縦走路を離れ少し登ると標高189mの戸根山の山頂に着いた。
一気に目の前の展望が開け、ケエッ、上等じゃねーか!と思ったけど景色を眺める前にやることがある。
毛虫が付いていないか身体チェックしなくては落ち着かない。まずズボンを見て、靴を見て、それからTシャツを脱いで丹念に調べた。Tシャツで頭を激しく叩き、最後にザックに毛虫が付いていないかチェックした。

チェックしている最中に登って来た男性に「ここを登って行くと二子山へ行きますか?」と尋ねられたけれどそれどころじゃなかったのでつまんねー返事しか出来なかった。


ピークらしい感じはしない戸根山からは葉山の街並みが一望出来る。


駿河湾越しに江の島が見える。奥にあるはずの富士山や丹沢は白く霞んで見えなくなっていた。

戸根山の展望台から10分程降って行くと仙元山の展望広場と何だかややこしいが葉山の市街地を一望出来る場所に着いた。
展望広場は歩いてきた山稜の端っこにあたり標高118mの広場からは左に三ヶ岡山、一色海岸、右に森戸海岸や街並みを間近に眺められた。
海があると山並みが際立って見える。緑の山にぐるりと囲まれた葉山の街が日の光に照らされて銀色に広がり、その向こうに群青の大海原が音もなく広がっている。

今回の山登りもここが最終地点。
ここまでに10人位の人とすれ違ったけれど僕を含めてザックを背負っていたのはわずか2人だけで後の人は空身だった。このコースはハイキングというよりお散歩コースなのだろう。
今日の最高地点の大楠山でさえその標高はわずか241m、小さな登り降りはあるけれどほとんど平坦な道だった。
大腿四頭筋が悲鳴を上げるのが好きな人には物足りないコースかもしれないけど山と張り合う気持ちが無い人には手放しでシミジミ出来る山なのかもしれない。

展望が良い場所も少なくて一日中、森の中を歩いていた感じで標高も低いので山頂での達成感も乏しかった。
ただ新緑の先に彷徨う青い海は忘れられない光景になりそうな気がした。


テーブルのある仙元山の展望広場にピークは無く山頂らしくないけど葉山の街が一望出来る。


一日の終わりにこの風景、春の風に心が揺れた。

展望広場から降るとわずか10分で市街地に降り立った。
葉山教会の白さが新緑の静寂に際立っていた。地元に息づいた小ぢんまりとして清楚な感じの教会だ。

これで帰るのはまだ早い時間だったので森戸神社へ行ってみようと思ったけれど窮屈そうな道路は渋滞しそうな感じなので心惜しいけど早めに帰ることにした。

車窓の外には華やかな葉山の海岸が広がっている。
三浦半島は低い山ばかりで登山という括りの中では物足りないのでは?といままで気にしなかったけどファースト・インプレッションは決して悪くはなかった。
何で今まで来なかったのだろうという渇いた凄愴が前頭葉を虚ろにノックする。

森の小窓から見た海のシルエットは「このまま置き去りには出来ねぇーな?」という小さな予感に瞬きしていた。

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