笹子雁ヶ腹摺山、滝子山
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆3月15日
高尾 (6:14) +++ 笹子 (7:06/7:10) --- 矢立の杉 (8:05/8:10) --- 笹子峠 (8:20/8:25) --- 笹子雁ヶ腹摺山 (9:20/9:45) --- 米沢山 (10:25/10:30) --- お坊山 (11:05/11:15) --- 大鹿峠 (11:35) --- 大鹿山 (11:55/12:05) --- 曲り沢峠 (12:15/12:20) --- 滝子山 (13:30/13:50) --- 桧平 (14:15/14:20) --- 初狩 (15:55/16:03) +++ 高尾(16:35)

山日記

笹子駅のホームに降り立った瞬間に今日は良い日になりそうな感じがした。
頭上から降り注ぐ日差しは暖かくてそして元気を誘うように柔らかい。明けたばかりの空はまだ薄綿のような白さを残してはいるけれど晴れを予感させる光に満ち溢れていた。

駅から笹子峠へ向かった。
今日のこのコース、実は2週間前の3月1日にも歩いた道なのだ。その日の天気予報は「曇りのち晴れ」だったのに「矢立の杉」で急に雪が降り出した。
普通のハイカーだったらこんな雪なんて気にせずに山頂を目指すのだろうけれど、多分僕は打算的なのだろう、天気が悪い中を歩いて山頂を目指すか?それともここで引き返すのか?を両天秤にかけ、結局「矢立の杉」から引き返えす事を選んでしまった。

でも今日は違うな!朝からきっぱりと晴れ、もうそれだけで全てが上手くいくように思える。
昨日降った雨が車道に水溜りを作って、それがガチガチに凍っている。気温は低いのだろうけれど暖かな日差しに寒さは感じない。

甲州街道を緩やかに登ってゆく。
途中から車道を離れ「矢立の杉」までは遊歩道を歩いた。矢立の杉は先々週に見たからどうしても見たいというほどもないけど遊歩道を歩いた方が近道なのだ。

樹齢千年の矢立の杉。写真ではその大きさが分かりづらい

矢立の杉はやっぱりでかい!
深閑とした森の空気の中にひっそりとたたずむその姿は存在感あり。
樹齢千年とも言われ、高さ約26.5m、幹回り約9mの巨大樹。幹の内部は空洞になっていて中に入って見上げると空が見えるそうだけれど今は保護のために立ち入り禁止になっている。

この杉の木の近くにある歌碑と身代わり地蔵は「矢立の杉」を歌った杉良太郎が除幕式を行ったとかで、この日も甲州街道沿いの「矢立の杉・杉良太郎」のノボリがやたらとシツコかった。

「矢立の杉」から笹子峠までは遊歩道ではなくて車道を歩いた方が楽だったかもしれない。遊歩道とは言っても整備されてなくて踏跡も頼りなかった。それにアップダウンが多くて峠に着くまでにやたらカロリーの消費が多い感じなのだ。山に登る前にこんなに汗を掻いてどーする!

笹子トンネルの前が登山口になっていて、まだ山に登ってもいないのに「やっと着いた!」って感じで、ここで感動してどーする!
駐車場には数台の車。もう山へ向かっている人が居るのかと思うと出遅れたみたいな感じがして焦ってしまう。

笹子雁ヶ腹摺山(ささごがんがはらすりやま)へは笹子駅から直接登るルートもあるのだけれど、三ツ峠山から大菩薩嶺までつなげて歩く計画があるので少し遠回りになるけれど今回は笹子峠経由で登らなければいけないのだ!

笹子峠から尾根道へ登って行くとポッカリと八ヶ岳が見えた。
緩やかな道を登って稜線へ這い上がる。
ロープの垂れ下がった急斜面を登って行くと木々の間から周りの山々が次々とその姿を見せ始めた。八ヶ岳、奥秩父の山々、それから京戸山の向こうに少しだけ見えている真っ白な頂は南アルプスの山だろうけれど、どの山なのだろう?

尾根沿いの登山道からは奥秩父の山々もこんなに近くに見える。左から金峰山、朝日岳、奥千丈岳、国師ヶ岳
んーん、もしかしたら穴場的な山々だったかもしれん?
まーっ、僕が知らなかっただけだろうけれど目の前に次々と繰り広げられる予想以上の眺望にウヒャウヒャ喜びながら登って行く自分がいる。

その先で道が尾根沿いと巻き道とに分かれていた。地図を見ると尾根道は”藪有り”となっていたし、それに楽な方がやっぱり良いので素直に巻き道へ進んで行く。
でもこの道、展望が一切無くて、ついさっきまでの展望が嘘みたいに消えてしまってつまらないのだ。それで途中から無理やり斜面を突っ切って尾根道へ登ってしまった。

そうこうしていると南側に富士山も見えてきたよ。

冬だからだろうか?藪もまったく無くて快適な尾根歩きが続いた。
こうしてみるとここから八ヶ岳や金峰山は意外と近い。青空の大きさに押しつぶされたような甲府の市街地が銀色の瞬きを繰り返して、その向こうの白い山々の姿はそこだけ時間が止まってしまったかのような青白い壁、そう空に張り付いた両翼を広げた雄大な壁なんだ。

おーっ、御坂山の向こうに富士山が・・・
新たな発見にウヒャウヒャ喜びながら雁ヶ腹摺山頂へ登っていると登山口付近で追い越していった人がもう降りて来た。
「良い眺めでしたよ!」と言う言葉にどうしても足が速くなってしまう。

うーん、今日はとことん青空だったりする。
額が日光にチリチリするような感じもけっして嫌いでは無い。
笹子雁ヶ腹摺山の細長い山頂に一人だけ・・・そんな僕を富士山、南アルプス、八ヶ岳、奥秩父の山々がぐるりと取り囲んでいるという仕掛けだ。
昨年、甲州高尾山に登った時にも思ったけど、まだまだ知らない良い山ってあるもんだな。
こうしてじんわりと笑顔になってしまう山ってまだあるもんだな。

オニギリを食べていると一人の男性が登って来た。挨拶を交わすと直ぐに、よほど我慢していたらしくて山頂に着いた途端にジャーッとオシッコをし始めた。別に決まりは無いけれど普通、山頂でオシッコするか?静寂も風情もあったもんじゃない。もういきなり全部ふっ飛んだよ!
大体その横でオニギリを食べているオレの気持ちの置き所はどうなる!
その男性を見て思った・・・小させぇーなぁ!

笹子雁ヶ腹摺山の細長い山頂。南アルプスや八ヶ岳、奥秩父の展望が良くて穴場的な山なのだ。


山頂からはもちろんこうして富士山もしっかり見えてます

お腹も満たされたし、次の山へ向かおう。今日は秀麗富岳十二景の四番山を歩くのだ。
秀麗富岳十二景とは大月市が選定した割と楽に登れて富士山の展望が良い山。だから当然選ばれているのは山梨の山だけで静岡からクレームがいつ来てもおかしくない状況にあるけど百、二百、三百名山は入ってないのでどこか家庭的な雰囲気がある。
”富山”ではなく”富岳”にして連なった山は一つにまとめてあるのでその山の数は18座もある。

●秀麗富岳十二景

山頂からの南アルプスの展望。右から甲斐駒ケ岳、鳳凰三山、白峰三山
確かに山の良いけれど、甲府市街地を一望する展望にも惹かれる
雁ヶ腹摺山から100mほど進んだピークで道が二つに分かれていた。米沢山へは標示板に沿って右にほぼ90度折れて降って行く。直進方向にもしっかりと踏み跡があり、この道が甲斐大和駅から直接登るバリエーションルートなのかもしれない。
登山前にネットで笹子雁ヶ腹摺山を検索してみると甲斐大和駅から直接登るルートが紹介されていた。もちろん地図には登山道の表記は無い。

広葉樹の尾根、これがまた気持ち良いのだ。
見上げるとブナやコナラなどすっかり葉を落としてしまった枝の間から青空が覗き、暖かな日差しを全身に受けてのポカポカ陽気、そして木々の間からは絶えず白い雪を被った山を望むことが出来る。
米沢山もお坊山もかたくなに地味で、どこかぎこちなくて、ここには驚愕とか絶景とかの言葉は存在しないけれど山頂からの展望はゆるくて、こんなそぞろ歩くにはまったくのお似合いだ。

米沢山頂は開けた箇所は無いけれどそれなりに展望は良かった。


米沢山頂からの大菩薩嶺。このアングルの大菩薩嶺を見れるのはここからだけかもしれない。

お坊山から降り出してすぐの所で道が二つに分かれていた。
地図に従って左へ進んで降りて行くとパッタリと踏み跡が無くなって道が分からなくなってしまった。それでまた山頂へ戻って今度は右へ進む。こっちの道は一度東峰方向へ向かうので少し遠回りになるけれど道はハッキリしていた。

名前がかわいいお坊山はこんな感じ。山頂は広くないけど木々の間でのお弁当が美味しそうだ。


南アルプスからドンドン離れて行っているのに益々ハッキリと見えてきた。これは甲斐駒ケ岳。


三峰三山(農鳥岳、間ノ岳、北岳)は雪が多いなぁ。


さっきまで見えなかった荒川岳、塩見岳も見えてきた。

こんな低い山だって恐ろしいことはある。
お坊山から大鹿峠までは無慈悲なほどドンドン降って行く。滝子山が段々と視線の上へ移動して行くのは本当に恐ろしい。滝子山笹子雁ヶ腹摺山は四番山としてひとくくりにされているけど別にしても良かったのでは?と思えるほど離れているのだ。

大鹿峠から大鹿山へ、地図には巻き道を歩いた方が楽だと書かれているけれど巻き道を歩くと合流地点から大鹿山へ少し戻ることになるのでそれも面倒だし、それに巻き道は展望が悪いように思えたので尾根道を登ることにした。

何でだろう?今日はソロの人にしか会わない日だ。
米沢山、お坊山そしてここ大鹿山、それぞれの山頂に登って行くとそこには決まって一人の登山者が居て、そして自然に会話が始まる。
で、どちらかが山頂を後にするとふわりと会話が終わってしまう。
一人になった大鹿山頂からの展望はあまり良くは無かったけれど枝の隙間にわずかに広がる景色もそう悪い感じはしない。

山肌が一面茶色の小金沢連嶺の山々。僕がジャマだ!


山頂というより登山道の途中っぽい大鹿山。

大鹿山からは少し降っただけで曲り沢峠まではほぼ水平に巻いた道を歩いた。
曲り沢峠付近は分岐が交錯しているので地図を見ながら慎重に進む方向を確かめる。

すみ沢からの道と合流地点まで道はほぼ水平だったので歩くのが楽なのはやっぱり嬉しい。
合流点からはいよいよ今日最後の登りだ。大鹿峠から滝子山はかなり上の方に見えていたのでここで元気を出すためにオニギリ一個を充填完了。

滝子山はさすがに人気の山なんだ、ここに来て急に人が増えた。
空に向かって真っ直ぐに伸びる唐松林を抜けると芝生状態の草原へ変わり、途中で振り返ると幾重にも連なる山々の向こうに八ヶ岳や奥秩父の山々がまだしっかりと見えていた。

降りて来る人の中に軽アイゼンを付けている人が居るので何故?とは思っていたけれど鎮西ヶ池から先はまだしっかりと雪が残っていて、それもガリガリに凍っているので登るのが厄介だった。
山頂から降りて来た人の10人中8人が軽アイゼンを付けている状態だったけど僕はアイゼンを持って来ていなかったのでそのまま登って行った。
可笑しかったのは降りて来る人から「この先の雪の状態はどうですか?」と決まって質問されること。「鎮西ヶ池までしか雪はありませんよ!」と教えると一様に拍子抜けしていた。
北側斜面の雪は初狩への分岐までですっかり無くなってしまった。

防火帯なのでしょうか?芝生を歩いているみたいで気持ちの良い場所です。
後ろの山は大谷ヶ丸でその左に奥秩父の山々が見えてます。
中央線の車窓から眺める滝子山はデカイ。でもその山頂はあまり広くは無い。
本日最後の山頂には夫婦らしき2人だけで、くたーっとするには丁度良くて、空の広さを感じるには十分だった。
薄っすらと白くなった空に今にも溶け込んでしまいそうだけれどまたしっかりと富士山は残っていてくれて、遥か遠く空の下まで延びる小金沢連嶺はこうして見る度に旅情を誘う風景だし、やっぱりここもゆっくりしたい山頂の一つなんだ。

「この料理のポイントは・・・こうすると美味しく出来るのよ!」
一体何の料理を作っているのだろう?ガスストーブを囲む夫婦のコッヘルの中身が気になる。
僕の場合、ストーブを持って来たとしても作るのはせいぜいインスタントラーメンだし、苦労の割りには見返りが少ないように思えてしまって今では日帰りハイクでストーブを持ってくることもなくなってしまった(こんなところが僕が打算的なところ)。
でもこんなに天気が良いんだったら、せめてイカクンとお酒でも持って来るんだったな!

大谷ヶ丸への分岐点からはこんな八ヶ岳が見える。
茶色の山々の上に白い八ヶ岳はどこか春を感じさせます。


本日最後の山、4番山の滝子山へ着いた。
まだしっかり富士山が見えていた。

さて滝子山頂からの降り。
予定では先日、Rさんが歩いた寂ショウ尾根を降ろうと思っていた。そうすれば笹子駅からのグルリ旅も完結するわけだし、時間の短縮にもなるし。
でもなぁー、山頂の端っこまで来てみるとそこには「この先、危険」の札があって、そうなると”寂しい尾根っ”て言う名称もどこか危険な香りがするし・・・
ここで男としての選択は・・・・よっしゃ男の道は一本道!!!

滝子山頂からの小金沢連嶺の眺望。こんな景色を見せられるとどこまでも歩いて行きたくなってしまう。
滝子山から初狩駅へ向かって降りて行く(寂ショウ尾根はまた今度ね・・・)。
道の途中はどこもまだ広葉樹の落ち葉に埋め尽くされていた。

桧平で富士山とのお別れ、そして今日出会った色んな山々ともお別れだ。
この山は新緑や紅葉の季節も似合うかもしれない。また今日とは違った彩色の中で山々をしっかり見てみたい気がした。
今日歩いたコースは長くも無く短くも無く、軽い疲労感でちょうど良い距離だった。
ラジオの天気予報では今日の東京の最高気温は13℃だったらしいけれど、こうして山の上に居ても寒さを感じることは無かった。それはこの山の精一杯のおもてなしだったのかもしれない。
サクサクと落ち葉の感触を足裏で感じる。今日は春を予感させる良い一日だったなと思った。

暖かで良い一日だったなぁ!
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