扇山、百蔵山、岩殿山、高川山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆12月11日
立川(5:55) +++ 高尾(6:13/6:15) +++ 鳥沢(6:45/6:50) --- 登山口(梨の木平)(7:35/7:40) --- 扇山(8:40/9:05) --- 百蔵山(10:20/10:40) --- 岩殿入口(12:00/12:10) --- 岩殿山(12:35/12:55) --- 稚児落し(13:50/14:00) --- 大月(14:40/14:57) +++ 初狩(15:05/15:06) --- 高川山(16:05/16:45) --- 初狩(17:25/17:38) +++ 立川(18:45)

山日記

「秀麗富嶽十二景」というのがある。このやたら難しい漢字の羅列、威圧的でなんだかコチコチに硬そうなタイトルは大月市が選定した富士山が美しく見える場所(山)だ。
これらの場所は標高が高い山ばかりではないので富士山が見たくて見たくて、もだえ苦しみそうな時に直ぐに登れ、危うい所で悶死するのを回避する事が出来るのだ。
今回は各駅停車に飛び乗ってこれらの山を訪ねてみることにした。

鳥沢駅から扇山は直ぐ近くに見えた。標高1138m、良く晴れたこんな冬の日にのんびり登って富士山とご対面するのは格好の山だな!と歩き出すまえから思わずニンマリしてしまう。
扇山への道のアチコチにはしっかりと標示があるので迷うことなくその示す方向へ歩いてゆく。

やがて登山道はゴルフ場のフェンスにぶち当たると林道を離れて森の中を進んでいく。やっと山らしくなったなー!と思いながら数分歩いていると再び林道に飛び出してなんだか唖然としてしまう。
森の中を歩いた方が少しは距離が短くなるんだろうか?かえって林道を歩いた方が歩き易くて楽じゃないんだろうか?と思ってしまう。
イカンイカン!登山道を整備してくれた人が少しでも楽になるようにと考えてくれたに違いのだからこんなケシカラン事を思ってはいけないのだ。
振り返ると九鬼山の左から雪を被った富士山の頭だけが覗いていた。「あー、富士山が見えたよー!もっとよく見たい、下の方までズラリと見たい!」その姿に一気にボルテージが上がり、自然に足が速くなってしまう。
ところが登山道はゴルフ場のフェンス沿いに回りこむように進んで行くばかりで登山口が一向に見つからない。道の先を見ると立派な舗装道路につながっている。「あー、これはもー登山口を見落としてしまったに違いない?」とヘコム準備をしていると、何の事は無い、その立派な舗装道路はゴルフ場の入り口で、入り口の向かい側にヒッソリと登山口があったのだった。


扇山山頂 富士山の展望が良い
山頂で組体操の”扇”を1人でやっているバカな男

今日は12月にしては気温が高い、と言うか今年の冬は比較的暖かい日が続いて今日も気温が高い。
登りだして直ぐに汗が吹き出てきた。ザックは軽いし、山の標高が低いので楽勝ムードだし、何よりも富士山を早く見たいし、だからどうしてもオーバーペースになってしまうのだ。

登っている途中で視界を遮る木々が無く見晴らしが良さそうな場所があった。ここだったら富士山が見えるんじゃないかと振り向くとそこにちゃーんと富士山の姿があった。
「ジャーン!」オーケストラが鳴り響く、「やったー!」歓声が上がる、まったく頭の中がぐわんと一気に騒がしくなってしまう。
でもなぜだろう?富士山を見ると頭の中に突然オーケストラが出現してしまうのは???

そこからは稜線(大久保のコル)までは直ぐだった。一気に扇山山頂へ登って行く。

扇山山頂は秀麗富嶽十二景の名にふさわしい、素晴らしく富士山が堪能出来る場所だった。
北の方向には木々の間から中学の書き取りテストの出てきそうな名前の権現山が見える。西の方向には大菩薩連嶺の山々が大きい。権現、菩薩、そして今僕が居るのが扇山・・・とふと気が付くと何だかありがたく縁起の良さそうな名前に囲まれているのだった。

山頂には僕一人、富士山を見ながら朝食にした。実は電車の中で食べようとコンビニでのり弁を買ったんだけど忘年会の二日酔いで食欲が無く、食べられなかったのだった。
だけどよっぽどお腹がすいていたのか?のり弁の他にオニギリを2個も食べてしまったのには自分でも苦笑してしまった。
おまえはヘンリー8世かっつーの?

扇山から大久保のコルまで戻って百蔵山へと向う。尾根上の道は防火帯なのか?広くてただ歩くだけで爽快な気分にさせてくれる。
足元には落葉が幾重にも重なっていてカサカサと音を立てる。木々の間をせわしそうに飛び交う小鳥の澄んだ声が聞こえる。暖かな日差しを横切るたびに自然がそっと耳打ちしてくる。


百蔵山山頂 南側の展望が良い
まったく何かポーズとれよっ!
うむむっ!やっぱ一年に一度はこうして落葉の中に足先を埋もれさせなくちゃいけないなー!カサカサの中に身を埋もれさせなくちゃいけないなー!という思いにふわりと包まれてしまう。
ところがそんな感情もポケットから落ちるコインみたいにバラバラと散ってしまった。
大久保山からいきなり急な降り道に変わった。急なだけでも大変なのに落葉がしっかりと積もっているので滑ってしまい危なくてしょーが無い。
そんな道を一気に200mの急降下!これは結構膝に効いた、足がガクガクになってしまった。
だけど一度降りてしまうと道はほとんど平坦になってグルリとタコラ山を巻いて雑木林の中を進んで行く。
そして急登になるがこれも直ぐに終わって百蔵山山頂だ。

「ジャーン!」オーケストラが再び鳴り響く!
百蔵山山頂は広く、ここも富士山の展望が素晴らしい。富士山を見るとさっきまでは雲一つ無かったのにいつの間にか山頂から南へ長く雲が流れていた。
百蔵山は富士山の北東方向にあるので昼近くになると逆光で白く霞んでしまう。肉眼ではハッキリと見えた富士山も後で写真を見るとイマイチなのはしょーがない。
山頂には10人ほどの登山者でなぜか男性ばかり、なぜか単独行の人が多かった。ここから扇山へ向うらしい。
百蔵山から一気に福泉寺まで降る。


岩殿山の中腹にある公園からの鏡岩。 どうやって登るのだろう?と思ってしまうほどデカイ!
これで終わったと思ったらオーマチガイ!
まだまだ歩きまっせ!自分の足にしっかりと言い聞かせる。
一度、山を降りるとどうしてもモチベーションが下がってしまうのでここで気持ちをリセットする。こう書くと結構カッコヨク聞こえるが、心の隅っこの方では「予想以上に疲れてんなー!あー、これからまた登るのか!」といった情けない自分が顔をだしていることも否めない。だからそんな自分に気合いを入れなくてはいけないのだ。

葛野川の橋を渡って岩殿山へ向う。地図では岩殿のバス停付近から登山道があるけど見つからないのでそのまま岩殿山を巻くように舗装道路を歩いて行って大月駅側の正面から登ることにした。

岩殿山は中央本線に乗る度に車窓から見るその異様な岩壁の姿が前から気になっていた山だ。ただ標高が低いし、それに多分観光地化されてしまっているんだろーな!と思えて今まで足が向かなかった。
階段を登って行くと公園になっていてここからはあの気になっていた岩壁(鏡岩)が真直に見えてすごい迫力だ。こんなでかい岩をどうやって登って行くだろー?と思っていると道は岩の左側をコキコキと折れ曲がりながら登ってゆく。

「ジャーン!」ここではオーケストラは鳴り響かなかった、残念!
ここも秀麗富嶽十二景の一つなので富士山の眺めは素晴らしいに違いないのだけれど今は完全に逆光になってしまっていて白っぽくにしかその姿を確認できなかった。

岩殿山は武田二十四将のひとり、小山田信茂が城を築いた地らしく、山頂周辺には揚木戸跡、本丸跡、狼煙(のろし)台、馬場跡などが残されている。ただ山頂は狭くはないが起伏があり、ここに城があったり、まして馬を乗り回していたなんてとても信じられない。
一番高い山頂にはパラボラアンテナがあって味気ないので立ち寄っただけで直ぐに引き返し、石碑が立つ所で休憩した。
ここは周りをグルリと山々に囲まれた大月市街が一望出来る場所だった。早朝だったら市街地とその後ろにそびえる富士山の姿がオーケストラを呼び寄せるに違いない。


岩殿山山頂の石碑 この時は1分後に腕立て伏せをする野球少年に囲まれることになるなんて思いもしない
地元の野球部らしいユニホームを着た少年が駆け上がって来て元気良く「コンチハ!」と挨拶してきた。「ウオッス!」と挨拶を返した途端に後から後から次々と駆け上がって来て挨拶の嵐だ。全員にはとても挨拶を返しきれないので間引きして3人に1人の割合で挨拶を返した。これって山で大パーティーに遭遇した場合の対処法と同じだ。
「全員来たかー!」キャプテンらしい少年が叫んだ。やっと終わったか!とホッとしていると挨拶疲れしている僕を囲んで腕立て伏せが始まった。もーとても休んでいる気分ではないのでトットとザックを背負った。

カブト岩付近の岩場 この時は1分後にカメラを落とし壊してしまいガーン!となるなんて思いもしない

意外だったのは岩殿山から稚児落しまでの登山道は本当に山らしい道だった。扇山や百倉山は所々に檜の植林があるのでどこかに人の匂いを感じてしまう。
ところが岩殿山からの登山道は雑木林の中の小さな起伏を登り降りしたり、チョットした岩場があったりと距離は短いけれど変化に富んだ面白い道だった。
そしてその先に待っていたのは稚児落しの大・大・大岩壁だった。僕の写真ではその大きさが伝わらないのが何とももどかしい。
稚児落しは昔、城主が敵から追われて落ち延びる途中、敵に声を聞かれては居場所を気付かれてしまうと泣く子供をここから投げ落としたという悲話が残る場所。
こうして目の前にその岩壁を臨むと「なにもこんな高い所から落とさなくても・・・
」と思わずにはいられななかった。

岩壁の上に行ってみると十人ほどが休んでいた。なぜかその人達の視線が僕に注がれている。どうしたんだろー?と思っているとその中の1人が「あのー、あなた先ほど下の岩から写真を撮ってた人ですよね?ここから見ているとあなたが岩の縁から落っこちそうなんでみんなで大騒ぎしたんですよー!」
僕は小心者なのでもちろん岩の端っこまで行かなかったのだけれどそー言われるとちょっと自慢したくなって「あれ位、何でもないですよ!」とシタリ顔で答えているのだった。

岩殿山を降り、大月駅に着いた。
これで終わったと思ったらオーマチガイ!自分の足にしっかりと言い聞かせ、電車で初狩へ向う。

高川山も「秀麗富嶽十二景」の一つでいつも沢山のハイカーで賑わっている山だ。以前はうっそうとした木々に山頂は覆われて展望は良くなかったそうだが、その木々を伐採した途端、富士山が良く見える山としてブレイクしたらしい。
ただ標高が976mと低く、コースタイムが登り一時間半、降り一時間と短く、この山だけ登るというのではあまりにも物足りないので他の山と抱き合わせでしか登られない、ちょっとかわいそーな山だ。

初狩から高川山へ向っていると大勢の人が降りてくる。「こんな時間から登ろうとしてるなんて、やだわぁー!登山の常識にかけるわね!」なんて思われているに違いない。すれ違う時、自然と視線が伏せ目がちになってしまう。
だけどその目には「まだ歩ける。まだ歩きたい。もっと山に触れていたい!」という炎がメラメラと燃え上がっているのだった。
途中で男坂と女坂に分かれているがここは当然、男坂を登っていく。こんな低山でも山はかっしりと勝負を挑んでくるのでそれにちゃんとこたえなくてはいけない。


稚児落しの大岩壁 岩の上に人が数人立っているのだけれどそれが分からないほどデカイ!
しかしこんな所から落とされたらタマンナイねぇー

「ジャーン!」オーケストラが再び鳴り響く!
高川山山頂に着いた時にはもーすっかり日は傾いてしまっていた。茜色のスクリーンをバックに三角形のシルエットが浮かび上がっている。あいにく、五合目から下はどんよりとした雲に覆われて全貌を見ることは出来ない。
でも十分である。十分と言うか最後にこんな光景に会えて「私ってこんなに幸せでいいの?」とそこには炎メラメラは消え、昼ドラ風の瞳うるうる視線で富士山を眺める僕が居たのだった。

せっかくだからもう少し待って夜景を見よう!
日が落ちると急に寒くなった。フリースを着ると寒さは和らいだが顔が冷たい。どうせ誰も居ないのだからとバンダナをマチコ巻きにして顔を覆った。
段々と暗くなっていくにつれて富士吉田の街にポツポツと燈が灯っていく。もう少しだ、もう少し待とう!そうすれば富士山とその下に広がる夜景を見ることが出来るのだ。


高川山山頂 富士山展望の山として人気がある山もさすがにこの時間には誰も居ない
ところがしばらく待っていると5合目辺りを漂っていた雲がモクモクと上がって来て富士山を完全に被い隠してしまった。
このまま待ってたら雲は取れるだろうか?待つか、それとも諦めて下山するか?
山頂に小さな祠があるので雲が取れてくれることを祈って手を合わせた。
何気なく祠の横を見ると缶が置いてあってその中には数本のタバコの吸殻があった。
それを見た途端、もう少し寒さを我慢してここで待っていようかという気持ちがシュルシュルと萎んでいってしまった。俗化されてしまった地球のほんの小さなデッパリで頑張っているのがアホらしくなってしまった。
「バーロー!自分で吸った吸殻くらい自分で持って帰れっつーの!」そう捨て台詞を吐くと山頂を後にした。
ヘッドランプを点けて降って行く。枯葉が積もった道はライトの光では分かりづらく、林道に出た時にはさすがにホッとした。

本当に長い一日だったと思う。色んな富士山を見てその度に心の中で「ジャーン!」鳴り響いた。
「良くガンバッテくれた、良く歩いてくれた、後はゆっくりと歩いて行くべぇ!」ライトの光の浮かび上がる自分の足に向って言葉をかける。
前方に視線を向けるとライトに墓石が浮かび上がった。墓地の横を歩いていることに気がついて思わず駆け出してしまった。
「やっぱ、もう少し、もう少しガンバッてくれ!」心の中で叫んでいた。

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