尾瀬

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:タクシー)

◆10月16日
浅草(23:55) +++ 会津高原(?/4:00) === 尾瀬御池(5:30/5:40) --- 広沢田代(6:45/7:00) --- 熊沢田代(7:50/8:00) --- 燧ケ岳(9:25/10:05) --- 温泉小屋(12:35/12:50) --- 三条ノ滝(13:20/13:30) --- 温泉小屋(14:10/14:20) --- ヨッピ橋(15:05) --- 山ノ鼻キャンプ場(テント泊)(16:20)
◆10月17日
山ノ鼻キャンプ場(3:30) --- 中間点(5:00) --- 至仏山(6:25/7:00) --- 鳩待峠(8:45/8:55) --- 横田代(9:50/10:00) --- アヤメ平(10:25/10:40) --- 富士見峠(10:55/11:05) --- 白尾山(11:45/11:50) --- 皿伏山(12:40/12:50) --- 大清水平(13:20/13:30) --- 長蔵小屋(14:25/14:55) --- 沼山峠(15:45/16:20) === 会津高原(18:15/18:31) +++ 浅草(22:04)

山日記 (ぐるり尾瀬御池〜山の鼻 編)

倉本聡さんと田部井淳子さんが尾瀬を探訪するテレビ番組「遥かなる尾瀬紀行」を見た。
戸倉から新緑の木々を眺めながら登って行くとそこには湿原が広がっていた。そして湿原の向こうには燧ケ岳の姿・・・
一発でノックアウトされちまった。それもブロー打ちみたいにジワジワ効いてくるパンチじゃない、顔面に一発バスンと強烈なストレートパンチだ。
その場所はアヤメ平。一度だけ尾瀬には行った事があるけどこんな素晴らしい場所があるなんて全然知らなかった。知らなかったと言うより尾瀬には燧ケ岳と至仏山の二つの百名山があるので地図を見る視線はどうしても二つのピークに吸い寄せられてしまっていた。
この光景は絶対に自分の目で見るしかない、ブラウン管ではなく自分の目ん玉でだ!。
直ぐにでも見に行きたかったけど尾瀬と言えば年間40万人が訪れる観光地。混雑している場所が特に嫌いな僕には大勢のハイカーが木道をゾロゾロと歩く姿を想像しただけで頭が痛くなりそうだ。
ハイカーが少ない時期はあるのだろうか?「連休の前後は意外と空いているよ」山小屋のオヤジが言っていた言葉を思い出した。紅葉の時期を少し過ぎてしまったのは残念だけど10月三連休の後である今が狙い目だと思って出かけることにした。

東武浅草駅に来て見ると改札の前にザック姿のハイカーが予想以上に多いのに驚いた。
23:55発の電車に乗る。やっぱり乗客は少なくて車両の中を見渡してみると僕だけではなく他の客も二人掛けの座席に一人ずつ座っているといった様子だ。
座席横にたたんであるテーブルを持ち上げズラリとお酒とツマミを並べる。夜行列車では中々眠れないまま目的の駅に着いてしまうことが多いので最近は開き直って寝るのは諦め、こうなったら徹夜でお酒を飲んでしまうけんね!という作戦にうって出た。
車窓の外を次々と街の灯かりが流れて行き、そんな光景をボンヤリと眺めながらのお酒がまた旨い。だけどこの日は疲れていたのか30分ほど飲むと急に眠くなってしまい、いつの間にか眠ってしまった。
「うるせぇーぞ!」誰かが発した声でハッと目が覚めた。うるさくしている人を注意したのだろうか?とウツラウツラ考えていたらまた眠ってしまった。
「会津高原に着きました」次に目を覚ましたのは車内アナウンスの声だった。
慌てて起きて残っているお酒をザックにしまった。「夜中ずーっと話をしている人がいてほーんと眠れなかったわー!」通路を歩くおばちゃん達がブツブツとボヤキながら通り過ぎていった。どうやら話し声も気にならないくらい熟睡というか泥酔してしまったらしい。

駅前に待っていたバスに乗り込んで尾瀬に向かう。バスは左へ右へと大きく揺れながら走って行くのでさすがに眠れないまま尾瀬御池に到着した。
尾瀬御池は夜明け前でまだ薄暗かった。周りを眺めても山や木々の形がどうにか判別できる程度にボンヤリと浮かび上がっているだけで寒々としている。昨夜コンビニで買った弁当をここで食べから出発しようと思っていたけどが二日酔い気味で食欲が無く、それにこんな薄暗い場所で食べては気分まで暗くなりそうだったので水を満たしたペットボトルをザックに突っ込むと歩き出した。
駐車場を横切って歩いて行くと登山口には入山者の数をカウントする装置が設置してあった。センサーの間を通り抜ける。この瞬間、カウンターが一つ加算され、僕が入山者の一人として認識されたのだと思うと妙に嬉しかったりする。
燧裏林道への分岐を左に折れるといきなりの急登が待っていた。
岩がゴロゴロしている上に地面がぬかるんでいるので歩きにくい。今年の秋は長雨に加えて台風も連発し降水量が多かった。そのせいかもしれないが登山道にデカイ水溜りがアチコチに出来ている。
ジンワリと明るくなってきた空を見上げると天気予報では晴れのち曇りだったがあいにくの曇り空。ただ高曇りだったので視界はハッキリしている。そのうちに晴れることを祈りつつ登って行く。
前を歩いているおっちゃんがヌカルミを丁寧と言うか必要以上に除けて歩いているのが気になる。しっかりとした登山靴履いてんだからこれくらいのヌカルミが何だっつーの!靴が汚れるのが何だっつーの!嫌だなー、みみっちいなー、せこい奴っちゃなー、たまにこうゆう奴が居るけど見ているこっちが情けなくなってくる。「おーし!見ていろ男は気合だ!とヌカルミの中にドカドカと突っ込んで行ったら予想以上に深く、歩き出してまだ15分なのに一気にズボンが泥だらけになってしまって・・・瞼をパチパチとしばたたきながら思った「僕って一人でいったい何やってんのー???」

急勾配だった道が緩やかになり一気に視界が開けた。広沢田代は一面の草紅葉の草原だ。ポツポツと地塘が点在している草原の中を一本の木道が白い絹糸みたいに向こうの山に向かって延びている。
「山って良いよなー!」こんな景色に遭遇するとこんな言葉が思わず口を吐いて出る。前回登った槍ヶ岳などのトンガリ系の山ももちろん良いのだけれど、こんな山中の小さな湿原のノホホン系もやっぱり良い。この季節は草花など色鮮やかさは無いが目に映る光景は深みを帯び、どこまでも柔らかい。
そして良い景色にはオイ物(美味しいもの)が欠かせない。湿原の真中に板を敷き詰めた場所があったのでそこでザックを下ろし食べずに取っておいた幕の内弁当を取り出した。疲労回復には良い景色とオイ物が一番!これで体力、気力とも充実!再び燧ケ岳のテッペンを目指して歩き出した。


熊沢田代と燧ケ岳山頂 湿原から上は初雪が残っていた
ところが歩き出して50mほど歩いた辺りから急に木道が霜で真っ白になってしまい、ほんのわずかな傾斜なのにツルツル滑って登れなくなってしまった。かといって木道を降りて湿原をズカズカと歩くわけにはいかず「どーしたらええの?」状態で立ち尽してしまう。
僕の前後を歩いている人達を見るとシューズに布を巻いて滑り止めにしている人もいる。草原の中の木道はのどかな景観の要因だけれど今の季節は一変して悪い奴に変わってしまうのねー。これを木道の越後屋化と呼ぶかどうかはさておき、今はどうにかしてこれを登らなきゃいけない。
しょーがないのですべる箇所に出くわすと2,3歩下がってダァーッと勢いをつけて駆け上がった。まかり間違えば大コケすることになりそうな方法だけどせっかちな性格の僕にはシューズに布を巻くなんて方法はカッタルクてやってられなかったのだ。
湿地帯を抜けると再び岩がゴツゴツした急登になってしまったがこっちの方が安心して登れるので返って楽だった。
登っている途中で眺望が良い場所があると立ち止まっては景観を楽しんだ。今朝、登り始めた時はまだ暗くて分からなかったが振り返って見下ろすと尾瀬御池付近はすごい紅葉だったのに気が付いた。御池を中心に沼山峠の方まで一面ビッシリと黄色の濃淡に覆われている。あーっ、ここで太陽の日差しがあったならどんなに素晴らしいだろう。自分の力ではどうする事も出来ないこのもどかしさ!仰ぎ見ると相変わらず厚ぼったい曇が空を覆っていた。
でも目の前に熊沢田代が見えたときには「曇りだろうが何だろうが良い物は良い、素晴らしいものは素晴らしい、どうだ参ったかこのやろー!」と鼻息が荒くなるほどとトキメイテしまった。
熊沢田代は少し低い位置にあるのでわっせわっせと登っているといきなりその黄金色の草原の全貌が視界に飛び込んでくるのだ。上から眺めるとすり鉢状の湿原の真中に地塘があり、木道はそこに向けて一旦降りて行き、地塘から先は燧ケ岳のテッペンを目指して突き進んでいるような感じで這い上がっていた。
ここで初めて燧ケ岳のてっぺんとご対面、いやがうえにも気合が入る。ところが湿原へ向かって降りようとすると木道には一度融けた雪がゴリゴリと凍りついているのではやる気持ちを抑えつつ慎重に足を進めなければいけなかった。
そこでふと気が付いたんだけど・・・僕はどうも他の人より滑っているような感じだ。前や後ろを歩いている人を見ると結構平気で歩いているのだけれど僕はといえば足がツルツルと滑りまくっていつコケてもおかしくない状況なのだ。足運びが悪いのか?ビブラムに根性が無いのか?それともデカザックを背負っているので足裏の一平方cm当りの圧力が高いのか?何だか一人でコケまくっていた。

熊沢田代の真ん中に立って平ヶ岳を眺める。
あっちは快晴、こっちは曇り空

熊沢田代からの登り 振り返ると湿原の向こうに会津駒ケ岳
「なさけねー!」とボヤキながらもどうにか湿地の真中にある地塘まで降りて来た。

平ヶ岳を眺める・・・と山の眺望も良かったんだけどそれよりも気になったのは山の上空に広がる雲だった。平ヶ岳辺りの上空を雲と晴れとの境界線が横一文字に横切っている。つまり平ヶ岳を境に北側は雲一つ無い晴天、でぇーこっち側は無残に雲の下なのだ。「高気圧さぁー、おめぇーもう少し、ほんのちょっとで良いからさー、こっちに張り出してもらえないかなー」と思わず哀願させられる光景なのでした。

この辺りからチラホラと新雪が融け残っていた。そして予想通りの恐怖の氷漬け木道が待っていて滑ってしまうので登って行くのに一苦労させられる。「でももう少しだ!熊沢田代から見えたテッペンはすぐそこだ!」と頑張っているとまもなく燧ケ岳のテッペンに到着。
今回、燧ケ岳は5年前の6月に続いて2回目なんだけどやっぱり眺望は素晴らしい。曇り空なので遠望は利かないが平ヶ岳、会津駒ケ岳など360度の展望は思わず拍手喝采ものだぁー!
眼下に見える尾瀬沼は周りの彩色をすべて溶け込んだような深い黒色をしている。尾瀬ヶ原は草紅葉で一面の茶色、そしてその奥には初冠雪で山頂付近が白くなった至仏山が見える。

燧ケ岳山頂から双耳峰の柴安ーを臨む 北西方向は快晴なのに・・・
ただ正直に言えば・・・今朝、登っているうちに晴れてくるだろー?と期待したが山頂に着いてもやっぱり曇りのままだった、朝と変わらず北から西のかけての空は真っ青に晴れ渡っているのに僕の頭の上には重そうな雲が貼り付いている。この雲の向こう側、今、北の山のてっぺんに居る人が羨ましくため息まじりに目の前の景色を眺めていたのだった。

柴安ーからの尾瀬ヶ原 時空を越えた浪漫を感じる
双耳峰の柴安ーに行く。尾瀬ヶ原を渡って来た風が直接当るので風が強い。
尾瀬ヶ原は燧ケ岳の爆発で川が堰き止められ沼になり、そこに周りから土砂が流れ込んで次第に埋まり今の湿地帯になったそうだ。
こうやって山頂に立ち、尾瀬ヶ原を眺めているとそんな太古の情景がフッと風の狭間に見えた気がした。
「山はどこまでもロマンチック!」正面から風を受けながら曇り空に閉じてしまいそうな心の片隅で何となくだけど実感出来るものがあった。
山頂から10分程降ると見晴と温泉小屋との分岐点である。標示板の下に見晴新道は初級者向け、それから僕がこれから向かおうとしている温泉小屋道は上級者向けと赤ペンキで書かれていた。
上級者という言葉に一瞬ビビッたがよーく考えたら「ハイカーで賑わう尾瀬の山で上級者もへったくれも無いだろ?多分これは残雪期か何かの事を言っているんだろう」と予定通り温泉小屋道を降りて行った。
岩がゴロゴロとした急斜面を降りて行くとやがて道がぬかるんできた。ここまでの道で既に登山靴、ズボンの下辺りは泥んこになっているので今さらあたふた慌てることはない。
ただ最初チョロチョロだった登山道を流れる水が段々と増えていき、登山道だか沢なのか分からないような状況になってきた。
今年の秋雨は雨量が多いので余計こんなプチ沢状態になっているのかもしれない。しっかりとした靴を履いた登山者にはナンテコトー無いがズックのハイカーには意地悪な道だ。

これ沢ではありません。登山道を水が流れています。歩きにくいです。でも紅葉が綺麗だから許そう。

今世間を騒がしているスギヒラダケです。登山道に群生しています。おいしそうです。
温泉小屋から三条ノ滝までピストンする。その前に元湯山荘前の休憩所で一休み。目の前の売店にはジュースの缶がどこか無造作に並べられている。壁に掛けられたお品書きは何年にもわたって幾度となく日光や風にさらされたのを物語るようにくすんでしまっていて、しっぽりと空間に溶け込んでいる。
その中におばあさんがポツンと座って店番をしていた。普段目にするコンビニでの整然とした陳列に慣れてしまっているとこんな何でもない風景に心が何かを思い出そうと揺れ動く。
「手荷物無料で預かります」と書かれた紙が貼ってある。おばあさんにザックを預かってもらおうと思ったけど只で預かってもらって何も買わないというのはさすがに気が引けるのでザックはベンチに置いて三条ノ滝へ向った。(おばあさんゴメンなー!)
途中に平滑ノ滝というのがあった。なだらかな傾斜を水がいくつもの白い隆起となって流れて行く。展望台から見ると滝はかなり下の方にしか見えないのでその迫力が実感できない。「あれがそーだ!」と見下ろすんだけど小さくしか見えないので「すごいなー!」と感激した方が良いのかどうか迷ってしまう。
展望台から三条ノ滝までの道を地図で見ると登山道を横切る等高線の数は少ないが歩いていると予想以上にドンドンと降っていってしまうので「うそだろ〜!」とマキ舌で困惑してしまう。
三条ノ滝は名爆100選にも選ばれている滝でその特徴は「滝を落ちる水量が多く迫力がある」と言うことだったので見るのを楽しみにしていた。
ただ僕の期待度がデカ過ぎたのか、たしかに水量は多いけどあまり個性的には感じられず・・・とここでも困惑してしまう。
おまけに隣のどすこい系のおばちゃんが「今年の紅葉はやっぱダメだねぇー」と塩辛声(ってどんな声?)でがなりたてるので余計「ダメ」って言葉がまとわり付いて離れなくなってしまった。
こんなマイナス思考は感染し易い。いかん、いかんこんな塩辛おばちゃんに負けちゃだめだ!ダメダメ呪縛から逃るんだ!きっと6月の雪融けの頃はもっとスゴイことになるに決まっている!そーに間違いない!とウンウンとうなずきながら温泉小屋に戻って行った。

売店の店番はおばあさんからおじいさんに代わっていた。ジュースを飲みながら「ここはいつまでやってるんですか?」と尋ねると「今年は18日までやって20日には山を降りようと思っている」とどことなく寂しそうだった。
”山を降りる”って言葉にもうそこまでやって来ている冬を感じた。深い雪に閉ざされてた尾瀬の姿が彷彿させられた。

三条ノ滝はなんてったって名爆100選。清く正しく美しく!

温泉小屋から三条ノ滝へ向う道は落葉でにぎわっています。
温泉小屋からは山ノ鼻までは僕の好きな草原や湿地帯がたっぷりとあるので歩き出す前からその柔らかな風景を思い浮かべるとそれだけで気分はキラキラしてくる。
ただ出来れば透明感のある秋の日差しをヤンワリと受けながらの散策が理想、というか心の中の憧れ方程式の答えなんだけど残念なことに今日は不正解!。相変わらず高曇りで目の前の木道の両脇にずわーんと広がる光景はちょっと冴えないのだった。
それでもやっぱり良い物は良い!木道をトコトコと歩く開放感!日常生活の常軌から引き離れ束縛されること無く薄茶色の草紅葉の中を自由気ままに歩くことの充実感!。
6月に来た時よりもさすがに人の姿は少なく、そのことも気分を心地よく開放させる。
草原、地塘、山、それから周りの紅葉した木々が僕を静かに待ち構えている。その珠玉のような自然の中に身を置くことの幸せ感、一歩一歩、かみしめるように歩いて行く。
何となく可笑しいヨッピだぁー そんなホンワカ気分で歩いていると木道のど真中に何やら立札が立っていた。「この辺りは熊が多く目撃されています。人がいることを熊に知らせるためこの鐘を叩いてください!」
何かを忘れて来たって気になっていたけどこの立札を見てそれが鈴をザックに付け忘れてきたことだって事を思い出した。自宅を出る直前まで「尾瀬では過去にも熊の目撃例が報告されているのでザックに鈴を付けなくてはいけない」って思っていたんだけどザワザワとした装備の準備に追われてすっかり忘れてしまった。

男は一人、黙って尾瀬の秋を噛みしめながら歩いて行きます。これぞ秋ならではの浪漫です。
そういえば最近は日本のアチコチで熊が出没して騒ぎを起こしている。ただこれは熊が一歩的に悪いのではないのでニュースで熊が射殺された映像を見るとどこかやるせない気持ちにさせられてしまう。

本当にエーやん!ちとこれは表現が軽かった。
池塘越しに見る燧ケ岳は良か良か度100%。
ここには熊は出てこないで欲しい、何も騒ぎを起こさないでほしい!そんな気持ちをこめて思いっきりカナヅチで鐘を連打した。
ハッと気が付いたら「サンバの次はボサノバ、ボサノバはやっぱミュートが命!」ってエキサイトして色んなリズムで鐘を叩いている自分がそこにいて「あのー、たしかこれって熊のために叩いてるだよな。それをミュートなんかしてどーする!
ここでも自分のオチョーシ者の性格を垣間見てアホさに呆れてしまった。
この鐘は木道に数箇所設置されていたがあとは平常心で叩くことが出来た、めでたし、めでたし!って当たり前だろっ!
山ノ鼻に到着。至仏山荘でテン場代800円を払うとビジターセンター前のテン場に行った。
20張りくらいだろうか、予想以上にテントが設置してあったが混んでは無く、隣のテントともテキトーに距離を取って設営することが出来た。
テントは音が思っている以上に筒抜けになるので隣の話し声やラジオの音さえも気になって眠れないことがあり余り隣接していると結構ツライのだ。

テントの中から段々と暮れてゆく外の景色を眺めながらホットウイスキーを飲んでいるとそれまで空を覆っていた雲が切れ、どんよりと灰色一色だった空を押しのけるように茜色の光が差し込んできた。


山ノ鼻キャンプ場 テン場代800円は高いけど水が豊富なので考えようによってはお徳かも。

残照に燃える至仏山 色んなことを語りかけてくる気がします。
カメラをつかんでテントを飛び出す。かなり酔っ払っているので足がもつれて上手く走れないのが何とももどかしい。近くのテントからも同じようにカメラを抱えた男性が飛び出し僕の前を走って行く。
どこか見晴らしが良い場所は無いだろうか?と考えながら走っていると前を走る男性は湿原散策路への木道を進んでいったので僕もその後に続いた。

湿原に着いて西の空を見上げると至仏山上空の雲が夕日に照らされて真っ赤に焼けている。この光景はもちろん素晴らしかった、だけどそれよりも今日は一日曇り空だったので何だか久しぶりに太陽を見たような気がしてそのことが嬉しかった。

数枚の写真を撮り終えると隣で三脚を広げた男性とどちらともなく「間に合いましたね!」とニッコリ。
お互いにその一言だけで今まさに暮れようとしている空に視線を移してしまう。
そして沈黙の自然、その雄弁さに圧倒されて押し黙ってしまった。

陽が落ちると辺りは一気に闇に包まれだした。テントに戻ろうと木道を歩いていると急にブルッと寒気を覚えた。
僕は何かを払うように大きく肩を左右にゆするとテントにもぐり込んだ。

ぐるり山の鼻〜沼山峠編 へ続く

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