羅臼岳
行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆8月17日
ウトロ (8:50) === 岩尾別温泉 (木下小屋)(9:14/9:35) --- 弥三吉水 (10:40/10:50) --- 羅臼平 (12:40/12:50) --- 羅臼岳 (13:45/13:55) --- 羅臼平 (14:30/14:40) --- 三ツ峰キャンプ地 (15:20) (テント泊)

◆8月18日
三ツ峰キャンプ地 (4:30) --- サルシイ岳 (5:10/5:20) --- オッカバケ岳 (6:10/6:20) --- 南岳 (7:10/7:20) --- 知円別岳 (8:35/8:45) --- 硫黄山 (10:05/10:20) --- 知円別岳 (12:00) --- 南岳 (12:50) --- オッカバケ岳 (13:50) --- サルシイ岳 (14:50) --- 三ツ峰キャンプ地 (15:20) (テント泊)

◆8月19日
三ツ峰キャンプ地 (5:20) --- 三ツ峰 (5:50/6:15) --- 羅臼平 (6:25/6:35) --- 岩尾別温泉 (9:00/9:40) --- 岩尾別 (10:05/10:34) === ウトロ (10:50) === 知床斜里 (11:40)

山日記 (羅臼岳 編)

次の山は斜里岳だ。しかしこの山、登山口まで行くバスが無いのがやっかいだ。
清里町駅から登山口の清岳荘まで約14キロ、歩いて3時間半、タクシーで4000円。
デカザックを背負って片道3時間半の車道歩きは辛い、かと言ってタクシー代往復8000円は高い!
ではどうしよう?
ネットで調べると麓のユースホステルに泊まれば登山口まで往復2000円で送迎してくれることが分った。ところが事前にユースホステルに電話で確認すると登山口までの送迎は登山希望者が5人以上の場合のみで、僕のように一人の場合は他に行く人が5人以上いた場合のみ同乗させてくれるということだった。

阿寒湖からバスに乗り、摩周湖駅に到着するとすぐ清里ユースホステルへ電話する。
ところが明日、斜里岳へ登る客は誰も居ないと言うことなのでここは一旦、斜里岳は後回しにし先に羅臼岳へ登る事にした。


知床国設野営場は海岸沿いではなく少し上の方にあるのでウトロバスセンターから坂道を登って行く。
知床はアイヌ語でシリ・エトク”大地の果て”の意味である。でもまさかこんなに自然と密接しているとは思わなかった。汗ダラダラになって坂道を登り終えホテル街を歩いていると目の前を悠然とエゾシカが歩いて行くではないか。これじゃノラネコならぬノラシカだ、さすが世界遺産の町だ!

知床国設野営場はテントが100張以上張れそうなほど広かった。
野営場の奥まで車で入れるのでオートキャンプの人達は奥の方にテントを張っている。オートキャンプの人が苦手な僕は入り口近くにテントを張った。

テント場が草原になっているためかテントを張っているとすぐ横を鹿が歩いて行く。鹿は一夫多妻制だからこうして見るとなるほど立派な角を生やした雄は1頭で残りの数頭は雌か子鹿のようだ。
鹿の群れの後を子供たちがゾロゾロと付いて歩き、その後にはカメラを構えたお父さん達の姿があった。「ハーメルンの笛吹き」や「金のガチョウ」を思い出てしまう。


知床国設野営場の様子。エゾシカが平然と歩き回っているではないか!さすが知床!さすが北海道!

炊事場へ行くとそこには「熊が寄って来ますので焼肉、バーベキューは禁止します」と張り紙があった。
ここは一体どんなところだ!と驚くと同時にキャンプの定番料理を禁止されてキャンパーは一体どんな物を食べているのだろう?と周りのテントを覗くと豪快にちゃんちゃん焼きをしている。さすが北海道!
でも熊は肉よりシャケの方が好きなので?もっと熊を呼んでしまうのでは?と心配になってしまった。

夜中、ゴソゴソという音で目が覚める。テントの側面には外灯で照らし出させた無数の鹿の影が・・・うるせぇー!と怒鳴ったら逃げて行ったのでその後は安眠することが出来た。

天気が回復するまでキャンプ場に滞在することにした。
雲が低く立ち込めているのでもしかしたら山の上は晴れているのでは?という気がしないではないけれど確信が持てないので出発を見送ってしまう。
持って来た文庫本はとっくに読んでしまったので午前中は管理事務所に併設してある資料館へ行って歴史書や図鑑を見て、午後は歩いて2分の所にあるウトロ温泉(夕陽台の湯)へ行って温泉に入り、休憩室のテレビでオリンピックを見る。お腹が空いたら歩いて5分のコンビニへ弁当とビールを買いに行くというダラダラした生活を送る。

2日目の夕方、資料館のパソコンで翌日の天気を確認すると曇りのち晴れとなっていた。

キャンプ内の夕陽台からのオホーツクに沈む夕陽
明日晴れたら良いな!


ウトロから登山口である岩尾別温泉へ行くバスは朝の一便だけしかない。登山客で一杯になるのではと思っていたけどバスはガラガラでしかも岩尾別温泉で降りたのは僕と木下小屋の人の二人だけだった。

木下小屋でペットボトルに水を入れていると小屋の人から「ここから2時間登ったところの弥三吉水も出てますよ」と教えられた。でもそこの水は煮沸しなければいけないのでは?と尋ねると「んーん・・・」と言う返事だ。どうもそのまま生で飲んでも大丈夫だと思うけれど保証は出来ないといったニュアンスだったのでここから水を持って上がることにした(ちなみに木下小屋は地下水を使っている)。
それから心配なことがもう一点あった「三ツ峰キャンプ地にテントを張って硫黄山までピストンしようと思っているのですが、戻ってきたらテントが熊に荒らされていた何てことありますか?」と尋ねると「今まで張りっぱなしにしておいたテントが襲われた話は聞いたことがありません、あなたが第一号になるかもしれませんね」と何だかOKなのかNGなのか判断に困る答えだった。

空はどんよりとした曇り空。天気予報の曇りのち晴れを期待して登って行く。
登り始めはシラビソの森、それが白樺+熊笹、白樺+羊歯の森へと変化していく。

登りだして1時間、オホーツク展望台の立札に「最近ここで熊との遭遇が報告されてます、注意してください!」と書かれていた。本当にヒグマが出没するようなら通行禁止になるはずだからそんなに心配することは無いだろうとは思うものの、川崎を出る直前に見たテレビで羅臼温泉のキャンプ場にヒグマが出没したニュースをやっていたし(テントを揺らす熊に対してテント内の女の子はてっきり妹がいたずらしていると勘違いして熊を蹴飛ばしてしまった、蹴られた熊は驚いて逃げてしまった)、ここはやはり用心することに越したことはないと熊鈴を派手に鳴らしながら登って行った。

弥三吉水は沢に挿した樋からとうとうと水が流れ出ていた。テントが2,3張は張れそうくらい広い場所で山頂から早くも降りて来たらしい人達がノンビリと休んでいる。
この辺りから段々と降りて来る人とすれ違うようになった。
僕の服装はTシャツ姿だけど降りて来る人はレインウェアやウインドブレイカーなどしっかり着込んだ人ばかりだったので山頂付近もやっぱり天気が悪いのでは?と想像出来た。
降りて来た男性に山頂の様子を尋ねてみると「雨は降っていないけどガスッて何も見えない、おまけに風が強い」ということだったので予想はしてたけどガッカリしてしまった。
挨拶を交わして別れ際に「子供も登っているくらいだからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ!」と声をかけられオレってそんなにビビッているように見えたのかな?とへこんでしまう。

極楽平はその名前の通り、道が平坦で一息つける場所だった。
登り出してからここまでに4人に追い越されるくらいだから自分でもゆっくりと歩いたつもりだったのに帽子の色が変わるほど汗をかいていた。
遠くでゴーッと風が唸る音が聞こえてちょっと不気味に感じる。

銀冷水は涸れていた。休憩しようとザックを降ろすと背中の汗が一気に冷えて寒い。
時々小雨がパラパラと落ちてくるけど歩き出したらまた暑くなるかもしれないと思ってレインウェアは着なかった。あまりにも寒いので足踏みしながらオニギリを食べた。

大沢のガレ場を登って行く。
ここから上は木が無いので風が強くなった。ガスッているので10m先くらいしか見えず、周りの景色はどうなっているか全然分らない状態だ。
ガスの中から突然登山者の姿が現れてくる。もう少しだから頑張れ!と励まされながら降りて来る男の子やウインドブレイカーを激しくバタつかせるおかあさんとすれ違う。
天気予報はハズレたな!ここまで少しは持っていた晴れへの望みがここで完全に絶たれた気がした。

ガレ場からハイ松帯に変わるとすぐに少し広い場所に出た。
真ん中に大きな岩があってその岩に木下弥三吉のレリーフが付けてある。
・・・とにかく羅臼平に着いた。
ここにはのどかな風景は無かった。猛烈な強風の中、岩の陰にうずくまるようにしていた5人のパーティーは食事を終えると慌てるように降りて行った。その横では木で風を避けながらやはり食事中の二人の姿。

強風に暴れまくるレインウェアを着ていると「晴れていたら目に前に大きく羅臼岳が見えるんですよ!」と隣で食事中の女性に声をかけられた。女性の視線の先、そこに広がる真っ白な空間にネットで見た羅臼岳の姿を重ね合わせた。
「なんてついてないんだろ、せっかく知床まで来てこの景色かぁ!」僕の気持ちを察するように今度は男性が「私達はこの山に来たのは3度目なんですが1度目は雨、2度目は晴れ、3度目の今日がこの天気なのでこれで1勝2敗です!」と笑っている。
気分がスーッと軽くなったのが自分でも分った。目の前を白いガス走り抜け、風がレインウェアの裾を激しく叩く、こんな中に一人で居ると不幸のどん底に居るような気分になってしまい知らないうちに気が滅入っていたのだ。

この二人は山頂へは行かずにここで食事をして下山すると言う事だった。
0勝1敗の僕は一人、1勝2敗の二人と別れて羅臼岳山頂へ向かった。

ハイ松帯の中を歩いて行くとすぐに岩清水と呼ばれる水場があった。張り出した岩から水が滴り落ちていて手で触れてみると冷たい。これが暑い日だったらともかくこんな寒い日では顔を洗う気にもなれない。
ネットを見るとここの水は煮沸せずにそのまま飲んでいる人も多かったけど僕は飲まなかった。のどが渇いて死にそうならともかく、エキノコックスが少しでも心配ならあえて一か八かの勝負をすることもないだろう。

岩清水からはガレ場、やがてそれが岩場に変わった。
岩場を登って行き、やっと山頂だ!と岩の上に顔を出した瞬間、ドカーンと風の塊がぶち当たって来た。
そして岩の上に立つと風の強さに恐怖を覚えた。5m先に山頂を表す標示板が見えるけれどそこまで歩いて行くまでにもし突風が吹いたら崖下へ飛ばされてしまうだろう。

山頂は大きな岩が乱積して広くはなかった。とりあえず登頂記念の写真を撮りたいけれど風が強くて当然三脚は立てられない。岩の上にカメラを置いて撮影したけれどそのカメラも風に持って行かれそうで気が気ではなかった。
地図にはこの山頂は360度の大展望と書かれているけど360度真っ白で何も見えない。
羅臼町側から湧き上がった雲が次々と目の前を通り過ぎていく。山頂で圧倒的な存在である雲を呆然と眺めているとふっと雲が途切れ、その先に真っ青な海が見えた。それはほんの一瞬だったけど視界を横切った海の色は物凄く青く見えた。この白い雲の下には水平線まであの青が敷き詰められているのだ!その風景を想像したけれど口からはため息しか出てこなかった。


弥三吉レリーフ・・・とにかく平然!

羅臼岳山頂・・・とにかく必死!

山頂のお地蔵さん・・・とにかく寡黙!

羅臼平まで戻ると残っていたオニギリを食べた。味も分らず機械的にそしゃくしている感じだ。
誰も居ない羅臼平は人間の存在を否定しているような感じがして追い立てられるように三ツ峰へ向かって行った。
登山道は急に狭くなりハイ松が道に張り出して歩きづらい。ズボンが濡れるのでレインウェアのパンツも履いた。

「せっかく登ったのに勿体ないな!」急勾配を降って行くと三ツ峰キャンプ地へ着いた。
先に大きなテントが一つ張られていたけれど人気は無く、空いている場所にテントを張った。
水場の水は流れていなかったので仕方なく溜まり水をポリタンへ入れた。しかし何度経験しても虫が泳いでいる水ってあまり気持ちが良いものではない!それとも単に僕が弱すぎるのか?
木下小屋の人の話では昨日雨が降ったので一旦涸れていた水場も水が出ているはずだ!と言ってたけれど・・・こんなことだったら当初の予定通り岩清水で水を汲んで来るんだった。

飲み水用に水を煮沸していると大テントの住人が戻って来た。若い男性3人と女性1人のパーティーだったのでてっきり学生さんかと思ったけれど話をしてみると環境庁国立公園管理事務所の人達だった。
羅臼岳では最近、利尻山と同じように登山者のし尿による悪臭、水場の汚染、裸地の拡大など環境破壊が問題になっているらしい(特に弥三吉水と銀冷水周辺)。そこで登山者の数が多いと思われるお盆休みのこの日、道行く登山者に携帯トイレの持参を呼びかけようと二ツ池キャンプ地とここ三ツ峰キャンプ地にテントを張ったらしいけれど昨日今日の二日間で会った登山者は何と僕一人だけだったらしい。
と言うことで早速「小便は仕方ないけれどウンコは必ず持ち帰って下さい」と携帯トイレをもらった。
たった一人の講習会でその使い方までシッカリ教えてもらったけれど利尻山と違って羅臼岳は簡易トイレブースが設置されていないので携帯トイレは直接お尻に当てなければいけない。教えてもらっている最中からその格好がとても恥ずかしかった。


三ツ峰キャンプへ降っていると目の前に鹿が・・・人を恐れずに悠然と草を食べていた。

フードロッカーは120x70x70位の頑丈なスチール製、鎖で地面に固定されている。

三ツ峰キャンプ地は一見ノンビリしているようだけれどヒグマの生息地なので気が抜けない。

知床は北海道でも一番のヒグマの生息地、キャンプの食事はなるべく匂いのしない物を!と言われているがどんな物が匂いが強く、どんな匂いを熊は好きなのか?よく分らない。
僕の山での定番メニューは朝:カレーライス、夜:ラーメンなのだけれどカレーライスは匂いが強そうだったので止めてラーメンだけを持って来た。
またテント内で物を食べると匂いがテントに付いてしまうので食事はテントの外でしなければいけないと言われている。だけど僕は北海道に来てからテントの中で幕の内弁当、唐揚げ弁当、カツ丼弁当などあらゆる弁当を食べまくり、それらの匂いは残っていないのか?と心配になってしまった。ここにファブリーズがあればなぁー!と思ったけれど今更どうしようもない。

この日の夕方、寒さに震えながらテントの外でラーメンをすすった。幸いなことに僕のテントは風上にあるのでラーメンの匂いは風下の環境庁職員のテントの方へ流れて行く。
しめたーっ!もし熊に襲われたら環境庁職員が熊と戦っている間に逃げようと思った。

夕食を終えると食物、食器、ゴミなど匂いがしそうな物はビニールの袋に入れ、更に二重にした特大ゴミ袋に入れて密封し、少し離れた場所に設置してあるフードロッカーに入れた。
フードロッカーとは熊から食料を守るための鉄の箱で複雑なカンヌキが3つ付いておりIQが85以下の動物には開ける事が出来ないようになっている。

夜、寝る前に小便をしようとテントの外に出ると闇に中でヘッ電の明かりに動物の目が怪しく光った。その正体は熊ではなく鹿だったのでほっとしたけれど、この暗闇の中には一体どんな動物が潜んでいるのか?想像したら夜のテントが急に心細く思えた。

この夜、神経が過敏になっているのか?些細な物音にも目が覚めて眠れない。
気分を落ち着かせようとラジオを点けるとラジオ小説「人間椅子」をやっていてもっと眠れなくなってしまった。


フードロッカーの横からオホーツクに沈む夕陽

硫黄山 編 へ続く

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