社山、半月山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆2月12日
上野(5:09/5:10) +++ 栗橋(6:04/6:23) === 日光(8:14/8:16) --- 中善寺温泉(9:00/9:15) --- 阿世潟(10:30/10:40) --- 阿世潟峠(11:10) --- 社山(12:25/12:45) --- 阿世潟峠(13:40/13:50) --- 半月峠(14:40/14:45) --- 展望台(15:20/15:35) --- 半月峠(15:45/15:50) --- 狸窪(16:15/16:20) --- 中尊寺温泉(17:15/17:37) === 日光(18:10/18:51) +++ 北千住(20:53)

山日記

背中のスノーシューがカタカタと音を立てる。
電車は上野駅の1番線に入線した。ドアが開くと同時に電車を飛び降り、階段を駆け下り、通路を全力疾走する。京浜東北線から宇都宮線への乗り換え時間は1分しかない。5番線のエスカレーターを駆け上がっているとホームのスピーカーから発車を知らせるメロディが流れ出した。
電車に飛び乗ると直ぐ扉が閉まった。やったぜぇー、ギリギリセーフ!
空いていた席に座ってザックを降ろし、ほーっと一息。

日光へ少しでも早く到着しようと計画を立ててみると、電車の乗り継ぎ時間がどの駅もギリッギリッと短く、早朝から勝負!勝負!へと追い立てられることになってしまった。

まず、最初は川崎駅での南武線から京浜東北線への乗り換え、これは2分あったので余裕で突破出来た。次がこの上野駅・・・ここは乗り換え時間が1分しかない上に、1番線から5番線まで移動しなければならないので苦戦を強いられたがなんとか突破出来た。
残りは後一つ・・・

電車の扉が開くと直ぐにホームに飛び出した。乗り換え通路を探すと何と!100メートルほど前方だった。失敗した!と舌打ちしながらホームを全力で走る。背中のスノーシューがカタカタと音を立てる。電車に乗っている人の嘲るような視線が痛い。ここ栗橋で宇都宮線から東武東上線に乗り換えるのだ。乗り換え時間はわずか1分!
「こなくそー!」全力で走っているけれど履いている靴が冬山用なのでソールが固くて思うように走れない!
階段を駆け上がり、JRの自動改札を通過。
50メートルほど走り、今度は東武線の自動改札を通過!・・・切符買ってない!慌てて自販機で切符を買い改札通過!
ドカドカと階段を駆け下り・・・ドタッとホームに飛び降りると・・・
暗闇に中を音も無く遠ざかって行く赤い二つのランプ・・・トホホホホホホ、残念!!!
「ここは1分では無理だったかー!」とホームの待合室で20分間ヘコミ続け、次の電車で日光へ。

電車が柳生に差し掛かった時、昇った太陽が車内を真っ赤に照らした。
視線を車窓に走らせるとそこには紅く焼けたデッカイ山の姿があった。地図を取り出して山名を調べる。「いま、この辺りだから・・・筑波山ではないし、赤城山?日光白根山?どれも違うような・・・それにしてもあの三角のシルエットは富士山に似ている・・・まさか!」と思って見るとコンパスはきっちり西を指している。
何だかデカイ!川崎から見るよりもずっとデカイ!川崎から見ると、富士山の前に丹沢山魂が横たわっているので自宅の屋上から見てもせいぜい7合目から上しか見えない。ここは川崎より富士山から離れているのに五合目位までしっかり見えている。
窓の外で真っ赤に焼けている富士山の姿には興奮してしまった。電車に乗り遅れてかなりヘコンでいた元気がじんわり膨らんでいくのだ。

「うんこしたぁーい!」
もう直ぐ日光駅に到着という電車の中、突然、後ろの席に座っていた女子高生が叫んだ。
客はまばら、僕は頭を低くして座っていたのでまさか背中合わせに人が座っているなんて分からなかったみたいだ。
「バーロー!女の子がそんな言葉、使うなっつーの!」恥も恥らう女子高生がそんな破廉恥な、赤裸々な、猥雑な、そして刺激的な言葉を使うか?
向かい合わせ4人席に座っている女子高生達は駅に着くまでのわずか数分間、その話で大いに盛り上がっている。まったく聞いているこっちの方が恥ずかしくなってくる?それ以上にもー可笑しくて・・・

電車が日光駅に到着、席を立つ時にどんな子達がうんこの話をしていたのか!顔を見てやろうと思って後ろを振り返ると視線がバチッ!と合ってしまった。
その子も気まずくなったのか「それってスケボーですかぁー?」唐突に僕の背中を見て言った。
思わずコケそうになった。だけどここでコケている暇はない。中禅寺湖行きのバスが出るまで2分しかない。改札に向かって駆け出した。
走りながらふと思った。「うんこしたくて走ってる・・・まさか女子高生は勘違いしないだろうな!」
背中でスケボーがカタカタ音を立てた。

中禅寺温泉のバス待合室で登山の準備をする。何だか歩き出す前からドッと疲れていた。
何しろ今日は朝から刺激的な出来事が多すぎた。悪魔的な電車乗り換えダッシュ、神々しい朝焼けの富士山、それから・・・
「こなくそー!」あんなに頑張ったのに結局、計画より40分送れてしまった。

バス停から歩き出す。
道の両側に立ち並ぶ土産屋のほとんどはシャッターを下ろし、観光地の賑わいはなく閑散としている。右にはドデカい男体山の姿!谷間に沿って埋まった雪が山肌に幾重にも白い縞模様を作って冬の様相だ。遠く西を望めば白根山の姿、だけど今日も白根山上空は天気が悪い。冬から春にかけて何度か奥日光を訪れたことがあるけど男体山は晴れているのに白根山は曇っていることが多い。たまたまだろうか?

これから行くぜぇー、社山!左の一番低い所が阿世潟峠。
奥に見える白根山は雲の中。
道を右に折れ、中禅寺湖に沿って歩き出すと視線は今から登ろうとしている社山へ移る。朝のまだ輝ききれないでいる太陽が山の向こうからこちらを照らし、稜線と空の境目で重なり合って輝きを増している。
光の重なりが阿世潟峠からなだらかに起伏し山頂まで駆け上っている。「あー、あの光の線に沿って今日は登って行くんだな!」とストックを持つ手に力がはいる。

灰色の湖の上を渡ってくる風は切れるほど冷たい。道路はきれいに除雪されているが山の陰になっているので陽が当らず薄っすらとアイスバーンになっている。アイゼンを付ける程ではないのでそのまま歩いて行くがツルツル滑って歩きづらい。
山の切れ間から陽が差し込むと、照らされた湖底にはユラユラと揺れる金色の光の陰陽を出来て、フッと暖かさを思い出させる。

立木観音を過ぎ、中禅寺湖道路道路と分かれて湖畔沿いの道に入ると雪が積もってはいるがアイスバーンから解放され歩きやすくなった。
英、伊大使館別荘の横を通り抜け、半月山荘を過ぎた辺りから雪が段々深くなってきた。ツボ足でも歩ける程度だったがたまにズボッと踏み抜いてしまうと、それが精神的に疲れるのですんなりとスノーシューを履いた。

男体山を右に眺めながら阿世潟まで歩いて行く。やっぱり阿世潟からの男体山の眺めの素晴らしさは二年前の秋と変わっていない。男体山はあまり近くで見ると土産屋やそんな雑多なものが一緒に見えて食傷気味になってしまう、頭の中にノイズが増えてザーザーと映像を乱してしまう。
湖を間に挟んで見る男体山は湖面からポッカリと浮かんだ端正な円錐形が空をせーのっ!と押しのけるようにそびえていて、こうして湖を渡る風を全身で受け止めていると両肩をグワッと押されるように力が湧いてくる。

北八ヶ岳から戻って来て、どこかスノーシューで歩けるところはないかな?とインターネットで物色していたら奥日光もスノーシューハイキングが盛んだということを知った。ただ一度もピークに立たずに歩くだけ!というのもどこか物足りない。それだったらどこかスノーシューで登れる山はないかな?とすぐそばの社山に白羽の矢が立ったというわけだ。
この山は過去に2度登っているので登山道を覚えていること。それに頂上までのコースタイムが短かいのでたとえ雪が多くても割合楽に登れるだろーということ。それから一番の理由は、スノーシューの醍醐味である登山道以外のところを歩いてみることが出来そうな山だということだ。社山の稜線から中禅寺湖に向かって降りるとどこかしら湖沿いの道にぶつかるので、方向さえ間違えなきゃ、道に迷うことはないだろー。
それから、大事なことがもう一つ!これを忘れちゃいけない、景色が素晴らしいこと!僕の山登りはやっぱこれに尽きる!


阿世潟から見る男体山は湖からバズッと競り上がって見えます。凛とした冬の空気の中では青く澄んでいます。

阿世潟から森の中へ突入。登山道には薄っすらとトレースが残っているのでそれを辿って歩く。

20分ほど歩いていると道が急勾配になった。見上げると50メートル程先の木々の間から真っ白い光の塊が見える。あー、あそこが稜線だ!もう少しだ。
ただこの辺りには足跡がやたらめったらアチコチにあって「どれが正解だ!ハッキリしろー」といきり立ってしまう。

真っ直ぐ谷間を上へ進んで行くもの、一度尾根に這い上がっているもの、隣の谷間に進んで上へ向かっているもの・・・まー、どれも阿世潟峠へ向かっているわけだから、どれでもいいや!と真っ直ぐに谷間を登って行くコースを選んだ。
いきなり急登!そして雪質が変わった。ここまでは締まった雪だったのが一変してサラサラ状態。でこれはどんな結果になるかって言うと・・・歩くそばから雪がサラサラと崩れ落ちて一向に前進できなくなってしまった!スノーシューに付いているブレードも空しく雪を掻くだけでなんの効力もない。

それでも一歩足を踏み込むとかろうじて5センチくらいは前進している。単純に計算すると1メートル進むのに20歩だから50メートル先の峠へは1000歩歩いたら着くはずだ。
「んなろーっ!」
目の前の1000歩に向かって猛然と登り始めた。ところが「三歩進んで二歩さがる」状態で思うように進んでくれない。それに一歩一歩がものすごく重くて数歩歩いただけで息が上がってしまう。
「んなろーっ!」と再びラッセルを始めるがズズズーッと膝まで雪に埋まりながら滑り降りて元の位置へ戻ってしまう。
「んなろーっ!」雪の中から抜け出そうとするが立ち上がるのさえもシンドイ!
この無限とも思える雪の前では、50メートル先のゴールが何か遥か遠くに思えてしまう。
「こりゃだめだ!」と隣の谷間を這い上がっているトレースに移動して、再トライ!登ってみるがやはり雪を掻いているだけで登れない。
あーっ、こんな所で早くも敗退か!と天を仰ぐと・・・直ぐ横にシリセードの跡があった。
「シリセードでは降りることは出来ても、シリセードで登ることは出来ない!」と虚しくストックでシリセードの跡をつついてみる・・・硬い???何だか他の場所に比べて硬くなっている感じだ。
試しに乗ってみると5センチほど埋まってしまうけれどどうにか雪が崩れ落ちずに登る事が出来る。やったやった!とシリセード跡を辿って登って行く。
男か女かは分からないけど、このでっかいシリセード跡を残してくれた、でっかいお尻の人に感謝!!!

「へッ、へッ、へッ!」勝ち誇った笑いとともに稜線まで這い上がってみると、そこは阿世潟峠ではなく、50メートルほど社山寄りの鞍部だった。
目的地から少しずれてしまったけど、ここまで登ったら後はほぼ一直線に尾根を登って行くだけだ!
しかし、疲れたー!振り返れば木々の間に男体山の姿が澄んだく空気の中でクッキリと見え、この景色が「もっと良い景色を・・・!」と貪欲に心を揺さぶってくる。
登山道に積もった雪は先ほどとは一変して硬く締まっていている。アイゼン履き替えようかとも思ったけどスノーシューの登攀能力を試す良いチャンスだ!とそのまま履いたまま登ることにした。


山頂へと通じる白い雪の回廊!
風に飛ばされたのかトレースは微かです!

先月、北横岳(北八ヶ岳)を登った時に感じたんだけれど・・・
ツボ足で斜面を登ると雪面にステップが刻まれる。後続の人は一歩一歩そのステップに足を乗せて登って行くので登りやすく、ステップも段々と深く刻まれて行く。
ところが、その間をスノーシューを付けた人が歩くとせっかく付けたステップが平らに均されてしまう。次のツボ足の人はまた最初からステップを刻みながら斜面を登らなきゃならない。
権兵衛が種蒔きゃ、カラスがほじくる!じゃないけれど・・・ツボ足がステップ刻めば、スノーシューが均す・・・みたいな。
北横岳では登山道をめぐってのテリトリー争奪戦が行われているのだった。

それはどうやらここでも同じらしい。登山道にはツボ足のステップ跡とスノーシュー跡が勢力争いをしながら真っ平らな雪の斜面を登っている。
その斜面に足を踏み出す。スノーシューのブレードが良く雪を噛んで登りやすい。
10分ほど登るとアンテナが立つピークに。ここから見る男体山の眺めは今日も素晴らしく、深い青の水を湛えた中禅寺湖の湖面にポッカリと浮かぶように鎮座している。
後ろを振り返ると半月山の姿、山肌に並んだ木々が雪面に影を落として、ここから見ると白い山肌に黒い#マークがいっぱい並んでいるように見える。
この登山道は無雪期は緑の熊笹に覆われているが、もちろん今は雪のしたでうずくまっている。岩場も無く歩きやすいのでスノーシューとの相性もバッチリだ。
木々が少ないので展望が良く、絶えずデッカイ空を背中に感じながら歩く気分は爽快なのだ。

社山への道はほぼ一直線で展望が良い道
だれーも歩いていません! 
一歩一歩、高度を上げて行くにしたがって周りの風景が段々と低く下がり、それに反して山々が頭を持ち上げてくる。
男体山の左には兄弟のように寄り添う太郎山、右には大真名子山、女峰山の姿。より遠くまで眺望が効くようになって、ただただ遥かな空の大きさに埋もれてしまいそうになる。
白根山は相変わらずうっそうとした雲の中。
南へ視線を移せば皇海山、庚申山・・・こっちも白根山から張り出した雲が重たげにその頭上を覆っている。灰色を帯びた雪の山々の姿は寒々としていてブルッと思わず首をすくめてしまう。
危険な箇所も無く、社山山頂へ到着。
到着すると体が冷えないよう直ぐにダウンジャケットを着る。このジャケットは暖かいのだけれど、着ると全身が黒一色になってしまうので熊と間違えられて撃たれやしないかと冷や冷やする代物だ。
山頂から北側は木々が周りを囲っているので展望はない。山頂を表す標柱のところだけポッカリと木が無いのでそこから男体山を望むことができる。
山頂でサンドイッチを食べていると太陽に向けた背中が段々と暖かくなっていった。こうした冬の寒い日でもきっちり仕事をしている太陽の存在はありがたい!目の前に広がっている山々の姿はまだまだ寒々とした真冬の装いだけど、遠い春の兆しを背中がこうして微かに感じているのだ。

この眺望を見に来たんだぁー!男体山と中禅寺湖は冬との相性もバッチリ!

登る時にはそれほど感じなかったけど降り出して初めて登山道の勾配が急だったことを思い知らされる。だけどそんな急な箇所でもスノーシューのブレードはしっかりと雪面を噛んでいるので歩きやすかった。
ただこのブレードを外す事が出来たらスノーシューがミニスキーに早代わりして滑って降りることが出来るのにと思うのは望みすぎかな?

阿世潟峠まで一気に降りて行く。スノーシューはズボッと踏み抜いてしまうことがないので、こうした道ではまさしく本領発揮!男体山を臨むこの大気の中に幾千幾億もの雪の破片をちりばめ、きらめきが風を誘う!
うひょうーっ!広がる世界の中で瞳がクルクル回っている。

阿世潟峠から半月山は見上げる。
地図では標高差300メートルだけどここから見上げる半月山はとにかくデカイ!なんでやねん?とつっこみたくなる。
社山山頂に着いた時・・・白状してしまえばかなり疲れていた。だけどサンドイッチに温かいミルクティーが今になってようやく効いて来たのか不思議と体力が戻ってきた。
半月山へ向って登って行く足取りは軽い。登山道にはかすかなトレースしか無かったが、尾根の高い所をとにかく歩いていけば良いと憶えていたので別に不安は無い。

サングラスというのは不思議な物で掛けた瞬間は薄暗いなと思うけれど直ぐにそれに慣れてしまって、その暗さを通して見える色彩が自然になってくる。
阿世潟峠から歩き出して30分、急に暗くなってきた。夕暮れ?時計を見るとまだ2時20分だ。頭上を仰ぐとさっきまでの青空が嘘みたいに一変して曇り空に変わっていた。
「あちゃーっ!こっちの都合も聞かんと勝手にわるーなって!」それにしても何でこんなに暗い?あーっ、そうだった!とサングラスを慌て外す。

社山山頂 木々で風が遮られているのでポカポカでした。そー見えないって?
でもサングラスを外しても空の暗さは変わりなかった、雪の白さは戻らなかった。
そう言えば、今朝、阿世潟で写真撮影している男性と会って以来誰とも会っていない。誰もいない山道は晴れていたらノンビリと開放的な気分にさせるけど、曇ると急に人恋しくなる。
頬に当たる風がやけに冷たく、吐く息も心なしかいっそう白く見える。
南西に目を向けると足尾銅山の自然破壊の象徴である松木渓谷の砂防提が悲壮感を漂わせている。
こうなると急に気弱になってしまう、あーっ帰りたくなってしまう。
「こなくそー!こんなとこで引き返してたまるか!」反骨精神が心を揺さぶる。この前の蓼科山もただ曇っているというだけで敗退してしまった。今日も曇っているというだけで止めちゃいけない!こういうヘタレ根性は癖になり易い。ここでため息ついちゃダメだ!

半月峠、ここまで来ればもう少しだ。
半月山山頂は展望が良くないので、その手前にある展望台までを目指して登って行く。
と・こ・ろ・が・・・ここからがとんでもなく急登。しかも雪質が変わってサラサラになり、足を踏み出しても雪がザーッと崩れ落ちるだけで一向に登れない。
先行者のトレースを辿れば、そこは硬くなっているはずだから登れると思うけどトレースは全く見当たらない。
「んなろーっ!」がむしゃらに踏み込んでみても雪に埋もれてしまうだけで・・・その雪から抜け出すだけでも疲れた体には一苦労だ。

アンテナの立つピークから半月山を臨みます!
地図の値よりも標高差を感じ、トホホな気持ちで眺めているのだ!
「こなくそー!」ここはちゃんとラッセルするしかねーべ。
四つん這いになって全身で雪を固め、膝で雪を押さえながら少しずつ少しずつ進んでいった。
でもわずか5メートル登っただけでクタクタになってしまい、こんなんで展望台に着けるんだろーか?と不安になってしまう。遅くても4時半までには狸窪へ降りたいから3時半まで行動して、たとえ展望台に着かなくてもその時点で引き返そうと思った。

ラッセルをしているとたまに雪が硬い場所があるのに気が付いた。そこは15センチほど沈んでしまうけどどうにか歩いて登ることが出来た。
ストックで前方180度をくまなくツツイて雪が硬くなった場所を探しながら登って行った。たまにズボッと埋まり込んでしまうけれどラッセルするよりずっと楽だ。
急斜面を登りきりホーッと一息。ここから夏道は尾根を進まず、すこし下をトラバースして展望台まで行っている。ところが夏道らしきところを見るとそこは急斜面になっていて、そこを歩くとフカフカな雪と一緒に下まですべり落ちて行きそうだった。それでそのまま尾根伝いに進んで行ったけどそこも木が密集して歩きづらかった。

どうにか展望台に到着。
男体山もけだるい雲の下だった。空が色を失ってしまうとその下の山も湖も森も輝くことを放棄しベタッとかしこまってしまう。
皇海山を見るとすぐ上まで薄ぼんやりとした太陽が迫って来ていた。
あまり長いは出来ない。写真を撮ると直ぐに下山開始。最初の計画ではここから狸窪まで直接降りてみようかと思っていたがそんな時間は無い。時間内に確実に降りるために半月峠まで引き返すことにした。

半月山の展望台。
僕が立っている所だけ何故か?雪がありません。
それにしても怪しくない?僕の気のせいだと良いんだけど・・・やっぱレインウェアは黄色にしておくんだった!

登る時にてこずった急斜面まで降りて来ると、トレースがあっちこっちと蛇行を繰り返していた。苦労して登ったよなー!と何だか可笑しくなってしまった。
「ザザーッ!」降りるときは自分が付けた曲がりくねったトレースをぶち抜きながら雪を蹴散らして一気に降って行った。

半月峠から狸窪への道にはトレースは無かった。無かったというより雪に埋もれてしまっていた。道は分からなかったが木が無い所が道らしいのでそこを辿って降りて行く。ただ途中まで降りてきたところで全く分からなくなってしまったのでそこからはテキトーな所を歩いて行った。これが結構楽しいのだ。フカフカと山に埋もれてしまうってこと!自由気ままに歩けるってこと!自分の道を作るってこと!
木々の間から八丁出島が見えているので、このまま降りていけばどこか湖畔沿いの道に出るに違いないと不安は無かった。

半月山荘の玄関に取り付けられた温度計を見る。今朝は-12℃だったが今は少し上がって-8℃だった。気温は低かったが風が強くはなく、特に森の中ではほとんど感じられなかったくらいなので特に寒くは無かった。
スノーシューを外してザックに取り付ける。一日の疲れが大きなため息となって吐き出される。
今日の行程は短かかったけれど全身ズシリと疲れていた。それもそうだ!山に登る前に数百メートルのダッシュをやったかんなー!
それにしても途中で挫折しなくて良かった。2回続けて敗退するとさすがに落ち込みそーだし、体がサビついてしまいそうで恐くなる・・・そして何より終えた後のハートのざわめき度が違う!

湖畔のボート乗り場まで来るとスワンボートが今朝と同じく雪に埋もれたままだった。
湖に突き出た桟橋には波飛沫がビッシリとツララを作り、曇り空のかすかな残照に鈍い光を放っている。
スワンボートがうららかな春の陽だまりの中、プカプカのんびりと湖に浮かぶのもまだまだ先のようだ!


今日一日、ごくろー!
●山麓をゆくへ   ●ホームへ
inserted by FC2 system