白駒池、ニュウ、雨池

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2021年7月19日
茅野駅 (9:30) === 麦草峠 (10:41) --- 青苔荘 (11:00/11:10)
--- 高見石小屋 (11:40/11:50) --- 中山展望台 (12:45/12:55)
--- 中山峠 (13:20) --- ニュウ (13:50/14:00) --- 白駒池キャンプ場 (14:50)
山日記 (遠い夏の夢 1日目 編)

目が覚めると車窓の外には新緑のカラ松林が広がっていた。
コロナ禍感染防止の為に開けられたバスの窓から流れ込む風は明らかに涼しくなっている。
バスの乗客はザックを抱えた登山者ばかりで車内はガランとしている。
時々木々の間からもうすっかり遠くなってしまった茅野市街がキラキラと白く輝いて見える。
枝の間から滑り出た青空が光の玉となって瞼を横切ると今こうして八ヶ岳に来たことが夢の続きのようで心地良かった。

麦草峠は標高2127mでこうして一時間ほどバスに揺られているだけで谷川岳や雲取山よりも高い場所に立てるのだ。
こんな暑い日の山登りにここまで体に優しい登山口は他に無いのだ(自家用車が無く公共交通機関を利用している人にとって)。

白駒池の駐車場は1/3程が埋まっていて平日にも関わらず登山者や観光客の姿で賑わっていた。

まん延防止等重点措置区域である川崎市から長野へやって来たことに後ろめたさを感じるけど夏の間どこの山へも行かず家でじっとしていることが我慢出来なかった。
自宅からの移動距離が短い八ヶ岳を選んだことがの自分へのせめてもの言い訳だった。


白駒池入口から白駒池までは廊下の様な木道がお出迎え。緑一色の斜光の中を歩く。

緑の苔に覆われたシラビソの森には廊下のような広い木道が敷かれ行き交う人々の楽しそうな声が木霊しては消えていく。

15分歩けばキャンプ地へ着くことが分かっているから背負った約20kgのザックも今日は重さを感じなかった。

白駒池キャンプ場は幕営出来る時間帯が決められており時間外だと別料金が追加されるので青苔荘前の休憩所の端っこにデカザックをデポするとサブザックだけ持って天狗岳へ向かった。


山の中に佇む湖はただそれだけで何かの始まりを予感させる。久しぶりの白駒池は洗い立ての空を映してた。


青苔荘は庶民的な山小屋で対して白駒荘はリゾートホテルみたい。雲取山荘にどことなく似ている。


観光客は駐車場から白駒荘までの散策みたいなので勿体ないと思うけど華やかと静寂の両立は難しい。

白駒荘の先から登山道に入りマスクを外すとツンとした針葉樹の香りが鼻孔をくすぐり、スイッチが入ったかのように視線は地面の凹凸の先に行く道を探った。
久しぶりの山は(三浦半島の低山には登っていたけど)長い間、流浪した末に戻って来た隠れ家のようで「YES」の一言で満たされていた。

お洒落な高見石小屋に着くと直ぐに小屋横の高見石へ登った。
大森林の緑色の波の中に青い瞳のような白駒池が息を潜めるように佇んでいた。
森と湖の山と言われている北八ヶ岳を象徴する景色をこうして目の前にすると自然とあの名曲がリフレインする。
「♪森トンカツ泉ニンニクかーコンニャクまれテンプラ・・・♪」


以前の高見石小屋の名物はドブロクと星空だったけど今は違うのがどことなく寂しい感じ。


やっぱり八ヶ岳に来たからにはこれを見なきゃ!高見石からの白駒池はこれぞ森と湖の八ヶ岳!

「あ゛ーっ、道、間違えた!」小屋前の分岐で絶叫しているオジサンを振り切って中山へ登って行くと(この辺りは中山、丸山、ニュウ、冷山と単純な山名ばかりだ)道は山頂に向けてほぼ一直線の登りで傾斜が緩いので疲れはしなかったけれど眺望も無い単調な登りには飽き飽きした。

縞枯れした森を抜け眺望の良い中山展望台に出ると二つのピークを持つ天狗岳の姿がシラビソの向こうに現れた。
でもそこに青空は無く、天狗岳を今にも飲み込んでしまいそうな巨大な積雲がモクモクと立ち昇り、その雲の下端では黒い筋状の雲が渦を描いていて何だか嫌な感じがする。

これから向かおうとしている天狗岳の天気は持つだろうか?レインウェアはザックに入っているから雨に降られても問題は無いけれど高見石では晴れていただけにこの天気の急変にはガッカリした。


キッチリとダケカンバ、キッチリと直進、キッチリと岩ゴロゴロで単調な道。


ここは晴れているのに天狗岳の向こうは灰色の積雲が立ち昇っていた。

眺望の無い中山山頂を過ぎて中山峠に向かっていると急に風が強く冷たくなったのを感じた。
急な気圧が変化は悪天候の前触れなのでこの後天気が崩れるのでは?と思った。

「天狗はもう目の前なのに!」もとより今回の山登りは「山でのんびり!」が一番の目的なので雨の中を頑張って登る気なんて毛頭なくここは素直に天狗岳に登るのは諦めて引き返すことにした。

ニュウへ向かって降っていると遠くで雷の音がした。その方向と距離の感じから雷の位置は茅野市街辺りだと思った。
「こっちへ来るな!」と願いながら歩いているとふと青苔荘の休憩所にデポしたザックにレインカバーをしてこなかったことを思い出した。
雨が降ったらザックの中身、服もシュラフもビッショリと濡れてしまうなと思うと自然と足が速くなった。

ニュウでやっと眺望が開けて雲の様子を確認することが出来た。
灰色の雲は硫黄岳でブロックされている様な感じでこっちには向かっておらず、ニュウも白駒池もその上空も晴れていた。

ニュウの山頂で眺望を楽しんでいたら雷の音もいつの間にかしなくなっていたのでニュウからはのんびりと白駒池へ降りて行った。


ニュウは硫黄岳に対峙するかのような小さな岩場だ。


ニュウの山頂からは南八ヶ岳が対岸の景色のようだ。硫黄岳の向こうに湧き上がる積雲。


ニュウの山頂からは白駒池の横顔と縞枯山、北横岳。


木道の脇にひっそりと佇む白駒湿原はものすごく地味で標示がなければ通り過ぎていたかもしれない。


この辺りは今回の中で一番の苔の森だった。ここも「何とかの森」と名前が付いていたけど忘れてしまった。


アチコチに未来へ繋ぐ小さな生命が溢れている。

「天狗岳へ行かなかったので予定より早くテントを張ることになったけどテントでのんびりするのも悪くは無いな」などと思いながらテントを組み立てていると一瞬で目が点になってしまった。

テントポールのショックコード(中に入っているゴム紐)がビロビロに伸びてしまってポールが差し込めないのだ。伸びた箇所を切ってしまうとテントのスリーブにポールを挿入する時に抜けてしまいそうだし、結んでしまうと結び目がポールの中に入らないし・・・いろいろと考えた末、伸びた箇所を二つ折りにするとどうにかポール内に収まることが分かり無事にテントが設置することが出来た。
もし土砂降りの中でこの状況に陥っていたらちょっとパニックになっていたのかもしれないと思うと雷雲を阻んでくれた硫黄岳に感謝したい気持ちだ。

昨日は満杯だったらしいテントも今日は僕のを含めて3つだけでお互い10m以上の間隔を置いて設営することが出来たので静かな、本当に風の音しかしないキャンプ場だった。

テントを張り終えるとカメラを持って白駒池を一周してみた。
だけど湖は岸ギリギリまで樹木が生い茂っていて湖面が見えるのは青苔荘と白駒荘付近だけだった。


戻って来た。中途半端な山歩きになってしまったけどそれもありだね!


森の中とテント場としてはここが一番だと思う。湖も近くてロケーションに優れ、地面も平坦なのでテントも張り易い。

ビールを飲みながら寝転んで文庫本を読む、白駒池のポツンと一軒家 ・・・ これ至福の時!

「だから見るなといったのに」この短編ミステリー集はタイトルと作家だけで選んだ本だけど少し怖い内容でキャンプで読むには向かない本だった。
映画「シャイニング」でも使われたアル・ボウリーの曲をBGMで流しながら読んでいたので余計そう感じたのかもしれない。

今回は登山口からキャンプ場まで近いのでアルコール類はたっぷり持って来たけど自分で作る山ゴハンはマズいので食事類は僕でも作れるインスタントラーメンと西友のレトルトおでん、それに適当に缶詰をいくつか持って来た。

夜8時、寝る前に夜景を撮っておこうとカメラを抱えて白駒池へ降りて行った。
ビール1本、ストロングチューハイ1本、ワイン1本を空けてフラフラだったけど特に危険な箇所も無いだろうと歩いていたら桟橋でつまずいて危うく池に落ちそうになった。
「オレ、酔ってこんなことやってたら本当に死ぬぞ!」一瞬で酔いが覚めた。

いつもお酒で失敗ばかりしている。
お釈迦様は菩提樹の下で悟りを開いたというがこうして緑に生い茂った木の下にいくらテントを張ってもやっぱりバカなオレは何も変わんねーな。

酔っていても痛いものは痛い。
したたかに打った膝をさすりながら大瀧詠一の「A Long Vacation」を聴いていたらいつの間にか眠ってしまっていた。

遠い夏の夢 2日目 編へ 続く
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