白砂山、八間山、エビ山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩、***:その他)

◆ 2022年10月1日
長野原草津口駅 (10:57) === 野反湖 (12:10/12:20) --- 地蔵峠 (13:00)
--- 水場分岐 (14:00/14:15) --- 堂岩山 (14:40/14:45) --- 八間山分岐 14:50/14:55)
--- 猟師ノ沢ノ頭 (15:25/15:30) --- 白砂山 (16:25)
山日記 (白砂山 編)

「白砂山って、あのピロォ〜ンとした山でしょ」

同僚の西村さんが小バカにしたように言った。
彼はヒマラヤの6000m級の山に登った男だから低山などバカにして絶対に登らないのだ。

「白砂山に行くんだったらそのお金と時間で八ヶ岳へ行った方が面白いんじゃない?」
そうかもしれない、ただ八ヶ岳にはもう何度も登っているし白砂山には一度も登っていないのでつまらない山かもしれないけど登ってみたいと思った。

ネットで検索してみると白砂山は眺望の良い雄大な尾根が魅力の山らしく尖った稜線が谷川岳を訪仏させる様な良い山に思えたけど西村さんはつまらない山だと言うし、何となく登山保留のままになっていた。

土日の天気を見ると久しぶりの晴れのマークが並び、特に日本海側が晴れるらしいので久しぶりに妙高山へ行こうと思った。
以前登った時の画像をスライドで眺めている困ったことになった。行く気持ちが段々と失せてきたのだ。
その理由は、
1)火打山は良かったけど逆に妙高山はつまらない山という印象しかない。
2)夜行バスで眠れたことが無く、乗り物酔いの心配もあるので気が重い。

結局、一度登ったことのあるつまらない妙高山に苦労して行くことは無いと思った。
その瞬間、以前行こうか迷っていた白砂山の事が突然頭に浮かんだのだ。

テレビ朝日の番組で「帰れマンデー見っけ隊」というのがある。これはサンドイッチマンとタカ&トシがサイコロの出た目の数だけバス停を進み、 飲食店を見つけるまで次のバスには乗ることが出来ないという番組である。
長野原草津口駅で花敷温泉線のバスに乗り込んでまず思ったのはこの路線じゃ「帰れマンデー見っけ隊」の番組は出来ないな!ということだった。
途中のバス停付近に飲食店は一切無く、花敷温泉の先は何でこんな所に?と思うような何も無い山の中にポツンとバス停があるので次のバスには決して乗れない(運行数も少ない)。

川崎から近い白砂山だが電車バス利用では日帰り登山は厳しく、テント一泊の計画を立てた。
計画では初日:野反峠→八間山→堂岩山→水場(テント泊)、
翌日:水場→白砂山ピストン→野反湖→三壁山→エビ山→野反峠だった。

それが野反峠でバスを降りるつもりがついつい言いそびれてしまった。
バスに乗る際に運転手さんに「野反湖まで行きますか?」と聞かれてハイと答えてしまったし、野反峠で降りてしまうと乗客が乗っていない無人バスを終点の野反湖まで運転しなければならない運転手さんの脱力感を考えると気の弱い僕は今さら言えなくなってしまったのだ。

野反峠から野反湖までバスはドンドン降りて行く。白砂山の頂がドンドン遠くなって行く。
あーっ勿体ないなぁー!何で言えないんだろ!

野反湖に昼12:10到着。
事務所みたいなトイレ前の駐車場には10台ほどの車があるが人影はまったく無い。

この時点での行動計画は一つだけ、野反湖から水場まで登り、そこで幕営するしかない。


登り始める時間が遅いので白砂山登山口には誰も居ない。ここから白砂山は全く見えないので気が重い。

登山口から道は少し降りになっていたので「いきなり道を間違えたのでは?」と古い地図しか持ってない僕は心配になったけどハンノキ沢が見えて安心した。
沢は水の量が少なかったので橋の一部が無くても難なく渡ることが出来た。

沢を過ぎると登山道は急になりシラビソ、ダケカンバと笹に覆われた森を登って行く。
シラビソの香りが一面に漂い久しぶりに長野の山に来たことを実感させられる。
針葉樹が多いので紅葉は望めないけれど一部赤く紅葉した木々が山に彩を添えている。

西大倉山方面への通行止め案内があった地蔵峠を過ぎ眺望の無い道をひたすら登って行く。
あるはずの地蔵山へ中々着かないのでまた「道を間違ったのでは?」と疑心暗鬼になっていると水場分岐に着いてしまった。

登山道は地蔵山を通っていないのか?それとも標柱を見落としたのか分からないけどとりあえず目的地の水場分岐に着いのだ。

分岐の広場は意外と広く、それに平坦な箇所もあって幕営しやすそうだったので早速テント設営にかかると登山者が次々と降りて来た。
時間は午後2時、この時間にテントを張るのは迷惑かな?(登山道は空けてあるけど)
それだったらいっそのことここでの幕営は止めて先に進めるだけ進むことにした。

それにいつも思っていること「景色は見られる時に見ておけ!」だ。

水場となっている小さな沢で水を補給すると重くなったザックを背負い再び歩き出した。


水場分岐で幕営する人も少なくなくテントは2、3張りは張れそうな感じ。


水場分岐から野反湖がみえる。


水場は幅1mほどの沢で枯れることは無さそう。

水場分岐の先は溝状の登山道になっておりジメジメ湿っぽかった。
地図にある「急坂」はどこなのだろうと思いながら登っていると堂岩山へ着いてしまった。

堂岩山は笹に囲まれた小さな山頂で標柱が無ければそのまま通り過ぎてしまうようなピーク感ゼロの地味な山だった。

「おぉーっ!紅葉している」山頂から木々の間に白砂山が今日初めて見え、稜線の北側が赤茶色に染まっているその姿にやたら興奮してしまった。


堂岩山は岩山どころか山頂らしくない山頂。


堂岩山から今日初めて白砂山が見えた。

堂岩山から歩くこと5分、岩堂分岐まで来ると一気に眺望が開け白砂山の全貌が見て取れるようになった。
これがネットで言われる「白砂山の気持ちの良い稜線」なのだ。

多少の登り降りはあるけれど緩やかな傾斜の稜線は風も穏やかで爽快な散策道だった。
一抹の不安は今夜の幕営場所だ。進めるだけ進もうと思ったけれど周り一面笹原になっておりこの先にテントを張れる場所はあるだろうか?


西村さん、これっ見ろ!堂岩分岐で一気に視界が開け、目の前には雄大や白砂山。

白砂山は稜線を境にきっかりと植生が異なり南側斜面は緑の笹原に北側斜面はヤマツツジなどの紅葉した木々に覆われていた。
栗駒山みたいに派手な紅葉ではないけれど(登ったこと無いけど)赤と緑のコントラストが光のスペクトラムの帯みたいだ。

紅葉の最盛期判断は初心者には難しいと思う。以前、10月9日に谷川岳に登った時、山頂の紅葉具合を見て「紅葉には遅かったか!」と落胆していたら近くにいた男性が「紅葉には少し早すぎたな!」と真逆のことを言ったことがある。
今、目の前の紅葉ははたして最盛期なのか、それとも前なのか後なのか初めて来た僕には判断出来ない。


少し歩くと山の表情が変わるので何度もシャッターを押してしまうのも中々進まない理由。


白砂山は予想以上に紅葉が綺麗な山だったのだ。北林谷栄みたいな凛とした癒しの紅葉。


途中、画像じゃ分かりにくいけど小さな池があった。水は飲めそうにない。

猟師ノ沢ノ頭で道に座り込んでいる男女を見かけた。
岩堂分岐からここまでで唯一会った人達だった。

言葉を交わすと、今朝8時に野反湖の駐車場を出て白砂山へ登ったけど下山途中のここでおかあさんが疲れて歩けなくなってしまったので少し休んでいるとのことだった。
歩くのが遅いので駐車場を出た時には周りに多くの登山者がいたけれど段々人がいなくなって白砂山へ着いた時にはもう誰も居なかったと苦笑いしてた。

「お気をつけて!」挨拶を交わして分かれたけど考えてみたら今時間は午後3時半でここから野反湖までコースタイムは2時間40分だから駐車場に着くのは6時を過ぎ、おかあさんの体力を考えると7時を過ぎてしまうかもしれないと思うと急に心配になってしまった。


こんな山登りがしたかった!そんな事思ってたんだ?と自問自答。こうなると気持ちは前進あるのみ!


場所によっては一面ヤマツツジの紅葉も楽しめる。

西村さんは白砂山のことを「ピロォ〜ンとした山」と小バカにしていたけど、こうして来てみると白砂山はなだらかな稜線が印象的な素晴らしく綺麗な山で、こんなことだったらもっと早く来れば良かったと思った。

西村さんは一の倉沢のクライミングを何度も経験した強者なのだが白砂山には登ったことがはたしてあるのだろうか?ふと疑問に思った。


ひたすら紅葉の中を歩いて行く。八間山分岐で見た以上に紅葉している場所が多い。


尾根を境に北側斜面は紅葉、南側斜面は緑の笹原で谷川岳と同じような構図。


振り返ってみると紅葉が光を透かしていてこれもまた綺麗でした。

一つのピークを超えると先にはまた次のピークがあって思ったより時間はかかったけど一つ一つのピークは小さいのでそれほど登るのに苦労することは無かった。
それよりも一人のんびりと歩く時間の流れ中にいることが嬉しかった。

日が段々と傾いてきて山肌に黒い陰が多くなったけれど白砂山山頂はもう目の前だ。
この斜面を登り切ったら山頂に到着だ!と登って行くと下から見た時には山頂に見えていたのは山頂の端っこでまだ先には稜線が続いていてガッカリした。


一つ越えるとまたその先に新たなピークがあって中々たどり着けない。


おーっし!これが最後の登りだと気合を入れて登るとそこは山頂ではなく、まだ先があるのだ。

白砂山は360度の眺望だったけど勉強不足の僕には浅間山や榛名山くらいしか分からなかった。
それよりも予定を急に変更して一時はどうなるかと思ったけどどうにか白砂山に無事到着出来たこと、それに野反峠から見た時に遠い山だと見えた白砂山に意外と楽に登れたことが嬉しかった。

白砂山山頂から先は群馬県境稜線トレイルという谷川岳から万座までのロングトレイルコースの一部なのだが山頂から三国峠方面への縦走路はしっかりと笹払いがされており歩きやすそうな稜線が続いていた。
笹の登山道は歩く人が少ないとすぐに藪になってしまうらしいから管理が大変そうだ。


白砂山山頂は眺望は良かったけど思ったよりも狭かった。とりあえずこれで今日の山行は終わりです。


白砂山山頂から先にはまだロングトレイルが続いていた。思わず白い登山道に誘われる。

白砂山山頂は狭く8畳くらいしかない。
猟師ノ沢ノ頭で会った男性が「白砂山山頂でテント張れますよ」と教えてくれたけど平坦な場所ではなかった。

山頂の南側が平らだったのでテントを設営したけど登山道に少しはみ出してしまった。
誰か登山者が来たら邪魔だと蹴っ飛ばされたかもしれない。
(水場分岐から山頂までの間でテントを張れるのは水場分岐と山頂しかなかったが分岐の方が快適そうだ)


山頂の端っこにテントを張ったけど登山道にはみ出してしまった。これは怒られるな!

陽が沈むと急に寒くなったので上下ダウンウエアを着こみ、持ってビールを飲みながら文庫本を読んだけど周りの雰囲気よりザックから取り出したビールの方が温かいのには思わず苦笑いした。

夕食後、熊対策として食材、コッヘル、ゴミなど匂いがするものは全てゴミ袋に入れ密封したけど着ていた服、靴下や靴は・・・悩んだ末に汗の匂いに熊が惹かれることも無いだろうとテント内に吊るしたままにした。
白砂山でここまでやる必要はないけど最近山里などで熊出没が多発しているので念のためだ。

8時になり持って来たお酒もすべて飲んでしまったのでシュラフに入ってけど、山頂のトレイル注意書きの「熊に注意」の文字が気になるのか熟睡することが出来なかった。


一日の終わり。夕方になると雲が段々と広がり寝る頃になると完全に曇って星も見えなくなった。

八間山、エビ山 編 へ 続く
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