七面山、山伏岳 |
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行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩) ◆1月10,11日 ◆1月12日 |
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山日記 今までこんなにインターネットを活用したことはなかった。 今日はまだ1月の10日である。正月早々、なんでこんな所で寝にゃいかん! 駅を出てコンビニに朝食を買いに行く。コンビニは駅前を右(甲府方面)に曲がり、150メートルほどの所にある。コンビ二の場所もネットで探しておいたのだ。 |
敬慎院です 読経が深く響き渡る荘厳な雰囲気 |
神通坊の境内を抜けて鳥居が立つ所からいよいよ登山道となった。道にはXX丁目と書かれた石碑が立っていてさすがに信仰の山という感じだ。僕は10合目=10丁目だと勘違いしていて、7丁目まで登ると山頂は直ぐそこだ!これなら楽勝だ!と喜んでいたら実は40丁目(くらい)まであるのだった。という訳で長い登り道を延々と登って行く。 たまに降って来る人とすれ違うとお経か何かを唱えながら歩いているので僕までやたら信仰心が芽生え、気がついたらXX丁目と書かれた石碑や日蓮和尚が残した言葉を書いた立札がある度に手を合わせてしまうのだった。最後には「植物盗るな!」「ゴミを持ち帰ろう!」などといった立札にも手を合わせて拝んでしまっていた。 |
テレビでロンドンブーツが登っていたのはどうやら羽衣からの参道らしく、そっちの道には茶屋などがあって賑やかだったがこっちは途中に二つの宿坊が有るだけで寂しい道だった。どうやらこっちが裏参道らしく「それだったら羽衣まで歩いてそこから表参道を登った方が良かったかも」とちょっと後悔。 だけど時々、木々の間から真っ白い刃先のような北岳の姿が見えると「よっしゃー!」と急に元気になってしまう。疲労回復には北岳が効果てき面なのだ。 |
やがて遠くから読経が聞こえてきたと思ったら奥之院に着いた。今は昼の読経の時間なのか?大勢で読んでいるらしく迫力ある声が深く響き渡り澄んだ空気を震わせていた。 本堂の直ぐ横にはデカイしめ縄をしたとてつもなくデカイ岩が鎮座していて、その横は展望が良くでっかい富士山が見える。読経と富士山、なんとも心に染み入る取り合わせです! すこし歩くと敬慎院だ。こんな山の上に良くこんな立派な寺を作ったな!と感心させられてしまう。ここでも読経が聞こえている。本堂の左にある宿坊でお湯を3リットルをもらった。本当は水で良かったんだけどお湯しかなかった。おばさんから「今日はどこまで行かれるんですか?今年は雪が少なくて良かったですね」と声をかけられる。いつもの年はもっと多いのかな? |
門を額縁に見立てた富士山 これを見るだけでも来る価値ありなのだ! |
本堂を背にして石の階段を登っていくとコリャまたでかい門があった。この門を額縁に見立てた富士山の姿、この景観をネットで見た時から「これ良いなー!これぞ日本!」と思っていたけどこうやって実際に自分の目ん玉で眺めてみるとやっぱりえがった、えがった!。 でぇー、この門をくぐるとずわーんと目の前に広大な富士山の姿を眺めることが出来るのねぇ(急になれなれしいけど)、富士山の左前には雨ヶ岳と毛無山が見え、その奥に先日登った鬼ヶ岳や節刀ヶ岳の姿を探したけれどどれだか分からない。けど、もうー、もうー、全てが良いなり! ここから七面山山頂への道は境内といった雰囲気は無くなり急に登山道らしくなる。 30分ほど木々の間を歩いていると目の前がパッと明るくなった。 |
門を通り抜けるとこの眺望が待っていた! 富士山、向って左は毛無山、雨ヶ岳 |
「山頂か?」と思ったら山頂だった。この「山頂か?」は普通だったら嬉しい表現なのにこの時は「やべぇー、もう山頂か?」と言った戸惑いが含まれているのだ。というのも山頂に着く前にナナイタガレという崩落跡を見るつもりだったがなんてことだ!見過ごしてしまったらしい。 |
山頂にザックを置いて空身でもう一度降りようと思った。往復20分くらいで戻って来られる感じだった。ただ悔しいが今はその20分の時間が無い。ネットで得た情報によるとこの先、七面山から八絋嶺までの間でテントが張れそうな場所はインクラ跡と八絋嶺山頂しかないとあった。最悪でも今日中にインクラ跡までは行きたいが予定では順調に行ってもそこに着くのがPM4:30とかなり遅くなりそうだ。おまけにこの先、はっきりとした道があるのかさえ分からない。そんな状態だから、ここで20分のロスは痛い。「ナナイタガレって言ったってただの崖だ!ガレ場だ!わざわざ戻って見るほどでもない!」と自分に言い聞かせた。 |
普通、山頂には行き先標示が立っているもんだろ?ここには「七面山山頂」と書かれた標示しか無かったのでとにかく、登って来た道とは反対の道へ進んでいった。歩いていると男女5,6人のパーティーが向こうから歩いて来た。「なんだ!結構、人が歩いているじゃん!」と安心したがすれ違う時見ると全員空身だ。話を交わしてみると七面山山頂にザックを置いて希望峰までピストンして来たらしい。「安倍峠まで行くんですか?わーっ!この人、安倍峠まで行くんだって!」と言われ普段だったらウヒャウヒャと喜んでしまうのだけれどこの時は不安で一杯になった。ここから八絋嶺まで歩く人はいるのだろうか?道はあるのだろうか?と不安が後から後から湧いてくる。 | 七面山山頂 展望は少しだけだけど南アルプスが見える。ナナイタガレ見たかった!トホホ。 |
深く暗い海の底を歩いているような気分で希望峰まで歩いて行った。 すると。。。そこには。。。一発逆転、大ホームランの眺望が待ち構えていたのだ。南アルプスの北岳から聖岳までのそうそうたる山々が並んで見える。どの山も前衛の笊ヶ岳や青薙山に邪魔されているのだけれどずっと華やかにその白い頂をこうして僕の目の前に映してくれる。さっきのパーティーがわざわざここまでピストンしたこともうなずける。すっかり気分は回復。(単純な奴!) まー、この先、道が分からなくなったらそこで幕営して引き返せば良いや!と大胆な気持ちを思い出して先に進んだのだ。それにしてもテントがあるってことは本当に心強いことだ!テントはエライ! ズンズンと道を歩いて行く。心配していた道はしっかりと踏まれていて分かりやすく、藪も払われていて歩きやすかった。おまけに3メートル間隔で赤テープが木の幹に巻いてあるので雪が積もっていたとしても迷うことはなさそうだ。ただ気になったのは、日陰に残った雪の上には人の足跡が無く、多分鹿だろうと思われる足跡がポツポツと先に続いていた。この雪はどれくらい前に降ったのかは分からないがそれからは誰も歩いていないようだ。 |
希望峰からの展望 正面は笊ヶ岳、写真では分かりづらいけど北岳から聖岳まで良く見える。 |
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登山道は尾根沿いなので明るいのだけれど展望は全くと言っていいほど無かった。登山道を囲む森は苔がしっとりと地面を覆っていてどこか和名倉山や北八ヶ岳の白駒池周辺を彷彿させる。 第2三角点、、国土地理院の地図にはもちろん明記されていないがネットで調べたピーク名が書かれた標示を確認しながら歩く。 |
インクラ跡に来た。笹が刈られていてテントを張るにはもってこいの場所だ。ここが今日の幕営地になるはずだった。しかしここには”ほにゃらら明神”(名前は忘れた)が祭られていて一人でテントを張るのはあまり気が進まない、名前はイメクラに似ているがもちろん全然違う雰囲気(たぶん!)、はっきり言って何となくおっかない。というわけで小心者の僕は再びザックを背負ってすたこらと八絋嶺へ向かったのだ。 「キォーッ!」と鹿が鳴く声が聞こえる。八鉱嶺が近くなるとやたらめったら鹿が鳴いて辺りをドカドカと走り回っていた。 足元からは驚かせるようにカケスがバタバタと飛び立つ。ここでの僕はただの侵入者でしかない。 |
この写真何なの?と言う感じだけどインクラ跡。 ところでインクラって何だ? |
お邪魔しまーす!と謙虚な気持ちで八絋嶺山頂に着いた。とうとう目的地に着いた。七面山から八絋嶺まで色々心配したけど結局、登山道はしっかりと踏まれていて明瞭だった。山頂は20畳ほどの広さで、展望はどうにか富士山が見える程度だった。山頂の八絋嶺と書かれた標示には温度計がくくり付けられていて温度を見ると-6℃。もー寒いし遅いし、トットとテントを張ってしまおうとザックを降ろした。手が寒さにかじかんで思うように動かないのでこれじゃ設営に時間がかかるなー!なんてのん気に考えていたら唖然とさせられてしまうことになった。地面がガチガチに凍っていてペグがまったく打ち込めないのだ。しかたないのでテント底面を固定するペグは打たずにテント中の四隅に石を置き、張綱は石に結びつけた。かじかんだ手で作業しながら「テント泊はもう限界だ!暖かくなる春まで止めよう」と思った。 |
八絋嶺山頂 この写真でテントがある場所以外は岩があってテントは張れないよ! |
テントに飛び込むと直ぐにウイスキーを飲むためにお湯を沸かし始める。敬慎院で入れてもらったポリタンの水はまだ十分温かかったのでそれを湯たんぽ代わりにして一番大切な股間を温めた。 それにしても寒い。自分の吐息がゴジラの吐く放射火炎みたいに見える。テントの中は湯気でモウモウとしている。ホットウイスキーも直ぐに冷たくなってしまう。一体今夜何度まで気温は下がるのだろうか?このまま眠ってしまったら一生、目が覚めないんじゃないか?と心配になる。僕の装備といえばテントは3シーズン用、冬用シュラフ、サーマレストマット(ライト)そしてテントマットは無い。こんなんで大丈夫かと思ったがシュラフに入ってみると意外と暖かく、ダウンジャケットは脱いでいつものように下着の上にフリースという格好で寝た。 |
翌朝、目が覚める。体は暖かいが顔は寒かったらしく、いつの間にかシュラフに少し潜り込んでいた。そのせいでシュラフに息が当たった部分が白く凍りついていた。ライトでテント内を照らしてギョッとした。なんと内部一面が真っ白い霜で覆われえている。特に寝た時に頭の上に当たる箇所は霜が分厚い。僕は雪山でテントを張った事はないが、雪山ではこれは当たり前なのだろうか?いや、もっとすごいのだろうか?温度計を見ると-6℃だった。それにしてもこんなテントの中で寒くもなく、よく眠れたと思う。このモンベルのダウンハガーってシュラフは本当にエライ奴だ! テントの外に出てみると星が綺麗だ。温度計を見ると-9℃。こんな薄いペラペラ布地のテントでも少しは保温性があるんだ、外より3℃高い。 |
朝食はカレーライス、味噌汁、それとコーヒーと菓子パンだ。お湯を沸かそうとポリタンを見ると1/3が氷になっていた。ヤバイところだった!テントの周りには沢山の雪があるのでそれを融かせば水の心配はないが問題はポリタンの氷だ。ポリタンが完全に凍ってしまったらそれはただの重い荷物でしかない。捨てるわけにもいかず、2リットル=2キロの氷を今日一日背負って歩かなければいけなくなるところだった。ペットボトルを見てみると500ミリリットルのスポーツドリンクは二つとも完全に凍っていた。昨日、ポリタンにはお湯が入っていたのでかろうじて凍ってしまわなかったようだ。 | 八絋嶺からの富士山 これは朝の写真だけど前の日の夕方、紫色の空って奴を始めて見た。 |
味噌汁に入れるためにキャベツを取り出す。一瞬にして目が点になる、キャベツは真っ白い霜にびっしりと覆われていた。「テント泊はもう限界だぁ!」と思った。ガスストーブの周りギリギリまで近づけてポリタンやペットボトルを並べ、少しでも氷が溶けるようにして料理していると朝食が終わる一時間後にはペットボトルのスポーツドリンクは融け、ポリタンは氷が取り出せる大きさまで小さくなった。 ペットボトルは「まー多少、シャーベット状にはなってはいるが歩いている間にすっかり融けるだろう」とテントを撤収して出発する。この考えが甘いことに気づくのはこの1時間後のことになる。朝は星が出て晴れていたのに出発する時になると西の方から段々と雲が出て来てこれから向かう山伏岳を覆い始めていた。思ったほど寒くはなかったが風が吹くとさすがにブルッとくる。登山道は南に向かっているのに登山道を覆う雪の量が先に進むほど段々と多くなってきた。ただ登山者は多いようで雪はしっかりと踏まれているので歩きやすかった。 |
八絋嶺から大谷嶺を見る この後、雲が段々と広がって行く |
歩き出して一時間後、ゆで玉子を食べようとザックから取り出して見ると殻がひび割れ、間から氷がにじみ出しガチガチに凍っていた。「なんでぇ凍ってんねん!」しかたないので玉子はザックに戻し、変わりに菓子パンと甘納豆を食べた。ペットボトルを取り出すとシャーベット状に凍っていて飲めなかった。「なんでまた凍ってんねん!」しかたないのでこれもザックに戻し、「えーい、しゃらくさい!」と周りの雪を掴んで口の中に放り込んだ。完全に間違った考えをしていた、ここの気温は氷点下以下なんだ。水分はすべてが凍ってしまうことに気づかないなんてなんて馬鹿だ!もし、この山行記を冬山バリバリの山ヤが読んだら「こんなの当たり前だ!こいつバカでないの!」と思われるに違いない。トホホ! |
大谷嶺山頂には男性が一人、テントを撤収している最中だった。希望峰を出て初めて会う人、僕と同じ寒い夜を過ごした人だと思うとこの男性に妙に親近感を覚える。「さっきまで綺麗に南アルプスが見えていましたよ!」なるほど山頂は広く、西側は木々が切れているので晴れていたら素晴らしい南アルプスを眺められたに違いないが今はもうガスって真っ白け。ぐやしいー。 |
「山伏から見る富士山、綺麗ですよ!」と言う言葉に希望を持って歩き出す。 大谷嶺からの道は左側が切れ落ちていて下から冷たい風が吹き上げて来る。稜線上の木々は霧氷で真っ白になり、風雪に耐える枝の動きもどこかぎこちなく見える。歩いていると思い出したように頭上の雲が切れて日差しが差し込んでくる。どうやら頭上を覆う曇の直ぐ上には青い空が広がっているみたいだ。 そのうちにこの低く立ち込めた雲も取れてしまうことを祈りつつ山伏岳へ向かうがこの願いもかなわず、山伏岳山頂もガスの中だった。 |
大谷嶺山頂 本当は僕の後ろに南アルプスが見えるはずなんだよ!くやしいー! |
展望が無いのはもちろん残念だけど、ただ僕には七面山からここまで心配していたように道に迷うことはなく無事に完走した事が嬉しかった。 |
山伏岳山頂 山頂を表す標示が4つあったけど、どれも山伏岳の”岳”が外されていた。 |
バスの発車時刻のギリギリまで雲が取れるのを待っていたが結局たまにフッと切れる程度であまり見えなかった。特に富士山は一度も見ることは出来なかった。せっかくここまで来たのにとても残念だ。 山頂から新田(しんでん)までの道も良く踏まれていて分かりやすかった。ただ蓬峠までは雪が積もっていたので他の人はアイゼンを着けて歩いていた。蓬峠から降って5分の所に水場があり、そこを過ぎると登山道はワサビ畑の脇を歩くようになった。 |
新田のバス停は小屋になっていた。ザックを降ろしてバス停前にある店に水をもらいに行った。扉を開けると中で数人がおでんを食べながらビールを飲んでいた。温かそう、実にうまそうだ。でもこれは我慢するのだ!これから僕はご褒美ラーメンを作るのだ。ご褒美と言ってもこうして二日間の山行を終わってみると八絋嶺も山伏岳も秘境でもなんでもなく良く歩かれている山だったのでそう威張って言うのはちょっと恥かしい。でも次に訪れた時にはもっと肩の力を抜いてゆったりと歩けそうだ。 |
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