高尾山、景信山、陣馬山

行程 (着/発)(+++:電車、===:バス、---:徒歩)

◆4月24日
立川 (5:55) +++ 高尾 (6:12/6:29) +++ 高尾山口 (6:32/6:37) --- 金比羅台 (7:20/7:25) --- 薬王院 (7:45/7:50) --- 高尾山山頂 (8:05/8:25) --- 城山(9:20/9:40) --- 小仏峠 (9:55) --- 景信山(10:20/10:40) --- 堂所山 (11:30/11:45) --- 明王峠 (12:05) --- 陣馬山 (12:45/13:45) --- 和田 (14:30/14:32) === 藤野 (14:45/14:59) +++ 立川 (15:30)
山日記

でっかい顔が気になっていた。
高尾駅の3,4番線ホームには天狗の顔の石像があってクワッと目を見開いて東の空を睨んでいる。
ライトアップされて夜でも暗闇にくっきりと浮かぶその顔はそうとう自己主張が強い。いつか真近で見てみたいと思っていた。

まずもって高尾駅でこのデカイ天狗に迎えられる
高尾駅で降りて早速、”顔”が鎮座するホームへ向った。

近くで見るとなんと僕の身長よりデカイ顔だ。にらめっこしてもその迫力には到底勝てそうに無い。
山岳修験道の霊山としての雰囲気が既にここから漂っている。

こんなふうに高尾山ハイキングはまず大天狗の顔から始まったのだ。
京王線高尾山口で降りて改札を出た。予定ではJR高尾駅から歩こうと思っていたのだけれど、大天狗の顔を見たら、直ぐにでも高尾山に登りたくなってしまって、こうなるとせっかちな性格は歯止めが効かない。歩くのもまどろっこしくなってすぐに京王線へ飛び乗ってしまった。

やれやれ・・・まったく記憶が無い!
高尾山を訪れるのはこれで2度目だ。一度目は十数年前に数人の友人と来たことはあるのだけれどその時の記憶はほとんど無い。高尾山には多くのハイキングコースがあるけど、どのコースを登ってどこを降ったのか?ケーブルカーに乗ったのか?・・・
こうして駅前に立って見てもやっぱり記憶の片鱗はどこにも見つけられなかった。
人間は忘れる動物である!と誰かが言っていた。そうだ!逆にこうして記憶がからっぽの方が新鮮な気持ちで山歩きを楽しめるかもしれない!なんて強引に理由をくっ付けてみる。
ケーブルカー駅の手前を右に進み、1号線を登って行く。高尾山にはいくつかの登山道があるけど、どの道が良いか分からないので表参道だと言うこの道を登る事にした。


金比羅台への道にはシャガの花


天然記念物のタコ杉

ただこの「1,2,3、・・・号線」というネーミングは確かに分かり易いのだけれど歴史ある山岳信仰の山にしてはちょっと味気ないような気がする。

ツンツンと澄んだ朝の空気の中、舗装された道をドンドン登って行く。たまにおっ!と見上げるようなデッカイ杉の木があっていかにも参道と言った感じの道だ。
ふる滝はどこか分からないうちに通り過ぎてしまった。滝は今でも修行に使われているということなので参道からは見えない奥まった所にあるのかもしれない。


門を過ぎるといよいよ厳粛なる山岳信仰の地へ

金比羅台で一気に展望が開けた。空気が澄んだ日だったら都心がキレイに見えるらしいのだけれど、逆光だったのでシャリシャリと銀色に輝く春の大気の中にどうにか新宿の高層ビル群を見つけただけで東京タワーや東京湾は見えなかった。
この緑の木々に囲まれた静寂な場所から見る都心の風景はなんだか音の無いスクリーンを眺めているみたいで同じ東京都内であるということが眩しい光の中でぼやけてしまう。
でも空を見上げ、頭上に広がる銀色の空が遥か向こうまでずっとつながっていて同じ空だってと分かると急に近くの中央自動車道を行き交う車のエンジン音が耳に響いてくる。

金比羅台の周りは花が沢山咲きにおっていた。綺麗な形と模様をしたシャガの花や鮮やかな赤色のツツジが満開だ。花に関心が薄い僕でさえ、こんな場所では「おーっし、先に行ってみっか!」と小さな花びらに癒されたりしてしまう。

金比羅台から薬王院への道は、リフトの降車場を過ぎた辺りから平坦になって、土産屋や展望台が建ち並らび一変して観光地の様相を見せるのだけれど、道の脇に点在する石仏は赤い毛糸の帽子をちょこんとかぶっていて柔和な信仰も同時に感じさせる。
石仏も多いが自販機も多いという、信仰と現実が入り混じった空間だ。

門を抜け、赤い灯篭が両脇に立ち並ぶ石畳の道を歩いていると、さすがにぐっと神聖な気持ちになってくる。歌を読んだ石標があったり、青銅の三六童子像があったりと心なしか他の場所より空気が冷やりと澄んでいる感じがする。

山門では四人の仁王様が恐ろしい顔でギロリと睨みを効かせている。
何か後ろめたい事を心に秘めている人、それから単に気が弱い人なんかはこのにらみだけでチビッてしまいそうなほど迫力ある顔だ。

境内に入ると、おみくじやお守りを売っている所もまだ閉まっていて、人の姿もまばらだった。早朝の散歩と参拝を兼ねているのだろうジャージ姿の人が多い。あまりにラフなカッコウなので信仰心も軽い人達かな?と見ているときちんと挨拶されるのでこちらも襟を正して挨拶を返す。するとなんだかすがすがしい気分になって、こんなきっちり挨拶をされたんじゃ山屋の挨拶も負けているかもしれん!と思った。


新緑と赤紫色のツツジが綺麗だ!

本堂はとてもカラフルな色で装飾されている。建立されたのはいつか分からないけど全体的に綺麗で垢抜けていている感じがして何故か視線の先に絶えず”東京”を意識してしまう。
帰りのバス賃を残し、それ以外のコインを財布から取り出してパラパラと賽銭箱へ。一円や五円玉も混じっていてちょっとシケタ感じになってしまったけどどーか許してください!人類の平和と地球の健康を願い神拝すると山頂へ向かって行った。(賽銭は少ないのに願いはデカイ!)

山頂には休憩所があり、きれいに整地されているので山屋には少し物足りないかもしれない。
それにしても早朝だというのに色んな人がいる。しきりにストレッチをやっている人、ベンチで寝ている人、マウンテンバイク野郎、デジカメで桜を写しまくっている人、外人さんに日本語でやたら話しかけている楽しそうなおばあちゃん、そしておばあちゃんから分からない日本語で話し掛けれて困っている外人さん。

山門には四人の恐ろしい顔の仁王様
でも写真は二人のみ
金網があって上手く撮れなかったから。


右:薬王院はカラフルな装飾。
写真は無いけど彫り物とかは一見の価値あり!

いずれにしても皆さん爽やかな顔をしています。ここでは朝の山頂×晴天=爽やかな笑顔という良い顔の法則が成り立っています。

山頂の50メートル先には展望台があって麗しの富士山とご対面!
4ヶ月ぶりに逢う富士山はまだしっかりと雪を残していて翡翠色の空の下でも燦々と陽の光をに輝いていた。
もしかしたら既に山頂から見えていたのかもしれないけど、高尾山から富士山が見えることを知らなかったので桜と人間ウオッチングにひたすら没頭していて気が付かなかったのかも。

ここで高尾山とはお別れするのだけれど、やっぱりどこを見ても初めてみる景色にしか映らなかった。
記憶を掘り起こすことは出来なかったけれど新しいページとして灰色の脳細胞に書き描く事が出来た。今度のページは長く忘れないように出来そうな感じがした。

高尾山から城山へ向かう人なんて居ないだろう!と思っていたらとんでもないおー間違い!
冬の間、殺風景だった山を桜やツツジの花が白や赤色に染め、色鮮やかに変貌させている。多くのハイカーがそんなうららかな春の到来を探しにやって来ていた。


今にも開きそうなかしわの芽


高尾山山頂の桜


空を覆い隠す様に桜が張る出している

高尾山の桜の開花は平地の約一ヶ月後で例年4月の終わり頃だと聞いていたので、来るのが少し早いかな?と思っていたのだけれど桜は葉桜状態で少し遅いくらいだった。

モミジ台はその名のとおりイロハモミジの木が多い。春の風が音も無くフッと横切ると枝一杯に生い茂った萌黄色の葉がサラサラと風に揺れた。
秋の紅葉の季節にもまた来たくなるような場所だ。

モミジ台から一丁平までの道は桜の薄紅色、ツツジの赤、モミジの新緑、それらの色が山を彩り、今回のコースの中では一番華やかな散歩道だ。
道の両脇から桜の幹が迫り出し、薄紅色の無数の花びらで空を埋め尽くしている。こんなうららかな春の空の下でのんびりと歩いていると、ただただ山から与えてもらう生彩の多さに驚き、こちらから何か綺麗なものを探すという行為を忘れさせてしまう。

一丁平にも桜とモミジの木が多く明るくて良い感じの場所だ。尾根沿いの道を登る人は少なく、大半のハイカーは桜とツツジが咲いている巻道の方を歩いている。
この森の雰囲気を何とか写真に収めたくて数回シャッターを押したけど、出来上がった写真を見るとどれもイマイチで感じが出ていなかった。写真の勉強せにゃいかんな!センス磨かにゃいかんな!と反省。


高尾山山頂の展望台。富士山が綺麗です!
城山山頂に登ってまず目を引くのがやっぱり桜の花。山頂のど真ん中に桜の花の多さに押しつぶされたような平べったい感じの茶店があって、窯で燻された煙とコーヒーが交じり合った何とも香ばしい匂いが辺り一面に漂わせている。
売店の前には沢山のテーブルやベンチがあって、ここに座って目の前の富士山を眺めながらのんびりと休憩する。
ずっと下の方には山々に囲まれるように紺碧色の相模湖が見える。山の上から海や湖が見えるとすごく嬉しい。今回みたいに予期しない現れ方だと特に嬉しい。

山頂から歩き出すと直ぐに檜の植林の中だ。さっきの茶店のおねえさんが花粉症対策のでっかいマスクをしていた姿を思い出して可笑しくなってしまった。こんな近くに花粉の元が大量にあったらタマンナイだろうな!

小仏峠にも茶店があった。ただここは展望が良くないので立ち止まるハイカーも少なくて寂しい感じ。台の上にぶっきらぼうに並んでいる山芋なんかの山菜が美味しそうなので買って行こうかなと思ったけど、結局買わなかった。

景信山頂へ登って行くと、ここでもやっぱり満開の桜がまず目に飛び込んで来た。その桜の木の下にはテーブルやベンチが並べてあって、沢山の人がのんびりしている。
桜の木が頭上を覆っていて日差しを遮っている。その薄紅色の桜の傘を透かして、さっき登った城山を見つけてほっと一息!
山頂の真ん中には茶店があり、その前にはシメ縄をした御神木らしい桜の大樹木が枝を広げ、あっちこっちに柔らかい影を作っている。

休憩している人はのんびりしているように見える。休憩だからのんびりするのは当たり前なんだけど、こうやって桜の花の日陰にいる人の顔はどこかにこやかで、疲れ顔の人は見当たらないだよな。

山頂を示す標柱がある場所からは北面の展望が良く、これから向かう陣馬山が遠くに見える。


萌黄色のイロハモミジ


ここでは新緑が眩しい


登山道脇にはテンナンショウ

景信山から陣馬山までは長い。道の左側は杉や檜の植林帯で右が雑木帯といった感じの所をひたすら歩いて行く。
この登山道は巻き道が多く、小さなピークがある度に巻き道があるって感じ。
巻き道は暗い植林帯の中を進んでいるのであまり歩く気分はしない。巻き道を行かずに一つ一つピークを乗り越えて行くけど思ったような展望は無く、どこにも感動は落ちていなくて残念!

それから巻き道が多さと関係あるのかな?ランニングしている人の姿が多い。ピッタリタイツを履いた老若男女が沢山走っている。一生懸命苦しそうな息をしながら走っている人も居れば、のんびり話しながら走っている人も居る。

途中で東側の展望が良い所があったので、眺めていたら、通りかかった男性が一言「山が綺麗になりましたね!」と遠い目をした・・・そうなのだ!この一言に春の山が表されているのだ!

堂所山は縦走路から少し離れているので人は来ないだろう!と思って行って見ると、そんなことは無い。誰かが登ってくると誰かが降って行くという感じで、たえず誰かが山頂に居るという感じだ。


城山山頂はゆったりとお花見ムード

城山山頂から相模湖を望む
奥には富士山(写真では分かりづらい)

景信山からの城山

関場峠から登って来たランナー二人が今日はどこまで走るか?相談し始めた。「生藤山まで行って下に降りて、バスが無かったら上野原まで走ろう!」とあっぱれな会話だ。こっちは想像しただけでもータジタジ。

堂所山を降りながらJ-WAVEにラジオのチューニングを合わせるとS.Wonderの”You are the sunshine of my life”が聞こえてきた。春ののんびり山歩きにピッタリの曲です。これで”For once in my life” もかかったら何も言うこと無しなんだけれどねぇー

いよいよ、目的地の陣馬山へ近づいた。
ゴールの100メートル前辺りから明るい尾根道になって、やがてやってくる山頂への期待が膨らんでくる。

そしていよいよ山頂だ!・・・わぁっ!あまりの人の多さに驚いた。
だけど人の多さにがっかりするよりも、お祭りのようなざわめきに気分が踊った。陣馬山のシンボルである白い馬の像の周りには学生らしき男女が50余人。湧き上がる青春といった感じでワイワイ、ガヤガヤと実に楽しそうな顔が並んでいる。

その横のテーブルでは桜を眺めながら食事中の人、ひたすら桜を眺めている人、ひたすら写真を撮っている人、とにかく誰の視線の先にも満開の桜だ。


景信山山頂には桜の木の御神木

白馬の像の写真を撮りたかったので端の方で待っていたら「今日は天気が良くて良かったね!」売店のおかあさんも人が多いとどこか楽しそうだ。
「春の晴れた日にここまで周りの山が見える日は珍しいよ!」と笑顔のお母さんとは裏腹にまだ展望を楽しんでいない僕は少々焦り気味!それにしてもおかあさん!うどん1000円は高いよ!


景信山山頂もやっぱり満開の桜一色


名前は分かんないけど景信山から先ははこの花が一杯だ


「山が綺麗になりましたね!」
この一言に全て表されていた!

山頂のすぐ下は一面の芝生になっている。これは自然に植生したものなのか分からないけど自然でも人工的でもとにかく気持ちが良さそうなことには変りはしない。
しばらく待っても山頂は興奮の中だったのでとりあえず下の芝生へ一時避難することにした。ツツーッと降って行ってレインウエアを広げてドカッと寝転んで見た。
目を開くとそこには気持ちの良い青空が広がっていて、うららかな春の日差しを全身で受け止めていると、このポカポカ度100%はやっぱり春だな!とニンマリしてしまう。
ラジオを聞きながら目を閉じる。マブタの向こう側は真っ赤だ。すーっと楽しそうな声が風に紛れて聞こえてくる。頬をかすめる風がどことなくくすぐったい。
計画と立てた時に「こんな低山はレジャーシートを持って行かなきゃいかんな!絶対だな!」と思っていたんだけどすっかり忘れて来てしまった。
まぁ、それもここではどうでも良い事だ。

30分ほどのまどろみの後、山頂が静かになっていたので再び登ってみる。学生達はすっかり降りてしまっていた。
富士山は見えなかった。
ここは富士山の北側にあるので午前中、それも早い時間だったら富士山もきっぱり見えるらしいけれど・・・それにこんな翡翠色の春霞にまとわり付かれては富士山もタジタジになってその絶大なる威厳も形無しだ。
生藤山や御正体山など近くの山ははっきりと見える。今度は生藤山まで歩いて行ってみようと思った。


褐色の葉が空を被う 春モミジ?の木


堂所山山頂 意外と登山者が多い


陣馬山山頂 後ろは生藤山
山頂の白馬の像の周りから人が居なくなった。駆け寄って台座に腰掛ける。今日の山行もこれで終わりだという感情が湧きあがってくる。
ゴツイ大天狗の顔に始まった今日の山行を絶えず主調音のように流れているのは色んな顔!だった。
桜やツツジの花をみている顔、うららかな春の日差しに目を細める顔、皆が色んな顔でゆるやかな春の流れの中で立ち止まっていた。
そして最後を飾るのが白馬の顔だ。
見上げると白馬の視線の先には春としては珍しいくらいの澄んだ青空が広がっていた。
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